フェイル   作:フクブチョー

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第九罪 誇り高き小狼として

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの惨劇の夜から3年の時が経った。ババラは依頼が正式に申し込まれるまで拠点に戻る事にし、この地を去った。しかしタエコだけはフェイルの元に留まり、修行する事を決断した。ババラも仕事が入れば直ちに戻る事を条件にそれを了承した。

 

二人の弟子を武で鍛え、一人の弟子には隠密機動を叩き込む。三人の弟子を育て上げる傍ら、フェイル自身も医師であるチサトから医術を学んでいた。怪我の絶えない修行の日々にいちいちチサトを煩わせるわけにはいかない。フェイル自身が医術を身につける必要があった。三年の研鑽の結果、今や緋の狼はヘタな医者よりよほどいい腕となっている。

フェイルにとっては寝る間もないほど忙しい日々であるが、同時に比較的平和な毎日を五人は過ごしていた。

 

今日もまた三人の狼見習いは修行をしている。ファンとタエコが素手で乱取りをする傍ら、チェルシーは化粧道具を構え、フェイルの前に立っている。

 

「行きます!」

 

一瞬で全く別人へと変身する。まるで超能力だ。

 

「木」

 

フェイルの呟きに反応し、一瞬で木に変身する。変身自在ガイアファンデーション。その武具の力は変身対象を人間のみに縛らない。使用者の能力次第でどんな姿にも変われるのだ。

 

「鳥、花、猫、俺」

 

次々に違う姿へと変身していく。変身の間もほぼない。一秒に満たない時間で変貌していく。

 

「霧」

 

初めて変身が止まる。何とかしようと化粧道具を必死に操るが変わらない。

 

「あ〜〜〜っ!!やっぱ気体は無理ぃいーーー!!」

 

変身を解いて元の姿に戻り、大の字に寝そべる。草の匂いと堅い感触がチェルシーを迎えた。

 

「バカ野郎、テメエで限界を決めるなと何度言ったら分かる!固体オンリーなんて制約はガイアファンデーションにはねえんだから理論上可能なはずだ。今すぐ出来ろとは言わねえが出来ないなんて口にするな!俺の弟子に諦める奴はいらねえぞ!」

 

「鬼いぃぃ…」

 

「鬼なものか。いいか、生き物や個体だったら咄嗟に化けた時、そこにあるのが不自然な物に化けてしまう可能性がある。そうなっては帝具の存在を知ってる奴ならバレかねん」

 

俯いて黙り込む。彼が為にならない修行をやらせる筈がない事はこの三年でよく知っている。修行の時は鬼より厳しいが、誰より弟子想いの師だ。

 

「その帝具の能力は使いようによっては確かに脅威だ。ヘタをすると俺のバーナーナイフより。しかしバレたらお前は終わりだ。最低限の事は叩き込んだが、タエコクラスの手練れを正面から相手にしなければならない状況になったらもうどうしようもない。だが気体に化けられるようになってみろ。安全性は跳ね上がる。お前の安全の為にも努力は続けろ。いいな」

 

「は〜〜い」

 

「はいは伸ばさない」

 

ーーーーま、変身速度は良くなったけどな。

 

最初は化けるのに10秒近く掛かっていた。実戦に置いて10秒の隙は10回は殺せる隙だ。初めて見た時、遅い上にドヤ顔してくるチェルシーに迷わずゲンコツを落としたものだ。

気配の消し方も磨き上げた。今はもう実戦で充分に使える戦力となってる。

 

素手で乱取りしている黒髪コンビに目を向ける。三年で大きく成長したバン族の少女は艶やかな黒髪を背中まで伸ばし、身長もチェルシーと同程度の高さまで伸びた。

 

三年前にはかなりあった実力差も随分と縮まった。調子次第でタエコとなら10本やれば4本は取れる程になっている。

それでも今回はタエコの勝ちのようだ。ファンが突きにいった腕をタエコが絡め取り、組み伏した。

 

