Fate/in UK   作:ニコ・トスカーニ

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お久しぶりです。
今回は番外編。
本編は2006年から2007年頃を舞台にしていますが、今回は2017年の末頃が舞台です。
短いですがどうぞ。


番外編
有り得た未来


 ※Fate/Grand Order 第1部のネタバレが一部含まれています。

 

 自分でも意外なことだが、私は雇われ者となった。

 雇われ者となって一つ所に留まることになった。

 名目はアドバイザー。

 魔術にも通じた戦闘指南役である。

 

 フィニス・カルデア。

 ここは地球最大の大陸にしてどこの国でもない場所――南極大陸の標高6,000メートルの雪山の地下に作られた地下工房で、地球環境モデル「カルデアス」を観測することによって未来の人類社会の存続を世界に保障する人理継続保障機関だ。

 その存在意義を根底から覆す事象が発生した。

 2016年以降の人類史が観測できない、すなわち2016年の人類滅亡が証明されたのだ。

 

 私は今後発生の可能性がある武力衝突に備え、アドバイザーとしてカルデアに招かれた。

 魔術の使い手で戦闘経験が豊富なものなら他にもいたはずだが、どうやらウラにロード・エルメロイ二世の推挙があったらしい。

 アニムスフィア家の当主が彼と既知の仲であることも関係しているのだろう。

 

 当初は一年の契約で2015年が終わり次第、泣いても笑ってもお役御免のはずだった。

 

 2015年。

 

 契約期間が終盤に近付いたころ、大事件が発生した。

 カルデアは多くの職員を失った。

 私に臨時職員として契約延長になった。

 

 期間は人理焼却の解決まで。

 解決にはレイシフトして七つの特異点を修正しなければならない。

 

 レイシフトには稀有な特性が必要であり、その適正は私には無かった。

 

 生き残った中でその適正を持つ者はただ一人だった。

 藤丸立香(ふじまるりつか)という日本人の少年だった。

 

 彼は数合わせの「素人」だった。

 貧弱な魔術回路を突然変異で持った一般家庭の出身者で、人理消却のことなど知るはずものなかった。

 カルデアの事も英霊召喚システムのことも、あまつさえ魔術の事すらまるで無知だった。

 おまけに当初、戦力と言えるのは真名も明らかでない英霊と融合したデミサーヴァントの少女マシュ・キリエライトだけだった。

 

 だが彼は偉業を成し遂げた。

 彼は折れない心の持ち主だった。

 それはどんなに優秀な魔術回路よりもずっと価値のあるものだ。

 

 日本の血が流れ、日本語を解する私は早い段階から彼と友好な関係を築いていた。

 彼は「アンディさん」と私に親しげに呼びかけ、よく他愛のない話をした。

 私の存在が多少なりとも彼のストレス解消になっていたのならば幸いだと心から思う。

 

 特異点の修正と共に召喚されるサーヴァントの数も増えていった。

 サーヴァントと契約し、信頼を結ぶのはマスターの責だ。

 私には魔術回路も十分な魔術の心得も戦闘経験あるがレイシフト適性が無い以上、その責を負うことができない。

 それでも人員不足という致命的な問題がある以上、サーヴァントたちと言の葉を交わすことは多かった。

 

 その経験は驚きの連続だった。

 ジークフリートとカルナは逸話からは想像もつかないような腰の低い人物だった。

 シャーロック・ホームズ、モリアーティ教授、ヘンリー・ジキル、モンテ・クリスト伯爵、フランケンシュタインのクリーチャーは創作上の存在だと思っていたがどうやらそう単純な問題では無いようだ。

 アーサー王、アッティラ・ザ・フン、皇帝ネロは女性だった。

 

 それら以上に驚きだったのが、召喚サークルから知っている顔が現れた時だ。

 メソポタミア神話の女神イシュタルは「波長の合う少女」を依り代に現界したがその顔は間違いなく遠坂凛のものだった。

 インド神話の女神パールヴァティーは同じような理屈で召喚されたが、その顔は間桐桜のものだった。 

 南米神話のジャガーマンも依り代によって現界していたが、どう見ても仮装した藤村大河だった。

 

