Fate/in UK   作:ニコ・トスカーニ

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お久しぶりです。
二回で終わりのつもりでしたが中編。
中弛みしてなきゃいいんですが・・・


深淵

 真冬の乾燥した空気を受け止めながら歩みを進める。

 プラハの観光業における書き入れ時は夏だ。

 真冬のチェコは寒く、乾燥した空気が吹き込んでいる。

 

 フラスコ画で名高い聖ミクラーシュ協会を右に折れ、ペスト終焉を記念して建てられたマラーストラナ広場の聖三位一体柱を突っ切る。

 

 この先はプラハ城に続く坂道だ。

 若く壮健なグレイが鼻歌交じりで登り、それに続いて普段からワークアウトをしている私が。

 遅れて運動不足なウェイバーが登ってくる。

 

 急勾配の石段を上がると、プラハ城に至るセキュリティーエリアが見えた。

 

 私はささやかながら武装している。

 ウェイバーも恐らく何か隠し持っているだろうし、グレイの礼装「アッド」も普通に考えれば金属探知機に引っかかるだろう。

 もちろん裏口は用意している。

 

 私は警備の警察官に目的の人物名を告げた。

 やや不審な目で見られたが警察官が無線で誰かに連絡を取ると通された。

 

 「ありがとう(ジェクユヴァーム)」 

 

 礼を言い、プラハ城敷地内に足を踏み入れる。

 

 プラハ城と呼ばれるエリアは巨大な複合施設だ。

 9世紀から14世紀に渡って様々な増築が行われ、政治機能のみならず王侯貴族から下々の仕え人に至るまでの生活環境が併合されている。

 ――訂正、王侯貴族から下々の仕え人、()()()()()()()()()()()()()が併合されている。

 

 時の王、ルドルフ二世は魔術師を保護した。

 故に、ここプラハ城には魔術師たちの園がある。

 

 「荘厳」の一言に尽きる聖ヴィート聖堂、旧王宮、聖イジー教会を通り過ぎる。

 それら観光のマストスポットには目もくれず、たった一つのポイントを目指す。

 

 聖イジー教会から東に向かい、数分。

 目的のエリアへのゲートが見えた。

 

 ゲートの職員に、セキュリティの警察官に述べた名前と同じ名前を述べる。

 今度はあっさりと通された。

 

 この先はささやかな小道になっている。

 ゲートを通ったその先、ここは中世そのもの……中世の魔術そのものが息づいている。

 

 鮮やかな色合いの低層建築がならぶ小路、通称「黄金小路」。

 

 16世紀の末に出来たこのエリアは元々、召使たちの生活空間だったが、後に錬金術師たちがこぞって工房を構えるようになった。

 「黄金小路」という呼び名はそれに由来する。

 

 そう、ここはこのプラハという街の錬金術の歴史そのものだ。

 そして、ここにはそれを脈々と受け継ぐ語り手がいる。

 

 一軒の家の門をくぐる。

 

こんにちは(ドブリーデン)

 

 小さな家の中は、さながらテーマパークの一画と言った様相だった。

 古ぼけたテーブルの上に所狭しと道具が並べられている。

 

 先客のいかにも家族連れ観光客と言った風情の4人組が興味深そうに写真を撮っている。

 

 多くの人からすれば、これが中世のいかがわしさを再現した博物館のようなものに見えるだろう。

 だが、見る人間が見ればわかる。

 彼女の脇にある独特の形状をしたフラスコは「哲学者の卵」と呼ばれる水晶製の特別な品であり、錬金術師以外が用いることは決してない。

 

 そのいかがわしさを全開にした机に一人の女性が座っている。

 金髪でくっきりとした目と鼻を持つ彼女の名はマリア・ブラーエ。

 ティコ・ブラーエの遠い子孫と伝わる本物の錬金術師だ。

 若い女に見えるが実際は80歳を過ぎた老婆で、プラハの錬金術の歴史を伝える生きた博物館のような存在だ。

 今は観光客の相手がメインだが、錬金術師としての因子は受け継いでいる。

 名前こそ出ていないが、プラハ城の程近くにある錬金術師博物館の監修も務めている。

 

