Fate/in UK   作:ニコ・トスカーニ

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お待たせしました。
とりあえず今回で事件解決です。


解明

 翌朝、私は式から紹介のあった件の人物の助言を請うため名古屋行きの新幹線に乗っていた。

 式の口から風宮という名前が出た事にも驚いたが、遠いとはいえ2人が親類縁者であることは尚私を驚かせた。

 さらに言うなら、こうも簡単にあの男が人の要求に応えたこともいささか以上の驚きだった。

 

 私はこれまで何度か彼からの依頼で仕事を受けたことがあるため、かの人物の人となりを多少は知っているが

彼は常に徹底した利益追及主義者で自分の利にならない事には目もくれない人物だった。

 式の何が彼を動かしたのかも気になったが、それ以上に気になったのは彼女から聞いた荒耶宗蓮の最後だった。

 

 式の魔眼を持って死の線を正確に断たれたのであればあの怪物といえど消滅は免れまい。

 となると私と光溜が体験したのは荒耶宗蓮の置き土産ということになるが、

本人がこの世に存在しない以上もはやあの結界がなんなのか問いただすことも不可能ということになる。

 

「カゼノミヤであれば何か知っているはずだが」

 私は左手に刻まれた梵字のタトゥーに目をやりそう呟いた。

 

 名古屋から特急に乗り換えおよそ2時間後。

 私は日本最大の神霊地である巨大な神宮の敷地内へと足を踏み入れていた。

 

 広大な敷地内を迷いながら受付(レセプション)へ辿り着き風宮の名前を告げると

私は赤を基調にした待合室へと通された。

 供されたグリーンティーをすすり、待つ事10分。

 身長おおよそ5フィート5インチ、小柄で痩せぎすの神職者とは思えないような凶悪な目つきの男が現れ

嫌みな響きの完璧なBBCアクセントでこう挨拶した。

 

「Mr.Mcknignt , it's been a long time. How have you been ? <マクナイト君、久しぶりだな。元気だったかね?>」

 

 風宮和人(かぜのみやかずと)は元封印指定執行者で在任中は歴代執行者の中でも最強クラスと評された怪物だった。

 彼は風の神を祖とする由緒正しい家系の末裔で、任務にあたれば化け物じみた魔力量から作りだす風の刃で執行対象を例外なくミンチに変えてきた。

 サマセット・クロウリーの捕縛に行った際にも追った術者の全員が命を落とすか、瀕死の重傷を負ったにも関わらず

風宮だけは無傷で帰ったきた。

 もっともそれが彼のキャリアの中で唯一の執行失敗となったが、その後男系の後継者が途絶えた風宮家の要請に応えて日本に戻り

今はこの巨大な神霊地の管理者(セカンドオーナー)に収まっている。

 

 何もしなくても押し寄せてくる彼の威圧感に気押されながら私は答えた。

 

「Not bad. How about yourself ?<それなりです。あなたはいかがですか?>」

「As you see Mr.Mcknignt. Well... then let's get down to business , shall we ?.<見ての通りだ、マクナイト君。さて…それでは早速本題に入ろうか?>」

 

 私は今回のあらましと昨日見たものについて彼に出来るだけ詳細に説明した。

 彼は時折私の話に対して、質問を返しながらまるで一字一句を石板に刻み込むように集中して聞いていた。

 彼が話に聞き入るとその凶悪なご面相はさらに凶悪な物に変化した。

 話が終わり、しばし考え込むと風宮はこう言った。

 

「君は七人ミサキを知っているか?」

「いえ。それは日本の妖怪(Apparition)か何かでしょうか?」

「ああ、七人ミサキは生前咎を犯した7人の死霊の集合体だ。

奴らは誰か1人を取り殺すと成仏するが、代わりに取り殺した相手を取りこんで必ず人数を7人に戻す。

そうやって永遠に終わらないパレードを続ける。

この術式はそういう類の物だ。君の話を基にすれば既に5人が取り込まれた。つまり君たち2人が取り込まれればこの術式は完成する。

そして術式の一部となり半永久的に君たちの霊体はこの世を彷徨い続けることになる。荒耶宗蓮の――狂人の考え付きそうな術式だな」

「止める方法は?あなたなら何か知っているでしょう、ミスター・カゼノミヤ」

 

