フェイル   作:フクブチョー

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第三十二罪 炎狼のとっておき

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

墓の内部に破砕音が木霊する。行われている戦闘の激しさを物語っていた。

 

ーーーーなんだ、こいつらは……

 

首に多くの骸骨をぶら下げた老人は思う。此処にきてしまった事の後悔を。

侵入者が現れたという報告を受けた彼はその打倒の為に自身の部下を何人か送ったのだが、結果は全滅。

仕方なくリーダーの自分が討伐に出向いていた。現役は退いたとはいえ、まだまだ高い実力を持っている。特に接近戦においては絶対の自信を持っていた。

 

意識が遠のく中で、一際大きな破砕音が聞こえる。誰かが壁に叩きつけられたようだ。

 

瓦礫の中から男が出てくる。若い。歳は二十歳そこそこといったところだ。燃えるような赤い髪に紅玉の瞳。額からは鮮血が流れている。どうやら叩きつけられたのは彼らしい。

対峙しているのは彼と対照的な色を纏った軍服の女性。氷を思わせる碧髪碧眼。軍帽には斬撃の跡が刻まれている。

 

常人なら死んでいてなんらおかしくない……事実自分は致命傷だったというのに、男は何事もなかったかのように女へと跳躍した。

 

ーーーーあの一撃を受けて、どうして平然として……

 

秘術を使っているわけではない。なんらかの人工的な強化を施されている様子でもない。信じられないタフネス。モデルは熊。白兵戦において哺乳動物では最強に位置し、耐久力は長に次ぐとさえ言われている自分が耐えきれなかったというのに。

 

得意の白兵戦に持ち込み、二人まとめて始末する腹だった。

しかしそれは実現することなく、終わる。

気が付いた時にはもう彼の心臓はなくなっていた。体から血とともに魂が抜けていく。薄れゆく意識の中で見えたのは、優れた動体視力を持つ墓守の目を持ってしても捉えきれない凄まじい速度の剣戟。

 

そう、この墓守は二人の剣戟の余波だけで胴体をなくしてしまうダメージを受けたのだ。

 

ついに意識が闇に落ちる。墓守最後の実力者は絶命した。

 

断っておくが、彼は決して弱くない。墓守の中でも有数の強さを持つ。接近戦においては長に次ぐだろう。

ただ、単純にこの二人が桁外れに強いのだ。

 

甲高い金属音が鳴り響く。剛の一撃のぶつかり合いにより、二人の体が弾け飛ぶ。

男の頬からは一筋の血が伝う。女は無傷。

 

余波のみで人を殺せる帝国最強の戦い。まだまだ始まったばかり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いは熾烈を極めた。能力も太刀筋も知り尽くした二人の全力を尽くした決戦が展開されている。

野生の牙と必殺の剣舞が交錯する。幾度となく攻守が入れ替わり、正面から激突した。

まさに3年前の再現………と言いたいところだが現実はそうではなかった。凄まじい攻防の末、競り負けるのは決まって緋色の狼。何度目かの炸裂音が彼を吹き飛ばす。今度は空中で態勢を立て直し、着地した。額を伝う血を拭う。

 

「流石に強いな」

 

一分の隙もなく構えるヴァリウスを見て、魔神の口角が上がる。二人ともあちこちに擦過傷のような傷が出来ている。頭の血は派手に見える分、ヴァリウスの方が深そうではあるが、損傷の度合いに大きな差はない。

一撃が致命傷となる死闘の中で、二人は一見互角の戦いを繰り広げているように見える。

しかし、それは誤りである事を知っていたのは当人同士のみである。この差は三年という時の使い方の差だろう。

 

ヴァリウスは半身になって細身の剣を碧髪の女性の眼前に突きつける。まだバーナーナイフの能力は起動させていない。そしてそれはエスデスも同じであった。

カツン、と小石の音がなる。二人の姿が掻き消えた。

 

「ガッ!?」

 

剣尖が交錯し、血飛沫が舞い上がる。脇腹が消し飛んだかと思うような刺突がヴァリウスを掠めた。逸らす事には成功していたというのに。

 

態勢を瞬時に立て直し、目の前に迫る極死の斬撃を防ぐ。コンマ1秒の遅れが死をもたらす戦闘の中、紅髪の戦士が思ったことはたった一つ。

 

ーーーー強い!

