Fate/in UK   作:ニコ・トスカーニ

95 / 144
お久しぶりです。ふと思いついたのを一本。
短いので一回です。

※今回のエピソードは実際に起きた事件を元にしていますが、ただ元ネタにしているだけです。現実の組織、団体とは何も関係ないフィクションであることはわざわざ記載するまでもないと思いますが念のため。



ロード・エルメロイⅡ世との事件簿 「case.虚構の真実」
虚構


 日本には『幽霊の正体見たり枯れ尾花』という諺がある。

 

 英語圏で言うなら"One always proclaims the wolf bigger than himself."(狼を見た人はいつも大きく報告する)にあたる言葉だ。

 

 二年ほど前のことだ。

 私は旧友で東京で払い屋をやっている人物から協力の要請を受け、東京を訪れていた。

 依頼は恙無く完了し、私はそのついでで、カナガワケンにある祖父母の墓を訪れていた。

 

 祖父母の墓はカワサキシティ郊外の小高い丘の上にある。

 いかにも日本人らしく無宗教だった祖父母は無宗教の形式でシンプルな墓石の下に眠っている。

 ハイドパークを思わせる公園のような墓地を歩き、私は祖父母に手を合わせた。

 

 冬の良く晴れて皮膚がひび割れそうな乾燥した日だった。

 冬の日は短く、午後五時を回ろうかとその時には、すでにあたりには暗闇は迫っていた。

 

 平日の夕方で人通りはほぼ無し。

 周囲に動くものと言えば、チカチカと頼りなさそうに光る街灯と気持ちよさそうに浮遊する昆虫ぐらいだった。

 

 当然の行動として私は立ち上がり、その場を辞そうとした。

 その時、薄暗闇の中、歩みを進める私の視界の端に白い動く何かが去来した。

 

 この場で私を迎える動くものと言えば昆虫と不安定な電灯ぐらいの筈だった。

 

 ――これはもはや職業病的な脊髄反射だ。

 私はその正体が気になって仕方がなくなっていた。

 

 私はその"何か"の行方を追った。

 

 やがてその白い何かは墓石の間をゆらゆらと漂うと浮力を失い墓石の間へと消えていった。

 私はその何かが消えていった場所へと歩みを進めた。

 

 ――そこにあったのは。

 

 どこかの不心得者が捨てていったスーパーのレジ袋だった。

 

 これはそんなありふれた不思議な物語だ。

 

  〇

 

「そう。不思議なことがあったんだよね」

 

 私の旧友、風宮千鶴(かぜのみやちづる)は東京で祓い屋をしている。

 彼女は高名な旧家のぱっとしない分家に生を受けたが、突然変異的に優秀な魔術回路を生まれ持っていた。

 

 自身は学問と芸術とスポーツ観戦を愛する常識的な人物だが、生まれ持った魔術回路は彼女を放って置いてくれなかった。

 分家から高名な旧家に養子として引き取られ、時計塔で学んだ後に祓い屋になった。

 

 私の母方の祖父は日本人で日本語以外を頑なに覚えようとしない典型的なショーワの頑固ジジイだった。

 その結果、少年時代の私は半強制的に日本語を習得するに至った、

 時計塔に在籍している数少ない日本語話者である私が彼女と交流を持つようになったのは当然の成り行きというものだ。

 今は伊勢にある本家が面倒臭がって引き受けない依頼を引き受ける都合の良い存在として魔術に関する万を引き受けている。

 

 時折遠路はるばる私に依頼をしては東京に呼び出しているが、今回は彼女がロンドンを来訪していた。

 

 実のところ、会うのは二年ぶりだった。

 東京を拠点にしてはいるものの彼女は「出張」が多く、ほぼ常に日本全国を行脚して事件を引き受けている。

 私もここ二年で何度か東京を訪れていたが、そのたびにスレ違っていた。

 

 ロンドンでの要件が済んだ彼女はついでの観光のためにこの街に短期滞在していた。

 幸いにしてか不幸にしてか私は暇だった。

 そしてこの久しぶりの再会となったわけだ。   

 

 パディントンのパブで私と彼女は昼間からエールを煽り、雑談に――主に我々共通の関心ごとである旅について――興じていたが会話の切れ目で彼女が唐突に語り始めた。

 私はうんうんと頷きながら、彼女の話を聞き。

 彼女が話し終わるころにはその話が気になって仕方なくなっていた。

 