「そこまで」

 

「………………負けました」

 

差し出されたタエコの手を取り、立ち上がる。ファンの身体に付いた土埃を姉弟子が払ってやる。

 

「やっぱりまだ敵わないなぁ」

 

「気にすることない。貴方は凄く強くなってる。たった三年で驚くほど」

 

「甘やかすな、言ってやれ言ってやれ。妹弟子とは違うのだよ、妹弟子とは!と」

 

カカカと上機嫌に犬歯を見せて狼が笑う。二人とも一日一日で成長が見て取れる。師としてこれ程痛快な事はない。

 

「お師様、私に冷たくないですか」

 

「てゆーかお前が甘いんだ。いくら俺の教えを直接受けているとはいえ、タエはお前より遥かに長い時間を鍛錬と実戦に費やしてきたんだ。ましてや相手はお前の姉弟子だ。そう簡単に超えられると思うな」

 

一瞬でシュンとなる。垂れた耳が見えるようで可愛い。苛めたくなる。

 

「でもまぁタエコと無手で百手以上持つようになったのは悪くない。お前もしっかりと成長してるよ。心配するな」

 

パアッと華が咲く笑顔を見せる。相当嬉しかったのだろう。うーむ、わかりやすい上にチョロい。この辺はなんとかせねばならんな。

 

「てゆーかなんで素手の特訓なんてやってんの?武器使いでしょ?二人とも」

 

戦闘に置いては並に毛が生えた程度のチェルシーが首をかしげる。素手の特訓なんてしてる暇があるなら武器の特訓すればいいのにという事だろう。事実チェルシーにはナイフ術しか教えてない。

 

「いくら武器使いだろうと資本は身体だ。体術を鍛えといて損はない。それに武っていうのは一芸を極めたら他のも何となく身についてんだよ。似た動きも多いし」

 

槍の技でもそのまま無手で使える技もあるし、剣の技でも手刀で使える技もある。

 

「一つの技を覚えるには多くの動きを覚える必要がある。そうしてる内に気づかない間に色んな事を学んでる。それが極めるということだ。それにあってはならないが武器を失う事もある。別に武器が武人の魂だとか変な事を言う気はない。所詮武器ってのは消耗品だ。帝具だろうと例外じゃない。俺のコイツもいずれ壊れるだろう」

 

ポンポンとバーナーナイフの柄を叩く。並の剣より遥かに頑丈だがどれ程優れていようと物である以上、いつかは壊れる。

 

「その時剣が手にないからもう戦えないじゃすまんだろう。そんな状態で弟子を戦場にやるのは師の怠慢だ。どんな状況でも諦めるなとは言ったけど負け戦をしろとは言ってない。ヤバくなったら逃げていい。絶対諦めちゃいけねえのが生きる事。それを忘れず、どんな状況でも戦える自信がある戦士こそが強いんだ」

 

思わず聞き惚れる。この男は普段鬼のくせに時々優しいから始末に負えない。

 

フェイルが不意に空を見上げる。敵意のようなものはない。何となく気になった。すると山間から一匹の鳥が飛んでくる。

 

ーーーーなんだ?

 

バサバサと羽を広げ急ブレーキをかけて俺の上で旋回し始める。腕を上げてやると手首のあたりに止まってきた。

 

「何〜?先生鳥にもモテるの?」

 

「いや、どっちかっていうと動物には嫌われてる」

 

エディはそうでもないのになぁ〜とボヤきながら降り立ってきた鳥を確認する。

種類はマーグファルコン。非常に知性が高く、訓練された奴なら通信役にもなる危険種だ。案の定足首に手紙が括り付けられている。

 

「手紙ですか?」

 

「ババラから?」

 

「らしいな」

 

内容は革命軍からの依頼が正式なものとなった事とタエコの返却。そして俺とファンとチェルシーへの同行の依頼。

 

「ようやく来たな」

 