 

最初は互角に見えた二人の戦いだったが、じりじりと彼我の差が現れ始める。押されているのは3年前、勝利を収めた狼だった。

 

「いい動きだ。衰えていないな、ヴァリー」

 

賞賛しつつも、彼の記憶より重く、早く、強い攻撃が繰り出されていく。ヴァリウスの体は少しずつ、だが確実に刻まれいった。超高速で繰り出される怒涛の斬撃を奇跡的に凌いでいたが、劣勢なのは認めざるをえない。

 

ーーーーどんどん速くなってやがる!俺もまだ余力はあるが、温存してる量は明らかにエスデスが上!

 

この洞察は間違っていない。隠している実力に差があるのは明らかだ。

 

「ついて来いよ、私の炎狼。こっちはようやくあったまってきたところだ」

「俺もだ」

 

既に常人なら生涯たどり着けない境地で戦っている二人だが、その言葉に嘘はない。お互いまだ帝具の力は使っていないのだ。

エスデスはまずは純粋な力量での勝負を望んだ。そしてそれはヴァリウスにとっても望むところ。自分たちが本気で帝具を使えば周囲への影響は計り知れない。まだ遠くには逃げてないであろう弟子たち。そしてまだ墓の中にいるアカメの事を考えても、異能の力は使わないほうがいい。

それに全帝具でも五本の指に入る性能を持つバーナーナイフだが、筆頭に位置するデモンズエキスに比べればその格付けは若干落ちる。地力の勝負の方がまだ拮抗して戦えるというヴァリウスの計算だった。そしてその計算は間違っていない。

 

たった一つの誤算を除いて…

 

ーーーー強くなっている!3年前より、まだ上があったのかと思えるほどに!

 

刺突を受け流す。引きと同時に踏み込み、横薙ぎに剣を振るった。並の相手ならとっくに一刀両断だが、彼女は並の秤を軽く超えている。あっさりと間合いを取られ、かわされた。

 

「ふむ、私の攻撃をここまで見事に防いだものなどこの3年で一人もいなかった。ああ嬉しいよ。変わらぬお前でいてくれたことが、私は嬉しい」

 

一瞬で2度の突きが繰り出される。ほぼ同じ軌道で繰り出された2段突き。二つ目の突きがヴァリウスの頬を掠めた。鮮血が舞う。

かつて互角だった力量には今や明らかな差が出ていた。この差は過ごしてきた時間の使い方の差。後進の育成に力を注いでいたヴァリウスに対し、エスデスは常に最前線で戦い続けていた。最強クラスにおいて、この差はあまりに大きい。

怠けていたウサギに対し、勤勉なウサギは走り続けていたのだ。

 

「ゆえに願うよ。炎の狼が私の元で再び傅く事を」

「その狼はもう死んだんだよ!」

 

防戦に回りつつ、喰らいつく。確かに彼我の実力はあちらが上だが、ついていけないというほどではない。ならば駆け引きで充分に対抗できる。

 

「ああ、懐かしいなヴァル!私たちはいつもこうだった!」

 

エスデスと戦う時、才覚で劣るヴァリウスは基本的に受け身。格下が格上を打倒する戦法の一つ、カウンター。洞察力に優れるヴァリウスが得意とするスタイル。稽古を含めれば、エスデスとは数え切れないほど刃を交えてきたヴァリウスだが、彼女と戦う時はだいたいこのスタイルだ。

 

「私がオフェンス、そしてお前がディフェンス。一見すればお前が押されているように見えるが、ほんの僅かの緩みでこちらの首が喰い千切られる。素晴らしい緊張感だ。やはりお前との戦いは楽しい」

 

取っている戦術は真逆だが、二人ともスペックは似ている。パワーでも、テクニックでも十二分に戦えるが、どちらかというとスピードよりの万能型。しかし取っているスタイルは真逆。コレはコンセプトの違いだった。

エスデスの思想は【攻撃こそ最大の防御】。攻めとは野生の戦術。相手が攻めることが出来ない状況にあれば攻められることはない。そして攻めずに獲物を狩れる筈がないという信条。彼女は防御すら攻撃のために行う。才能を磨き上げてきた戦士の戦い方。