「本当は自分で調べたいんだけど……」

 

 翌日の便で帰国する彼女は無念そうに言った。

 

「暇だったら調べてみてよ。アンドリュー。

真相が分かったら教えてね」

 

 私は胸を張った。

 

「いいとも。シャーロック・ホームズのように鮮やかに解き明かして見せよう」

 

  〇

 

「概要は記憶している。詳細を教えてくれ」

 

 結論から言うと、私はシャーロック・ホームズにはなれなかった。

 時間があるのに任せた私は調査を進めたが、真相にはたどり着けなかった。

 

 どうしても真相が気がかりだった私は、私の知る中でも飛び切り探偵役にうってつけの人物、ウェイバー・ベルベット改めロード・エルメロイ二世の元を訪れていた。

 講義を終えた時間帯を見計らって彼に連絡を取り、概要を話すと彼は興味を示してくれた。

 こうして私は偉大なる人気講師の講師室の硬い椅子に腰かけることとなった。

 

 以下がわが友人である千鶴が語った内容だ。

 

 ロンドンで用を終えた千鶴は優雅に観光を楽しんでいた。

 報酬の額がよかったため懐には余裕があった彼女は、少し贅沢をしようと考えた。

 近年、無視できない程の勢いを持ち始めている旅行情報サイトを見ると、「ロンドンのレストラン」の項目に気になるものを見つけた。

 庭付きのログハウスのような外観の写真と共に「ブルースの小屋」というレストランの名前が表記されていた。 

 ブルースの小屋は大陸の料理や東洋の手法を取り入れたモダンブリテッシュを提供するレストランで、最近特にランキングを上げているようだった。

 

 口コミも上々だった。

 

「夫と二人で結婚記念日に利用しました。二週間待ちで予約が取れ、非常に楽しみでした。期待通りでした」

「カナダから両親と観光で来ました。旅行代理店を通じて席を取ってもらいました。最高の体験でした」

 

 ほぼ絶賛一色の内容だった。

 

 店は完全予約制で一日に受け入れる客の数を少数に絞っていると紹介されていた。

 ランチで提供されるロースビーフサンドやベリーソースを使ったサーモンのソテーなど料理の写真も鮮やかで興味を惹くものだった。

 平日ならば行けるかもしれない、と思った彼女は思い切って予約の電話を入れてみた。

 店の連絡先となっているモバイルフォンの番号を彼女はプッシュした。

 

 相手は十回のコールの後に電話に出た。

 忙しいのだろうか。

 予約の話をすると「一か月先までいっぱい」との返答だった。

 

 「そうですか。それは残念」

 

 彼女は電話を切った。

 千鶴は好奇心の強い人物だ。

 「どんな店なのだろう?」と気になり、入れないまでも店を見たいと思った。

 

 店のロケーションはロンドン東部のショーディッチ。

 近年、アートの街として人気が高まっているエリアだ。

 店の住所は通りの名前までの記載で、店に問い合わせたところ「隠れ家にしておきたいので近くまで来たらお迎えに上がる形式にしています」とのことだった。

 

 旅慣れている彼女はすぐに目的の通りに辿り着いた。

 グラフィティアートに彩られたオシャレエリアとは無縁な凡庸な外観をした古い家が並ぶ通りだった。

 

 千鶴はしばらく、目的の通りをウロウロしていた。

 

 「何かがおかしい」

 

 幾ばくかの時間が過ぎたとき、彼女の直感がそう告げた。

 

 その直感は正しかった。

 

 結局、いくらその通りを歩いても、それらしい店は見つからなかったのだ。

 

  〇

 

「ここまでで何か質問は?」

 

 ウェイバーはいつもの渋面で黙って情報の咀嚼をしていた。

 その隣で、ウェイバーの内弟子であるグレイが小さな体躯からそっと控え目に手を挙げた。

 話が始まったタイミング折よく講師室に来た彼女は、レストレードのポジションを私が占めウェイバーがホームズのポジションを担ったことでぽっかりと空いていたワトソンのポジションに収まっていた。

 

 私はグレイを指さした。

 

「グレイ……いや、ワトソンくん。何が気になる」

「気になったのですが、レストランの連絡先がモバイルフォンというのは普通のことなのでしょうか?

