Fate/in UK   作:ニコ・トスカーニ

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すいません。
更新サボッてました。
東京再訪第2段です。
空の境界の面々が続々出てきます。


到着

 日本を訪れる際はブリティッシュ・エアウェイズでもヴァージン・アトランティックでもなく極力日本の航空会社を利用することにしている。

 日本の航空会社は最高だ。

 その過剰なまでのサービス品質でエコノミークラスの搭乗者まで王族のように扱ってくれる。

 シートピッチも広い。

 私はエコノミーシートに体を横たえ、日本人の奴隷的奉仕精神に感謝しながら眠りについた。

 

 その晩、私が見た夢は筆舌に尽くしがたい恐ろしいものだった。

 

「よお、お前その目要らないだろ?」

 

 真っ赤な着物を身に纏った両儀式が日本刀の切っ先を私の目に押し当てそう問いかける。

 全身から脂汗がにじみ出る。

 私は声を上げることすらできない。

 式は地獄から這い上がってきたサタンのような世にも恐ろしい微笑を浮かべながら刃先に力を込め……。

 

 目が覚めて、私が真っ先にした事は自分の目があるべき場所にあることを確認することだった。

 そして両目が問題なく機能していることを確かめると安堵のため息をついた。

 式、君は夢の中でまで私を支配するのか。

 夢診断では夢に知人女性が登場した場合、その人物との付き合いかたを見直すべきとの見解が示されていたはずだ。

 

「なるほど、一理ある」

 

 私はそう呟き、今度はもう少し穏やかな夢を見られる事を祈りつつもう一度眠りつくことにした。

 

××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××

 

 翌日現地時間15時35分、追い風の影響で定刻よりも早く私の乗った飛行機は東京の玄関口成田国際空港に到着した。

 今回は都心まで電車を利用することにした。

 時間帯からそれほどの混雑はないものと見込んだからだ。

 それに東京のタクシー料金は高すぎる。

 物価の高い事で知られる我が国だがそれと比べてもビールとタクシー、それに映画の観賞料金に限れば日本は不当に高価だ。

 

 都心へと向かう電車の車内は明らかにピークの時間を外れているにも関わらずそれでも7割方埋まっていた。

 日本は基本的に単一民族の国だ。

 世界有数のグローバルシティである東京でさえも『ガイジン』はそれほど多くない。

 

 しかし、幸か不幸か私の乗り合わせた車両は国際色豊かだった。

 

 小声の広東語で話す香港人3人組と控えめな声量の台湾訛りの北京語の台湾人カップル、

 そして本土中国人と思われる5人組の中国人がワーグナーの歌曲のような爆音を轟かせながら大声で会話していた。

 私は小さくため息をつき時差ぼけ(ジェットラグ)でぼんやりした頭を抱えながら知っている数少ない

 北京語のフレーズからこの場に最もふさわしいものを彼らに投げかけることにした。

 

「你好<こんにちは>」

 

 中国人はメンツを重んじる民族だ。

 私は敵意が無い事を示すためそうにこやかに挨拶してから続けてこう言った。

 

「你们的声音太大了,请小声点儿说可以吗?

<あなたの声は少し大きすぎますね、もう少し小さい声で話してはいかがでしょう>」

 

 私はそう告げると彼らの返事を待たず違う車両に移動するため歩みを進めた。

 

 ヴィクトリアステーションが田舎の無人駅に思えるほど人でごった返した東京のターミナル駅を経由して1時間。

 私は依頼主の待つそびえ立つクソのような立派な日本家屋の前に立っていた。

 

 インターフォンを鳴らすとまるで人を2、3人切ってきたばかりのようなドスのきいた声で返事が返ってきた。

 私が無機質な通話口に向かって自分の名前と要件を告げると暫くして迎えに

長身で痩せぎすの明らかにその筋の人間といった風体の男が現れた。

 

「確か、アキタカだったね?」

「はい。マクナイトさま」

 

 それだけ短く返事を返すと硯木秋隆は私を主人の元へと連れていった。

 通された客間では今回のボス、両儀式が10歳ほどの童女と共に日本式に正座して私を待っていた。

 

「その少女は……」

 

 そこまで私が口にするとその先を式が引き取って続けた。

 

「誘拐してきたわけじゃない。私の娘だ。前にも話したよな?」

「……なるほど」

 

 とびきりのユーモアを披露する機会を奪われたことに軽い落胆を覚えつつ私はそう返し、

母親とは一片たりとも共通点を見いだせない無邪気な笑顔を浮かべている童女に女王陛下にするよう恭しくお辞儀をして言った。

 

「こんにちは、お姫様。確かマナだったね?」

「はい。そうですわ、おじさま」

「……おじさま。良い響きだ。だが僕にはアンドリュー・マクナイトという名前がある。マクナイトさんとかアンドリューとかアンディとか、

なんでも構わないから名前で呼んでくれると嬉しいね」

 

 私がそうお願いすると彼女、両儀未那は顎に指をあて真剣な表情でしばし思考を巡らせてから満面の笑顔を浮かべて言った。

 

「ではアンディさんと呼びます!」

 

 これはいけない。

 私が10歳だったら間違いなくハートを打ち抜かれていたな。

 

