フェイル   作:フクブチョー

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第十九罪 二匹の狼王

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歯ブラシを咥えたまま遠くを見つめるようにボーッとしている少女がいる。

かなりマヌケな表情にも関わらず、彼女の持つ容姿の高さゆえにそんな姿も可愛らしく見えてしまう。

美しい金髪も寝癖でモッサリともりあがっており、碧い瞳は未だ生気を失っている。起き抜けという事を考えてもヒドイ状態だ。

 

「コル姉大丈夫?起きてる?」

 

赤みがかった茶髪をポニーテールにまとめた少女が声をかける。しかしその呼びかけも彼女を現実に引き戻すには足りないようだ。彼女の頭の中はただ一人の男で埋め尽くされている。

 

ーーーーあの人……

 

昨夜出会った緋い光の君。鍛えられた体躯。ルビーを思わせる紅い瞳。燃えるような緋色の髪。切れ長の目に長い睫毛。

まるで一つの芸術品のような完璧な容姿を持つ人だった。表現力と語彙力の乏しい自分では綺麗という言葉以外で彼を形容する事ができない。

 

「はぁ……」

 

艶めいた溜息が少女から漏れる。熱病に浮かされたように頭がボーッとする。彼の笑顔を思い出すだけで胸が痛い。

 

ーーーーアカメが綺麗な人って言ってたけど今ならよくわかるなぁ……あの人、いま何してるのかな……

 

一目惚れという感情を知らない彼女は正体不明の胸の痛みに苛まれながら、また一つ、息を吐いた。

 

 

 

 

同時刻……

 

 

 

 

「…………うーん」

 

ヴァリウスは頭を掻きながらとある高台へと来ていた。

昨夜感じた視線、常人を遥かに超える視力を持つヴァリウスですら視認する事は出来なかった。だが方向はわかった。その方角を頼りに敵がいそうな所を探しているのだが…………

 

「まずいな……罠の感じがしてきた」

 

俺の目で見えなかったって事は相手も視認出来てはいないはず。なら俺が気づいた事に相手は気づいていないと思い、調査に乗り出し、奇襲を仕掛けてやるつもりだったのだけれど……

 

ーーーーこの匂い…………油か

 

バーナーナイフ対策。つまり昨夜の監視は帝具の存在と俺の正体に気づいている人物ってことだ。

 

帝国関係者の可能性は高い。ならなんとか斬っておきたい。エスデスにバレた可能性も一瞬よぎったがそれはあり得ない。あいつならこんな面倒くさい罠や作戦など張らず直接来るだろう。作戦というのは正面からぶつかっては勝てない相手に必要なものだ。

 

何より対策が中途半端過ぎる。この程度でバーナーナイフを封じることはできない。

 

ーーーー戻るか……っ!!

 

背筋がゾッと寒くなった瞬間、その場から横っ跳びに跳躍する。次の刹那で足場が吹き飛んだ。もしあのまま立っていたら無事では済まなかっただろう。

 

この一撃をキッカケに次々とボコリと土が盛り上がる音がする。土の中から現れたのは人型に近い危険種。体躯は三メートル近くあり、今の一撃から見て、身体能力はかなり高い。腕にはボルトなど、明らかに人の手が加えられた改造が見られる。

 

「なんだこいつら?」

 

自分は戦士である前に狩人だ。狩人として通常の軍人の百倍危険種と戦ってきた自負がある。それでもこのような危険種を見たのは初めてだった。未知の相手に少し警戒が高まる。

 

ようやく土中からの出現が終わった。数は恐らく50程度。

 

「なるほど、テメエらが俺を殺すために用意された戦力ってワケか」

 

殺気を込めて睨みつける。すると一体が素早い回避行動を取った。

 

ーーーーヤツがこの場のリーダーか……

 

そちらに向けて一歩足を動かすと危険種達はそいつを護るようにヴァリウスの前に立ちはだかる。

 

ーーーーへえ、少しだが知性もあんのか……

 

「そいつを斬られたら困るのか?それともそいつに何か秘密があるのか?」

 

声をかけても唸るぐらいしかしてこない。どうやら言葉は話せないらしい。ちょっと残念。

 

「おっと…」

 