拙の生まれ故郷は電話もほとんど無かったので、拙の感覚がズれているのか知れませんが……」

 

 なかなか鋭い指摘だ。

 

「良い質問だが、実のところこれはさして珍しいことではない。小規模な店では固定電話を置かず、オーナーのモバイルフォンを連絡先にするという形にしている場合がある。

件のレストランは小規模経営で限られた数の客しか受け入れないということだから十分にあり得る話だ」

 

 彼女は納得し、フードの下で小さく頷いた。

 私はグレイに向けていた指をウェイバーに向けた。

 

「ある程度の推理は固まっている。もう少し情報を寄こせ」

 

 まったく感じのいい奴だ。

 

  〇

 

 私が最初に辿ったのは千鶴と同じ道だ。

 つまり、電話で予約を申し込み、断られた。

 その足で所在地として記載のあった通りに向かい、フーチを片手に秘匿の魔術の痕跡を探った。

 千鶴は有能な祓い屋で西洋魔術も一通り扱える。

 秘匿の魔術の可能性を疑った彼女が言うには「悪意のある術は感じなかった」とのことだった。

 

 確かに職業的勘で感じるはずの「何か」が引っかからない。

 少なくとも悪意のある術式の類はなさそうだ。

 

 するとますます解らなかった。

 

 続いて私は、この「ブルースの小屋」の事を知っている人間がいないか探り始めた。

 大手旅行サイトでこれほどの評判になっている店だ。

 当たる場所を当たれば結果が出ると思った。

 私はマスコミ関係の友人のコネを使い、旅行関連のメディアとフード関連のメディア関係者を紹介してもらった。

 これほど評判の高い店ならば、誰かが取材していると思ったからだ。

 

 方向性は間違っていなかった。

 片っ端からコンタクトを取って見えると、いくつかのメディア関係者が「ブルースの小屋」に取材を申し込んでいた。

 にもかかわらず、取材に成功したメディアは一つとして存在しなかった。

 

 ここが私の限界だった。

 旅行サイトにこれほど具体的な情報が載っているのだから存在はしているのだろう。

 口コミがある以上、食事にありつけた客も存在するのだろう。

 だが、私にはそれが見つけられなかった。

 

  〇

 

「簡潔な要約だ。学生のレポートもこのレベルにまとまっていればいいのだがな」

 

 いつものように苦みばしった顔のせいで解り辛いがお褒めに預かったらしい。

 私はホームズにはなれなかったが、ベイカー・ストリート・イレギュラーズ程度には有用な存在でいられているようだ。

 

 そしてウェイバーはつづけた。

 

「さて、私の推理を述べる前にまずヒントだ。

ミス・カゼノミヤのことは知っている。優秀な術者だ。

お前も、私と比べれば少なくとも術者としては数段上だ。

仮に私が現地に赴き、魔術的痕跡を探ったところで結果は同じだろう」

 

「だろうな」と私は同意した。

 私の素直な感想に彼は「フン」と鼻を鳴らした。

 

「……という見解には多分に先入観が含まれている」

 

 彼の短い洞察には多くの示唆が含まれていた。

 隣で聞いていたグレイは小さく首を傾げただけだったが、私はウェイバーの一言に天啓を得ていた。

 私は指を一本立てて宣言した。

 

「一日待ってくれ」

 

  〇

 

 翌日。私は自分より一回りかそれ以上に若い時計塔の生徒たちと机を並べて講義を聴講していた。

 調査結果の報告に赴いた私は「講義が終わるまで待つ」と主張したが、ウェイバーには「お前にも関係ある話だ」と引き止められたため、有難く時計塔名物講師の講義を拝聴することになったわけだ。

 

 講義が始まると偉大なるロード・エルメロイ二世はまず、大判に拡大した一枚の図を貼りだした。

 それは石に彫り込まれたレリーフだった。

 そのレリーフは一人の人物が棒状のものにまたがり飛んでいるように見えた。

 棒状の物の背後からは炎が噴射されているようにも見える。

 

「これは古代マヤの遺跡から出土した石棺に彫られていたものだ。年代は西暦変換すると七世紀の半ばほどになる」

 

 教室がざわついた。

 このレリーフは素直に見るとロケットに人が乗って飛んでいるように見える。

 いわゆる、オーパーツと呼ばれるものだ。  

 これは魔術というよりも疑似科学の領域だ。

 現代魔術論以外でこのような講義をしたら間違いなくお叱りの対象だろう。

 