ヴァリウスの理念は【防御こそ最大の攻撃】。防御とは達人の戦術。攻撃は動物でも出来るが、防御は熟練にしかできない。相手の取れる戦術を全て潰せば敵は丸裸になる。防御により詰め将棋のように追い込んでいくことこそ最大の攻撃だという信条。己と技倆を磨き上げてきた男の戦い方。

どちらも正しく、どちらも優れた戦術だ。甲乙はつけがたい。

 

だがそれでも……今はヴァリウスの分が悪い。

 

「防戦一方では決して勝てんぞ。さあ、どうする炎狼。さあさあさあ!ここから如何にひっくり返す?」

 

レイピアの一閃が再び頬を掠める。この瞬間、ヴァリウスはスピードで対抗するのを諦める。剣を腰だめに構え、踏ん張った。

この構えをエスデスには見覚えがあった。

 

「…………さっきの女の技……抜刀術か」

 

花風、寄らば斬る。カウンター剣技。タエコの技だ。しかし使い手が違えば技の威力は大きく変わる。

 

「面白い」

 

レイピアを胸元に立て、突きの構えを取る。突進術の構え。レイピアという武器の特性を最大限活かす構えだ。

 

「私の火力が勝るか……お前の技が勝るか……勝負といこう」

 

その呼びかけに応えられる余裕はない。彼の全神経は、今エスデスの一挙手一投足に注がれていた。

 

エスデスの姿が掻き消える。刹那遅れてヴァリウスも。数瞬後、交錯し、現れた二人は互いの武器を振り切った状態で停止していた。

 

緋髪の男が崩れ落ちる。肩に巨大な切創が走っていた。

 

「さすがだ。間違いなく心臓に突き刺さる筈だった一撃が、見事に逸らされた」

 

振り向いたエスデスの胸元にも斬撃の跡が奔っている。だがヴァリウスと比べ、その傷跡は明らかに浅い。

 

誰もが視認できない超高速の空間の中、突きかかるエスデスのレイピアをヴァリウスは抜刀術で捉えてはいた。しかしヴァリウスの想像を上回る突きの威力でバーナーナイフの剣が弾き飛ばされたのだ。武器破壊に失敗したヴァリウスは瞬時に切り返し、エスデスの腕への攻撃に切り替えた。瞬時に狙いを察したエスデスは斬撃の軌道を変える事でかわしてみせたのだ。

 

どれだけのフェイント、技術を入れただろう。どれだけの力をこの刹那に込めただろう。けれど……

 

ーーーー届かないっ……

 

力も、速度も、技も、今の魔神の強さには届かない。

エスデスも同じ感想に至ったらしい。

 

「狼と狩人。どちらの力量が上か、それはもうわかった。ではそろそろ、魔神となるとしよう」

 

エスデスの周囲が舞い上がる。冷たい波動が空間を支配した。

 

ーーーーついに来るか……

 

バーナーナイフを握りしめる。死闘が加速する覚悟を決めた。

 

「さあ、私を見ろよヴァル。強くなったと見惚れるがいい」

 

ドクンと一つ、心臓がなる。熱くなる体と裏腹に下がる気温。纏わりつく冷気。魔神に付き従うかのように、氷が彼女に纏われていく。大地が鳴動し、壁面が凍りつく。

 

狼も剣を眼前に掲げる。一度深呼吸をした後、カチリと剣を鳴らした。

黒の炎が剣から溢れる。バーナーナイフが繰り出せる最強の炎。お互い掛け値なしの全力をさらけ出していた。

 

「こうして全力を振るうのもあの夜以来だな。さあ信じているぞ、私の炎狼。早々に死んでくれるなよ?」

「理不尽だな、相変わらず」

 

デモンズエキス、最大展開!!

バーナーナイフ、レベルMax!!

 

第二ラウンドのゴングがなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人の少女が墓の内部を駆け抜ける。フェイルが破壊した出口への最短距離までの道を辿って。

 

ーーーーフェイル、どこへ?

