Fate/in UK   作:ニコ・トスカーニ

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間が開いてしまいました。
新エピソードです。
とんでもないチートキャラが出てきます。苦手な方はブラウザバックしてください。


過去からの使者
変形


 セント・メリルボーン教会。

 ロンドンにおける名所のひとつであり、所在地であるメイルボーンには

こじんまりとしてはいるが個性的なショップが立ち並んでいる。

 

 その正面入り口の前にグレーヴィーソースのような血だまりがあり、

1人の若い男がつっぷして倒れていた。

 神の家の前に堂々とこんなものを遺棄するとは。神の裁きのつもりだろうか。

 

「ハイ、アンドリュー」

 

 5フィート4インチ程の小柄な体格で金髪に碧眼の若い女性が私に話しかけた。

 

「やあ、ソフィー。エミリーはどうした?」

「別件で手一杯で。今日は私が」

 

 彼女はソフィー・エヴァンズ。ある特殊な要因によって魔術回路を得た魔術使いの刑事だ。

 普段はとある人物と首都警察の連絡役を担っているが、時折私を手伝うことがある。

 

「ガイシャはギャレス・ダルトン。21歳。通行人が発見して通報。

死亡推定時刻は午前2時ごろ」

 

 そう淡々と説明するするソフィーの横で私は遺体を検めた。

 

「どう見てもGSR<銃創>だな」

「そう。賢いあなたの言う通り。直接の死因は銃撃で動脈を傷つけられたことによる失血死」

「神秘を微塵も感じさせない事件だな」

「ところがこの先が問題。ガイシャからは微弱だけど魔力を探知。このガイシャ、魔術回路がある」

「それで僕の出番という事か」

「それ以上に、この遺体の状態が妙で」

「妙とは?」

「銃弾は1発。ガイシャの胸部を貫通し、近くの地面に着弾。

空薬莢も弾丸もホシが持ち去ったみたいだけど、恐らく凶器は大口径のライフル弾」

「それで?」

「撃たれたのは一発だけど、このガイシャは全身から出血してる」

「君の所見は?」

「自分でも解析してみたんだけど、何か妙で」

「妙とは?」

「見ればわかる」

 

 ソフィーは私のいつもの相棒であるエミリー・オースティンに比べると魔術師としてはかなり優秀だ。

 ある程度の解析も自分でこなせる。その彼女が妙というからには尋常ならざる事態が起きているのだろう。

 私は遺体の前にかがみこむと解析を始めた。

 

「何だこれは?」

 

×××××

 

「何なのこれ?」

 

 私は自分の解析結果が信じられず、友人であり優秀な魔術師である遠坂凛を呼び出していた。

 彼女は運よく手隙で、すぐに駆けつけてくれた。

 しかし、解析した彼女もまた困惑し私と同じ感想を述べた。

 彼女は少し考え込むと言った。

 

 

「アンドリュー。あなたはどう思う?」

「魔術回路があり得ない形になっている。まるで子供が粘土遊びでもしたかのような歪な形だ

こんな形はありえない。君はどう思う」

「私も同感。こんなのありえないわ」

 

 凛は極めて優秀な魔術師だ。彼女よりも魔術に長けた存在はこのロンドンにもそうはいない。

 そしてこの異常な状況。この状況の異常さは私に、とても気の進まない人物に連絡を取らせることを促した。

 

「奴に聞いてみるしかないか」

 

 隣のソフィーは意味が分かったらしく言った。

 

「アンドリュー。彼に会いに行くつもり?」

「止むをえまい」

 

 凛は当然我々の会話に見当がつかないらしく疑問を呈した。

 

「誰なの?」

「サマセット・クロウリーだ」

 

 彼女は私が出した名前を一度反芻すると大きく目を見開き驚きとともに言った。

 

「サマセット・クロウリー?実在するの!?」

「ああ、紛れもない実在の人物だ。戸籍もあるし、恐らく税金も払っている」

 

 ソフィーが言った。

 

「わかった。じゃあ、私から連絡しておく」

「君は同行してくれないのか?」

「ごめん。ここを離れるわけにはいかないから」

 

×××××

 

 私と凛はメイフェアの高級住宅街に居た。

 その中でも一層豪奢な造りの邸宅。そこに目的の人物はいる。

 

 呼び鈴を鳴らすと、この家の執事が迎えに来た。

 まるでヴィクトリア女王の時代に時間が止まってしまったような古風な物腰と出で立ちの初老の男性だった。

 

 客間に通されるとほどなくして目的の人物が現れた。

 短くまとめられた豊かな黒髪に翡翠色の瞳。

 6フィートのほっそりとした体躯に長い手足と小さな頭が奇蹟的なバランスで収まっている。

 既に30歳は過ぎているはずだが黒々とした髪は艶やかで白い肌は皺ひとつなく、翡翠色の瞳は宝玉のような輝きを放っている。

 

 私がこの人物、サマセット・クロウリーに初めて会った時、彼はまだ10代だった。

 その時の印象は「この世にこれほど美しい生き物が存在するのか」だったがその印象は現在も変わらない。

 仮にドリアン・グレイが実体を持ったらこのような肉体を得るのではないだろうかと思えるほどだ。

 凛は顕現したその美しい姿に見とれていた。

 初対面なら老若男女だれでもその反応を示すのは当然だ。

 