後ろから襲い掛かってきた連中をステップで躱し、振り向きざまに3体ほど斬り捨てる。斬った手応えは人より少し硬く、ねばった感じがした。

 

「なるほど。筋力任せだが悪くない速さだ。コレを50……それに加えて、バーナーナイフの封印。確かにたいていのヤツならコレで仕留められるだろうけど……悲しいねぇ」

 

喋りながら一人、また一人となます斬りにしていく。危険種から振るわれる拳は空を切り、狼の牙は一太刀で三体を同時に屠る。

 

「何が悲しいってこの俺がこの程度の戦力で斃せると思われたって事が悲しい」

 

ブンと剣を振り、付いた血を払う。そのまま剣をリーダーらしき危険種に突きつけた。

 

「テメエが持ってるソレ。すぐに貰いに行ってやるから待ってろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人間のスペックを大きく超えています。全滅は時間の問題です」

 

「問題ないわ。コレはただの時間稼ぎなのだから。今のうちにあの小娘共の所へ行きなさい、α(アルファ)…………いえ、ヴァリウス」

 

αと呼ばれた炎の狼と同じ顔をした人間が彼女らの元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クロね」

 

コルネリアの尾行を終えたチェルシーが宿へと戻り、休息を取っていたババラとファン達に見てきた事を伝えていた。

 

「そうか……やはりね」

 

得心した顔でババラが頷く。既に一度接触していたババラはその答えを予想していた。少女達から闇の世界の住人の気配は感じなかったが、彼女らを率いていた男からは見知った匂いを感じ取っていた。

 

「いやー、さっすが先生。あの人の予想通りでしたよ。尾行に私を選んだのも間違いなく正解でしたね。何にでも化けれるようにしてもらって本当に良かった」

 

一瞬漏らした僅かな緩みにコルネリアとその連れは敏感に反応してみせた。気づかれたのは人気のない場所だった。もしファンかタエコが尾行をしてとっさに隠れたとしても人影すら目立つあの場所では間違いなく発見されていただろう。とっさに木に化ける事ができる自分だったから尾行が成功したといっても過言ではない。

 

ガイアファンデーションの性能を知り、何にでも化けれるようになれ、と訓練してくれたのはヴァリウスだった。未来予知のような己の師の慧眼に恐れ入る。

 

「強いですよ、彼ら。とんでもなく」

 

「そうかい。で?お前らは私の言う事聞くのかい?」

 

「概ね従えとは言われてるけど、バトるのは俺の指示があるまではやるなって……」

 

「そうかい、まあお前ら二人には期待しておらん。タエコ、お前は?」

 

「私は自分の判断で行動していいって言われてる」

 

「なら旅館の方はアンタに任せるよ。機が来ればやれ。男共の方は私がやる。金髪のガキの方は相当キツそうだからねえ」

 

「わかった」

 

「では私達は……?」

 

何も振られなかったファンが不安そうな声を上げる。見ればわかる。この少女はかなりの手練だ。遊ばせておくには惜しい戦力だ。しかし彼女らは炎狼の子飼い。勝手にオールベルクが動かすワケにはいかない。

 

「お前達はタイザンへと向かえ」

 

「「お師様!(先生!)」」

 

旅装に身を包み、顔を概ね隠した男が現れる。フードから溢れる緋い髪が彼の人を自分達の師だと伝えていた。

 

「小僧、戻ったか」

 

「ああ、少し野暮用でな。襲撃食らったよ。ま、かませにもならんかったが」

 

「で?何か掴んだのか?」

 

「ああ、一人生かして吐かせた。帝国の暗部がタイザンに陣取っているらしい」

 

ファンへと向き直る。指示を出すのだろう。

 

「タイザンの雑魚の掃討をお前達に任せる。チェルシー、サポートしてやれ。俺は本命を殺りにいく」

 

「わかりました」

 

「りょーかい」

 

茶髪の少女が飴玉をコロリと口の中で転がす。その瞳には穏やかならぬ光が宿っている事をタエコとファンだけは気づいていた。

 

「途中までは先生も来てよ。雑魚以外がいたら困るし」

 

「あのなぁ、俺はお前らのお守りをしてやる暇はない」

 

「あるでしょ?タエコやババラと違って特に任務とかないんだし、ねえいいでしょ?初めての実戦だから保険は欲しいのよ」

 