「依頼ですか?」

 

「て事は実戦?よーっし!待ってました!!」

 

「思ったより時間が掛かった」

 

「コレは革命軍が金を用意出来なかったというより、標的が動かなかったんだろう。彼らもこの三年、もしくはもっと長い間修行していた筈だ」

 

読み終えた手紙を畳むと同時に手から落とす。カチャンと腰の剣の鍔を鳴らすと一瞬で燃え散った。

 

「おお〜〜。お見事」

 

紙一枚を燃やすのに丁度いい調節された火力にチェルシーがぱちぱちと拍手を贈る。コレが意外と難しい事を茶髪の少女は知っている。

 

「今すぐ移動?」

 

「いや、装備を整えたらババラが迎えに来るそうだ」

 

今回の仕事場所はラクロウらしい。此処からの方が確かに近い。

 

「よし、お前ら!最後にランニングだ!俺も走るから付いて来いよ!」

 

「「はい!」」

 

「え〜〜!!また走るの〜〜!もう実戦なんだから疲れ残すような事はやめようよ先生」

 

「バカ野郎、実戦を控えているからこそ身体を慣らしておくんだろうが。走れない戦士に勝利はないぞ。憶えておけ」

 

「はいはい」

 

「はいは一回。それが終わったら一度家に戻るぞ。ファン。お前に武器(オモチャ)を買ってやる」

 

「私の武器ですか?既にお師様から貰った槍がありますが」

 

「アレはテキトーにかっぱらった槍だ。アレで実戦は心許ない。俺が依頼した鍛冶屋に鍛えて貰った槍がそろそろ出来る頃だ」

 

くいくいと袖口を引っ張られる。引力の先にいたのは物欲しそうな顔をした二匹の狼見習い。この3年間、この子達はみんな分けへだてなく育てた。もちろん鍛錬の内容はそれぞれで違った事もあるけれど、厳しさも密度も皆同じで特別扱いをした事は一度もない。それが今回、初めて崩れた。しかも緋髪の男からのプレゼント。羨ましく思うのも無理はないだろう。

 

「先生!私には?プレゼント無いんですか?」

 

「お前にはコレだ」

 

ヒョイと投げてやったのは俺が狩人時代から愛用している短剣。刃紋は実用特化。斬れ味は抜群。怜悧な美しさを持った白銀の光沢を持つナイフだ。危険種、ダイアウルフの牙を素材として作られている。

 

「俺のナイフだがもう俺には必要ない。お前にやる」

 

「やった!ありがとう!」

 

「ヴァリウス、私には?」

 

「お前の剣は充分業物だ。それ以上の剣はそうそう無いぞ」

 

分かっているけど納得してないという顔で俺を睨む。確かに他2人の弟子にはプレゼントしているのに最も古参の弟子の自分に何もなしというのは少し理不尽かもしれない。

 

「まあ鍛冶屋に付いてくるのは好きにすりゃいい。そん時気に入ったモノがあれば買ってやろう」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

ペコッとポニーテールが舞うほど勢いよく頭を下げる。うむ、と一つ頷き、四人揃って最後のランニングを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

町外れのとある商業地区。もう此処までくると帝都に近い。腕の良い職人は基本的に金に任せて帝国にヘッドハンティングされる。しかしごく稀に腕とプライドを持ち合わせた職人が帝国から離れて暮らしている。今から行く店はそんな職人がやっている店の一つ。軍人時代、個人的に関わりがあった。

 

「一応言っておく。お前ら、覚悟しとけよ」

 

店の戸をノックする前に一応三人の弟子に忠告する。三人揃って小首を傾げる姿がなんか面白い。

 

一呼吸してから戸を叩く。しばらく待ったが返事はない。気は進まないけど名前を呼ぶ事にしよう。

 

「アレックス。俺だ。起きているか?」

 

どさっと大きな音がした後、少し地面が揺れるほど重くどっしりとした足音が聞こえてくる。どうやら来客に警戒してたらしい。

 

