星屑が広がしは美しき蒼天   作:コードネームTOSI

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本編
第一章:無籍国ギルド『ブラッドレス・ペヤァーズ』


世界には様々な種族がいる。

 

鋭い牙と爪を持つ獣、強固な鱗と絶対の力を持つドラゴン、水中で生活するギルマンなど世界各地に多くの種族が入り乱れ、力を持たない人間は知恵を駆使し生きてきた。

 

多種多彩なモンスターからの襲撃を避けるため各地に町を築き、防護壁でモンスターからの被害を避けてきた。

だが、時には町を出なければいけない時、モンスターの数が増え被害が出てしまう時がある。

そこで人々は武器を持ち、魔法を扱え、モンスターに対抗できるだけの力を持っている人々で結成された『ギルド』に依頼することで、力なき者達は危険を回避している。

 

このお話は、そんな世界をひょんな事から救い英雄となる事になった2人の少年少女のお話・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ふぁ~・・・

たくっ、かったるぜ全く・・・」

 

1人の男性が岩の上で寝ころびながらぼんやりと呟いていた。

整った顔立ちに、肩まで伸びている黒い髪、歳としては20代だろうか。

そんな彼が見ているのは雲一つない青天だった。

だが、そんな彼の目の前には怒り狂い何かを探しているモンスターがいた。

強靭な2本の足に、長い首。前足は大きな翼へと変化している。

ドラゴンの代名詞の1つとも言える、ワイバーンがいた。

その強靭な爪と牙、そしてブレスは人など簡単に粉砕してしまう威力を誇るのだが、彼はそんなワイバーンを前にし呑気に寝っ転がっていた。

だが、ワイバーンは目の前にいる餌に全く気付くことなく辺りをグルグルと何かを探していた。

 

『たくっ、依頼の品は手に入ったんだろ?

だったらとっとと帰ってきやがれ。』

 

すると彼の近くに置いてある水晶から突如声が聞こえてきた。

この水晶は遠くの人物と話ができる通信用の魔法石で出来ており、魔法関連を取り扱うお店で誰でも購入することはできる。

 

「あ~、いいじゃね~か。

別によ・・・

ちょっとくらいのんびりさせてくれって。」

 

そう言いながら、男性はあくびをし気持ちよさそうに目を閉じた。

 

『お前はいっつものんびりしてるだろーが!!

ちょっとは仕事に対して真面目に取り組め!!』

 

「馬鹿言うな。

俺は依頼は完璧にこなすさ。

だからこそのんびりしているんだ~」

 

通信相手はその言葉に対し更にグダグダ言っていたが、男性は本格的に寝始め聞こうとはしなかった。

そしてそんな男性のすぐ近くには、巨大なモンスターの尾が転がっており、目の前のワイバーンは本来あるはずの尻尾は根元から切断されていた。

おそらく目の前にいる彼に斬られたのだろうが、ワイバーンは自分の脅威となる彼をずっと探し続けていた。

目の前にいることに全く気付かずに・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

「だ~か~ら~

んな事言われても無理なもの無理だっての!!」

 

強面の男性は木のカウンター越しにいる青年に向かって怒鳴りつけた。

 

「そこを何とかお願いします!!

どんな事でもいいです、教えてください!!」

 

だが、その青年も退こうとはしなかった。

 

「もう、そこしか働き口がないんです。

お願いします!!」

 

そして青年、シントゥアンは続けざまに頭を下げた。

真っ白な髪が床につき、額をこすりつけながら頼んだが、目の前の情報屋はため息1つした。

 

「頭下げたって無理なもんは無理だっての。

情報屋に対して情報をタダでくれなんて商品を無料で配るようなもんだぜ。

しかもお前さんの欲しがってる情報は、大国ですら欲しがるようなもんだ。

そんなに情報欲しかったら、金で買ってくれよ。」

 

シントゥアンが今居るのは、このとある街の情報屋だった。

この街自体に特産物や名所などはないが、優秀な情報屋が複数顕在し世界でも有数な情報街として知られている。

そしてこの青年、シントゥアンはもう1人の仲間と共にとある情報が欲しく、様々な情報屋を巡ってはいるが、結果はどこも一緒だった。

 

ここの情報屋と同じように、情報が欲しければ買ってくれとあしらわれてしまっている。

しかもその情報はどの情報屋に行っても大金をはたいて買えるほどのものだった。

とてもではないが、彼らに払える金額ではなくどうしようもなかった。

 

「つーことで、商売の邪魔だ邪魔。

他のお客さんの迷惑になるからとっとと帰ってくれねぇか。

これ以上騒ぐって言うなら憲兵につきだすぞ。」

 

これ以上この場にいれば間違いなく憲兵につきだされる。

シントゥアンは諦め店を出た。

心なしか歩く速度は遅く、疲れ切っていた。

近くに噴水のある広場を見つけた為、すぐそばの石で出来たベンチに座り込んだ。

 

「はぁ・・・

結局全部、ダメか。

シエルに会わす顔ないな・・・」

 

シントゥアンは大きくため息をすると同時に1人の名を口にした。

それと同時にシントゥアンの頭部に軽い衝撃が走った。

 

「いてっ!?」

 

突然の事に驚き、頭を抑えながら後ろを見ると、水色の髪をした少女が笑っていた。

 

「シエル・・・

急に叩くなよ。」

 

シエルと呼ばれた彼女はシントゥアンと共に旅をする仲間だ。

この街に来た時、より多く情報を集めようということで別れて行動していた。

時間になったら一度合流しようとはなっていたが、集合時間まで時間はまだある。

偶々シエルもこの公園に来て、シントゥアンの呟きを聞いてしまったのだ。

 

「だって、シン最悪だ~って感じでため息ついてたもん。

それに私に会わす顔ないってなに?

