SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

148 / 151
第144話 「特異点なるモノ」

強力なエーテルにより出現した巨大大陸。そのど真ん中に高々と生え空を覆った巨木ユグドラシル。その天辺で繰り広げられている神話に匹敵する戦いは熾烈に繰り広げられていた。

「神に牙剥く者の力は、この程度ではあるまい!」

扇状に広がった大地を揺らし、茨の波が左右から押し寄せてくる。

「にゃははは! たーのしー!」

その茨の波の上で波乗りするミケをみて肩の力が抜けたメンバー各位はいつもどおりの意思と力加減で戦いに挑んだ。

巨体となり多数の龍の頭を下げて出てきた地球意識、デウスエスカ。

金色に光るその体は風を切り、龍の首は戦うアークス達へと怒涛の勢いで襲いかかった。

「だああああ!」

ハヤマの叫び声と共に振り下ろされた黄土色の刀身は、その錆びた金属とは裏腹に鋭さを増し、巨大な頭を真横から真っ二つに叩き斬る。

その隣では余裕の顔を見せつつも、睨みつける眼はひと睨みされれば普通ならその場で固まり動けなくなる程の眼力で本体をジッと見るシンキ。

オキは突っ込んでくる龍の首と戦いつつも周囲の状況を観測し、マトイへ適度に支援をその場へ送る指示を出してアインスやコマチ達を支援する。

アークス達の攻撃は怒涛の勢いを増し、残っていた龍の首は次第に崩れ始め茨となり崩れ落ちていった。

「新たなる創造の為の、贄となるがいい!」

デウスエスカはアークス達の強さを再認識し、エーテルを手に持つ巨剣へ貯めていく。

その力は大地を破り、海を切る。かつて天地創造を行ったとされる力はアーデムを依代とし顕現していても根源は健在だった。

「あれは防げん! 左右に別れろ!」

アインスの声と同時に半円に広がった地面の中心を起点に左右へと別れるアークス達。その直後に巨大な力で振り下ろされた巨剣は大樹ユグドラシルを真っ二つにした。

「っち。」

細目で舌打ちをしたクロノスは後ろにいるヒツギエンガに飛んできた余波が当たらないよう白く輝く翼で前方を塞ぐ。

「きゃぁ!」

「うお!?」

余波は宙に浮いて3人を襲い、クロノスが防いでいるとはいえ強風を生んだ。

「そんな心配そうな顔をしない。」

化け物相手に平然と戦うオキ達を前に、心配そうな顔をするヒツギにクロノスが言い放った。強風は翼の一振りでそよ風となり、銀色に輝くショートカットの髪をなびかせ見下ろすクロノスは戦い続けるオキ達を見守った。

その横顔を覗いたヒツギはクールな顔で、戦う仲間たちを信じているクロノスを見て自分も信じなければと改めて思った。

クロノスの白と琥珀色のオッドアイに映り戦う仲間たちを見て相手の勝機が一切ないことを認識する。

仮にも神。その力は腐っても神格を持つ地球意識。普通の人が戦えばその力は圧倒的な強さを持って襲いかかりひとたまりも無く消滅させられるだろう。

だが、相手しているのは星々を砕き、喰らうダーカー達と毎日死闘を繰り広げてきた歴戦の戦士となったアークス達。更には他の宇宙空間より来た根源に匹敵する存在の魔神、シンキ。その懐に潜ませる力は主の力と同格、いやそれ以上にもなる可能性を秘めるナニカを所持している何処かの次元より来たるミケ。本人はもう自覚しているのか、それともまだ忘れているのか。かつては世界の中心として燃え盛る火をその身に受け、その役目を全うし神々ですらなす術なくひれ伏した存在コマチ。人として、持てる力を信じ、仲間を信じ、一つの宇宙をその腕で救って来た男アインス。

『正直敵同士じゃ無くてよかったよマスター。』

心の中では口をへの字にし、その集まりは特異点と言われてもおかしくない力を持っている事に恐れすら感じるクロノス。

地面を真っ二つに分け、左右に散ったアークス達は再び生えて来た龍の頭と対峙していた。

「頭が高い。ひれ伏せ。」

シンキに鎌首をあげる龍に対し、上空高く飛んだシンキはエルダーペインを振り下ろし、その重さと力の勢いで地面まで貫き、更に振られた剣の勢いで龍の頭は切り下ろされ崖の下に落ちていく。

