どう頑張っても俺には彼女が見えない   作:ふーあいあむ

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プロローグ

「ほら、席つけ!」

 

教室の扉を開け、担任が入ってくる。

喋っていた生徒たちが自分の席へと戻り着席する。

 

「おい! 起きんか、明石!」

「……起きてますよ」

 

名を呼ばれて俺ーーーー明石遥(あかいしはるか)は顔を上げた。

俺が起きているのを確認して、担任は教室を見回す。

 

「よし、全員来てるな。今日の連絡をーーーー」

 

担任の言葉を聞いて『ああ、今日もまた“いつも通りの”日々が来たな』と感じる。

しかし、今日に限っては“いつも通り”ではなかった。

 

「ーーーーの前に、お前らにいい知らせがある」

 

教室内がざわめきだす。

 

「今日、このクラスに転校生が来る」

 

ーーーーおおおおおぉぉおおおッ!

 

クラスメイトたちの大合唱に俺は顔をしかめた。

転校生という“いつも通り”ではないことに興奮を感じるのは分かるが……それにしてもうるさ過ぎる。

 

「先生!」

「なんだ白沢」

「男ですか? それとも女ですか?」

 

白沢という男子生徒が月並みな質問をする。

 

「どっちだと思う?」

「中間!」

「……お前は何をいってるんだ、東雲」

「えへへー」

 

訳の分からない解答をしたのは東雲(しののめ)ゆりという女子生徒だ。

クラスのムードメーカー的存在であり、クラス委員長でもある。

 

「まったく……。転校生は女子だ」

「だって! やったね、はるくん!」

「……うるさい、東雲。頭に響く」

「えー!? ひーどーいー!?」

 

こいつとは中学からの付き合いで、言うなれば悪友のようなものだ。

 

「はぁ……イチャつくのは後でやれ、東雲、明石」

「だってさ。 あとでいっぱいイチャイチャしようねー、はるくん!」

「あーそうだねー……」

 

ちなみにお互いに恋愛感情はない。

 

「それじゃあ入って来い」

 

担任が転校生を呼ぶ。

はい、と声が聞こえてから教室の扉が開く。

 

「うわ……可愛い……!」

 

東雲のそんな声が耳に入り、入ってきた転校生を見てーーーーそして呆然とする。

視覚から入ってきた情報が理解できなかった。

いや、むしろその逆(・・・)だ。

 

「自己紹介をしてくれ」

「あ、はい」

 

鈴のような声が響く。

それは聞いている者を癒す伴奏曲のようだ。

 

「始めまして。小森透子(こもりとうこ)です。父の仕事の都合で転校してきました。これからよろしくお願いします!」

 

教室のあちこちから『綺麗』や『可愛い』などと聞こえてくる。

見回せばクラスメイトのほとんどが放心していた。

俺も別の意味で放心している。

 

「ね、ね、はるくん! すっごく綺麗な娘だね!」

「……あ、あぁ。そうだな……」

「あれ? 珍しいね、はるくんが女の子のことでそういうこと言うの。いつもは『興味ない』とかなのに」

 

東雲がなにか言っているが頭に入ってこない。

 

「あ! 小森さん、こっち見てるよ!」

「え……ま、マジ?」

 

東雲が言うには小森はこっちを見ているらしいのだが、俺には分からない。

 

「よーし、なら小森は……東雲の隣に座れ。委員長でもあるから何かわからないことがあったら聞くといい」

「ーーーーっし! 聞いたね、男子諸君! 羨ましかろう! これで私は学園天国!」

「え、えーと……よ、よろしくね、東雲さん」

「ゆりでいいよー、トーコちゃん!」

 

ぎぃ、と東雲の隣の席ーーーー俺の左斜め前の席が引かれる。

 

「えっと……よ、よろしくね」

「ほらほら、はるくん! こんな綺麗な女の子が挨拶してるんだよ? 無視しちゃダメダメ!」

「……あ、わ、悪い。その……よろしくな」

「はい!」

 

元気な返事が聞こえてきた。

 

「じゃあ今度こそホームルーム始めるぞ! 」

 

ホームルームが始まり、クラスメイトが前を向く。

しかし俺は小森の席から目が話せなかった。

 

それはなぜなら。

 

どういうわけか。

 

ーーーー俺には彼女の姿が文字通り“見え”なかった。

 

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