本当にありがとうございます。
不定期更新1発目です。
いちど自作でこすったネタですがリメイクしたくなったので書いてみました。
3,4回で完結予定です。
では、どうぞよろしくお願いします。
使者
11月に入り、ロンドンは冷え込み始めていた。
オックスフォードストリートには気の早いクリスマスのイルミネーションが煌めき始めている。
私はストックホルムで仕事を終え、帰国するとその足でこのヨーロッパ最大のショッピングストリートに赴いていた。
クリスマスは家族で過ごすのがヨーロッパの流儀だが、私に家族はいない。
それでもクリスマスは楽しいものだという意識が文化レベルで染みついている。
ストックホルムの簡素な飾りつけに比べるとロンドンのクリスマスは華やかだ。
見ているだけで中々に楽しかった。
そう。今年はあの日本人の友人たちを誘ってささやかな祝杯でもあげようか。
それも悪くない。そう思った。
地下鉄に乗り、パディントンのエミールのホテルに向かう。
住居を持たない私のこの街での仮の我が家だ。
エミールのホテルは古臭く、薄汚れていて、観光客に人気がない。
そこがとても気に入っている。
ホテルはやはり古臭く、薄汚れていて、観光客らしき姿がなかった。
エミールはいつもの温顔とロシア語訛りの英語で私を迎えてくれた。
いつもの光景だ。
しかし、いつもと違うことがあった。
「アンドリュー。あんたにお客が来てる」
私に部屋のキーを渡しながらエミールが言った。
「客?」
「ああ、2人組の若いお嬢さんだ。いつもの部屋で待ってもらってるよ」
「そうか、
私がそう素直に礼を述べるとエミールは奇妙なサムズアップをした。
いつもと同じ粗末で埃っぽく狭い部屋に入る。
ピーター・クラウチが寝そべったらはみ出しそうなその狭い部屋に2人の女が立って私を待っていた。
女たちは両親にペアルックを強要された双子のようにまったく同じデザインの漆黒のドレスを着ていた。
2人とも眼は赤く、髪は銀色だった。
背格好も風貌も瓜二つだった。
彼女たちを隔てているのはただひとつ。髪の長さだけだった。
髪の長い方の女が恭しく古風なお辞儀をし、口を開いた。
「突然の訪問失礼いたします。ヘル・アンドリュー・マクナイトでいらっしゃいますね?」
「いかにも。そう言う君たちは……」
こういう風貌の人種を私は1種類しか知らない。
「……どう見てもホムンクルスだな」
またしても髪の長い女が言った。
「左様でございます。ヘル・マクナイト」
「君たちはどこのお使いだ?アインツベルン?ホーエンハイム?」
「後者の方です」
ホーエンハイム家は錬金術を得意とするオーストリアの魔術家系だ。
500年続く名門で、同じく錬金術を得意とするアインツベルン家の後塵を拝しているが、
戦闘用ホムンクルスに限定すれば、彼らの精製するホムンクルスはアインツベルン
より強力と言われている。
その特性を生かし、スイスの主産業が傭兵だった時代に多くの戦闘用ホムンクルスを傭兵として出荷して巨万の富を築いた。
現在はオーストリアに拠点を移している。
嘘か誠かあのパラケルスス直系の家系にあたると言われている。
「それで?この素敵なホテルをわざわざ訪問してきた理由は?」
私は部屋に1脚しかない椅子に腰かけて言った。
今度も長い髪の方の女が答えた。
「今日もロンドンは曇っていますね」というような事項の挨拶の類が一切ない模範的なほど事務的な回答だった。
「あなたに探し出していただきたい人物がいます。
可能な限り内密に」
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「というわけだ」
私はセント・ジョンズ・ウッドにある、衛宮士郎と遠坂凛のフラットを訪れていた。
理由は言うまでもない。彼らに協力してもらうためだ。
彼らは魔術師で、しかも信用できる人物だ。
そう言う人物を私はこの街に他に知らない。
「それで?」
私が事の次第を説明すると、難しい顔で考え込んでいた凛が口を開いた。
「シロウの手を借りたい。
ホーエンハイムの工房からホムンクルスを連れて失踪した魔術師だが、
僕の知る限り、ギュンター・フォン・ホーエンハイムは典型的な魔術師だ。
恐らく、高級ホテルなり高級フラットなりに結界を張って潜んでいるものと思う。
シロウは結界の探知が得意だっただろう。ぜひとも頼まれてほしい」
今度は私に指名を受けた当の本人、シロウが言った。
「どうしてあんたに依頼が来たんだ?」
「ジェラール・アントルモンという僕の知己でフランスの魔術使いが偶然にも、
パリ発ロンドン行きのユーロスターに乗る2人を目撃している。
ジェラールは顔の広い男でね。ギュンター・フォン・ホーエンハイムとも面識があり、本人の事を知っている。
『日がな一日工房に籠って研究をズリネタにマスカキしてそうな男がホムンクルスを連れて外出とは珍しい』
と方々で話して回り噂になった。
当のホーエンハイムは見間違えだと否定して回っているようだが、噂が広まったことで動きづらくなったらしくてね。
ロンドンを拠点にする寡黙で口が堅くとびきりハンサムな僕に探してほしいと依頼に来たわけだ。
どうだろう?報酬はもちろん払うし、助手をつけることをホーエンハイムの使者にも了解してもらっている」
考え込んでいた凛がまたしても口を開いた。
「ホーエンハイム家のホムンクルスって大抵が戦闘用でしょ?