 幸いにしてか不幸にしてか彼女たちは依り代の記憶を引き継いでいなかった。

 

 だが、ロード・エルメロイ二世(諸葛孔明の力を譲り受けた彼だが)と両儀式が現れたときは互いに顔を見合わせしばし無言になった。

 私は自分が特別な星の元に生まれたと思ったことは一度も無いが、自分の人生は思いのほか数奇な物のようだ。

 

 英霊は縁によって召喚に応じることがあるという。

 

 カルデアに召喚された英霊の多くは藤丸立香という少年が特異点で繋いだ縁によるものだが、「私の知っている彼ら」が召喚された「縁」は私がカルデアにいることに関係があったのかもしれない。

 

 なので召喚サークルから「彼」が現れた時、その事態を私は自然と受け入れていた。

 

「サーヴァント、アーチャー。召喚に応じ参上した」

 

 白髪に浅黒い肌の弓兵。

 抑止力に使役される無銘の英霊。

 

 「エミヤシロウ」というその真名は多くの人にとって何の意味も持たないが――

私にとって「衛宮士郎」は大事な友人の名だ。

 

「やあ、久しぶりだね」

 

 私は声に出さず、彼に再会の挨拶を述べた。

 

 彼は鉄面皮を心掛けていたが、その申し訳なさそうな眼差しは私の知る彼のものだった。

 

  〇

 

 時は流れ、2017年の末。

 カルデアは新所長の就任が発表され、着任の日を間近に迎えていた。

 着任の日は臨時職員である私にとっても査問を受ける日であり、落ち着かない気分だった。

 何よりも立香という少年の処遇が心配だった。

 彼が悪しきように扱われないといいが。

 

 また、年末の新所長着任に向け全サーヴァントが退去することになっていた。

 サーヴァントは存在そのものが奇跡のような代物だ。

 大変な2年間だったが私にとってこの2年は宝物だった。

 

 査問が無事に済んだら、私はまたヤクザな何でも屋の魔術使いに戻ることにしていた。

 人生に絶対は無いがまた英霊召喚に立ち会うようなことはまず無いだろう。

 

 この機会にやらなければならないことがある。 

 

  〇

 

 深夜。

 健康優良児のマスター藤丸立香が眠りにつく頃。

 私は施設内の長い廊下を歩いていた。

 

 もとより完全な夜型人間だった私は人理焼却危機時の激務でますますの夜行性になっていた。

 ソロモンの神殿から立香とマシュが帰還して以降、この時間帯は食堂に寝酒を探しに行く時間になっていたが、今日は別の目的があった。

 

  〇

 

「アンタか」

 

 食堂の厨房に向かうといつものように彼の姿があった。

 明日の朝食の準備をしているようだ。

 

 私の知る衛宮士郎は家事全般を得意にしていたが、英霊となった未来(いま)の彼もそうだ。

 むしろ更なる進歩を見せていた。

 食堂の厨房には料理の特異な英霊が交代で入っていたが特に頻度が高いのが彼だった。

 

「今夜も寝酒か?アルコールは合法的な嗜好品だが毎晩飲むのは感心しないな。今は立派な中年なのだから、体をいたわるためにも休肝日をつくったらどうだ。ホットミルクなら催眠効果が期待できるが」

 

 彼は親しみを込めた呆れ顔で言った。

 私はとびきりの苦笑い浮かべて、隠しておいたとっておきのマッカラン21年ファインオークを取り出した。

 

「今夜は多めに見てくれないか?寝酒ではなく、君と酒が飲みたいんだ」

 

  〇

 

 私は彼と、彼お手製のスモークオイスターをツマミにマッカラのオンザロックを酌み交わした。

 

「退去はいつになるんだ?」

 

 旨いオイスターと美味いシングルモルトを口に運びながら私は聞いた。

 

「ギリギリまで残るつもりだ。厨房に立って欲しいという要望が後を絶たなくてね」

 