ひょっとして収穫なし?」

 

「うっ・・・」

 

痛い所を突かれたシントゥアンは苦虫を噛み潰したよう顔をした。

それを見てシエルは再び笑いだした。

 

「そんなに笑う事ないだろ・・・」

 

「あははっ、ごめんごめん。

でもどーせアンタの事だから馬鹿正直にお店聞きまくったんでしょ?

情報を買うお金なんてないのにさ~」

 

「馬鹿正直って言うなよ・・・

じゃあシエルの方はどうなんだよ?」

 

「あ~、うん、収穫はあったと言えばあったんだけどね・・・」

 

急に歯切れが悪くなるシエルを見てシントゥアンはまたか、とため息をついた。

 

「・・・で、今度の要件は?」

 

「あ、ははっ・・・

飛竜の鱗くれたらって・・・」

 

「飛竜!?飛竜ってあの飛竜か!?」

 

「うん。しかも飛竜の中でも『ファイアドレイク』の鱗がいいって。」

 

今まで欲しい情報をくれようとしている人達をシエルが見つけた事は幾度となくあった。

だが、その人達も唯では情報をくれず、その人達が欲しがっているものとの物々交換と言う形で情報を手に入れていた。

だが今までそれで手に入れてきた情報はガセか時すでに遅いと言ったものばかりだった。

だが彼らにはそのようにして情報を集めるしかなかった。

 

そして今までは貴重な鉱石や、高級な薬草やモンスターの皮や肉など比較的安全に入手できる物が多かった。

だが、今回欲した物は今までとは比べ物にならないほどの物だった。

 

飛竜とはその名の通り、飛翔する竜。

天空を支配し、強靭な翼と牙を持つ数多くいるモンスターの代表格と言っても過言ではない。

その中でも今回名を上げられたファイアドレイクは、高温を好むドラゴンで主に火山地帯など高温の地域に生息している。

高温に適応したマグマのような赤い鱗に、灼熱のブレスを吐くことから火竜やファイアドラゴンなどとも呼ばれいる。

 

「ちょ、ちょっと待て!!

高温の地域にいるファイアドラゴンなんてそうそうお目にかけれないぞ!!」

 

「それがね・・・

最近世界各国で、モンスターの異常行動とか生息地域の変化が多く見受けられてこの近くにもファイアドレイクが姿を現したんだって。

まあ、詳しくは調査中らしけど・・・」

 

「・・・で、今回情報をくれる人はその鱗がほしいって訳か。」

 

「そう言うこと。」

 

「・・・はぁ。」

 

しばらく考えごとをしたシントゥアンはベンチから立ち上がると、腰にさしてある剣を抜き刃を確認し始めた。

 

「って、まさか行くつもり!?

相手は飛竜、ドラゴンよ!!ド・ラ・ゴ・ン!!」

 

「分かってるよ。

けど、鱗を手に入れないと情報くれないんだろ?

じゃあ行くしかないだろ?」

 

そう言いシントゥアン淡々と外へ行く準備をし始めた。

2人は若いながらもすでに何年も世界を旅してきた。

モンスターに襲われる事もあり、独学で剣術や魔法など生き残る術を学んできた。

剣術を得意とするシントゥアンと魔法を得意とするシエルは独学ながらも世界を旅する程度には戦えるが、中でも危険度が高いモンスターとは遭遇しないよう気を付けながら旅をしていた。

だが、今回の標的であるドラゴンは全種の危険度はモンスターの中でもトップクラスでありベテランの剣士や魔法使いが何十人も相手にしてようやく倒せるレベルだった。

 

「まあ、別に真正面から叩こうなんて思ってないよ。

隙を見て鱗を取ってみるよ。

運が良ければ巣とかに落ちてるかもしれないからさ。」

 

「でも、今回は私もついてこうか?」

 

「いや、いつも通り俺だけで大丈夫だよ。

じゃあ、ちょっと行ってくるよ。」

 

そう言いシントゥアンは1人街の外へ行くために、正門へと向かった。

普段から主に戦闘をしているのはシントゥアンだった。

シエルは魔法を得意としても、回復魔法を得意とするだけで攻撃系の魔法はあまり扱えない。

またシントゥアンの方が動きも俊敏で、冷静な判断力もあり今までこのような物資調達も1人で行ってきた。

だが今回は危険度も高い為シエルも同行しようとしたが、シントゥアンは断り今まで通り1人で向かった。

 

「・・・あ~あ、私って必要なのかな?」

 

1人残されたシエルはシントゥアンが座っていたベンチに腰掛けた。

そして、先ほどの明るい印象から打って変わって悲しげな表情をした。

とある事情からシントゥアンと共に旅をするようになって数年経つが、今だ戦闘面に関してはシントゥアンに任せっきり。

攻撃魔法もろくに扱えず、動きも鈍い自分が前に出ても怪我をするだけ。

返ってシントゥアンが自分を庇いながら戦う事になり、迷惑、足手まといになる。

だから戦闘に関しては自分は出しゃばらない、そう決めていた。だが――

 

