目の前であのモンスターは眠っていた。
「……………」
息を殺して近づいていく。
あのモンスターを討伐せずに納品を終わらすこともできる。でも、それをしてしまうとここまで追い詰めたのにもったいなく思えてくる。
「………………」
いよいよ、近くまで来ると足が震えてしまう。ただし、今は凍土の寒さのせいと言うことにする。
「グガァ………」
「う………」
あのモンスターは少し目を開いたが、こちらには気づけなかったようだ。
「あ、危なかったぁ………」
さてと、何に化けてアイツを倒そっか………
う~ん………仕方ないね。アレしかないもんね……
静かに目を閉じてあの存在を頭に浮かべる
「目を………欺く」
目の奥が熱くなり始める。
いきよいよく目を開くと、赤い目の光が氷に反射、屈折して色々なところに当たる。
そして、僕はアイツの目の前まで近寄って顔を…………思いきり蹴りあげた
バギッ
「グググッ!!!」
その瞬間にアイツの牙は真っ二つに折れた。
「グッ………ググググッッッッ!!!!!」
アイツは辺りを警戒し始める。そして、僕を発見して後ろへ後退する。
しかし、視界に映っているのは僕じゃない。アイツが恐れるはずの生き物。そして、僕が恐がっていたもの。
___自分だ。
「グガァ………グググ………」
「グガァ………グググ………」
生物が自分を怖がるのは思いもよらぬ行動を自分がしてしまったとき。そして、自分で自分を傷つけてしまったとき…………
僕は、双剣を取り出して構える。
あのモンスターには、自分が攻撃の体勢に入ったように見えているのだ。
僕は思いきりジャンプして落下しつつ双剣を下へ向ける。数秒でその刃先はアイツの脳天へと突き刺さる。
血飛沫が銀色の地面を赤く染め上げていく。
僕はその刃を抜き取るために、アイツの頭を蹴って後方へと飛び降りる。アイツにとっては自分が自分を攻撃のしているとしか認識できないんだ。
___だから、恐れる。
「グガァァァァァァァッッッッ!!!!!!!!」
アイツは僕を攻撃する余裕もなくその地面へ崩れる。
僕はその隙を逃さなかった。
ズバッ!!
崩れたままで暴れていたアイツの腹へ刃を突き立てる。
そして、間髪いれずに引き裂いた。
「ググ………グ……」
アイツは暴れることも止めている。しかし、その両目は僕を………僕だけを見ていた。
アイツは、息絶えてもなおその目で僕を見ていた。
僕は、そのモンスターの剥ぎ取りを終えた。
それにしても………寒い。
「はぁ………はぁ…………」
意識が朦朧としてくる。感覚がおかしくなってきたのだろうか。寒さも徐々に感じなくなってくる。
___気がつくと僕は倒れていた。
真っ白だ。あのときとは正反対の世界。
夜は不思議だったけど、白い世界って言うのも不思議だ。
僕は知っていたんだ。あのモンスターを倒さずに納品へ向かっても………もう、助からないってことを。どちらにせよこの寒さで僕は………
だから、最後にあのモンスターを倒したんだ。なにが、もったいなく思えてくる。だよ。最後まで嘘ついちゃってるじゃないか。
「………………」
いよいよ。ひとつの言葉だけが頭の中をぐるぐると回り始める
「みんな…………ごめ」
「ごめんじゃないでしょ。ほら、一緒に帰ろ」
「っ!?」
その声は優しくて暖かい___
___姉ちゃんの声だった。