鍵が外れた音がし、勢いよく扉が開け放たれる。

覚悟しておけ、という言葉の意味の一端を三人の弟子は理解する。

フェイルも体格に恵まれている方だ。筋肉のつき方はもちろん、上背も並じゃない。180センチ以上はあるだろう。

だがそんなフェイルが華奢に見える程現れた男は大柄。腕は縄が盛り上がったような筋肉の塊。胸板など岩のようでまるで大きな山を連想させる男だ。

金のヒゲにキューピーのような髪型がなお威圧感を与える。

 

「よ、ようアレックス。お姉さん元気ーーー」

「ヴァリウス殿ぉおおお!!」

 

「だぁああああ!!ヤメろヤメろ!そういう事しに来たんじゃねえんだよ!!旧交はこないだ温めただろうが!!」

 

烈火の勢いで抱きついてくる筋骨隆々の大男を必死で食い止める。あの勢いで抱きつかれたら心から尊敬する師でも無事では済まない事は容易に想像がつく。

 

「あ、あのー先生……その筋肉モリモリのおじ様は?」

 

「彼はアレックス・アームストロング。武門のっ……名門貴族っ……アームストロング公の子息でっ……凄腕の錬金術士だっ」

 

「錬金術士?」

 

「未知の金属とかっ、謎の液体とかっ、その手の帝具の元になったって言われるっ、特殊な素材を扱うっ……職人をそう呼ぶっ………事実っ、帝具を作った人間のほとんどはっ……そういう特殊な技術を持ってたっ……らしいっ!!」

 

なんとか組み伏せる。力比べは一応フェイルの勝ち。様子から察するに結構辛勝だったみたいだ。

 

「ハァ………相変わらずの馬鹿力だな。腕痛い」

 

手首をぷらぷら振る。本当に痛そうだ。

 

「流石はヴァリウス殿。我が全霊の筋肉を持っての抱擁でしたが、かわされましたか。ところでこの少女達は?」

 

「話しただろう、俺の弟子だ」

 

「………………まさか依頼されていた槍を扱うのはヴァリウス殿ではなく……」

 

「こいつだ。名はファン。バン族の出身だ」

 

「バン族っ!?」

 

驚きに目を見開く。この男はバン族討伐の一件は知っている。驚くのも無理はない。

 

「貴方は地獄を見た少女に再び地獄を見せるおつもりですか!!」

 

「この子が望んだ事だ」

 

「いかんぞ少女よ!せっかくヴァリウス殿が血生臭い世界から救いだしたのだ。再び戦火に戻るようなマネはしてはいかん!復讐は愚か者の選択だ!何も生まんぞ!!」

 

ヴァリウスに何を言っても無駄だと判断したのか、ファンの肩を掴んで説得する。あまりの剣幕と迫力に黒髪の少女は少したじろぐ。それでもしっかりと目を見て言葉を返した。

 

「私は復讐なんて望んでません。私はただ守る力が欲しい。今度こそ、どんな理不尽がやってきても大切な人を守れる力があればそれでいいんです。ですから……私に守る力をください」

 

頭を下げる。その真摯な言葉にアレックスは目尻に涙を貯める。相変わらず激情家だ。善人の証拠だけど、軍人には向いてない。

ファンがただ復讐に生きるだけの女だったなら、俺は弟子には取らなかった。こいつの望みは最初から今まで変わってない。守る為に強くなりたいと望んだ。復讐を望まず、未来の大切な誰かを守る力を望む。どれほどの心の強さが必要だっただろう。帝国最強、常勝不敗などと彼も散々言われてきた。しかしこの3年間、三匹の狼見習いに負けっぱなしの毎日を送っている。それが悔しくもあり、嬉しくもある。

 

「………………御用意した槍をお持ちいたします。しばらく待っていてください」

 

店の奥へと引っ込んでいく。姿が見えなくなってようやく全員がホッと息を吐いた。

 