「・・・やっぱり、嫌だな。」

 

自分だけが安全にいるのに、大切な仲間が危険にさらされるのは嫌だった。

 

「・・・おい、隣いいか?」

 

気が付いたら下を向いていたシエルは誰かに急に声をかけられハッとなって顔を上げた。

するとシエルの目の前には怠そうな眼をした20代くらいの男性が立っていた。

黒い髪の毛に、黒のロングコートを身に纏っていた男性の印象は「黒い」の一言だった。

 

「で、隣いいか?」

 

「あっ、はい・・・」

 

男性に驚いていたが、再び声をかけられハッとなり返事をし、少し横にずれスペースを開けた。。

すると男性は空いたスペースに腰を掛け、大きくため息をした。

無言でいたが、お互い見ず知らずの人が隣に来れば当たり前な状態だろう。

だがシエルは1つ疑問が浮かんだ。

辺りには誰も使っていないベンチはまだ多くある。

ただ休憩するのなら、わざわざ自分の隣でなくても空いているベンチを使えばいいだけだ。

普通の人ならまずそうするだろう。

なのにこの男性はわざわざ自分の横に来た。

 

「・・・あの、何か御用ですか?」

 

シエルは恐る恐る聞いてみた。

わざわざ空いているベンチではなく、自分の隣に来た事を。

あの時は完全に下を向き、普通に見れば落ち込んでいた。

誰もが人の不幸にかかわろうとせず、見て見ぬ不利をするだろう。

なのにこの男性は隣に来た、何かを狙っているとシエルはいつでも動けるように少し身構えながら聞いた。

 

「ん~・・・

あ~・・・そう、だな。」

 

すると男性は軽く考え込むよう空を見上げた。

しばらくすると考えがまとまったのかシエルの顔を見た。

 

「嬢ちゃんが絶望にも似た雰囲気を醸し出してた、からかねぇ?」

 

「絶望、ですか?」

 

「あぁ、この世はうまく回るのに、自分だけが取り残されている。

家族からも仲間からも見放され、1人でいることに恐怖すら覚えながらもどうすることも出来ない。

昔見た、とある奴とそっくりだったんでな。」

 

男性はつい、なと言いながらシエルに笑みを見せた。

だが当のシエルは、まるで心の内を見透かされたような気分になり、また下を向いてしまった。

 

「まっ、ここで会ったのも何かの縁だ。

俺なんかでよければ話くらい聞くぜ。」

 

そう言えれシエルはギュッと手を握り絞めた。

今まで経緯は違えど、何があったか話を聞いてくれる者達はいた。

だが彼らは話を聞いてくれ、同情はしてくれるがそれだけだった。

この男性も今までの彼らと同じように同情くらいはしてくれるだろう。

だが、同情したからと言って何かをしてくるわけでも助けてくれるわけでもない。

そんなことはシエルのただの願望と言うのは分かっているが、助けてもくれないなら初めから興味本位で話を聞くなんて言って欲しくはなかった。

 

「・・・」

 

「・・・言いたく、ねぇってか。

まっ、別に言いたくないなら別に言わなくてもいいさ。

けど、別に俺は興味本位で聞いてるわけじゃなぇ。

誰って言いたくても言えない事の1つや2つはあるさ。

だけどよ、たまには言って発散するのもありだぜ。

それにそう言うのは知ってる奴よりも知らない奴の方が言いやすい時もあるもんだ。

現に、俺とお前さんとはこれっきり会わないかもしれない。

そう言った人間に何かをぶつけるってのもありだと思うぜ?」

 

「・・・貴方に。」

 

「ん?」

 

「貴方に何が分かるんですか?

私が、私達がどれだけ大変な目にあったか!!」

 

そこで初めてシエルは声を荒げた。

周りにいた人々も何事かと見てきたが、シエルに睨まれると逃げるようにその場から離れていった。

だが、目の前の男性だけは静かに座っていた。

 

「物心がつく時から1人外の世界に放りだされていた人の気持ちが!!

親を探そうと必死になって世界を回ってきた人の気持ちが!!

身分がないから碌な仕事にもつけず、犯罪に手を染められそうになった人の気持ちが!!

同じ目的を持っている大切な仲間に守らてばかりで肝心な時に何もしてあげられない人の気持ちが!!」

 

シエルは今まで溜めこんでいた気持ちを全て男性にぶつけた。

シエル自身ただの我儘と言うのは分かっている。

だが気が付いたら、全てをぶつけていた、全てを吐き出していた。

 

「はぁはぁ・・・」

 

気が付いたら公園にはシエルと男性しかおらず、聞こえてくるのは息切れをしたシエルの呼吸の音と、男性が吐いたため息の音だけだった。

 

「そっか・・・

お前さん、小さい時に親に捨てられたのかぁ・・・

そういつはつれーな。」

 

「貴方もそうやって同情するんですか!?

何も分からない癖に!!」

 

もうこの際だ。

今までの恨みを、妬みを、憎悪を、怨嗟を、不安を、不運を、悲しみを、切なさを、劣等感を、不満を、そして絶望を、ありとあらゆる負の感情をこの男性にぶつけようとした。

もう、シエル自身なぜこの男性に全てぶつけようとしているのか分からなかった。

本当に見ず知らずの人だからこそぶつけたのかもしれなければ、男性のなんでも見通している知ったか感が気にいらずぶつけているのかもしれない。

 

「貴方に分かるって言うんですか!?

