僕は、一心不乱に逃げた。
一人じゃあんなモンスター倒せっこない。
「はぁはぁ。もう、来てない?」
洞窟から出た頃にはあのモンスターはもう追いかけてきていなかった。
しかし、外は風が強くなっている。
寒風が頬に当たると、身を切られるような痛みが走る。
ホットドリンクの効果が消えちゃったのかな?
「もう一本飲もう…………って!?あれ!?」
ポーチをくまなく探した。だか、ホットドリンクは…………
「ない!ない、ない、ない!!」
そうだ!さっき逃げるときに落としちゃったのか!!
どうしよう……………今、ポーチの中には………
「砥石と、回復薬。それと、鬼人薬。」
せめて、ホットドリンクがあれば、あいつを倒してクエストをこなせるのに。
空を見上げたが、雪雲のせいで綺麗な月も見えなくなっていた。
そして、雪は次第に強さを増していく。すでに指の感覚がない。
洞窟の中なら、寒さを防げるのに…………あのモンスターのせいで…………くそっ!
そうだ!僕の能力を使って、あのモンスターを洞窟の外に引きずり出せば!そうだ!これでいこう!
僕は再び洞窟の中に入る。頭上に注意しながら奥へ奥へと進んでいく。
「おっ…………発見発見~。」
天井に張り付いているあのモンスターを見つけた。
よく見ると背中に無数の棘がある。
まぁ、それはいいとして…………何を見してあげようか。
僕の能力は、目を欺く能力。
相手に、僕が頭の中で強く思った物を見せることができる。ただし、僕の能力は規模か小さいから。僕にしか反映できないんだよね。
とりあえず、あいつは火には弱そうだからリオレイアとかリオレウス辺りがいいかな。
静かに目を閉じる。そして、リオレウスを頭の中で思い出す。
「…………欺く。」
呟いて目を開く。これであのモンスターには、僕がリオレウスに見えているはずだ。
横にあった大きな氷の壁を見てみるとそこには、シンタロー君と、キドと、僕で倒した紅い体のリオレウスが映っていた。
「ふふふ~ん♪バッチリ、バッチリ~♪」
さぁて、やってみますかね~っと。
奴にゆっくりと近づく。
すると、あいつは足音に気づいたのか、回りを警戒し始めた。
「グググ……………グッ!?」
あいつは僕に気づいたのか人のような驚き方をした。
ちょっと、遊んであげよっかな~。
「グガァァァァァッッッ!!!」
リオレウスの咆哮を真似てみる。
「ググッ…………グッ!」
するとやつは天井を伝って出口へ逃げていった。
「ぷっ!ぷはははっ!バカだなぁ!ぷっ!」
笑いが止まらない。モンスターにも怖いって感情があるんだね~♪
「さてと、あいつが戻ってくる前にクエストを完了させないとね~♪」
能力を解除してさっきギィギがいた場所へ向かう。
洞窟の中と言っても、やはり寒い。風が無い分まだましだね。
「ギィ?」
そんなことを考えているうちにギィギを発見した。
「ふふ~ん♪さっさと終わらせちゃうね~♪」
「ギィ!ギィッ!」
ギィギは僕の血を吸おうと飛びかかってきた。
バシュンッ!
そのギィギの体は真っ二つに切断され、僕を通り越して飛んでいった。
僕が双剣を取り出して構えてるだけで向こうから来てくれるんだもんね~♪
二つに切断された体を持ち上げて瓶の中にあの液体を入れる。
「う~んと、これで全部かな?」
後はこれを納品するだけ。
それで全部終わるんだ。
でも、僕は知らなかった。これから始まる悲劇を……………
「っ!」
「…………グググ」
気づいたときにはもう遅かった。
天井ではなく、背後から迫るモンスター。
手足が震えて身動きが出来ない。
振り向くと、アイツは僕を睨んでいた。
こうなったら戦うしかない。覚悟を決めないと
『逃げちゃいなよ。怖いんでしょ?』
「っ!?誰だ!?」
頭の中に響く声。この声は…………僕?