 肩をすくめた彼は少し嬉しそうに見えた。

 

 ここでの日々はあまりに忙しなく、彼としっかり腰を落ち着けて話をする機会がなかった。

 

 当然の結果として昔話に花が咲いた。

 酒を飲みながら昔話ができる相手がいるのは良いことだと心から思った。

 

 ひとしきり昔話を終えたころ。

 大分アルコールも回り、口が軽くなってきた。

 良い頃合いだ。

 

 彼が英霊になるまでの足跡はなんとなく聞いていた。

理想を追い続けた末に裏切られて処刑され、その後、抑止力の守護者になった。

 

 彼は詳細を語らなかったし私も追及する気はなかった。

 だが、言わなければいけないことがあった。

 

「君が歩んだ足跡はエミヤシロウという人物が歩む可能性の一つ、ということで合っているか?」

「その通りだ」

 

 グラスの中で、溶けた氷がカランと鳴った。

 

「……そうか。では、君の人生に於ける僕は君の助けになれなかったんだな。すまなかった」

 

 彼は小さく息を吐いて苦笑した。

 

「アンタは悪くない。オレが誤った選択をしただけだ」

 

 私の知る衛宮士郎は常にモヤモヤした何かを抱えている印象があった。

 

 今の彼は迷いのない明るさがある。

 間違い続けた末に彼はようやく答えに至ったのだろう。

 死んだ後に間違いに気づける。

 そういう奇跡もあるのだ。

 

「『この戦いもじき終わるかと思うといささか寂しい』

君はリツカにそう言っていたそうだね」

 

 彼は私を見た。

 

「君は抑止力の守護者、この戦いを終わらせることが優先課題のはずだ。

戦いの終結に寂しさを感じるなど抑止の代行者としてはありえない。

つまり『寂しい』と思うのは抑止の代行者ではない君自身の気持ちだ。

――君は変われたんだな。いつも自分のことが人数に入っていない君が」

 

 私はほぼ一息に言い切り、スコッチに口を付けた。

 この液体は時に人を無駄に饒舌にさせる。

 余計なことも言わせるが、時にその饒舌さが必要なことがある。 

 

「あの夜、アンタに言われたこと……」

 

 彼は絞るように答えた。

 

「死んでからようやく理解したよ」

 

 あの夜。私と英霊エミヤ――士郎と私が初めて会った夜だ。

 彼は覚えていたのだ。

 

 私は努めて軽く答えた。

 

「そうだな。折角良いことを言ったのに台無しだ」

 

 食堂は静かだった。

 彼と凛の住んでいたウエストミンスターのフラットも静かで心地の良い空間だった。

 

「だがな、アンタにも責任はあるぞ」

「そうか?」

 

 彼は本日二度目の苦笑を浮かべた。

 

「そうだ。伝え方が悪すぎる。『ハギスは不味いから食うな』は無いだろう」

 

 私は釣られて苦笑した。

 

「中年というのは回りくどいものなのさ」

 

 グラスの中で溶けた氷と琥珀色の液体が渦を巻いている。

 私は近くここを去るということに、初めて感慨を感じていた。

 




ということでFGOがらみの完全番外編でした。
思いついてしまい書いてしまいました。
気分を害された方がいたらごめんなさい。

ちなみに、ほぼ私事ですが、私が脚本・制作で参加した映画が単館上映ですが商業作品として上映されることが決まりました。このfate/in UKシリーズは9割がた私が書いていますが、監督は何話か書いてくれてる共同執筆者です。
東京・池袋の劇場で5月11日から5月17まで限定でレイトショー上映されます。

公式サイト
https://sorekara.wixsite.com/nov19

映画.comにも情報載りました
https://eiga.com/movie/90916/

filmarksにも情報載りました
https://filmarks.com/movies/83376

また、ちょっと忙しくなりますがそう遠くないうちに投稿しますので引き続きよろしくお願いします。
次回はオマケレベルの短編の予定です。
では、また。
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