見つけたとして乱暴なことにならない?」
うむ。彼女の懸念はもっともだ。
私が同行を依頼している衛宮士郎は無茶をするタイプだ。
士郎の愛しの人としてそのような事態を避けたいと考えるのは当然だろう。
「ホーエンハイムの使者の話では、そのホムンクルスは戦闘用ではないらしい。
そして、ギュンター・フォン・ホーエンハイムも典型的な学究肌の魔術師だ。
荒事にはならないと踏んでいる」
やはり凛は難しい顔をしている。
士郎の反応も芳しくない。
ふむ。それもそうか。以前に「荒事にはならないだろう」と言いながら荒事になってしまった苦い経験がある。
人は経験から学ぶ生き物だ。
ただ「報酬は払うので手伝ってほしい」ではイエスとは言わないか。
「ちなみに提示された報酬は1人5000ユーロだ。経費別でね」
凛は私の言葉を反芻すると、指折り暗算を始めた。
これで彼女は篭絡した。次は士郎だ。
「シロウ。君はアインツベルンのホムンクルスと因縁があったね?」
士郎の表情が悔恨に沈み「……ああ」と小さく呟いた。
「ギュンター・フォン・ホーエンハイムは典型的な魔術師だ。
その典型的な魔術師が人目を避けて工房からホムンクルスを連れ出した。
これが何を意味すると思う?」
士郎はしばしの黙考の後「さあ」とだけ答えた。
私は自分なりの推測を交えた回答を提示した。
「何をやろうとしているのかはわからないが、そのホムンクルスを使ってよほどイケないことをしようとしているのだろうな。
自分の家の工房ですらできないような類いのイケない研究を。
僕らが2人を見つければ当のホムンクルスはホーエンハイムの工房に連れ戻されることになるだろうが、
ホムンクルス当人にとっても恐らくその方がマシだろう」
士郎はまたしてもしばし逡巡したがやがて力強く答えた。
「わかった。あんたを手伝うよ。アンドリュー」
士郎と凛の了解を得た私は、その足でホーエンハイムの使者の元に向かった。
彼女たちはサヴォイホテルに滞在していた。
まったく。金持ちめ。
私はホーエンハイムの使者2人に士郎を紹介し、助手として同行させる許可を得た。
今度も髪の長い方が答え、短い方は一言も発さなかった。
礼儀として名前を聞いたが彼女たちは名前を名乗らなかったので(そもそも名前などないのかもしれない)
私は便宜上、髪の長い方を「アイン」、短い方を「ツヴァイ」と呼ぶことにした。
我ながらなかなかハイセンスなネーミングだ。
こうしてめでたく正式に依頼を受けた私は、この大都会のどこに居るともしれない2人――1人と1体と言った方がいいのかもしれない――
を探しに、ロンドンへと繰り出した。
「さあ、行こうか。グルミット」
私がそう、ウィットに富んだ言葉をかけると、士郎は困った顔をして言った。
「誰だそれ?」
「グルミットを知らない?」
「知らない」
グルミットの日本での知名度は低いらしい。
私は言った。
「グルミットはこの世で最も賢くてかわいい生き物だ」
「……人間じゃないのか?」
「ああ、グルミットはアニメに出てくるビーグル犬だ」
士郎は深く溜息をついて言った。
「あんた、一体どういう性格なんだ?あんたとは結構話したはずなのに未だによくわからないよ」
「それは残念だ。僕はそれなりに君のことを気に入っているんだがね」
自作の『magus hunter』でこすったネタですが誠心誠意こめてリメイクしました。
全くの別物になると自負しています。
どうか最後までお付き合いください。
ちなみに不定期更新になります。ごめんなさい。
次回は少々お待ちを。