「やあ、アンドリュー。それに……貴方は時計塔のロードだね。ようこそ、神秘漂う百塔の街へ」

 

 マリアは我々と握手を交すと、4人組の観光客が出て行ったのを見計らい表のドアを閉めて

「休憩中」看板をドアノブに吊るした。

 

「さあ、これからは秘匿された神秘の時間だ。何を聞きたい?」

 

  〇

 

 我々は二階に上げられた。

 二階は観光客の来訪を想定した一階と違い魔術的な必然性に満ちていた。

 道具の数が少なくなり、書物の数が増している。

 

 魔術の本質とは「知り」「分析する」ことにある。

 特に錬金術はその要素が強い。

 

 魔術的素養が乏しいグレイはフードの下でポカンとして佇み、ウェイバーはそれらをじっくりとした視線で検めていた。

 

錬金霊液(エリクサー)に挑戦中と言ったところか?マダム」

 

 ここにきて始めた彼が口を開いた。

 マリアの表情には驚きが浮かんでいた。

 

「実験道具の脇に錬丹術の本。これだけ見れば教養のある人間は誰でもわかる」 

 

 それを聞いたマリアはニヤリと笑った。

 

「さすがは知力でロードまで登った方だ。知識だけなら私も負けるかもね。

それで……例の吸血する何者かについて聞きたいんだろ?」

 

 その先を私が引き取った。

 

「ああ。そうだ。吸血された側が軽傷のみだった以上、真祖でも死徒でもないはずだ。

だから余計に解らない」

 

 彼女は答えた。

 

「21世紀現在のプラハは観光地、いわばここは魔術の博物館みたいなものだ。平和なものだよ。

今じゃまともな錬金術師は私だけ。面倒な観光客がたまにいる程度で、穏やかなものだ」

 

 ウェイバーが口を開いた。

 

「マダム。この街には三つの洗練された魔術体系があるはずだ。

錬金術とユダヤの魔術、そして人形遣い。

私は今回の一件は錬金術とは縁の薄い存在と考えている。他の二つはどうなのだ?」

 

 彼女は短い黙考の後に答えた。

 

「いるよ。その二つを体現したような存在がね……」

 

 我々は身を固くして言葉の続きを待った。

 

「魔術師なんてのは土台奇怪な生き物だけど、奴は……あの一族はとびきりだった。

ユダヤの魔術家系でも特殊な一族で、人形にも精を出してた。

朽ちない、老いない完ぺきな生き物を作るってね」

 

 どうやらその術師の存在が解のようだ。

 

「それがいつからか、正確な時期はわからないが当主の姿を全く見なくなった。

噂じゃアトラス院の一員になったとか、その末に彷徨海に潜ったとか言うがまったくの謎だ

一つ確かなのは……」

 

 ウェイバーがその後を引き取った。

 

「その人物が全くの完全にこのプラハから気配を消したということか?」

「その通りだ」

「そしてこの街で物騒な振る舞いをしそうなのはその人物しか思い当たらない?」

「その通りだ」

「その人物の名前は分かるか?あるいは知っていそうな人間は?」

「わからない」

 

 彼女は一度息を吸い、吐いて続けた。

 

「確か少し前の映画にいいセリフがあったね。

『悪魔が繰り出した最高の芸当は、自分が存在しないのだと全世界に思い込ませたことだ』

……だったか?」

 

 彼女の目には微かな怯えが見えた。

 

「あの術師はまさにそれだ。存在を隠すことで神秘の最奥に迫ろうとしていた。

神秘の秘匿は魔術の基本だがあそこまで突き詰めた存在は他に知らない。

私ですら名前も知らないんだからね。

知ってるのはユダヤにルーツがあって、人形に造詣が深いってことだけだ。

それ以上は分からないし、敢えて踏み込まないようにしていた。

あれは深淵そのものだ。覗き込むには覗き返される覚悟をしなきゃならない」 

 




またしてもプラハ観光案内みたいに・・・
次回完結です。少々お待ちを。
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