 

倒れこんできた墓守たちの話を聞いたフェイルは血相を変えて地上へと向かっていった。迷路のように入り組んだプトラの墓。クロメ達を助け出し、長の死は墓の崩壊に繋がるとわかった今、もう此処に用はない。時期に墓が崩れる事を彼に伝えなくてはならない。

 

その事をアカメは仲間達に主張したのだが、それが受け入れられることはなかった。クロメの事は仲間達に任せ、自分は仕方なく単独行動をとる事となった。最初はクロメも付いてくると言ったのだが、負傷している彼女に無理をさせるわけにはいかない。もう最大の敵も倒した。墓の脱出さえできればクロメに危険はないと判断した。

そしていま自分がしている廻り道は確実にクロメを危険に晒す。なら仲間達と脱出させたほうが安全だ。

 

ーーーーん?

 

自分たちが入ってきた入り口に近づいてきたとき、何かが蒸発するような音が聞こえる。同時に鳴り響く戦闘音。誰が戦っているのかはわからないが、誰かがいる事は確かだ。

 

ーーーーこっちか!

 

音のする方向へと向かう。外の光も見えた。自然と足が早くなる。

 

「フェイル!」

 

部屋に入り込んだ瞬間、愕然とする。信じられない光景がそこにあったからだ。探していた男は確かにいた。

 

氷の柱に磔にされ、胸を剣で貫かれた姿で……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは本当に偶然と言っていい事態だった。

お互い死力を尽くして戦ったせいか、それとも別の要因か、唐突に足場が崩れだし、その一部にエスデスのブーツが取られた。

 

ーーーー今だ!!

 

押されていたヴァリウスが最後の力を振り絞ってバーナーナイフを展開する。

 

「昇狼・嵐、業火剣爛!!」

 

この戦いで唯一と言っていいヴァリウスの勝機。此処で決められなければ敗北が決定する。ディフェンシブに戦いながら、来ると信じて待っていた千載一遇。逃すはずがない。

この部屋を埋め尽くすほどの炎の竜巻。流石のエスデスといえど避ける事は不可能の筈だった。

 

ーーーーえっ……?

 

気づいたとき、捉えたと思ったエスデスの姿は消えていた。

目の前から消えるということ事態は珍しくない。超高速のこの死闘。何度も目の前からいなくなったと感じる超スピードは体感していた。

けど今は違う。いくら超スピードといえど、二人の動体視力と反応速度を持ってすれば、その動きを見ることは出来る。事実出来ていた。だからここまで戦えていたのだ。

しかし今は違う。本当に唐突に目の前からいなくなったのだ。まるで最初からいなかったかのように。自分だけが取り残されたかのように。

 

瞬時に気持ちを立て直し、周囲の警戒へと切り替えたのは流石といえる。しかしそれでも今は遅すぎた。

 

ヒヤリと何かが侵入する感触が胸元に来る。正確な表現ではないが、そうとしかヴァリウスには感じられなかった。

 

ーーーーバカな……

 

気づいた時にはもう戦いは決着していた。エスデスは自分にレイピアを突き立て、身体を持ち上げている。

 

ーーーーいつの間に……

 

「ガハッ……」

 

鉄臭い熱い塊が喉元に湧き上がり、耐えきれずに吐き出す。どうやら内臓を幾つか傷つけられたらしい。それも当然だ。無数の氷の剣で何度も貫かれたのだから。

 

ーーーー何が……何やら……もうワカンねぇ

 

突き刺さったレイピアを握りながら笑いが漏れる。笑ってしまうほどの進化だった。

 

「さすがだヴァリー。私に奥の手を使わせるとは」

 

魔神も無傷というわけではなかった。頭からは血が滴り落ち、体中に火傷の跡がある。

 

ーーーー実力だけじゃない。帝具の扱い方もあの頃とは段違いに上がっている。

 

「お前……何……した?」

 

本当に何が起きているか分からなかった。今ここで起きているのだからあり得なくはないのだろうが、現実にありえない事をされたとしか思えない。

 

「これこそが私の最終奥義。お前を2度と逃さぬために編み出した最高の技だ」

「ゴブっ……」

 

聞いてもわからなかった。辛うじてわかったことは己の胸から剣が生えている事のみ。

 

「帝具の……力か?」

 

