SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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第139話 「月駆ける幻創の母」

マザーがダークファルスに飲み込まれ、ファルス・マザーへと変貌し、オキ達に襲い掛かってきた。

オキ達アークスメンバーは、ヒツギとエンガを後方にさげ、マトイに守ってもらう。そして、ファルス・マザーにはオキ達が退治する事になった。蒼白く光るファルス・マザーにエルデトロスを振り下ろすオキ。だが、その攻撃はファルス・マザーの胴体にあたる前に何かの障壁で防がれた。自分が放った力がそのまま反射して帰ってくるような感覚だ。

「くっそ、かってええ!」

「何かで防いでいるな。」

甲高い声で鳴いた後、ファルス。マザーは4つの巨大な手を具現化させてきた。

「【巨躯】の腕!?」

「腕ならば後方にコアがあるはずだ。それを攻撃する。」

アインスが素早く一本の腕の後方に回り込みコアを見つけ攻撃を開始した。

他の腕も似たような姿だ。だが、若干違う。そのうちの一本が上空高くにあがり、巨大な剣を模した。

「【敗者】の剣か…!」

忘れるはずがない。形は【敗者】が手にしていた剣そのものだ。また、別の手からは玩具型のダーカーが顔を出す。

「コレ、今までのダークファルスの記憶を持ってるみたいね。」

ハヤマの目の前に出てきたのは玩具型ダーカーは【双子】の眷属だ。つまり、【深遠なる闇】に吸収されたダークファルスの能力を持っている事になる。

それをしってオキは口を歪ませ笑った。

「っは! だったら負ける心配はねーな! 一度でも勝った相手の攻撃を出してくれるんだ。おら、はやまんその腕で最後だぜ。」

「おおおお!!」

ハヤマが4本のうち、のこっていた最後の腕を左右に振ったサクラエンドで斬り、破壊した。腕に集合していたエーテルがその場に拡散、その効力かファルス・マザーがその場に崩れる。

『ファルス・マザーの障壁消滅確認! いまなら攻撃が通ります! 胸元にみえるコアを叩いてください! そこに力が集中しています! 間違いなく弱点です!』

シエラの解析に、ここぞとばかりにアークス達は攻撃を各々放つ。ファルス・マザーの胸元に付いた巨大コアはまだ健在なれど、オキ達の手には手ごたえがあった。このまま続ければ間違いなく倒せるはずだ。

ファルス・マザーは再び腕を具現化。さらにフィールド横いっぱいに巨大な扉を横一列にして並べてきた。

「なんだあれは。」

「げ! 縦回転しながらこっち向かってきたぞ!」

「うけとめれねーかな。」

念のため、身体の防御をとことん硬くするマッシブハンターを使用し、オキがエルデトロスを振り上げ、向かってくる扉に攻撃を当てようとしたが、ファルス・マザーの胴体と同等に障壁で守られており攻撃が通らず反射する。もちろんそのままオキは扉に吹き飛ばされてしまった。

「デスヨネー! チッショー!」

「オキ!?」

それぞれが縦回転する扉をタイミングよく潜り抜け、吹き飛ばされたオキの元にマトイが走り寄った。

「もう。無茶しすぎだよ。…レスタ!」

「いやはや。マッシブハンター使ってなかったら死んでたわ。サンキュ、マトイちゃん。」

マトイの回復テクニック、レスタでオキは傷を回復したとき、腕と腕の横回転振り回し攻撃を防いだアインスとハヤマだが、防御ごと体を大きく吹き飛ばされ、オキの近くまで飛んできた。

「ちいぃ…力だけはあるね。」

「っち、めんどくせぇな。一気にカタぁつけるぞ。」

「ふむ。ならばこちらも…パワーで行くとしよう。」

現在、各自が対【深遠なる闇】に向けて新たなる技、技術、能力を開発している。アインスもその一人だ。

その力を試すなら、今がちょうどいいだろう。

刀を右手で持ち上げ、床と水平に。刃は上を向かせ左手で背に添える。アインスの『突』攻撃の構えだ。だがその攻撃はただの突きではない。フォトンと彼の内に秘める四天の力を刃の先端にのみ集め、捨て身の覚悟で敵に近づき、一気に放出する。シンキとの対決後に考案した技の一つだ。