「グググ!」
『逃げなよ。』
気づくと僕は走っていた。もう一人の自分の声を頼って。
しかし、あのモンスターもずっと追いかけてくる。
僕を捕食するつもりなんだ。やっぱり、戦わないと………
『弱い君に何ができるのかなぁ?戦っても食べられることに代わりはないんじゃないのかなぁ?』
「…………………。」
思い出した。こいつ、嘘つきの僕だ。
独りが嫌で、嘘をついてみんなの気を引いていた僕だ。
『どうしちゃったのかな?言い返せない?』
僕は、何とかあのモンスターを撒いて、たまたま見つけた大きな氷の壁の後ろに隠れた。
「…………はぁはぁ。」
『逃げ切れたでしょ?戦ってたら死んでたよ?』
でも、逃げ切れたのはたまたま見つけた大きな氷の壁があったからだ。もし、この壁が無かったら僕は死んでいた。
『さぁて、君は次に何をするのかな?』
「…………。」
こいつとは、話したくない。
また、嘘つきになってしまうかもしれないから。
今は、みんながいる。メカクシ団のみんな。そうだよ。姉ちゃんだって帰ってきた。今はもう、嘘なんて必要ないよ。
『君がなにを考えてるのか知らないけどさぁ、みんなは君のことどう思ってるかなぁ?』
「っ!どういう………意味だよ……」
目の前に幻覚の僕が現れる。今の僕とは違ってフードを深く被っていて顔がよく見えない。
『だから、キドやセトそれにメカクシ団のみんなは君のことをなんとも思ってないってことだよ。君も本当は気づいてるんじゃないのかな?』
「そんなことないっ!!」
僕は拳を硬い地面に叩きつける。
『どうしちゃったのかなぁ?いきなり怒ったりなんかしちゃってさぁ。大体、君はみんなのことをどう思ってるのかなぁ?友達?知り合い?それとも………………』
もう一人の僕が僕を睨む。その目は赤く赤く光っていた。
『他人?』
『他人』という言葉だけが洞窟、いや、僕の脳内を駆け巡る。
「そんなこと………ない………」
僕がそんなことを思ってるわけない。
『ほ~ら、嘘をついて無いって、また嘘ついたじゃん。ほんとに君はバカだなぁ。』
わざとらしく僕に背を向けて両手を大きく横へ………そして、くるりとこちらを向いてニヤリと笑う。
『ほら、君の本音を聞かせてよ。』
もう一人の自分は涙を流している。
「…………僕…には………」
『ハッキリ言ってよ!!』
僕まで泣きそうだ。こんな寒いところで泣いちゃったら…………涙が凍っちゃうのかな…………
嘘つきの僕に…………なにより、自分に………言わなきゃいけないのに、言えてなかったこと………………
僕は立ち上がって、もう一人の僕を見つめる。
息を大きく吸い込む。冷たい空気が肺に充満する。
「僕には、みんながいるんだ。他人じゃない!ただの友達なんかじゃない!!…………今の僕にとっては!!」
『………………。』
もう一度大きく息を吸い込んだ。
「大事な…………大好きな家族なんだよっ!!」
氷の壁に反響して何度も言葉が響いている。
『やっと………』
「え?」
もう一人の僕はフードをゆっくりと外した。
目から赤い色が抜けている。
『やっと、言えたじゃないか。待ってたんだ……………その言葉。ありがとうな。これで……………俺の役目は終わり…………』
言い終わった直後に、もう一人の僕の体がブロック体の光になって消えていく。
「……………。」
気づくと、涙が溢れていた。
僕は嘘つきな自分が嫌いだったハズなのに…………なんで、涙なんか…………
『泣くなよ。お前にはもう、家族がいるだろ?なら、僕は必要ない。』
「………嘘をつくなよっ!!」
もう一人の僕は驚いたような顔をした。
『何をいって…………』
「お前は僕なんだろ!?なら、ずっといろよ!!嘘をついても良いから!!一緒にいろよ!!」
僕は、何をいってるんだろ…………
涙のあとがヒリヒリしてきた。凍土の寒さのせいだ。頭もボォーッとしてきた。
『…………っ!?』
目を開くと、僕はもう一人の僕に抱きついていた。
体温は感じない………。でも、確かにそこにいる。
不思議な感覚だった。この寒さで、頭がどうかしてしまったのだろうか。
「いてくれるよね………?僕の中に…………。」
『…………分かった。』
もう一人の僕の姿はスッと、僕に吸い込まれていった。
_____そんな気がしたんだ。
「さてと、そろそろ帰らないとね。」
体が悴んでいて動きにくい。
さっさと、納品を終わらせないとね。
あのモンスターに会わないようにしないと…………。
結構奥まで来ちゃってるから、時間かかっちゃうかもね。
僕は、凍てついたこの洞窟から出ることにした…………