幼くしてから街でぬくぬくと育てられるのではなく、モンスターから生き延びる術を自ら学ばないといけなかった子供の気持ちが!!

身分がないから捕まっても死んでも、誰も悲しんでくれない。

逆に犯罪に利用されかけた子供の気持ちが!!

何にも知らない癖に、そんな知ったかぶってるんじゃないわよ!!」

 

「・・・はぁ。」

 

それまで静かに聞いていた男性だが、面倒臭そうにため息をついた。

それと同時にどうしたものかなぁ・・・とか言わんばかりに頭を少し掻いた。

 

「まあ、大分ため込んでたんだなぁ・・・

にしても知ったか、ね・・・

確かに、お前さんのような人間も今の時代珍しいわな。

だが一言言っておくぞ?下には、下がいるぞ?」

 

「えっ、な何?」

 

「まっ、言葉通りの意味だ。

でどうだ、色々と吐き出してみて?」

 

「・・・まあ、悪くはないわね。」

 

「そういつは何よりだ。

まっ、いったん水分補給なんてどうだ?」

 

そう言い男性は水をシエルに渡した。

シエルはしばらく考えながら、素直に受け取り再びベンチに腰掛け水を飲み、いく分落ち着きを取り戻した。

 

「にしても身分がねぇ、か・・・

お前も随分と苦労してんだな。」

 

「・・・全くだよ。

身分がないから、ろくに仕事も出来ないからお金も稼げないしね・・・」

 

シエルの言うようにこの世界は身分がない者には厳しいものだった。

身分がなければ、まともな職につくことは難しく、逆に犯罪に利用される者も多くいる。

各国も身分がないものに、厳しい罰則をすることも出来ず、逆に簡単に釈放すると再び犯罪に利用される危険もある。

故に一度憲兵に捕まった身分のない者は、国の監視を受けるか、危険分子として一生牢獄に過ごす事になる者もいる。

 

「だから、さ。

仲間と一緒に、自分が何者なのか・・・身分を、私の私達の存在を確定させたいんだよね。」

 

「仲間?

連れも身分がないのか?」

 

「うん。シントゥアン・・・まあ長いからシンって呼んでるんだけどね。

昔から一緒に世界を旅してるんだよね。」

 

「ふむ、でもその仲間に対して不満・・・

いや、自分自身に劣等感があるってわけ、か。」

 

この男性はなんでもお見通しなのか、とシエルは思った。

 

「凄いね・・・

本当、なんでもお見通しって感じね。

貴方の言う通りよ。

戦闘面になると、いっつもシンが1人で戦ってるのよね~

私は魔法が得意なんだけど、攻撃系の魔法は苦手で回復魔法しかろくに使えないのよね。

で、いっつもシンに守われたり、今みたいに危険だからって置いてかれるんだよね・・・」

 

「なるほどな。」

 

「まあ、それ以外の部分では私がキッチリサポートしたり、世話はしてあげてるんだけどね。

今回も一応情報源を入手したしね。」

 

「情報源?」

 

「うん。ほら私達ってちゃんとした職に就けないからちゃんとしたお金の収入源がないんだよね。

けど、ある組織と言うよりギルドね。

そこなら身分も関係なく働かせてくれるって聞いたし、仕事で世界中に行くからひょっとしたらお母さんやお父さんが見つかるかもしれないしね。」

 

そう言いながらシエルは空を見上げた。

その眼には先ほどのような怒りの感情は無く、希望に満ちた眼だった。

 

「けどさ・・・

そのギルド、色々と秘密も多くてどうやった入れるのか、どこにギルドがあるのかとか全く分かってないんだよね。

ここなら情報が手に入るだろうけど思ったんだけど、正攻法じゃお金がかかるかかる。」

 

本当、困ったもんだよね~など笑いながら言ったシエルは、もう先ほどのように取り乱したりせず、気軽に話していた。

 

「ふ~ん・・・

なあ、そのギルドって・・・」

 

「ああ、まだ言ってなかったね。

無籍国ギルド、ブラッドレス・ペヤァーズだよ。」

 

シントゥアンとシエルが探してるギルド、ブラッドレス・ペヤァーズの名を言うと男性は何やら片目を閉じ何かを考えるそぶりを見せた。

 

「あっ、貴方は何かブラッドレス・ペヤァーズについて何か知ってる?」

 

「・・・いや、残念だが知らないな。」

 

「そう、だよね・・・

謎のギルドだもんね。

・・・にしてもなんか色々と言っちゃって、ごめんなさい。」

 

「気にすることぁねぇよ。

そもそも見知らぬ相手の方が言いやすいって言ったの俺だしな。」

 

「そう、だね。

なんか色々と言いやすかったよ。

あっ、そう言えばまだ名前聞いてなかったね。

私はシエルって言います。貴方は――」

 

長々と話していたものの、自己紹介を今だしていなかった事を思い出し男性の名前を聞こうとした瞬間、『カァーン!!カァーン!!カァーン!!』とけたたましい鐘の音が鳴り響くと同時に正門付近が騒がしくなっていた。

 

突然の事と正門が閉じている事、そしてあまりの人の騒めき具合に気になった2人は様子を見に行ってみた。

そして2人が正門にたどり着き、人ごみをかき分けてみると多くの兵が傷つき倒れていたり、治療を受けていた。

 

「なっ、これは!!