「予想以上でしたね……」

 

「悪い人ではないのはわかるけど」

 

「暑苦しいね……」

 

ファン、タエコ、チェルシーの順で感想を述べる。庇ってやりたいが概ね事実である為庇えない。苦笑を返すのが精一杯だ。

 

「まあ、そう言うな。いい奴なのは間違いない。例えばお前ら、俺が何の前触れもなくお前らに紅茶の差し入れとかしたら飲むか?」

「飲むわけないじゃん!」「絶対飲まないでしょうね」「飲まない」

 

三人がほぼ同時に即答する。この三年間を思い返したのか、チェルシーは頭を抱えながらエビ反りし、ファンとタエコは少し顔が蒼くなっている。

 

「この三年でどれだけその手の嫌がらせをされた事か……!」

 

「あの手この手で地面をのたうちまわらされましたね」

 

辛いを超越した痛い飲み物や少し触れただけで針が飛び出る仕掛け、崩れる椅子や燃え盛るマッチなどなど、暇を持て余してフェイルが作ったイタズラグッズに彼らは三年の間、それはもうフェイルを笑わせてくれたのだ。

 

「コッチが必死で苦しんでるのに当人はゲラゲラ腹抱えて笑うだけだし……」

 

「確かにこちらに被害がなければ面白いのは否定できませんけど」

 

「やられたら最悪だよね」

 

「欲しかった答えではあるけど、君たち息揃い過ぎね」

 

打ち合わせでもしたかのようにぴったりと揃った返答に苦笑を浮かべる。自業自得だから仕方ないとはわかっている。

 

「だけどアレックスは何度騙されても飲むぞ。てゆーか飲ませても平然としてるから単に効いてないだけかもしれんが、それでも凄いだろ?友人を疑うという事をしない」

 

「そこまで行くと馬鹿なんじゃないの」

 

「信頼しているのでしょう。お師様を」

 

「両方正解だろう。それに見ろ、此処に並んでる武器の数々を」

 

「確かに、見た事ない武器がいっぱい……」

 

店内に飾られている様々な武器に皆目を奪われる。刃の先が三日月のようになっている剣や三又に別れた奇怪な形状の槍。やたら細身の片刃の剣など普段お目にかかる事のできない武器がズラリと並んでいた。

 

「この剣とか扱いにくそ〜。先生はコレ使える?」

 

「扱ったことないからわかんねえな。どうやって使うんだコレ」

 

ククリナイフと書かれた剣を手に取る。剣と呼ぶには余りに斬りにくそうな形状だ。剣に限らず、様々な武器を扱ってきたフェイルでもコレを武具に戦場に出るのは難しい。

 

「ヴァリウス殿、お持ちいたしました。ご注文の品です」

 

店の奥から布に包まれた細長い棒を持ってアレックスが現れる。パッと見は槍に見える。しかしこれ程の珍品が並ぶ店でただの槍が出てくるとは思えない。

 

「安心しろ、コレをデザインしたのは俺だ。そんなとんでもねえ品でないのは保証するよ」

 

布を解き、その武具の全てを露わにする。

 

「コレは……」

 

長さは約2.0メートル。作りは鋼鉄。槍の穂先に斧、その反対側に突起が取り付けられている長柄の武器。槍に似ているがどう見ても槍ではない。

 

「俺が考案した新しい槍だ。こいつは突くだけでなく、斬る、引っかける、叩き斬るといったおよそ武器が持つ全ての性能を一つにした槍だ」

 

持ってみろ、とファンに手渡す。手を離すとその重さに思わず取り落としそうになった。華奢な少女には余りに似合わない重厚感ある武器だ。

 

「用途の広さは他の武器を圧倒する。その代わり重い。多芸だからそれぞれの性能の武器を器用に使いこなし、使い分ける適切な判断と迅速な対応、そして技術が必要な武器だ。扱いの難しさは槍の比ではない」

