SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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第136話 「魔剣グラム」

大好きなあの人は、とても真っ直ぐで、とてもまぶしくて、それでいて暖かくて。

いつも元気に走り回って、振り回すんだけど握った手は絶対に離さない。だからついていくのがやっとだけど、あなたの後ろを歩いて行ける。私はいつも助けてもらってばかりいた。だから、私が助けるときは何もかもを投げ出しても助け出すと決めた。

命でさえ、惜しくない。ずっと一緒にいよう。一緒に笑っていようって約束したのに…。

「なのに…あなた達が連れて行くから…!!!」

禍々しいオーラを放つ黒い大剣を地面に叩きつけ怒りを露わにする親友の変貌した姿をみてヒツギは眉を歪めた。

「と、いってもなぁ。こちらと身を守るためにやったことだし? なにより先に手ぇ出してきたのそっちだろう? なぁ、マザークラスタのコオリちゃん?」

ダーカーの姿をした幻想種たちの中心にいたコオリを見つけ、一度は刺されたものの、その姿と様子からマザークラスタメンバーに何かされたのではないかと予想したヒツギはコオリの説得をオキに懇願した。

確かに以前モニター越しや近くで見た彼女の様子とはかなり違っている。少なくとも大人しそうな彼女からは想像がつかない。

「うるさい…うるさいうるさい! マザーは言ってた…。お前たちアークスは悪者だって…。ヒツギちゃんを助ける為にはアークスを倒せって!!!」

「コオリ…。マザーが言ってることは全部が正しいわけじゃない! それをわかって…。」

「ヒツギちゃんも…マザーを疑うんだ…。ううん。ヒツギちゃんはそいつらに何かされたんだよね。だって、ヒツギちゃんがマザーを疑うわけないモノ。やっぱり、ちゃんとその中にいるヒツギちゃんを助けないとね!!!」

大剣を振り、ヒツギへと刃を叩きつけようとした。オキはすぐさま彼女の前にでて剣を受け止めようとしたが

「邪魔! あんたなんか…この子と遊んでればいい!!」

上空から巨大な影が降ってきた。その姿は鳥型ダーカーの中型種、デコル・マリューダにそっくりだった。

身体の1/3はあるだろう巨大な爪をオキに振るい、ヒツギ達から離す。

「っち! 面倒くせぇな!」

その隙をついて、コオリはヒツギへと襲い掛かる。

アルを取り戻すために戦うことを決意したヒツギに呼応するように、より強力な具現武装「神剣・天叢雲」を顕現させることが出来たヒツギは、以前はできなかったコオリの大剣を初めて受け止めた。

「ふーん。強くなったんだぁ。やっぱりちゃんと刺しておけばよかったなぁ。」

虚ろな目でヒツギをみるコオリ。その目は元気で優しかったコオリの眼ではない。彼女がなにかしらされているのは明らかだとヒツギは確信した。

「あの時はまだ覚悟が無かった。誰かが助けてくれると甘えていた。だけど、今は必ず自分でアルを助けるって決めたんだ。たとえ、コオリでも…邪魔をするというなら、容赦はしない! だぁぁぁ!」

身の丈ほどもあるコオリの大剣をヒツギは押し返した。その姿をみたオキはクスリとほほ笑む。覚悟のできた彼女は、大丈夫だろうと。

「でも、強くなったからと言ってこの剣に勝てるわけがない。魔剣のすべての頂点である、この魔剣グラムに!!」

コオリの具現武装『魔剣グラム』。黒く、禍々しい装飾が施された大剣を再びヒツギに振るう。今度は本気で、重量をいかし、スピードをだしてヒツギに叩きつけようとした。

以前、ヒツギが刺された時。あの時は親友のコオリの豹変した姿に驚かされた。そして刺され、殺されかけた。

だけど今は違う。たとえ親友であろうとも、今まで道を導いてくれたマザーであろうとも、アルという大事な弟を助ける為に、必ず自分の力で取り戻す。そう決めたヒツギの眼はコオリの剣をとらえていた。

ガキン!

「!?」

「お願い…正気に戻って! それに、言ったよね。いくらコオリでも邪魔するなら、コオリでも容赦しないって!! 」

具現武装を振るい、コオリの魔剣に負けまいと刀を振るう。その直後、二人の間に一人の女性が割って入ってきた。

二人の剣を掌で受け止めたシンキ。いや、掌の表面ギリギリの空中で止まっている。なにかの障壁で受け止めているようだ。

「この戦い、私が預かる。」

「シンキ!? …あーそういう。 シンキ、殺すなよ。」

デコル・マリューダの幻想種は相変わらずオキを狙ってくるため、巻き込むわけにはいかない。邪魔になるからだ。

一応、釘は刺しておき、再びデコル・マリューダ幻想種と対峙する。

「なに…? あなたも私の邪魔をするわけ? だったら…一緒に切ってあげる!! この魔剣グラムで!」

コオリが巨大な剣を振るい、シンキへとその刃を向けた。シンキはそれを細い目で見つめゆっくりと空間より取り出した一本の剣で受け止めた。

「誰に向かって刃を向けている。狂犬。貴様のようなモノがその剣の名を口にするとは…分不相応だぞ。身の程を知れ。」

ガキン!

