Fate/in UK   作:ニコ・トスカーニ

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スイマセン。今回は短いです。
そして山場には程遠いです。
あと、文中のドイツ語はだいぶアヤシイです。



発見

 深夜。

 私と士郎はバーミンガムから戻ると、終電車の出発を待ちウエストミンスター駅に降り立った。

 ホームを降り、図面を頼りに廃棄された駅へと向かう。

 

「どうだ、シロウ?何か感じるか?」

「ああ、感じる。誰かが大きな結界を張ってる。間違いないよ、アンドリュー」

 

 私は手元のフーチを見た。フーチにも反応があった。

 

「シロウ、この先は魔術師の工房だ。君の戦闘能力から考えて万が一荒事になっても問題はないと思うが

十分に警戒してくれ」

「わかった」

「結界の起点はどの辺だ?」

「向こうだ」

 

 そう言って士郎は一点を指さした。

 図面を見ると廃棄された地下鉄の駅の方向を指していた。

 ホイルの推理は大当たりだったらしい。

 

「行こう。繰り返すが十分に気を付けてくれ」

 

 レンガ作りの地下道を更に進む。やがて、駅らしきオブジェクトが前方に微かに見えてきた。 

 目を凝らすとその先に、銀髪に赤い眼の女と金髪碧眼の男が立っていた。

 

 魔術回路を開き、最大限の警戒を持ちながら進む。

 銀髪の女と金髪の男との距離は30フィートほど前に縮まっていた。

 

 30フィートの距離を保ち、私と士郎はいつでも戦闘行為を行えるよう警戒心を保ちながら立ち止まった。

 女も男も、そして我々もしばらく一言も発さなかった。

 

 銀髪の女は無表情だった。金髪の男はずっと難しい顔をしていた。

 私の斜め後ろで士郎は不安そうな顔をしている。

 

 しばらくこの奇妙なにらみ合いが続いた後、銀髪の女が口を開いた。

 

「Sprechen sie Deutsch?(ドイツ語はお分かりになりますか?)」

 

 どうやら私に話しかけたようだ。私は言った。

 

「Ja. Aber, leider, mein Partner kann nicht Deutsch sprechen. Sprechen sie Englisch?

(ああ。だが相棒は駄目でね。君は英語を話せるか?」

 

 女は国籍不明の訛りの英語で応えた。

 

「あなた方はホーエンハイムから依頼を受けた方でしょうか?」

「ああ。ホーエンハイムのお迎えが待っている一緒に来てもらおう」

「その前に話を聞いてはいただけませんか?」

「断る。意志すらないかもしれないホムンクルスとの対話など無意味だ」

 

 またしても緊迫した沈黙が続いた。

 私はホルスターにしまったH&K USPにゆっくりと手を伸ばした。

 すると、今度は隣の金髪碧眼で気難しそうな顔の男が言った。

 

「Diane. Ich werde mit ihnen sprechen(ディアーヌ。私が話そう)」

 

 ディアーヌ。どうやらホムンクルスの名前らしい。

 ホーエンハイムのホムンクルスに名前があるとは意外だった。

 

「Nein. Günter.(駄目です。ギュンター)」

「Warum?(何故だ)」

 

 その一言をきっかけに追跡者である私と士郎をそっちのけにして2人の言い争いが始まった。

 その姿は魔術師とホムンクルスが切羽詰まった真剣な話をしている様子とは明らかに違った。

 

「あなたは人当たりが悪すぎます。話を聞いてもらうつもりならもう少し態度を考えてください」

「ですから、それでは駄目です。そんな皮肉な言い方では悪く思われるだけです」

 

 と、主に女の方が一方的に押し切っていた。

 隣の士郎はドイツ語がまったく分からず、ただ困惑していた。

 

 私はその言い争う姿から凡その事件の真相の見当がついてしまった。

 それは些か以上に意外なものだった。

 

 私は長くこの稼業をしている。危険な稼業はその場がどういう場であるかを読み間違えると惨事になりかねない。

 おかげで、人の心の機微には敏くなった。

 この2人の関係は魔術師のマスターとホムンクルスという無味乾燥なものではない。

 その真相は相当に意外なものだった。

 

 私は尚も言い争いを続ける2人に言った。

 

「先刻も証明した通り僕はドイツ語が分かる。

――そういう喧嘩は他所でやってくれ。聞いているだけで恥ずかしくなる」

 

××××××××××××

 

 そこは破棄されたコンクリートと金属の塊で出来た駅だった。

 表向きは。

 しかし、強力な認識阻害の結界が張られており、プラットフォーム内に足を踏み入れると

質素ながら生活空間が拵えられていた。

 私と士郎は椅子を勧められ、腰を落ち着けると、金髪の男、ギュンター・フォン・ホーエンハイムが会話の口火を切った。

 

「どうしてここがわかった?」

 

 ドイツ語訛りが微かにあるが綺麗な英語だった。

 

「紆余曲折あったが、きっかけになったのは目撃談だ。

君たちがロンドン行きのユーロスターに乗るところをジェラール・アントルモンという魔術使いが偶然目撃していてね」

「……ジェラール・アントルモン。あの軽薄なフランス男か」

 

 そう言って、ギュンターは深く溜息をついた。

 私はリッチモンドに火をつけ、深く煙を吸い込んで一服すると言った。

 

「僕は当初、君が一方的に彼女を連れ出し、実験台にしようとしているものと思っていたが

――どうやら違うようだな」

「ああ。私自身も遺憾なことだがな」

「察するに――」

 

 もう一服煙を吸い、考えをまとめると私は言った。

 

「君と彼女はお互いを懸想しているのか?」

 

 金髪の男、ギュンターは銀髪のホムンクルス、ディアーヌと目を合わせた。

 士郎は――私が「懸想」などという遠回しな言い方をしたせいか、まだよくわかっていないらしい。

 やはり困惑した表情で私を見た言った。

 

「なあ、どういう事なんだ、アンドリュー?あんた何に気付いたんだ?」

 

 ギュンターとディアーヌはしばらくお互いの顔を見合わせていたがやがてあきらめたようにして言った。

 

「……どうして君たち英国人はそう遠回しな言い方しかできないんだ?」

「君たちドイツ人がやたらと規則にうるさいのと同じさ」

 

 表情を伺うに、私の答えは正鵠を射たらしい。

 私はさらに言った。

 

「しかし、君のような典型的な名門の魔術師がこのような場所に隠れているとは意外だった。

人は変われば変わるものだな。愛の力というやつか?」

 

 士郎はようやく分かったらしい。驚きと共に私を見、それからギュンターとディアーヌを見回した。

 

 ギュンターは何も答えなかった。

 代わりに今度はディアーヌが口を開いた。

 

「ヘル・マクナイト。あなたのお噂は聞いています。

現実主義者でも、話の分かるお方だと。

状況をお察しなのであればどうか話だけでも聞いていただけませんでしょうか?」

「勿論聞こう。そもそもその気がないなら力ずくで君たちをここから引きずりだしている。

ただし、正直に話してくれ。君たちには不運なことに僕とこの少年は荒事が得意でね。

ウソだと判断したら強硬策に出る。

だが一方で幸運なことに、僕だけでなく――」

 

 私は隣に座った士郎を指さして言った。

 

「この少年も話は分かる方だ。事情によっては悪いようにはしない。シロウ、ここまで来たんだ。

君も話を聞きたいよな?」

 

 士郎はまだ驚きを隠せないでいたが、ようやく落ち着きを取り戻し始めたようで力強く、短く答えた。

 

「ああ、俺も是非、聞かせてもらいたい」




次回は長めになります。
全6回になりそうです。
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