少し眉をひそめ逡巡し、諦めたようにハアと溜息を吐く。これ以上の問答を重ねても無駄だと思ったのだろう。

 

「わかった。だが俺は手を出さんぞ。手練がいたとしても貴様らで対処しろ。わかったな」

 

「はーい」

 

「………………」

 

それぞれが準備を整え、立ち上がる。行動方針は決まった。

 

「動くぞ」

 

『了解!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………ねえ」

 

旅館を出て、三人でしばらく歩いていると唐突にチェルシーが前を歩く男に声をかける。

 

「なんだ?無駄口を叩くな」

 

「不機嫌ねえ。お喋りくらいいいじゃない。幾つか聞きたい事があるんだけど」

 

怪訝な目つきで後ろを見やる。手短かに言え、と視線で投げかけた。

 

「バーナーナイフはどうしたの?」

 

「少し調子が悪くてな。今は整備に出している」

 

「それって貴方以外の人が触れば無事じゃ済まないんでしょ?」

 

「適合者は何も俺だけじゃない」

 

「フーン……でもそれ私が触った時凄く怒ったじゃない」

 

「当たり前だ。適合するとは限らんのに不用意に触るからだ」

 

「フーン……」

 

 

 

 

 

 

笑わせないでよ

 

 

 

 

 

 

ピアノ線が張り巡らされる。同時にチェルシーはナイフを構え、ファンはクラムを袋から取り出した。

 

「私達の先生はね、バーナーナイフに触らせるなんて私達が危険にさらされることさせないのよ。誰より厳しいけど、私達を愛してくれてるから!貴方、一体誰!?」

 

「お前は……私達のお師様じゃない」

 

背を向けたまま男は動かない。そして二人とも動けない。人目のない所に移動したかったから彼の言う通りに動いていたが、同時に現状は誘い出されたという事。下手に動けば致命的隙となる可能性が高い。

 

「……………いつからわかった」

 

「最初からよ。貴方には常人の10倍鋭いと先生にお墨付きをもらってる私のビビりセンサーが反応しなかったもの」

 

敵になるとは全く思っていないがそれでもヴァリウスの側にいると自然と身が引き締まる。隣にいてもその尋常ならざる強さと気配に圧倒されるからだ。

 

「いくら顔だけ似せても貴方からはなんのヤバさも感じないのよ!」

 

「そうか…………ならもっと早く行動すべきだったな」

 

そう男が口にした瞬間、ファンのクラムがヴァリウスを語る偽物へと突き刺した。

 

「え?」

 

あまりの呆気なさに愕然となる。私達に向けられた刺客なのだ。師よりは弱いという事に疑いはなかったがそれでも多少は手練を予想していたのだ。

 

しかし彼の役目はあくまで餌だったのだ。ここまで釣り出された時点で彼女らの失敗は確定していた。

本物のヴァリウスを襲った未知の危険種が辺りから湧き出る。あっという間に囲まれ、逃げ場は無くなった。

 

「コレは……やっばいね」

 

「お師様は大丈夫かな」

 

「あの人ほど心配が必要ない人もいないよ。それより自分達の心配しましょ」

 

二人の小狼(シャオラン)が背中合わせに立つ。それだけで何とでも戦える気になれる。血よりも濃い絆が二人に力を与えてくれた。

 

「後ろ、任せるよ!ファン!」

 

「任せて、私が守る。チェルシー!!」

 

師のいない状況での二人の狼、初陣の火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「α、殺されました」

 

「あら、やっぱ整形手術で顔だけ似せたαシリーズじゃ狼の弟子は騙せないわね。私の帝具のおかげでソックリに作れてハッタリには良かったのに」

 

あまり公に顔を出す男ではなかったとはいえ、やはり帝国内部の人間であれば彼の事を知っている人間も多く、恫喝やブラフではこの上なく威力を発揮する、虎の威ならぬ狼の威だったのだ。

 

ーーーーまあいいわ。整形手術なんていくらでも出来るし、もう一つの方法も順調だしね……

 

「耳。炎狼に当たらせた方はどうなってるかしら?」

 

「もう既に全滅しています。持たせた手紙を読み取って、動き出しています」

 