 クロウリーは我々の姿を認めると、芝居がかった調子で言った。

 

「やあ。アンドリュー・マクナイト。我が友人にしてお気に入りの道化。

そして君はミス・トオサカ・リンだね?」

「ええ、そうです。クロウリーさん」

「初めまして。僕はサマセット・クロウリー。君たち若い魔術師の間では都市伝説と思われているそうだが。

実際はつまらぬ世の中に飽いたハーレクインだ」

「今のはユーモアなのか?」

「紛れもなくユーモアだ。君の豆粒のような脳みそでは理解できないだろうがね」

 

 そう言うとクロウリーはキューガーデンでも散策するかのような優雅な足取りで歩きよって来た。

 そして、凛の正面2フィートほどまでの距離に近づくと彼女の姿を再び検めて言った。

 

「ふむ。微かにだがトキオミ氏の面影があるな」

「父をご存じなんですか?クロウリーさん」

「ああ、実に退屈な男だった。

あまりの退屈さに彼を作りたもうた全能の造物主を呪いたくなったほどだ。

第4次聖杯戦争で鬼籍に入ったと聞いているが、

この世から余計なスペースが空いたことに喜ばしさを感じたぐらいだ」

 

 凛はあまりの発言にしばし呆然とした後、悔しさに歯噛みを始めた。

 当然だ。初対面の相手に実の父のことをそんな風に言われて悔しくないはずがない。

 私は抗議の声を挙げようとしたが、それを制して彼女が言った。

 

「それは、生前の父が大変失礼しました。

父の粗相は現当主である私の責任。

どうかお許しください」

「……ほう」

 

 クロウリーはそう感嘆の声をあげた。

 

「君は魅力的なレディだな。あのような退屈な人物がこれほど魅力的な忘れ形見を残しているとは。

面白い」

 

 そう言うクロウリーの顔にはいつものような人を見下したニヤケ面が張り付いていた。

 

 サマセット・クロウリーという人物を一言で評するとそれは「怪物」だ。

 その言葉が唯一彼にふさわしく、それ以外の言葉はふさわしくない。

 

 侯爵の爵位を持つ名門ドラモント家の末裔の母と、アレイスター・クロウリーの血縁者の父を持つ由緒正しい血統の持ち主。

 彼の家系は優秀な魔術師を幾人も生み出していたが、その中でもサマセット・クロウリーは5大元素に架空の2元素を加えた7元素を操る桁の違う天才として早くから名を馳せた。

 

 不良学生だった私が彼と知己を得たのは意外なことに向こうからの働きかけだった。

 

 ある日、私がいつものように時計塔の中庭で惰眠をむさぼっているとクロウリーが近づいて来た。

 

「君は僕に媚びを売らないんだな」

 

 クロウリーは名門中の名門の出身だ。そういう人物に媚びをうっておくのは全うな魔術師なら悪い判断ではない。

 だが、私はヤクザな魔術使いだ。

 

「売ったらいい仕事を貰えるのか?それなら喜んで靴の裏でも舐めるさ」

 

 私がそう素っ気なく言うと彼は言った。

 

「面白い」

「君こそ僕のようなヤクザな魔術使いと交流してどうする?

僕は魔法の成就や根源の渦には無縁な存在だぞ」

「そんなのは問題ではない。僕も全く興味がない。

そもそも根源とはこの世の真理なんだろう?こんな退屈な世の中だ。その真理だって退屈に決まっている。

血眼になって到達しようとする者の気がしれないね」

 

 こうして私とクロウリーは交流を持つようになった。

 それは決して友好的は言い切れないものだが、現在も続いている。

 

 私が時計塔に籍を置くようになったころ。

 先んじて時計塔に在籍していたクロウリーは10代の若さですでに時計塔の講師陣を凌駕する能力を身に着けていた。

 彼は桁の違う能力と桁の違う破綻した人格を持ち合わせている。

 当然の帰結として、自分以外のすべてを侮蔑の対象とする歪んだ人物像が出来上がっていた。

 

 私の在学期間とクロウリーの在学期間が重なっていた時期は短い。

 だが、その短い間に見聞きしたサマセット・クロウリーという人物のエピソードはすべてが強烈だ。

 

 私がサブとして籍を置いていた降霊科でのことだ。

 当時、時計塔随一の講師だったケイネス・エルメロイ・アーチボルトはいつもの通り高慢な語り口で講義を行っていた。

 

 クロウリーはすべての学科に出入りすることを特別に許可されており、その日、気まぐれな彼は降霊の講義に姿を見せていた。

 お決まりに高慢な語り口の講義が進む中、クロウリーはこれ見よがしに欠伸をし続けていた。

 プライドの高いアーチボルトがそのような態度を看過できるはずがない。

 当然の結果としてアーチボルトは言った。

 

「私の話はそんなに退屈かね?クロウリー君」

「ええ、とても退屈です。アーチボルト先生。

あなたの退屈な人間性がよく反映されている。自分の足の裏の匂いでも嗅いでいた方がまだマシだ。

先生、退屈でない話とはこうやるものですよ」

 