 風宮は感情の感じられない鉄面皮のまま懐に手を入れると

達筆過ぎて私にも判別不可能な漢字(カンジキャラクター)が書かれた2枚の紙を取りだした。

 私が『それは?』と尋ねると彼は質問にこう答えた。

 

「私の作った呪符だ。『祓う』効果がある。急ごしらえなのであまり出来は良くないがな。何が言いたいかわかるかね?」

 

 なるほど、全くわからん。

 クロウリーといいどうしてこういう連中は言葉が多すぎるか足りないのか。

 私はバカにされることを覚悟しながらさらに訊ねた。

 

「ミスター・カゼノミヤ、すまないがもう少し僕でも分かるように説明していただけないだろうか?」

 

 風宮は私の質問に対して特に何の感想も持たなかったらしく、淡々と答えた。

 

「結界の詳細は分からないが、要は7人揃えなければ完成はしない。今結界に囚われている霊体はいわば酔ったような状態になっている。

酩酊した状態で結界の張られた場所が自分のあるべき場所だと誤認させられている。

この符を使って原因になっている霊気を祓えば霊体はやがて持ち主の元に戻るはずだ。

2枚しか用意できなかったから、2体分しか祓えんが時間稼ぎにはなるだろう。その間に私が結界を解析し解体の方法を探す。

生憎私はここを簡単に離れられんのでそれには時間が必要だ。これで理解できたかね?」

「はい。理解できました」

 

 その後、風宮は私と光溜は抵抗力があるので結界に飲み込まれるまでにはまだ猶予があることと呪符の使い方を教授してくれた。

 とはいえ早く済ませてしまうにことに越したことはない。

 私はすぐに東京に戻る事にし、その場を辞去した。

 そして去る前に私は1つにの質問を彼にぶつけた。

 

「ミスター・カゼノミヤ。なぜ協力してくれる気になったのですか?この事件(ケース)に協力することがあなたの特になるとは思えないのですが」

「両儀式の魔眼はあらゆる魔術師にとっての天敵だ。そして私は常に強いものには敬意を払う。ただそれだけの理由だ。おかしいかね?」

「なるほど、よくわかりました」

 

××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××

 

 東京に戻った時には完全に陽が落ちていた。

 私と光溜は元伽藍の堂の前で落ち合い、光溜の運転で茅見浜の目的地に向かった。

 私が東京を離れていた今日一日の間に彼はあの場所について独自に調査していた。

 荒耶宗蓮によって建物全体を結界化されていた小川マンションは、主人亡きあと取り壊され更地になっていた。

 住宅の需要が見込める立地であるため、その後何度か集合住宅の建設計画が持ち上がったが実際に工事に入ろうとすると

その度に事故が起こるためやがて計画もとん挫しその後はずっと更地のままになっているということだった。

 その情報に対して私は一言感想を述べた。

 

「一番良いのは幽霊屋敷(ホーンテッドハウス)にすることだな。本物だからクオリティーは完璧だし、人件費もかからない。

問題は命の保証が出来ない事だがな」

「その冗談。全く笑えないな」

 

 15分後、我々2人は天然の幽霊屋敷(ホーンテッドハウス)の前に立っていた。

 夜の闇の中でこの場所だけが異様な冷気を放ち、怪しい光を発しているように見えた。

 敷地内に入り霊視する。

 昨日見たときと同じ、5体の生霊が苦悶の表情を浮かべ漂っていた。

 私は手近な2体の霊体に狙いを定めると、風宮から受け取った呪符を取りだし魔力を込めて鍵になる言葉を口にした。

 

「淨」

 

 その一言と共に呪符は光り輝き、狙いを定めた2体の霊体に纏わりつくとやがて音もなく霊体をこの地と結び付けていた紐がぷつりと切れた。

 上手くいったようだ。胸を撫で下ろし、踵を返そうとしたその刹那強烈な悪寒を感じ私は振り返った。

 そこには先日見たのと同じ人物の巨大な影が立っていた。

 

「……これで事は成った」

 

 影は一言そう告げると消えうせ、次の瞬間私の体の中心部がなにか巨大な渦に引っ張られるような感覚を覚えた。

 気が付くと、先ほど解放した2体の霊体と傍らにいた光溜の霊体も渦に飲み込まれていた。

 何故だ?