すいません、何があったんですか!?」

 

まさかの光景で言葉を失ったシエルは、一番近くにいた他の兵士に指示を出している兵長らしき人物に声をかけた。

 

「突然数多くのモンスターが徒党組んだかのように襲撃してきたのだ。

今街の外はモンスターの群れがいる。ここは私達に任せて、君も広場まで非難しなさい。」

 

「モンスターの群れって、そんな・・・」

 

そこでシエルは随分と前にファイアドレイクの鱗を取りに街の外へ行った大切な仲間、シントゥアンの事を思い出した。

外にはモンスターの群れがおり、この街の唯一の出入り口である正門は閉ざされている。

そしてモンスターと応戦したであろう傷ついた兵達の中にシントゥアンの姿は交じってはいなかった。

間違いなくシントゥアンは外にいる!!そうシエルは確信した時、門の外で数多くのモンスターの鳴き声が聞こえた。

その声は悲鳴に近いものもあれば怒り狂う咆哮もあった。

 

「開けて!!まだ外に人がいるの!!」

 

シエルは悲鳴にも近い声で訴えたが、兵長は苦い顔をした。

 

「・・・残念だが、今門を開けることはできない。

そうなれば街に被害が出る。我々はそれだけは阻止しなければならない。」

 

「でも!!」

 

「今彼がいる位置では離れすぎている!!

救出は不可能だ!!」

 

だが兵長のその言葉にシエルはとある事に気が付いた。

なぜこの男はシントゥアンが街から離れた場所にいることを知っているのか?

まさかとは思った、考えたくもなかった。

だが、その考えはすぐに現実のものとなった。

 

「ちょっと待ってよ・・・

離れてるって、まさかあんたシンの姿が見えていたのに助けなかったの?」

 

「・・・」

 

シエルの問いに兵長は申し訳なさそうに黙っていたが、それが返ってシエルの怒りを爆発させてしまった。

 

「何よそれ・・・

この街が無事ならそれでいいの?街の住民が無事なら、私達みたいな奴はどうなったっていいって言うの?

結局それがあんた達のやり方だって言うの!?」

 

先ほど公園で男性にぶちまけた時以上の声でシエルは叫んだ。

今までも身分がない奴は信用出来ないとたらい回しにされたり、街によっては迫害にも近い行為を受けた事もあった。

 

「身分がない私達は死んだって構わないって言うの!!

私達の命は何の価値もないって言うの!?」

 

シエルの悲痛な声に、兵長だけでなくその場にいた皆が苦い顔をしたり、逃げるように下を向く者達しかおらず、何かを言い返す者は誰もいなかった。

ただ、1人を除いては――

 

「馬鹿言え、命は平等にあるものだ。

価値のない命などある訳がないだろう。」

 

ただ1人シエルの言葉に反応したのは、あの黒いロングコートを着た男性だった。

一緒に正門まで来ていたはずなのに、気が付いたら見えなくなったと思ったら、今度はシエルのすぐ傍に男性は立っていた。

 

「だが、そこの兵長を責めるのもまた間違いでもある。

ちょっと外を見たが、パッと見300体ほどのモンスターがいた。

中には危険度が高いものもいれば、ドラゴンも数匹見えたな。

そんなモンが街に入り込んだら、戦う術のない住民は一溜りもねぇ・・・

リスクを考えれば、兵長の判断は間違ってねぇよ。」

 

そう淡々と話す男性だったが、その眼はシエルと会った時同様怠そうにはしていたがその言葉には真剣みがあった。

そして判断を間違いではないと言われた兵長もまた改めてシエルに申し訳なさそうな顔をしたと同時に、1つの疑問が生まれた。

街の周囲は高い塀で覆われ、唯一外に繋がる正門も巨大な門で閉ざされている。

この男はどうやって外を見たのか、兵長の疑問などシエルは知る由もなかった。

 

「だからってシンを見捨てろって言うんですか!?

そんなのって――」

 

そんなのってあんまりだ、結局命は平等だなんだ言っても見捨てるんじゃないんですか!!

シエルはそう言おうとしていた。

だが、途中で言おうとしていた言葉を思い止まらせた。

なぜなら男性の怠そうにしていた眼が急に真剣なものへと変わり、まるで別人になったかのように見えたからだ。

 

「だが、見捨てられる命を救う。

争いによる血を無くさせる為に、俺達が創ったギルドがある。」

 

そう言いながら男性は1枚の紙を兵長に見せた。

その紙を見た瞬間、兵長だけでなく周りにいた人々からもざわめきが起こった。

 

「なっ、その許可書は!?

なぜ貴方がそんな物を!?」

 

「無籍国ギルド『ブラッドレス・ペヤァーズ』創設者にして現ギルドマスター、ベルスロウだ。」

 

周りの人々だけでなく、シエルも驚きを隠しきれなかった。

自分達が探し求めていたギルドの、ギルドマスターが今この目の前にいるのだから。

 

「面倒だが、外にいる奴らは俺がどうにかしてやる。

だからちょっとばかし、門開けてくれねぇか?

そっちの方が楽だし。」

 

男性、ベルスロウがそう告げると兵長は少し考えたがすぐに門を少し開けるよう指示をした。

ベルスロウはサンキューと礼を言いながら、門の前へ立った。

 

「あ、あの!!

