またしてもあたらしいオリキャラの登場。
しかも自作の設定使いまわしです。
日御碕御影に初めて会ったのは時計塔に在籍していた頃だ。
彼女は日本の名家の三女で上に二人の兄がいる。
時計塔に送られたのは将来的に家督を継ぐためではなく、どこかの名家に嫁いだときのための教養を
身につけさせるためでいわば花嫁修業の一環であった。
しかし誤算が起きた。
彼女は上の二人の兄よりもはるかに優秀だったのだ。
時計塔でその才能を開花させた彼女は瞬く間に有名人となり、日御碕家の当主は
彼女に家督を継がせることを考え始めた。
上の二人の兄にとって当然これは由々しき事態であった。
彼らは結託し、妹を亡き者にしようと画策し始めていた。
日御碕自身は家督に興味はなく、継ぐ遺志のないことを再三訴えていたが上の兄たちはそのことを信じていない様子だった。
そんなある日のことだ。
私がいつものように中庭で惰眠をむさぼっていると挨拶すらろくに交わしたことのない彼女が
近づいてきて私に「こんにちわ」と挨拶をした。
その日は秋のとても麗しい天候の日で昼寝には最高の気候だった。
邪魔されるのは心外だったが、彼女のような有名人が接触を試みて来たことに興味を持ち私は狸寝入りをやめて目を開けた。
付け加えると彼女は中身はともかく見た目はきわめて麗しい女性だ。
艶やかな黒髪はまるで日本の和歌に歌われる美女のように美しく、その瞳は魅了の魔術を使っているの
ではないかと思えるほどの求心力があった。
当時の私は10代の少年だ。仕方のない事態だった。
目を開けた私に彼女は言った。
「助けてほしいんだけど」
「どのような種類の助けだ?」
上の2人の兄が妹の才能を恐れていること。
家督争いをする2人は結託し妹をどうにかしようとしていることを説明した。
「それで、あなたに怖いお友達がいるってサマセットから聞いたんだけど?」
いつの間にかクロウリーと日御碕は仲良くなっていたらしい。
日御碕といい橙子といい変質者同士は惹きつけ合うようだ。
「紹介するのはいいが僕に見返りは?」
彼女はポケットからメモ帳を取り出すと何かを書き込み私に提示した。
名家とはいえ学生の身分が払えるとは思えないような額だった。
私は軽い衝撃とともに言った。
「申し分ない額だが本当に払えるのか?」
彼女はにっこり笑って言った。
「じゃあ、交渉成立だね」
後で知ったことだが彼女は当時からその才覚を活かし「パートタイムジョブ」に勤しんでいたらしい。
魔術を使った闇医者だ。
ロンドンはおおむね安全な街だがヨーロッパ最大の都市であるこの街には人に言えない仕事をしている人間もいる。
彼女は医者に言えない事情の人間を相手取った闇医者でかなりの報酬を得ていた。
患者たちは人に言えない事情を抱えた人間なので日御碕の治療が口外されることはない。
故に神秘の秘匿にも抵触しない。
魔術師とは俗世のことに興味を示さないものだが彼女の拝金主義は筋金入りだった。
私は彼女と握手を交わし2人のアメリカの友人に仕事を依頼した。
その数日後。
私はアメリカの友人マシューとアンナのロセッティ親子を連れて日御碕と共に日本の彼女の本家を
訪れていた。
ショーグンの居室のような応接室に通された私は日御碕の隣に座り、私と日御碕をロセッティ親子がはさむ形でいかにも高級そうなタタミの上に陣取った。
やがて日御碕の二人の兄、
二人は入ってきた瞬間からすでにおびえていた。
当然だ。
ほっそりとした体型で少なくとも見た目はモデルにしか見えないアンナと優男の私はともかく、
マシューはヨコヅナのスモウレスラーすら一瞬でサシミに出来そうな体格の持ち主だ。
とりあえず先制攻撃は成功したらしい。
日御碕は向かいに座った二人の兄に我々のことを紹介し、我々は形式的な挨拶を交わした。
青道と青雲は時計塔に在籍していた経験があり綺麗な英語を話した。
挨拶が終わるとマシューがその凶悪なご面相に精一杯の愛想笑いを浮かべて言った。
「妹さんから事情は聞いてます。俺たちはこう見えて話し合いの達人でしてね。
俺としちゃいつものように穏便に話を済ませたい。
んで、友好の証として手土産がわりといっちゃ何ですが。
手品を披露したいんですがいいですかね?」
そう言うとマシューは脱ぎ捨てたフライトジャケットのポケットから缶のコーラを取り出した。
「このコーラをプルトップを空けずに飲みます」
コーラの缶をマシューが握った次の瞬間。
缶に穴が開き中身がトラファルガースクウェアの噴水のように噴出した。
マシューは噴出した黒い砂糖の塊をワイルドに口に放り込むと言った。
「うめえ!魔法の液体だ!