 私の頭上から冷たい声でボスが言い放つ。

 

「本題に入っていいか?」

「駄目だ。これからこの子を口説くからね。10年後に僕のお嫁さんになってもらう」

「……削ぐぞ」

「冗談だ。確かにマナは最高に魅力的だが、君と家族になるなど死んでも御免だ」

 

 式は私のユーモアに対して懐から短刀を覗かせ答えた。

 

「……ならこの場で死んでみるか?」

「……すまない。すぐに本題に入ってくれ」

 

××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××

 

 話はこういうものだった。

 未那の通う学校のクラスメートが1週間ほど前から眠り続けている。

 医学的には体のどこにも変調は見られずただただ眠り続けているだけだと。

 ――これは何か超自然的な力によるものではないのか?

 その子の母親がどこから聞きつけたのか知らないが両儀家がそういった類の事件に明るいという噂を聞き依頼に来た。

 

 魔術に関わる人間にとって医学的に不可解な意識の消失、混濁などごくありふれた出来事だ。

 この話だけで到底判断がつくはずがない。

 私は式にささやかな依頼をする事にした。

 

「『被害者』に直接会う事は可能か?」

「ああ」

「そうか。それと調査に誰か日本人を同行させて貰えるか?

この国で『ガイジン』が1人で行動するといろいろ面倒だろう?」

「ああ、いいぜ。最近使い勝手の良いのを1人見つけたんだ。お前につけてやるよ」

「では頼むよ」

 

 事務的な会話が済むと私は未那に質問した。

 

「その子とは親しいのかい?」

「はい」

「そうか、アンドリューおじさんは全力をつくすよ」

「ありがとう、アンディさん」

「勿論だ。お姫様」

 

 英国式にウィンクしベストを尽くすよと付け加えると、私は早速この大豪邸(ヘルハウス)からお暇することにした。

 

「さて、これで僕は失礼するよ。ホテルに戻ってシャワーを浴び、エールでも飲みながら衛星放送でディスカバリーチャンネルを見たい」

 

 そう言って去ろうとする私に式は思いもよらない提案をしてきた。

 

「なんだ。泊っていかないのか?」

「……なんだと?どういう意味だ?」

「文字通りだ。調査中はウチに泊まれ。お前のために部屋も用意した」

「……断る」

「理由は?」

「例えば僕が滞在中に夜な夜な、君がマナのために弟か妹を作る行為にミキヤと励んでいたりするとしよう」

「……それで?」

「その時の君の声が思っていた以上に大きくて聞こえてしまったりしたら気まずいことこの上ない」

 

 式はまるでピカデリーサーカスの路上にインド人観光客の団体が捨てて言ったケパブの包み紙を見るような表情で私を見ると

ため息を漏らして懐からまたしても未那に見えないよう短刀をチラつかせた。

 

「いいから泊っていけ。お前がウチに滞在してくれればその分経費が浮く。今はそういうこと考える必要があるんだ、オレもな」

 

 まずい、マナがいるというのに一人称が本来の式に戻っている。

 私はホールドアップして言った。

 

「……ホテルにキャンセルの連絡を入れよう」

 

 式の厳しい視線を受けながらホテルに1本連絡を入れると、誰かの足音が近づいてくるのが聞こえた。

 足音の主はいつのも人畜無害な笑顔を浮かべ、襖を開けると言った。

 

「アンドリュー」

「ああ、ミキヤ」

「久しぶりだね。元気だったかい?」

「ああ、こうして立って呼吸ができている。見ての通り絶好調だ。君は変わりなさそうだね」

 

 黒桐幹也は私の問いかけに頷くと、こう続けた。

 

「ウチに泊っていくんだって?」

「誠に遺憾ながらな」

「はは。よくそんな難しい日本語知ってるね。式、もう話は済んだ?」

 

 式はぶっきらぼうに「ああ」と答える。

 

「じゃあ、君の部屋に案内するよ。アンドリュー」

「助かるよ」

 

 私は立ち上がり地獄の部屋を後にすることにした。

 長い廊下をミキヤと歩きながら、私は心から自分が安堵していることに気が付いた。

 

「……ミキヤ。君がいてくれて本当によかったよ」

「どうしたんだい。アンドリュー?」

「なんでもない。忘れてくれ」

 

 部屋に案内され、熱いシャワーを浴びた後荷ほどきをしていると食事に呼ばれた。

 食事まで提供してくれるというのか。全く最高(Fanta-bloody-stic)だ。

 ショーグンの居室のような豪華なダイニングルームにはめまいのするような豪華な料理の数々が用意されていた。

 

「......Gimme a break. <……勘弁してくれよ>」

 

 スターゲイジーパイにウナギのゼリー寄せ、ハギスとマーマイトをたっぷり塗ったトースト。

 我が国の誇る最高の料理の数々が不機嫌な5歳児のような表情を浮かべて食卓を主に黒と茶色に彩っていた。

 呆然とした表情の私に式が告げる。

 

「お前の国ではこれがご馳走なんだろ?お前のために特別に用意したんだ。嬉しいだろ?」

「What the Fxxk ! <なんてこった!>」




近日中に第3段出します。
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