私も、私も一緒に行っていいですか?」

 

するとシエルがすぐ後ろで同行してもいいか聞いてきた。

シエルとしてはかけがえのない仲間を救いたい一心だった。

その気持ちがベルスロウはすぐに理解し、軽く笑みを見せた。

 

「俺は構わねぇよ。

けど、怪我しても文句は言うなよ?」

 

「は、はい!!」

 

シエルの元気な返事と共に、『開門!!』と大きな声が聞こえると、門が少しだけ開き2人はすぐに門の外へと駈け出した。

 

「はぁはぁ・・・くそっ!!」

 

シントゥアンは額や腕から血を流しながらモンスターと睨み合っていた。

シエルと別れてすぐ、街の外でモンスターの大群と遭遇した。

最初は街の衛兵達も駆けつけ一緒になって応戦していたが、あまりの数に徐々に押され始め後退を余儀なくされた。

だが、このまま退くとしても街にモンスターが接近最悪侵入してしまう危険があった為自ら殿を買って出た。

何とか時間を稼げば、きっと街から増援が来てくれるだろうと思っていた。

だが、シントゥアンの思いとは逆に正門が閉ざされ、街へ逃げることも、モンスターに囲まれ隠れることも出来なくなってしまった。

それでもシントゥアンは活路を切り開こうと、闘い、結果武器も折れ傷も負ってしまった。

 

だがシントゥアンはそれでも何とかしようと、その眼はまだ諦めてはいなかった。

しかし現実では、大量のモンスターに囲まれなす術はもう無くなっていた。

更に――

 

「あはははははっ、もうお終いかな?

にしても流石に可哀想になってくるね。

衛兵や憲兵でも無いのに街や住民の為に身を張ったのに、捨て駒にされちゃったもんね~」

 

まるでモンスターを従えるかのように、巨大な水陸両生の獣『ベヒモス』の頭部に真っ白な仮面を被った1人の人物がいた。

声は変えられている為、背丈だけでは男性か女性かは分からないが、間違いなくこの人物が何らかの方法でモンスターを従え、街を襲おうとしている、と言う事。

 

「けど、流石私もこの状況を許すわけにはいかないね。

おかげで予定が狂っちゃったよ。」

 

「予定、だって?

街を襲うことがか!?」

 

「ん~、それもあるけど性格にはモンスターの数だね。

まさか訓練を受けた兵でもないのに、普通の兵以上に戦ってくれるなんてね・・・

おかげでまたモンスターをスカウトしに行かないといけなくなっちゃったよ。」

 

「・・・まさか、シエルが言っていた最近起こっているモンスターの異常行動や生息地の変化って!!」

 

「あ~、たぶん私達が原因かな?」

 

「っ、何のためにそんなことを!!

それに私達って!!」

 

「はぁ、別にこれから死に逝く人にそこまで言う義理はないね。

それに、こっちは駒が結構減らされて軽く機嫌悪いしね。」

 

「駒、だって・・・」

 

確かに仮面の人物は機嫌が悪そうに、常に貧乏ゆすりをしたりしていたがシントゥアンは『駒』と言う言葉に過剰に反応した。

 

「お前、モンスターだって命があるんだぞ!!

それをどんな理由や方法を使ってモンスターを従えただけじゃなくて、駒扱いなんて!!

お前は、命をなんだと思ってるんだ!!」

 

「あぁ・・・お前もそっち系のタイプか・・・」

 

だが仮面の人物はシントゥアンの訴えを憐れむと同時に、あざけ笑うかのように返事をした。

 

「いるんだよね、お前のようにモンスターにも命はある。

それをなんだと思ってるって説教じみた事言う奴・・・

私はね、そういう奴が大っ嫌いでね・・・

モンスターの命?はっ、私にとっては自分の命以外ただの駒、だよ!!」

 

そして仮面の人物が合図をするかのように手を掲げ振り下ろすと、辺りのモンスター達の咆哮が轟いた。

 

「くっ・・・」

 

シントゥアンはここまでか、と悔やみと同時に覚悟を決めゆっくりと眼を閉じた。

そしてモンスター達に襲われ、全てが終わってしまう。

そう考えた、が――

 

「はぁ~ん、そいつは俺も許せねぇな。」

 

急に気の抜けた声が聞こえ、シントゥアンは驚き眼を開けると、仮面の人物のすぐ隣に黒いロングコートを着た男性、ベルスロウが平然と乗っていた。

声がするまで仮面の人物も、頭部に乗られているベヒモスですらベルスロウの存在に気が付かなかった。

 

「お、お前誰だ!?

と言うよりいったいいつからそこにいた!?」

 

あまりの出来事に仮面の人物は取り乱しながら聞いてきたが、ベルスロウは答えもせずにベヒモスの頭部から飛び降り、何事もなかったかのように地面に着地するとそのままシントゥアンの元へ向かった。

 

「あー、お前がシエルの言っていたシンって奴か?」

 

「シエルを知っているんですか!?」

 

「ビーンゴ。」

 

ベルスロウはそう言い、指を『パチンッ!!』と鳴らすと、今度はシエルがベルスロウの横から突如『現れた』のだ。

 

「シン!!無事だったんだね!!」

 

「シエル!?

今、どこから!?」

 

「えっ、どこからって・・・

ずっとベルスロウさんのすぐ傍にいたけど・・・」

 

「あ~、まあ何はともあれこれでめでたしめでたしってことで。

んじゃあ、戻るか。」

 

互いに意見がうまく合わず困惑していたが、ベルスロウは相変わらず怠そうな口調で帰ろうとするが、仮面の人物が許すはずもなかった。

 

「お前無視してんじゃないぞ!!