コオリの剣に対し一振り、剣を振るった。コオリはそれを受け止めるも具現武装は簡単にひびが入ってしまう。

「ヒビが!?」

「目にする事すら本来ならあり得ないことだが…。見せてやろう。本当の魔剣というモノを。」

シンキの持つ光り輝く一本の直剣。シンキの『蔵』内部に保存されている本物の『魔剣グラム』

コオリのもつ巨大で禍々しい色と形と違い、綺麗で美しく光り輝く直剣。派手な装飾などもついておらずシンプルな剣だが、少し離れたオキですら感じた漏れる力はあまりにも異様で重くのしかかってくる。シンキの宝物庫には宇宙の、数多の宝物がしまわれている。本来の魔剣グラムも収納されていてもおかしくはない。

そして、その本物が贋作でありかつ、人間が作り上げた想像上のモノを具現化させた程度のモノならば、その一振りで破壊される事は無理もない。

たった一振り。だがその一振りでひびの入ったコオリの剣は次第にヒビが大きくなっていき、完全に折れ、破壊された。

それと同時に膝から崩れ去れるコオリを駆け寄ったヒツギが受け止めた。

「コオリ!? コオリ!? しっかりして!」

「安心なさい。彼女にかけられた術はソレと同時に壊しておいたわ。先ほどの言葉、努々忘れる出ないぞ小娘。オキちゃんが態々助けたのだから、二度はないと思え。」

コクリと頷いたヒツギをみて、シンキは幻想種を倒し終わり、近寄ってきたオキにほほ笑んだ。

「ったく。いきなり出てきてびびったぜ。」

「言ったでしょう? 私も出るって。それにあんな贋作見せられたら、ねぇ。」

「お、おう。そうだな。」

暫くして、コオリは目が覚めた。ヒツギに謝りながら彼女は説明した。

ヒツギがアークスシップへ連れて行かれた日、マザーに連れられマザークラスタの幹部メンバーの場所へ連れられて行った。彼女はそのあとオフィエルに何かしらの催眠術のようなモノをかけられ意識はあるものの、指示を受けるようにされていたという。

そもそもヒツギが連れていかれ何が何だか分からなくなっていたコオリには当時の自分はヒツギを助ける事しか頭になかったようだ。しかし、ヒツギに剣を刺した時にそれが間違いだと気付く。だが、体はいう事を聞かずオフィエルの傀儡と化していたようだ。

魔剣もオフィエルの差し金らしい。彼の術によって具現化したと。

コオリはアークスシップの医療室へ送られた。

「相変わらず甘ちゃんねぇ。」

「別にいいだろ。それより、マザーが暴走状態になっているから、ダーカーの幻想種が抑えられていないと言っていたが。」

コオリはマザーが現在暴走状態になりつつあると言っていた。ダーカーの幻想種。アルを取り込んでから出せるようになったというが、制御がきいていないという。オフィエルは特に問題視していなかったようだが、アラトロンがかなり心配していたそうだ。

「ふん。そのまま自滅してしまえばいい。」

「まぁそういうなよシンキ。そうなってくれた方が楽だが、中にアルがいる。あいつはヒツギの弟でもあるが、よくよく考えるともう一人の俺の息子のような存在なんだからよ。助けてやんねーとな。」

現在の深遠なる闇。ダークファルス【仮面】である別世界のオキから生れ出たダークファルス。つまり息子のような存在。

ほおっておく気になれなくなる。

「オキちゃん。私ちょっと別の用事忘れてたわ。それじゃあね。」

「おう。いつでも動けるようにしといてくれ。近々乗りこむぞ。」

手を振りオキの背中を見送ったシンキは、ある人物から呼ばれていた。その連絡先である会議室の一室に向かうとマトイやクラリスクレイス、そしてユウキや圭子、和人までそろっていた。

「お呼びしてすみません。」

「ご相談があるんです。」

シンキは優しく微笑みながらある一つの答えを導き出しコクリと頷いた。

「ええ。話してみて。」

会議室のボードモニターには『SAO』という文字が書かれ浮かび上がっていた。




皆様ごきげんよう。
そろそろ終盤に差し掛かり終わりが見えてきました。長い長い物語もおしりが見えて完結させることができそうだと一息入れてます。
まぁまだまだアークスの戦いは続くんじゃが・・・。
さて、今回は短いですが最後に書かれた三文字のアルファベット。これは今作で重要な3文字です。最後にどう出てくるのか。お楽しみに。
では次回にまたお会い致しましょう。

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