Fate/in UK   作:ニコ・トスカーニ

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すいません。今回はオリキャラしか出てこないです。


生業

「ここよ」

 

 エミリーの運転するルノーがたどり着いたのはハムステッドの瀟洒な豪邸だった。

 

 魔術回路を全開にし、探索を始める。

 

「エミリー、お手柄だ。ここで間違いない」

 

×××××

 

 首都警察の刑事、エミリー・オースティンは

 ロンドン北部で起きる子供ばかりを狙った不可解な連続誘拐事件を捜査していた。

 誘拐犯からの要求はなく、ただ子供が親元から消失、しかも人通りの多い昼日中に

 消えるという事件の奇怪さに不審を感じ、彼女は私に協力を依頼していた。

 

 このロンドンは街中に監視カメラが設置されている。

 そんなロンドンで目撃者もなく子供が消えるなどただ事であるはずがない。

 

 私は彼女の案内で事件現場を回った。

 はたしてそこには、魔術を行使した痕跡が微かに残されていた。

 

 私は万屋の魔術使いだ。

 万屋業務の一環として、首都警察とシティ警察の非公式な

 consultant detective<顧問探偵>を務めている。

 

 いわば魔術のシャーロック・ホームズだ。

 貧弱ながらも魔術回路を持つエミリー・オースティン刑事は首都警察の窓口だ。

 

 エミリーは私に話を持ちこむ前に刑事の目線で独自に調査に着手しており、

 不可解な誘拐事件の発生した箇所を点でつなぐと円になるという簡潔な事実を

 私に示していた。

 その円の中心部がこのハムステッドだった。

 

「ここだ」

 

 私が地図でロンドン北部のこのエリアを指すと彼女は言った。

 

「単純すぎない?」

 

「単純でいいんだよ。エミリー。

相手は典型的な魔術師の思考の持ち主だ。

犯行に使ったのは認識阻害に暗示。

痕跡など魔術で隠せばいいという典型的魔術師の思考が犯行から読み取れる」

 

「ホシの目的は何だと思う?」

 

「これだけ材料がそろっていれば自ずと答えは出る。

代償を用いて魔力を生成する類いの魔術だろうね。

子供ばかりを狙うのは魔力の材料に『鮮度』が必要だからだ」

 

 私は当たりをつけたハムステッドの住宅街に、エミリーに空いた時間を使って、

 張り込みを頼んだ。

 

「すまないが、所要で数日南アフリカに行く必要がある。

これを君に渡しておこう」

 

 私は彼女に、糸でつるした球状の物体に針がついたオブジェを渡した。

 

「これは?」

「フーチ。簡易的な魔力探知機だ。君の貧弱な魔術回路でも機能する」

 

 フーチは香港時代の数少ない思い出の品だ。

 既に没落し、魔術回路もほとんど失った父が教えてくれた数少ない魔術。

 微弱な魔力の持ち主でも機能する。

 

 相手もそれなりの魔術師だ。

 魔術師相手の対策ぐらいはしているだろう。

 だが、反応できる魔力には閾値がある。

 おそらく、エミリーのような微弱な魔力な持ち主が近づいても

 脅威に感じないどころか探知すらできないだろう。

 

「了解。じゃあ、あなたの指定したエリアでこれが反応する場所を探せばいいのね?」

「その通りだ。反応が出たら、場所だけ記憶してすぐにその場を離れろ。

相手はおそらく大した敵じゃないが、君では手に余る」

 

 そして1度ロンドンを離れた私は、別件と並行して収集した情報をもとに敵の正体を

 探った。

 魔術師という奴は神秘の秘匿にはやたらと五月蠅いくせに法の順守とプライバシー

 の保護には恐ろしく鈍感だ。

 

 高度に情報化された現代社会に生きる人間がそれでいいのかと不安になってくる。

 

 敵の正体はかなり早くに割れた。

 ナサニエル・コーエン。

 パッとしない魔術家系の跡取りだが、アフリカのダイヤモンド鉱山で一発当てた

 コーエン家は、金に飽かせた魔術の研究をしている。

 

 コーエンの一族は穏健的な人物が多いと聞いていたが、

 最近家督を受け継いだナサニエルは過去に例を見ないほどの野心家だという噂を

 耳にした。

 外道な行いを辞さずに、魔術師としての名を上げようとしても不思議ではない。

 