それにこの状況このまま帰れると思ってるのか!?」

 

「あ~?」

 

気が付けば、3人を取り囲むように多種多彩なモンスターが今にも襲い掛かりそうな状態だった。

シエルはシントゥアンの怪我を回復させようと、回復魔法をかけているがその手は震えており、シントゥアン自身先ほど覚悟が途切れ、死を恐怖していた。

だがベルスロウだけは平然とし、面倒臭そうに辺りを見渡した。

 

「あ~、うっせーよ。

質問はいつからいた?だったな。

あはははははっ、てお前が笑ってた所からいたぜ。」

 

「それほとんど最初からいたって言うのか!?」

 

「そうだな。んで、次。

このまま帰れるかって?

・・・もちろん帰るつもりだが?」

 

相変わらず怠そうな声で淡々と仮面の人物の質問などに答えていたシントゥアンだったが、最後の言葉には確かな殺気がこもっていた。

 

「おい、モンスター達に問う。

俺はそこの仮面野郎と違って命は大事にしたいし、お前達には常に敬意を持っている。

だが、お前達が俺達を襲うつもりなら俺はお前達をぶっ倒さないといけない。

どうする?ここで朽ちるか、去って平和的に済ませるか・・・」

 

そして先ほどまでの怠そうな口調とは打って変わって、その声には真剣さと敬意、確かな殺気があると同時に、眼もまた怠そうな眼から鋭い眼差しへと変わっていた。

そして眼には見えないが、ベルスロウからは異質な雰囲気が漂っていた。

 

「「!!??」」

 

ベルスロウのあまりの変化に、シントゥアンとシエルは気圧されこの人は自分達の味方だと言うのに、恐怖にも似た感覚に襲われた。

それは2人だけでなく、仮面の人物も、モンスター達も同じだった。

気が付けば、小型や危険度の低いモンスター達は一斉に逃げ出した。

だが強大な力を持つ危険度の高いモンスター達はその場に残り、戦う意思を見せていた。

それでもドラゴン系や巨人系、動植物系のモンスター達約100体ほど残っていた。

 

「ほぉ~ん、流石にこのくらいは残ると思っていたが・・・

はぁ、面倒だな。」

 

するとベルスロウから異様な雰囲気は消えたが、真剣な眼差しは変わらなかった。

仮面の人物も一瞬気圧されたが、残ったモンスターを把握してすぐさま強気な態度を取った。

 

「はっ、まさか戦うつもりかですかい?

残ったモンスターは全て危険度が高く、危険指定されている程の強力凶悪なモンスターどもだ。

一方お前達は、ボロボロな小僧と戦闘向きじゃない小娘。

お前は結構力を持ってようだけど、これだけの数を相手に――」

 

「ギャーギャーうるせぇよ。

言ったろ、このくらいは残ると思っていたと。

それじゃあ、ちょっと悪いが先に仕掛けさせてもらったぜ。

それを合図に開戦だ。」

 

仮面の人物の言葉を遮り、ベルスロウが左手を掲げ指を『パチンッ!!』と鳴らすと、突如辺りのモンスター達が何の前触れもなく切り刻まれた。

 

「え!?」

「なっ!?」

「はぁ!?」

 

予想だにしていなかった現象に、この場に居たベルスロウ以外の人間は驚きのあまり声を上げ、モンスター達も何が起こったのか分からず動きが止まった。

 

「悪いな、卑怯とか思わないでくれよ。」

 

唯一、この事態を理解しているのではく、何らかの方法で仕掛けたベルスロウだけが動きだし、左右の腰の携えた3本の剣の内2本を抜き、モンスターへ向かっていった。

それでも残りのモンスターは数多く、火竜ファイアドレイクに以前ベルスロウが尾を切った飛竜ワイバーン、百の頭を持つと言われる不死竜『ラードン』。

様々な種族の混合種『キマイラ』、単眼の巨人『サイクロプス』、貪欲な人食い獣『マンティコア』など危険度が高いモンスターがいた。

だが――

 

「ほいよっと!!」

 

ベルスロウは鮮やかな動きで、全ての攻撃を躱すと同時に簡単にモンスターの強固な鱗や皮膚を斬り裂き、腕を足を翼をそして首を次々と切り下して行っていた。

 

「ちーっとばかし斬るのも面倒になってきたな・・・」

 

辺りを見渡しながらベルスロウはそういうと、左手に持っていた剣を空高く放り投げた。

モンスター達は一瞬気を取られたが、剣はベルスロウのはるか遠く地面に突き刺さると同時に腰にある3本目の剣を抜くとこちらもまた地面へと突き刺した。

 

「聖と邪の剣に飲まれよ、混沌の剣(カオス・ブレード)!!」

 

するとベルスロウの2本のが光出したかと思うと、地面より巨大な白と黒の剣が何本も現れた。

その剣は互いに直線に進み、その車線上にいた多くのモンスターを次々と串刺しに、最後には互いの剣がぶつかると大きな爆発を生み消滅した。

ベルスロウが放った剣を使用した攻撃魔法により、モンスターの数は一気に減った。

だが、強力魔法を使用した反動からか動きが一瞬止まったベルスロウを好機と見たのか、近くにいたサイクロプスが巨大な棍棒で叩きつけた。

棍棒はベルスロウの頭上から振り下ろされ、その衝撃で大きなクレーターができた。

 