 そう言うとクロウリーは壇上に上がり、それまでアーチボルトが講義していた血統と魔術の関係性についてアーチボルトの説明以上に

詳細でありながら簡潔な講義を披露して見せた。彼が話し終えると感嘆の拍手が起きるほどの完璧な講義だった。

 その間、クロウリーは見下したようなニヤケ面でアーチボルトを冷たく見つめ、アーチボルトは怒りに震えていた。

 

 その時のアーチボルトの反応が気に入ったらしく、彼は再びクロウリーの諧謔心を満たす犠牲になった。

 

 ほどなくして。クロウリーは人工の魔術回路を作り出し、まったく回路を持たない人間に無理なく移植するという

 異常な術式を完成させていた。

 

 クロウリーは造り出した極めて良質な人工の魔術回路を自分の召使いに移植すると

 自ら魔術の手ほどきをし、アーチボルトの工房に侵入させて彼の魔術礼装を盗み出させるというパフォーマンスをやってのけた。

 

 翌日、怒りに震えるアーチボルトに自ら礼装を返却しに行ったクロウリーはこう言ったそうだ。

 

「良いセキュリティー会社を紹介しましょうか?アーチボルト先生」

 

 そんな異常な魔術の存在を勿論、魔術協会が無視する筈がない。

 魔術としての価値が貴重というだけではない。 彼の魔術回路は1度に造る数こそ多くなかったが、1本の質が極めて高かった。

 つまり、クロウリーの気分一つで突然優秀な魔術師が生まれてしまうということだ。

 権力争いに明け暮れる名家の魔術師にとっては不快以外の何物でもなかった。

 

 そして、魔術協会が懸念した通りクロウリーは気の赴くままに術式を使った。

 ソフィー・エヴァンズ刑事はその哀れな犠牲者の一人だ。

 彼女は職務中に重傷を負い、近くを通りがかったクロウリーに助けられ、何の許可もなく魔術回路を埋め込まれた。

 聡明な彼女の事を気に入ったクロウリーはソフィーを強引に自分の相棒に指名し、気の向いた時だけ捜査に協力している。

 

 こういった出来事の当然の帰結としてサマセット・クロウリーは封印指定を受けた。

 執行を依頼されたのが当時最強の執行者と言われていた風宮和人だった。

 風宮は化け物じみた魔力と人間離れした身体能力をもち、神の血を引く系譜の出身でわずかながら神性も持ち合わせる規格外の存在だった。

 クロウリーは逃げも隠れもせず。邸宅で堂々と待ち構えていた。しかし風宮はクロウリーに指一本触れることが出来なかった。 

 

 風宮は現在、執行者を辞し、先祖代々の土地を守ることに専念している。

万屋として時折仕事を受け、知己である私は以前にその時のことを彼から聞いた。

 

「矛盾と言う言葉の意味を知っているか?」

「ああ。韓非が儒家批判のため持ち出したたとえ話だな」

「私が最強の矛。ミスター・クロウリーは最強の盾だ」

「それで」

「それだけだ。私と彼が争うことに何の意味もない」

 

 こうして切り札による執行に失敗した魔術協会はクロウリーはもはや自分たちの手に負えない存在であると判断し、

そもそもサマセット・クロウリーという人物は存在しないものとしてふるまうことを決めた。

 クロウリーは時計塔を放逐され、やがてその存在は都市伝説と同義になった。

 

 だが今も確固たる存在感を持って彼は存在している。

 

「大海の水を傾けてもこの血をきれいに洗い流せはしまい。

緑の大海原もたちまち朱に染まろう」

 

 クロウリーが気取った口調で突如言った。

 

「今の『マクベス』の引用には何の意味がある?」

「すでに使い魔を通して現場を見た。エリザベス朝演劇のような血まみれの舞台だったな。

それと、ソフィーはまた香水を変えたようだ。ロール・デュ・タンからクレール・ド・ラ・リューンにね」

 

 凛が不思議な表情で疑問を呈する。

 

「現場に使い魔の気配などありませんでしたが」

「当然だ。使い魔の多くは動物の亡骸を用いたものだが、僕の使い魔は精神エネルギーの一種でね。

魔力を発していないので探知が出来ない。また、クロウリーの家系の人間以外には知覚できないので

視認することも不可能だ。彼がどこからやって来たのかは誰も知らないが、僕ら一族は彼のことをエイワスと呼んでいる」

 

 今度は私が尋ねた。

 

「ガイシャは生前魔術師だったようだが、魔術回路があり得ない形をしていた。

君の意見を聞きたい」

 

 クロウリーは悠然として言った。

 

「まず、1つ。

ここに来たという事は、僕があみだした例の術式が使われた可能性を疑っているものと思うが

仮に僕の術式を盗み、誰かが流用したとしてもあんな歪な回路は生まれない」

「もう1つは」

「下手人は分からないが、関わった人間の名前ならわかる」

「誰なんだ。それは」

 

 彼の口から出たのは思いもよらない名前だった。

 

「エミヤキリツグだ」

 




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