『あの時を、思い出せ…。』

シンキの『エア』が放ったアレを斬った感覚。それをいつの時でも出せれば。そう思い考案した技だ。

ただ、この技を放つ場合自らの身体を守るものは一つもない。その欠点を補う為、オキ達が援護する。

「援護するよ、隊長!」

「マトイちゃん! 支援お願い! シンキ! 逃げられねぇように『鎖』準備しとけ!」

「了解。」

「まかせて! シフタ! デバンド!」

オキとハヤマは左右に分かれ、アインスが突き進まんとする道を作るために目の前の障害を排除する。

マトイはアインスの後ろに立って、邪魔にならないよう支援テクニックで彼の力を増幅した。

シンキはじっとファルス・マザーを睨み付け、いつでも何が起きてもいいように、指示された通り『鎖』の準備を行った。

「行くぞ…。」

構えはそのままに、ゆっくりと目を開けたアインスは足の裏に力を入れ踏み込む。一歩進むごとにスピードが増す。

「すすめ…進め…! オオオォォォ!!」

滅多の事では叫ばないアインスだが、この時だけはオキ達のなかで一番うるさいコマチにも負けないほどの怒号を放ちながら突き進む。

左右に分かれたオキとハヤマは向かってきた腕を迎え撃つ。

「さっきと同じなら!」

「これで、本体が倒れるはずだ。」

態々こちらに向かってくる腕を迎え撃ち、それぞれが腕を破壊した。これにより再びエーテルが拡散。本体はその場に崩れる。

猛スピードで突っ込んだアインスの障害は一切ない。まっすぐにファルス・マザーのコアへと突っ込んだ。

地面を揺るがすほどの勢いと、耳を塞ぎたくなるほどの巨大な衝突音。その衝撃はファルス・マザーの背中側まで飛び出す。

「…む。」

アインスが唸った。ファルス・マザーのコアはまだ健在だ。胴体に穴は開いたものの、コアの硬さに軌道がずらされたのだ。

だが、それでも胴体にでかでかと丸い穴が貫いている。ファルス・マザーもただでは済まんではいまい。

『ファルス・マザーが力をためています! そこから逃げるつもりです!』

シエラの通信に、アインスが一言一人の女性につぶやきを入れながらその場にオロチアギトを杖代わりに言い放った。

「後は任せたぜ。シンキ。」

「任せなさい。この私の目の前から逃げおおせよう等、できぬことを教えてやろうぞ。」

瞳孔が縦に見開き、口元を大きくゆがませ笑うシンキは空間より出した『天の鎖』でその空間から逃げようとするファルス・マザーの身体をがっちりとからめ捕った。

「さぁ、オキちゃん。」

「ああ。マトイちゃん!」

「うん!」

シンキが止めている間に、ダークファルスの力だけを吸い取り、浄化する。その為に、オキとマトイはファルス・マザーへと走り始める。

再び具現化された2本の腕がオキとマトイを狙ってくるが、片方はハヤマに防がれ、片方はシンキの『星の財宝』で串刺しにされた。

「いっけえええええ!」

ハヤマの叫び声に後押しされ、ファルス・マザーの前に立った二人はダークファルスの力を一緒に吸い取る。その瞬間、ファルス・マザーは硬直した。

「ヒツギ! 今がチャンスだ! お前の剣で、アルとマザーを分離しろ!!」

「やああああああ!」

待ち望んでいたチャンス。ヒツギの『全てを助けたい』という気持ちが力となった具現武装『天叢雲劍』。燃えるような真っ赤な刀身は光輝き、ファルス・マザーへとその刃を振り下ろした。

 

 