「さすがね、想像以上に早かったけど鉢合わせにならなければそれでいい。時間稼ぎにはなったわ。例のアレは?」

 

「ゴズキが既に解き放ちました。あの二人の速度ならもう時期邂逅するでしょう」

 

その報告を聞き、女口調の男がニヤリと笑う。その闘いのデータは何としても欲しく、そして興味深いものだった。結果次第で今行っている研究にとって自分が行っている事の正しさの証明にもなりうる。

 

「目に監視はさせているわね」

 

「はい『耳!聞こえるか耳!』

 

例の秘策を監視させていた目から切羽詰まった声が聞こえる。どうやら緊急事態が発生したらしい。

 

『スタイリッシュ様に報告しろ!アルファの発覚が早かったせいで罠の位置が狂った!このままでは炎狼の弟子と彼らが鉢合わせになる!!』

 

「っ!?スタイリッシュ様!」

 

耳からの報告内容をそのまま伝える。すると一瞬動揺したがすぐにまた笑ってみせた。

 

「いいじゃない、役者は揃ったわ。ショウのはじまりね。ゾクゾクするわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああもう!数が多いなぁ!」

 

ピアノ線で新型危険種の動きを制限しつつ、ファンがクラムで貫く。必要ならチェルシーがナイフでトドメ。そのスタイルで戦い続け、戦闘は有利に進んでいた。しかし周りを取り囲む圧倒的な物量に二人とも疲労は隠せなかった。

 

「「ーーーーっ!?」」

 

二人同時に東の方角へと向く。周りを取り囲む強力な危険種よりも遥かに危険な存在が東から来ている事を二人とも感じていた。

 

 

そしてその予感は現実となる。

 

東の方にいた危険種達が全て薙ぎ払われる。現れたのは予想もしていなかった怪物。彼女ら二人ともその名も知らない。

 

「な、何よ…………アレ」

 

「化け物……」

 

圧倒的な存在感に瞬時に打ちのめされる。その眼光に睨みつけられただけで完全に戦意が折れてしまった。

 

怪物が前足を振り上げ、一振りする。その瞬間、二人に死が過ぎったのも無理ない事だっただろう。

 

辺り一帯が広野に変わる。周りにいた新型危険種達は跡かたも無く木っ端微塵となり、その手の先に生者の存在はあり得ない

 

 

 

 

 

 

 

 

ハズだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺も話に聞いた事があるだけだったんだがな」

 

青い焔を纏った剣が二人を包み、極死の一撃から二人を守った。同時に陰る真の緋色。何度も護られてきた見慣れた逞ましい背中。

 

「超級危険種、バトルウルフ。その圧倒的な強さ故に獲物がいなくなり、絶滅したという伝説の狼。まさかこんな所でお目にかかれるとは」

 

「「先生!!(お師様!!)」」

 

「よう、お前ら。生きてるか?」

 

後ろを振り返る事無く声を掛ける。流石のヴァリウスもこの怪物相手によそ見を出来る余裕はない。

 

「グォオオオアアアア!!」

 

大気を震わせる咆哮が轟き、狼はヴァリウスを睨みつけ、牙を剥き出しにする。唐突に現れ、自分の一撃を防いだ人間に最大級の警戒を示していた。

 

「炎牢」

 

バーナーナイフから放たれた炎が二人を包みこむ。

 

「お師様!!」

 

「そこから動くなよ、お前ら。まあ動けないと思うが」

 

本来敵を動けないように縛る技だが牢獄というのは時として護りのシェルターになる。

 

「バトルウルフよ。全ての狼の王に位置するという、誇り高き狼。伝説に恥じぬその威容に敬意を表する。かくいう俺も人に狼と呼ばれる男でね」

 

剣から青い焔が湧き出て、ヴァリウスの周りを取り囲む。Level.2の全力展開。その異様はまさに業火絢爛。

 

「どちらが狼の王に相応しいか、勝負といこうじゃねえか!狼王、バトルウルフ!!」

 

二匹の狼の王の激突が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 




後書きです。バトルウルフのつもりです。ヘタクソだなぁ!はくりょくがない!でもここの挿絵は入れたかったので後悔はしてません。それではコメント、評価よろしくお願いします。
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