「諸君らにはこれが何に見える?」

 

 まず真っ先に金髪碧眼で、いかにも貴族的風貌の少年が手を挙げた。

 講師先生は手を挙げた少年を指さした。

 

「フラット・エスカルドス」

 

 名前を呼ばれた少年は勢いよく立ち上がると勢いのまま答えた。

 

「ロケットです!」

 

 教室から失笑が漏れた。

 ロード・エルメロイ二世は深くため息をついた。

 彼の名誉のために付け加えるとフラット・エスカルドスは才気に溢れる非常に優秀な魔術師だ。

 天才的とすら言える。

 だが、彼には才能以外の面にあまりにも問題がありすぎる。

 そのため、「天才馬鹿」と呼ばれロード・エルメロイ二世の胃痛のタネになっている。

 

「他には?」

 

 再度、ロード・エルメロイ二世が意見を募ると、今度はカールした金髪の少年が手を挙げた。

 

「スヴィン・グラシュエート」

 

 名前を呼ばれた少年が静かに立ち上がり答えた。

 

「その絵の提示の仕方は先入観を煽っています。フェアではありません」

 

 スヴィンは答えた。

 

「ほう?続けてみろ」

 

 そう言われたスヴィンは言葉の通りに続けた。

 

「その絵は本来、九十度傾けた形のものが正しい姿です。それはロケットではなく、十字架です」

 

 偉大なる講師はその答えに満足したようだった。

 

「そう。その通りだ。これは諸君らに先入観を持ってもらうためにあえて誤った角度で提示した」

 

 彼はそう言うと、一度貼った図面をはがし、九十度傾けて貼りなおした。

 

「これはパレンケの石棺と呼ばれている古代マヤ文明の遺物だ。スヴィン・グラシュエートの言う通り、これはロケットではなく十字架。

ロケットに跨り飛行する人物ではなく、十字架に縋りつく姿を表している。この人物はパカル王で、レリーフの彫られた石棺に収まっているパレンケ最盛期の王だ。

このレリーフは全体で死者の世界である地下、人間の住む地上、神々の住まう天上世界を表している」

 

 そして最後に大事な教訓を提示した。

 

「これがロケットに見えるのは文明を謳歌する現代人の先入観によるものだ」

 

 そういう大事な教訓はもっと早く教えて欲しいものだ。

 

  〇

 

「全く、大胆なことをする奴もいるものだ……」

 

 講義の終了後、ウェイバーの講師室を訪れた私は不思議な事件の種明かしをしていた。

 昨日と同じくグレイも同席していた。

 

 結論は限りなくシンプルなものだった。

 

 そのレストランは存在しない。

 

 ただそれだけの事だった。

 

 存在しないから近所を歩いても見つからない。

 存在しないから取材に成功したメディアも無い。

 

 この件に注意を向けさせた風宮千鶴は魔術師で、調査した私も魔術師だ。

 調査が始まった時点で「魔術が関連しているに違いない」というバイアスが掛かっていたのだ。

 ウェイバーの一言でそれに気づいた私は、早々に一つの推論を導き出していた。

 

 あとはそれを証明するだけだ。

 手元にある首謀者につながるものは電話番号だけ。

 調べたところどうやらプリペイドフォンらしい。

 ということは仮に令状を手に入れても購入者に辿り着くのは困難だろう。

 

 なので、私はとっておきのワイルドカードを切った。

 

  〇

 

 私の古い知人であるアラン・ホイルは特殊な魔術回路を持ち、封印指定を受けている。

 彼は現在バーミンガムに潜伏しているが私に借りがあり、時折手を貸してくれる。

 

 私はホイルに事情を説明して協力を仰ぐとそのフェイクレストランの連絡先になっている電話を掛けた。

 私のモバイルフォンとフェイクレストランのモバイルフォンが通話している間に、ホイルに電話会社のシステムに侵入してもらいまんまと逆探知に成功した。

 なお、私は不自然に会話を引き延ばすような真似はしていない。

 一般的なイメージに反し、逆探知は一瞬で終わる。

 特殊能力のおかげであらゆるセキュリティを突破できるホイルは、魔術師であると同時にコンピューターオタクでもある。

 ホイルはキャプテン・クランチの時代から現代に至るまでの電話システムを趣味で調べており、鮮やかに逆探知を成功して見せた。

 