 

「でも使いこなせれば……」

 

タエコの騒然とした呟きに緋の狼はニヤリと得意げな笑みを浮かべる。使いこなせればどんな武器より脅威となる。戦いの幅も圧倒的に広がる。

 

「こ、こんな凄い武器……私に」

 

「お前まだまだヘッタクソだからな〜。ザコの内は武器の強さに助けてもらいな」

 

「で、でも以前お師様はおっしゃったじゃないですか。ヘタクソの内に強力な武器を持つのは勧めないって。私なんて……」

 

「そうだな。武器の強さを己の強さと勘違いし、力に溺れて自分を見失い、鍛える事を怠った最強を俺は1人知っている」

 

人の領域で極限まで強くなったかつて俺が尊敬したあの男。名はブドー。元祖帝国最強。

しかし、その男も帝具を手に入れ、変わった。武器の強さのおかげで彼自身が弱くなってしまった。

 

「だがお前はそうはならんだろう」

 

「どうして……?」

 

「お前は俺の弟子だからだ」

 

この男には珍しい、穏やかな声音での答え。耳元で囁かれた優しい声に思わず顔を真っ赤にして俯く。目頭が熱くなるのがわかる。どうしようもなく恥ずかしく、そして嬉しい。

 

「大事なのはテメエを鍛え続ける事。実力を維持するのではない、進化し続けろ。下を見て安心するな、上を見て悩みながら生きろ。のたうち回ってジタバタしろ。苦しみ、足掻け。その積み重ねがいつかお前を強くする」

 

ーーーだから持ってけ

 

ポンと頭に手をやり、そのまま撫でてやる。弟子の艶やかな黒髪を愛おしげに。

 

「強くなれ、ファン。いずれ俺より」

 

「……ありがとう……ございます」

 

感情の雫が地面を濡らす。アレックスも泣いてたけど暑苦しいから見たくない。

 

「……………たま〜〜にこういう事するから手に負えないよね〜〜。我らのお師様は」

 

「?手に負えるとか思った事あるの?チェルシーは」

 

「無いよ、初めて会った時から一瞬たりとも」

 

でも面白くない、飴を噛み砕く。タエコは相変わらず無表情だけど内心では不満が燻っているのがわかる。かつて自分も言われた言葉だ。彼女の大事な宝物の一つ。それを独占したいと思うのは人として当然だ。

 

「あの、お師様。この武器の名前は?」

 

「ああ、まだ決めてなかったな。どうしようか」

 

「ヴァリウス殿、我輩に一案が。エクセレントANDエレガント「却下。アレックスもう喋るな。そこで腕立て伏せでもしてろ」

 

腕を組みながら思案を巡らせる。新たに作った武器だから確かに銘は無い。しかし炎狼の弟子の武器が無銘というのは許しがたい。

 

「クラム……」

 

「は?」

 

「よし、そいつの銘はクラムだ。今決めた」

 

「クラム?なんか可愛い響きね」

 

武器らしからぬ名前にチェルシーが小首を傾げる。タエコも名前の意味がわからないという顔をしている。意味を理解していたのは本当に腕立て伏せをしているアレックスだけだった。

 

「クラム(ガラクタ)とは……また皮肉な」

 

異国の言葉でガラクタを意味する言葉。新しい武器だ。扱える人間は今の所1人もいない。確かに一般的な武人から見ればまさにクラム、ガラクタだ。

 

「そいつをガラクタにするか、それとも掘り出し物にするかはお前次第だ。練磨を忘れるなよ、小狼(シャオロン)」

 

「はい!!」

 

こうして戦場に向けて、小さな狼達の牙が揃った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後書きです。オリキャラ登場。というかまんま豪腕の錬金術士の少佐ですけどね。オリヴィエは出せるかどうか微妙です。エスデスとキャラかぶる点も多いですし。詳しい展開はまた後日。それでは感想、評価、よろしくお願いします
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