「まさか…これほどとは…。」

マザーの意識の中に入り込んだヒツギは、やっと自分の弟を見つけ出した。ここまでの事になるとは思ってもいなかったマザーは素直に彼女を賞賛した。

「よくぞここまでたどり着いた。アルよ、良き姉を持ったな。」

こくりと頷いたアルはヒツギにも微笑んだ。

「見事なものだ。八坂火継。融合体を、アルを救ってみせたか。」

ゆっくりと目をつむったマザー。

「私を断て。その剣で。そうすれば、終わる。私の永遠の孤独も、すべてが、終わる。」

マザーは何かを悟った。そう、これこそがマザー自身の望みだったのだろう。

マザーは全てを覚悟し、火継の剣を受け入れようとした。

 

コン!

 

マザーの頭を何かが叩いた。マザーの頭に痛みが走り、頭を抱え、その痛みの原因をみた。

「なーに一人で勝手に解決しようとしてんだ。こちらと迷惑被ったんだ。勝手にサヨナラしようとしてんじゃねーよ。」

オキの拳がマザーの頭を叩いたのだ。

「痛いぞ…オキ。」

「当たり前だ。痛いように殴ったんだから。てめーにはまだやってもらわないといけねーことがあるんだ。勝手に消えようなんざ許さねーぞ。」

マザーを睨みつけるオキに対し、火継がマザーへと近づいた。

「ねぇ、一つ聞いていい? どうしてひとりぼっちの人ばかりをマザークラスタに誘ったの?」

火継を始め、コオリやオークゥにフル。ハギトも浮いていた。ベトールもそうだったのだろう。みなが一人だった。

「その方が、依存関係を作りやすい。合理的な判断に過ぎない。」

「何言ってんだ。わかりきったことだ。なぁ、マトイ。」

オキとともに一緒にマザーの意識の中へと入ってきていたマトイがマザーに近づいた。

「寂しかった、そうだよね?」

マトイの言葉に、マザーは目を見開いた。

「私が…寂しかった…?」

オキとマトイは知っている。彼女の元になった原初の星『シオン』。彼女も寂しかったから…。

「さぁ行こう。マザー。お前にはやってもらわなきゃならないことがあると言ったはずだ。待っている奴らもいる。そんな奴らを、一人にしておく気か?」

オキと、マトイと、ヒツギと、アルと。マザーは手を伸ばした4人に微笑みながら理解した。自分は寂しかったのだろうと。復讐とは名ばかりで、本当は認めて欲しかった。一人にしないで欲しかった。長い孤独を経て、得た子『地球』は家族であったと…。

 

 

「よく、よく戻ってきた! 本当にやりやがったんだな!」

「お兄ちゃん!」

戻ってきたオキ達。アルはエンガに走りより抱きついた。

「よくやった! さすが俺の弟だ! この!」

「えへへ。ただいま!」

はしゃぐエンガやコオリ達を微笑みながら見つめるマザー。少し離れた場所ではアークスたちが同じくしてそれを見守っていた。

「八坂火継…。ありがとう。私は…。」

マザーが礼を言った直後。オキはその不穏な意思を彼女の後ろに感じ取った。

「マザー! 後ろ!」

だが、その言葉も間に合わず。マザーの小さなお腹からは一本の剣が貫いていた。

「…っ!?」

「ご苦労様でした、マザー。あなたの役目はここで終わりです。」

その場に崩れるマザー。その後ろにいた者は意外な人物だった。

「アー…デム。なんでここに。」

エンガが小さく聞く。アースガイド局長、アーデム。そしてマザークラスタの使徒であるオフィエルがそこに立っていた。

 




皆様、ごきげんよう。
忙しい毎日にスランプ気味となってしまった数週間でした。
2週間のおやすみ申し訳ない。
ようやくマザー編が終了。EP4も最後の章に入りそうです。最後に出てきたアーデム。そしてアークスランキング気持ち悪さトップクラスのオフィエルの登場ですね。

さて、次回はそんなアーデムにあるネタを仕込みます。ミケ、登場!
簡単に逃げれると思うなよアーデム。
では次回にまたお会い致しましょう。

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