現実的に最も考えられる原因だ。帝具の力は人の想像を絶する。何が起きてもおかしくないと全てに警戒し、思考を柔軟にする事は帝具使いならば持ってしかるべき能力だ。美しき氷の女神は肯定の笑みを浮かべた。

 

「私に奥の手を使わせたのはお前が初めてだ。本当に流石だよ、我が人狼。お前はやはり恐ろしい」

 

パチリと指を鳴らす。一瞬で氷の柱に磔にされた。これでもうハナクソほじることも出来ない。

 

「だからこそ、お前が欲しい。炎狼のヴァリウス。誓うよ。もう2度と負けはしない。だから、お前の牙を我が手によこせ」

「…………」

「もうお前一人に重荷は負わせない。この三年間で私も様々な事を学んだ。もう決して、お前に辛い思いはさせない」

「現在進行形で、辛い思いをしてるんですけど」

「だからこれ以上お前を傷つけさせないでくれ。お前と戦う事は楽しいが、同時にとても辛い。コレは本当だ」

 

ああ、そうだろうな。お前が俺に嘘をつくとは思ってねえよ。

 

「もう2度と誰にも負けねえか……出来るだろうな、お前なら。いや、俺たちなら、か」

「ああ、私がオフェンス。お前がディフェンス。共に足りない部分を補うことでどんな戦場も怖くなかった。敵などいないと信じれた。証明してきた。私の誇りだった」

「…………」

「そして、何より楽しかった。北の辺境に篭っていては見られなかった世界を見せてくれたと、今でも深く感謝している」

「そうだな……俺も、お前がいたから戦えたって所はあるよ」

 

あの幼き日の約束があったから、俺は戦ってこれた。

 

「私もだ。ヴァル。お前がいてくれたから、私は戦ってこれた」

 

頬に手が添えられる。氷を操る魔神であろうと、手は優しいぬくもりを持っている。

 

「ヴァル、私は……」

「おぉおおおお!!」

 

絶叫が部屋に響き渡る。二人とも互いに集中していたため、侵入者に気づかなかった。音源を見てみると長い黒髪に鮮血の赤の瞳を宿した少女が刀に手をかけて走っていた。

 

ーーーーアカ……

 

驚きにヴァリウスが目を見開いた時、猛然とアカメはエスデスに斬りかかった。唐突な乱入者にもエスデスは即座に対応してみせる。レイピアが桐一文字を受け止めた。

 

「なんだ貴様は。墓守ではないようだが」

「フェイルから離れろ!」

 

そのまま撃ち合う。しかし実力差は圧倒的。数合と持たずアカメの剣は弾き飛ばされた。

 

「弱い奴が私の前に立つな。死……」

 

硬質な破砕音が鳴る。氷が砕けたような音だ。振り返ると氷柱を握りしめてこちらに襲いかかるヴァリウスの姿があった。あの磔にされた状態から腕力のみで氷を砕き、拘束から逃れたのだ。

 

「くっ!?」

 

なんとかガードするので精一杯。腹部に衝撃が来る。ヴァリウス渾身の回し蹴りがエスデスの腹を捉えていた。吹っ飛ばされる。ヴァリウスはバーナーナイフを拾い、胸元の傷を炎で焼いてふさぐと、アカメの元へと駆けた。

 

「なんで来た?逃げろって言っただろうが!」

「でも!…………でも…」

「ああ、もういい。早く逃げろ。出口は直ぐそこだ」

「フェイルも逃げよう。もうじき墓が崩れる!長が死ねばここも壊れるんだ!」

「そんな事になってんのか………うおっ!?」

 

地面が揺れる。正確には墓全体が揺れていた。長が死んだのだろう。墓の崩壊が始まっている。チラリと直ぐそこにある出口を見た。

 

「コレは……もう長く持たねえなーーーーっ!?」

 

ズシャリと瓦礫を蹴る音がする。蹴りごたえはかなりあったが、やはりあの程度で倒れてくれる相手ではない。

 

「行け、アカメ」

「…………何言ってる?もう戦いは終わっただろう?フェイルも」

「アレで終わるタマなら苦労はねえよ」

 

バーナーナイフを構える。土煙の中に人影が見えた。

 

「…………やってくれたな」

 

殺意のこもった碧眼が赤い瞳の少女を捉える。恐怖が一瞬でアカメを飲み込んだ。

 

「う、うわぁあああああ!!」

 

恐怖から逃れるためにアカメが取った行動は無謀な突撃だった。それは奇しくもチェルシーと同じ行動原理。圧倒的な恐怖の中、闘気で自身を守ろうとした行動。

 

本人が己の行動の愚かさに気づいた時にはもう遅い。手にした刀は弾き飛ばされ、極死の一撃が彼女に迫っていた。

 

ーーーーっ!?