オキとマトイを目掛けて口からブレスを吐いた龍の頭。左右に分かれそれを避けた二人は同時に龍に頭へと攻撃を仕掛ける。

「でぇりゃ!」

「やああ!」

エルデトロスの斬撃、そしてらラ・グランツのレーザーが龍の頭を崩す。

「今だ。斬れ。」

「だああああ!」

重い龍の頭の突進攻撃をその拳で受け止め、逆にはじき返したコマチは後ろから走って来たハヤマにバトンタッチする。コマチの背中を駆け上がり、首の一本を飛び上がったハヤマの握る刀が輪切りにした。

両腕で握りしめたオロチアギトを高々と振り上げ、たった一振りの斬撃を突っ込んで来た龍の頭に真正面から叩き込まれた。その斬撃は甲高い音と共に、龍の頭を縦に走り、一本の首を2本に増やし、そのまま崖の下へと叩き落とした。

「ふん、同じ龍の頭を持ってこの程度か。奴ならこの程度弾いたぞ。後は任せたよ、ミケ君。」

キンと音を立てて鞘に刀身を入れたアインスはかつて宇宙を放浪する旅の中で出会い、その身で戦った飛龍。紺色と朱色の鱗を纏った身体に頭部に生えた一本の鋭い角、剣のように鋭い翼で飛び回り強力な竜巻でアインスを困らせた奴。

当時を思い出しながら背の方にいるであろうミケに次の手を託した。龍の首を叩き落とされ、切り倒され、エーテルが拡散したデウスエスカは呻き声と共に、その場に仰け反った。その本体の上を走る小さな奴が一人、いや一匹いた。

「ふははははは!」

いつの間にか龍の頭を伝って本体へと移り、まるで自分の遊び場のようにデウスエスカの体の上を走り回っていたミケはデウスエスカの胸に光り輝く大きな玉、コアを目指していた。

「さぁ貴様の罪を数えるのだー!」

身に纏うローブの下から数多の短剣を繰り出し、コアへと投げるミケ。一体どこにその量が入っていたぼだろうかと思うほどの量の短剣は雨あられとコアに突き刺さる。

「ミケちゃん、これ使いなさい。」

シンキの後方に浮かんだ金色に輝く波紋より飛び出した一本の白く光る剣。

勢いよくミケへと飛んだその剣を空中で掴み、体を回転させてコアに叩きつけた。

バキンとガラスの割れる音が周囲に鳴り響いた。

「やったか!?」

「それだめなパターン!」

オキのセリフにハヤマがツッコミを入れる。ハヤマの言葉通りに体勢を立て直したデウスエスカは周囲に拡散したエーテルを自らの持つ巨剣に集中させ始めた。

「コアの周囲の障壁を割っただけに過ぎないわね。でもこれであいつのコアを殴れるわ。さぁいくわよオキちゃん、マトイちゃん。」

片側一方の大地に集まったメンバー全員はその力の放たれる瞬間を待った。どのように避けるか、防ぐか。それをイメージしながら。

しかし放たれたのは、はるか上空だった。

『月が…! 今の攻撃で月が半壊しました! 破片が…地球に!!!』

オキは片目でシエラから送られてきた映像をちらりとみた。デウスエスカがたった今放った一撃は月を破壊し、その破片が地球に降り注ごうと迫っている。

この破片が地球に降り注げばただじゃ済まないだろう。

「一気にぶっ倒して、破片を何とかするぞ!」

『破片が地球に到達するまで時間がありません! 対応可能時間を逆算して、あと5分で倒しちゃってください!』

シエラの要求は普通なら無茶な要求だろう。しかしオキたちならやってのけると信じての要求だ。

正直言えば、シンキが本気になればこの程度一撃で屠れるだろう。だがその力は地球にも降りかかるし、なにより本人が使いたがらないのは間違いない。

ならば、自分たちでやるしか方法はない。

マトイやハヤマ達と目で合図したオキは向かってくる本体の攻撃を避け、胸に露出したコアを目指し、真正面からぶつかりあった。




みなさまごきげんよう。
コミケが先週終わり、そして始まるコミケイベント(FGO)。その他ソシャゲでもコミケをベースにした夏イベントが開催されており、コミケが終わったらコミケが始まったという意味のわからない毎日を送ってます。
さて長く続いた(続いてしまった)デウスエスカ戦も次回で完結します。
…ごめんなさい私のせいですね。本当は1話で終わらせるはずが筆の乗らなさとネタのイメージができなかったことでイベントに逃げてました(言い訳)
長い夏も終わり、来週から本格的に完結に向けて書いていきます。
では次回にお会い致しましょう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。