おい、アンナ。お前も喉かわいただろう?」
「そうだね。じゃあ私もドリンクタイムとさせてもらおうかな」
そう言うとアンナはレザージャケットのポケットからリンゴとグラスを取り出した。
グラスをテーブルに置き彼女がリンゴを握るとグラスは見事な粗しぼりのアップルジュースで満たされていた。
「うん。ジャパンのアップルも悪くないね。
ジュースは絞りたてが一番だ」
説明しておくが彼らは身体強化の魔術を使っていない。
優秀な術者である日御碕の二人の兄はそのことに気付いたらしく顔面が蒼白になっていた。
恐怖に声を震わせながら上の兄、青道は言った。
「脅迫する気か?」
ニコニコと春の日差しのような笑顔を浮かべる日御碕に変わり私が言った。
「脅迫?我々は手品をお見せしただけですよ?」
ロセッティ親子の見事なパフォーマンスのおかげでことは片付いた。
日御碕は兄たちに家督を継ぐ気が一切ないことを改めて明言し、最終的には
ギアスを交わし内容を精査すると日御碕は上の兄たちに言った。
「ところでまだ謝罪の言葉を聞いてないんだけど?」
下の兄青雲が不快さをあらわにして言った。
「もうギアスまで交わしたんだ。これ以上何が必要なんだ?」
「だから、謝罪だよ。悪いことをしたら謝る。大人なら当たり前でしょ?」
「どうして欲しいんだ?」
「土下座」
アメリカ人のロセッティ親子は土下座の意味がわかっていないようだったが、
日本の血が混ざる私にはわかった。
土下座は日本文化における最大限の恥辱だ。
しかも相手は名家の魔術師でありその例にもれずプライドが高い。
屈辱以外の何物でもないはずだ。
「土下座だよ。土下座。額を地面にこすり付けて謝るヤツ。
ギアスにも書いたでしょ?最大限の謝罪をすることって?」
悪意の欠片も感じられない
――まるで5歳児がピーター・ラビットの人形でもねだるような口調だった。
満面の笑顔のまま彼女は続けた。
「かよわい妹の安全を脅かそうとしたんだよ?
それって私の存在が怖いって認めたようなものだよね?
怖いものは排除ってはっきり言ってクズの発想だと思うよ。
謝罪しても兄さんたちがクズなことは変わりないし私のほうが兄さんたちより優秀なのも
明白なことだけどクズはクズなりに誠意を持って謝罪するぐらいの甲斐性は見せたら?
ちょっとは見直すかもよ」
ギアスを破ることは契約者の死を意味する。
二人の兄は屈辱に肩を震わせながら――平伏して頭を床にこすり付けた。
日御碕はその姿を最高の笑顔で見おろしていた。
何の悪意も感じられない最高の笑顔だった。
隣で見ていたアンナがこっそり私に耳打ちした。
「恐ろしい女だね……」
その一年後に彼女は時計塔を去った。
優秀な彼女は誘いが引きもきらなかったがそれを彼女はすべて断った。
実家にも母国にも嫌気が差した彼女は
今は実家と距離を置くためマギー・ラウという極めてありきたりな偽名を使い香港に身を潜めている。
なぜ香港なのかと私が聞くと彼女は言った。
「『お前の神は何だ?』
『お金様だ』
って誰のセリフか知ってる?」
「ジャッキー・チェンだろ?」
「正解。よくわかったね」
「ジャッキーは僕ら香港人の誇りだからな」
香港にわたった彼女は尖沙咀で表向きは日本料理店を経営し、裏で事情があって医者にいけない人物を相手にした闇医者と
魔術の世界にかかわる万屋を開業している。
かつての縁により私も時々仕事を請け負っている。
広東語の話せる私は仕事を依頼する上で都合がいいらしくお得意様の部類である。
私が日御碕の人となりについて一通り説明を済ませると凛は頭を抱えた。
ごく妥当な反応だった。
話し終えると私は言った。
「とにかくこれから恐ろしく消耗する行為をするんだ。たっぷり寝ておいたほうがいい」
そう言うと私はその発言を実行に移した。
途切れ途切れの浅い眠りだった。
やがて機内が明るくなり、まもなく着陸態勢に移行するというアナウンスが英語と広東語で流れた。
目的地は近い。
次話は執筆中のため少し間空きます。
今後ともよろしくお願いします。