 

クロメを残してまだ死ねない。頭部だけは腕でガードを固め、来る斬撃に備えた。

しかし、来るべき痛みはいつまで経っても訪れない。目を開くと視界に入ったのはレイピアで腹部を刺された赤髪の戦士の姿だった。

 

「フェイ……っ!?」

 

黒髪の少女の細い腕を掴む。一瞬、アカメがあっけにとられているその刹那で出口に向けて思いっきり投げた。

 

ーーーーあっ……

 

吹き飛ばされるその刹那の空間で、アカメは聴いた。

 

ーーーー行け、アカメ……

 

 

生きろ!

 

 

目の前が瓦礫で崩れる。気づいた時には、もうアカメは墓の外へと出ていた。

 

「フェイル!」

 

もう一度、墓の中に入ろうとする。しかし見えない引力にそれを止められた。背中をグリーンに羽交い締めにされていると気づいたのはその時だった。

 

「何してるのアカメ!もうダメだよ、間に合わない!」

「離してグリーン!フェイルが、フェイルが!!」

 

ひときわ大きく地面が揺れる。かろうじて墓の形を保っていたピラミッドが崩れ落ちた。

 

ーーーーそんな……

 

「フェイルぅううウーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

崩れゆく墓場の中で、二人は向き合った。男は血が滴り落ちる胸を押さえながら、構える。もう墓も崩壊寸前だ。恐らくこれが最期の一合になる。

 

『まだ戦うのか?』

 

鼓膜を振動させない声が自身の内から聞こえてくる。

 

『もう15分は稼いだじゃないか。その体でこれ以上戦う事に何の意味がある?お前が戦闘態勢を解けばエディもこれ以上は戦わないだろう。降伏しろ』

 

腹部に刺さったレイピアを筋肉で締め付ける。抜けない事を察したエスデスは素早く飛び下がり、氷で剣を作り出した。

 

『何の希望があってお前はまだ戦うんだ』

「まだ戦うのか、ヴァル」

 

何の偶然か、自身の心の声とエスデスの声が重なる。おそらく二人とも俺にこれ以上戦わせたくないのだろう。

 

「その体では万が一にも希望は…」

「ガタガタうるせえ」

 

二人の声を遮り、レイピアを腹から引き抜く。盛大に腹から血が出たがしょうがない。あの状態で戦う事は不可能だ。炎で傷口を焼く。

 

「希望なら残したさ……とっておきのを4つ」

 

俺が戦う理由には充分すぎる希望だ。

 

「…………そうか」

 

氷の剣を構える。この誇り高き戦士に言葉を尽くすつもりはもうなかった。

 

「だが希望も、執念も、狼だろうと……私の前では全てが凍る」

「どうかな?俺の牙は全てを燃え散らす」

 

この戦いが始まって以来、最大級の炎と氷が立ち上った。焔と氷がぶつかり合う。お互いを溶かし、お互いを消す。発せられるスチームは二人の周りを吹き飛ばす。相反する二つの激突。熾烈の極み。三年前の再現。

 

数日後、帝国中に号外がばら撒かれた。

三年前、味方の虐殺を行った大罪人。炎狼のヴァリウス、逮捕。帝国地下牢にて収監。刑罰は審議の末に決定予定、と。

 

 

 

 

 

 

 




後書きです。墓守り編終了〜!何とかコンパクトにまとまった……纏ったよね?次回からはオリジナル。ケモノなあいつや抜けたあのこが出てくる予定です。それでは励みになりますので感想、評価よろしくお願いします。面白かったの一言でも頂ければ幸いです。
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