 しかし、阿呆だ。

 材料を調達するのならば資金力に任せて遠方から調達すればいいのに。

 こういう魔術師的思考は全く理解不能だ。

 

 だからこそ私のような輩に良いようにやられるのだ。

 

 更に調べを進めると、幸いにして攻撃魔術はあまり得意ではないらしい。

 私はケープタウンから戻る道すがら作戦をシュミレートし、備えていた。

 

×××××

 

「で、私はどうすればいい?」

 

 私に「お手柄だ」と称賛を受けたエミリーが言った。

 

「ここで待っていてくれ。

すぐにカタをつける」

 

 私は自分の持ち物を再確認し、作戦を頭の中で反芻した。

 私がほどなく動き出すと、エミリーがエスプリの効いた一言で送り出してくれた。

 

「Bon Voyage<良い旅を>」

 

 魔術回路を開き、身体能力を強化した私は、素早くコンポジションC4をドアに

 仕掛けた。

 どうせとっくに私の存在は探知されている。

 そんなことは想定済みだ。

 

 必要なのは速攻。

 表から堂々と入って一気にカタをつける。

 典型的な魔術師相手には一番効果のある作戦だと経験から学んでいる。

 

 信管を設置したC4が爆風を上げ、ドアを吹き飛ばす。

 

 私はオフサイドラインを一気に飛び出しゴールに迫るティエリ・アンリのごとく

 邸宅に突入した。

 

「ゴーレムか」

 

 私という歓迎されない来客を迎えたのはコーエンが生成した使い魔の群れだった。

 

 私はヒップホルスターから愛用のH&K USPを引き抜くと、

 ロングマガジンに装填した魔術で強化済みの9mmパラベラム弾を掃射した。

 入念に強化を施した銃弾は効果覿面だった。

 次々と使い魔たちを土くれへと戻していく。

 

 キース・リチャーズのギターのごとく轟音を奏でる弾丸のロックンロールをBGMに

 魔力を探知する。

 上階奥から強い魔力。

 そこが工房か。

 

 2階まで一気に駆け上がり、奥の部屋のドアを全力で蹴破る。

 ドアが開いた瞬間、魔術を起動させようとする人影が視界に飛び込んできた。

 

 が、もう遅い。

 魔術の発動よりも私のトリガーの一押しの方が早い。

 

 銃口から放たれた9mmパラベラム弾はその人物の膝を的確にブチ抜いた。

 激痛に男は体制を崩す。

 私は一気に駆け寄ると、男の動きを封じ至近距離で銃口を向けた。

 

「ナサニエル・コーエンだな?」

 

「誰だ、お前は?」

 

 男は憎々しくそう言った。

 コーエンに注意を向けつつ、周囲を見渡す。

 捕えられた子供たちが巨大な試験管のようなオブジェの中に納まっていた。

 どうやら私は間に合ったらしい。

 

「君のようなゲス野郎を地獄に送る死神だ」

「どういう意味だ?協会の執行者か?」

「自惚れるなよ。君のような3流に魔術協会が興味を示すわけがないだろう」

「では、何だ?賞金稼ぎか?誰に雇われている?

まあ、落ち着け。お前も魔術師ならばここは等価交換といこうじゃないか?

私を捕えればいくら貰えるんだ?その倍額払ってやる」

「子供たちをさらったことに関して弁明しなくていいのか?」

 

コーエンは訳が分からない、という眼で私を見た。

 

「何を言ってる?魔力が足りないなら余所から持ってくる。

等価交換は魔術の原則だ。お前も魔術師ならわかるだろう?」

 

 ――やれやれだ。

 

「一緒にするなよ。このゲス野郎」

 

 そう言うと、私は乾いた発砲音を轟かせた。

 

×××××

 

 外に出ると、エミリーはリラックスしきった様子で紫煙を燻らせていた。

 それだけ私の仕事ぶりを信用しているいうことなのだろうが、

 友人ならば少しぐらい心配する様子も見せてほしい。

 

「コーエンは?」

「奥でノビてるよ。空砲で撃ったら音で失神した。

自分の屁で飛び上がるようなとんだ小心者だ。

魔力を封じたうえで拘束しておいた。

あとは好きにしてくれ。誘拐の証拠も十分にそろってる」

「オーケー。ありがとう。アンドリュー」

「気にするな。善良なる市民の義務だ」

 

 私は愛飲しているリッチモンドに火をつけ、現場を後にした。




次回は原作のあの2人が再登場します。
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