 予想だにしなかった状況に私は酷く狼狽していた。

 必死に思考を巡らせる。

 そして1つの結論に行きあたった。

 この結界は魔術師を起点とするものだったのだ。

 人数が揃い、私が中心部近くで魔術を使った事で結界が起動した。

 昨日私の霊体を奪わなかったのは、もう一度ここに来させて魔術を使わせるための罠だったのか――

 

 呆然自失としている私に、結界に完全に囚われた6体の生霊が迫ってくる。

 

 ――このまま私を飲み込むつもりか。

 

 私は、効果に期待できないことを理解した上で懐からフラスコを取りだし残った聖水を全て振りまいた。

 

 ――効果なし。

 

 ならば、頼りにすべきは信仰心だ。

 私は慣れ親しんだ詠唱を口にした。

 

「地のもろもろの国よ、神の前に謳え。主をほめ謳え、古よりの天の天にのりたま者にむかいて謳え!見よ!主はみ声を發したまう。

力ある声をいだしたまう。汝ら力を神に帰せよ!」

 

 ――効果は見られない。

 私はもはや自棄になってそのまま効果のない詠唱を続けた。

 

「父なる神とイエスキリストと精霊の名において命ず……」

「よう、楽しそうなことやってるな。お前」

 

 その一言と共に一陣の風が吹き、私に迫る幾つかの霊体が雲散霧消した。

 声のした方を振り返ると、そこにはいつもの気だるそうな表情を浮かべた式が月明かりを浴びて立っていた。

 着物姿の短刀を持った彼女の姿が今日の私にはまるで地獄の聖母のように見えた。

 

「シキ……!」

「よお、良かったぜ。まだ生きてて。今、この辛気臭い場所を殺してやる」

 

 彼女はそう言い放つと、いつもの無形の位のまま結界の中心部に向かい何かを断ち切るように手にした短刀を一振りした。

 次の瞬間、私を引っ張っていた全ての力が消え失せあたりには完全な静寂が戻っていた。

 傍らに倒れていた光溜を確認すると、まだ意識は無かったが顔に生気が戻っていた。

 安堵した私の体からは力が抜けその場に崩れ落ちた。

 式が私の元に歩み寄ってくる。

 地べたに腰を下ろしたまま彼女を見上げて私は言った。

 

「まるで今日は君が民衆を導く自由の女神のように見えるよ。ありがとう、お陰で助かった」

 

 私の感謝の言葉に対して特に彼女は何の反応も返さなかった。

 同時に私の中に1つの疑問が湧きあがってきた、その疑問を勢いに任せて彼女にぶつける。

 

「ところで、どうして僕たちがここにいるのがわかった?今夜ここに向かうことは伝えていなかったはずだが?」

 

 彼女は私の疑問に目を細めるとこう返答した。

 

「実はさ――お前達のことずっと監視させてたんだ。

だからもっと早く助けにも入れたんだけどさ――お前苦戦してるのが少し面白くて眺めてたら遅くなっちまった」

 

 彼女がどういう人物か理解してはいたが、やはりなんて奴だ。

 私は少しでも彼女に素直に感謝したことを後悔し一言吐き捨てた。

 

「You bastard……<このクソッたれめ……>」




次回、エピローグがあります。

風宮は自作の『magus hunter』から出張させたキャラクターです。
書きやすかったので・・・すいません。
ちなみに「風宮」の名前の由来は伊勢神宮の外宮に祀られている別宮から命名しました。
実は筆者の母方のご先祖様にあたるらしいです。
(ご先祖様、こんなところでお名前を使って申し訳ありません)

アンドリューの詠唱は聖書の詩編から引用……というのは実は正確ではなく。
孫引きしました。
直接の引用もとはテレビドラマ『スーパーナチュラル』です。
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