 探知したロケーションを確認すると、場所はロンドン北部の一軒家だった。

 首謀者の自宅らしい。

 

 私は断固たる意志で乗り込み、その冴えない一軒家から出てきた冴えないニキビ面の青年に暗示を与えて真相を聞き出した。

 

 「ブルース」と名乗った彼は駆け出しの売文家で、糊口をしのぐために旅行サイトに偽のレビューを書くというパートタイムジョブをしていた。

 報酬は一本につき十ポンドで、早書きの彼にとってはなかなかに割のいい仕事だった。

 そして彼はこの仕事をかなり楽しんでいた。

 その中から天啓にも近いアイディアを得たからだ。

 

 デマ情報ばかりが流れるこの世界で、世間は自ら望んで、完全なるデタラメを信じ込もうとしている。

 そんな時代なら、偽レストランも不可能ではないのでは? むしろそれこそ、大当たりスポットになるんじゃないか?

 

 彼はその理論を実証するため、シェフとフォトグラファーの友人に協力を依頼してそれらしい素材を用意すると、店の連絡先用にプリペイドフォンを購入し、旅行サイトに掲載の申請をした。

 念のため、ドメインを取得し、友人のウェブデザイナーに頼んで公式サイトも用意した。

 

 申請はあっさり通り、こうして存在しないフェイクレストランはネット上で公式の存在となった。

 存在が認可されるとブルース青年は友人、知人にフェイクレストランのレビュー投稿を依頼。

 口コミで評判を得た「ブルースの小屋」は人気店になっていた。

 存在しないにも関わらず。

 

  〇

 

「口コミを見た時点でだ」

 

 「どの時点で分かったんですか?」というグレイの問いにウェイバーは答えた。

 そして何枚かのプリント用紙をテーブルに広げた手渡した。

 旅行サイトの口コミ部分を印刷したものだった。

 

「片方は実在する人気店。もう片方は今回の調査対象だ」

 

 私とグレイはテーブルの前に集まり、プリントアウトの内容を検めた。

 そのうち、私はある傾向に気づいた。

 

「……こっちは主語が多いな」

 

 「あ、確かにそうですね……」とグレイが隣で頷いた。

 ウェイバーは私の考察に満足したようだ。

 

「そうだ。これは心理学的にも証明されている事象だが、嘘の口コミは主観的出来事の描写が多くなる。

『記念日に夫婦で利用した』『カナダから両親と観光で来た』そういう描写だ。

対して――」

 

 彼は片方のプリント用紙を指さした。

 

「本物の口コミは客観的事実が多くなる。『チーズクルチャがオススメ』『テイクアウェイのコーニッシュパスティが最高』

……これに関してはサミュエル・バトラーが良いことを言っている。

『どんな馬鹿でも真実を語ることはできる。だが、うまく嘘をつくことはかなり頭が良くなければできない』

『夫と二人で結婚記念日に利用』や『友達とランチした』という主観的出来事の嘘を考えるのと、具体的な料理名のような客観的出来事の嘘を考えるのは、どちらの方が頭を使うか?

実に示唆に富んだ事件だったな」

 

 二十一世紀は情報が氾濫する時代だ。

 ゴーストは人の死後に現れるものだが現代では情報の渦からもゴーストは生まれるのだろう。

 

 それはそうと話に続きがある。

 

「『ブルースの小屋』だが評判になったので一日限定で開店するそうだ」

 

 仏頂面のウェイバーの眉がピクリと動いた。 

 

「それで?」

「サクラとして参加してみないかと言われている。勿論タダ飯だ。君たちも一緒にどうだ?」

 

 グレイがウェイバーの方をチラリと伺った。

 彼はただ「フン」と鼻を鳴らしただけだった。

 




このエピソードは実際に起きた事件の記事を読んで思い付きました。
なのでほぼまんまです。
ロンドン・フェイクレストラン事件について知りたい方は発起人自らが書いた記事がありますのでこちらをどうぞ。

https://jp.vice.com/lifestyle/i-made-my-shed-the-top-rated-restaurant-on-tripadvisor

オーパーツと言われていたパレンケの石棺についてはこちらをどうぞ。
http://www.nazotoki.com/palenque.html

最近、自作の更新をポツポツ再開し始めました。
お付き合いいただければ幸いです。
https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n7210cf/

では、またお会いしましょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。