「ベルスロウさん!!」

 

サイクロプスの一撃が大地を抉るほどの威力を持ち、シエルは驚きのあまり声を上げた。

隣にいるシントゥアンもまた、声には出さなかったがその表情からは驚きと絶望がうかがえる。

もしあのような攻撃を受ければ、人など形を残さず吹き飛んでしまうだろう。

先ほどまでの闘いっぷりを見る限り、ベルスロウが今まで会った誰よりも強いと言うのは分かった。

だがそれは人としてで会って、どうあがいても普通の攻撃や耐久力はモンスターの足元にも及ばない。

シントゥアンは改めてそれを理解すると同時に、自分の所為で関係のない人物まで巻き込み死なせてしまった。そう思った。

 

「ふぅ、相変わらず凄い威力だな~」

 

だがそう思った矢先、聞きなれた怠そうな声が聞こえてきた。

シントゥアンとシエルはハッとして、声をした方を見ると、クレーターの中心部。

サイクロプスの棍棒と地面の間にベルスロウは平然と立っていた。

いや、より正確に言うのなれば、棍棒を切っ先で止めて立っていた。

それも驚く事に、左の剣で平然とした様子で棍棒を受け止めていた。

 

「よぉ、デカ物。今の攻撃よかったぜ。

相手が俺じゃなかったら今のでお終いなくらいにな?

だから、自身を持って逝けや。」

 

そう言うと、空いている右の剣を下から大きく降ると、棍棒が真っ二つに分かれた。

あまりの事に、サイクロプスが戸惑い、1、2歩下がると、今度はサイクロプス自身が真っ二つに分かれ、大量の赤い血が辺りに飛び散った。

 

「な、何なんだよ・・・アイツは・・・」

 

ベルスロウの闘いっぷりを見て仮面の人物は驚きのあまり、ただ立ち尽くしてしまっていた。

ベルスロウの実力は予想を大幅に凌駕し、剣術、魔法、動きすべてに置いて化け物と言っても過言ではなかった。

 

「ちっ、こうなったら・・・」

 

このままでは間違いなく用意したモンスターは全滅してしまうだろう。

そう思った仮面の人物は、ベヒモスから降りとある場所に向かった。

 

「ほっ、はっ!!」

 

その間にもベルスロウは地面に突き刺さった剣を回収し、3本の剣をジャグリングするのかのように華麗に扱いながら道行くモンスターを斬り倒して行っていた。

 

「おい、お前!!」

 

だが途中で急に呼び止められ声のした方を見ると、仮面の人物が光の縄のようなものでシントゥアンとシエルを縛り拘束し地面に倒されていた。

2人は抵抗したのか、シントゥアンだけでなくシエルにも所々汚れや傷が見えた。

 

「これ以上余計な事はするなよ。

さもないとお連れの2人はどうなっても知らないぞ。」

 

そう言いながらシントゥアンの首元に、短剣を突き付けた。

シントゥアンは痛みと恐怖から顔を歪めたが、鋭い眼で仮面の人物を睨みつけた。

 

「あ?何だよその眼は?

お前状況が分かってるのか!!」

 

睨まれた事に癇に障ったのか、シントゥアンの髪をつかみ顔を地面に叩きつけた。

 

「がっ!!」

 

「お前は、状況、分かってないだろ!!

人質の分際で、歯向かおうと、してんじゃねぇよ!!」

 

仮面の人物は怒りに任せ、何度も何度もシントゥアンを叩きつけ、その度に短い悲鳴や血が出ていた。

 

「やめて!!

もう、やめてよ!!」

 

シエルは泣きながら止めようとしたが、縄でまともに動けず、解こうともがけばもがくほど縄はより強く締め付けられていた。

 

「お前も変に抵抗しようとするなよ?

その縄は私の魔力で作られているんだ。物理で何とかなるようなものじゃないぞ?

さて、分かっただろ?

これ以上抵抗しようものな・・・ら?」

 

仮面の人物は冷ややかにそう言うと、シントゥアンから手を離し、先ほどベルスロウがいた場所を見た。

だが、その場にベルスロウはいなかった。

ただ逃げたとも思ったが、辺りのモンスターが逃げたベルスロウを追う。

しかし辺りのモンスターは、ベルスロウを探すかのように辺りを見渡したり空から姿を確認しようとしていた。

仮にベルスロウが空に逃げようが、地に潜ろうが、モンスターは容赦なく追う。

仮面の人物もモンスターの動きから、何が起こったのか認めたくはないものの、その事実を受け止めた。

 

「・・・消え、た?」

 

仮面の人物はそう呟いた。

ベルスロウがこの場から忽然と消えた。

そうでなければモンスターの動きも説明が付かなかったからだ。

 

「・・・え?」

 

「どう、して?」

 

だが逆にシントゥアンとシエルは不思議で仕方なかった。

突然、モンスターだけでなく仮面の人物が何かを探すように辺りをきょろきょろとし出したから。

先ほどまで敵意をむき出しにしていたのに、それが嘘のように慌てて何かを探していたからだ。

2人には一体何を探しているかは分からなかったが、先ほどまで敵意をむき出しにしていた相手、ベルスロウが何事もなかったかのようにモンスター達の間を平然と通っているのが見えたからだ。

 

だがベルスロウはただモンスター達の間を通っているのではなく、所々でモンスター達を斬ってはいたが、斬られたモンスター達は斬られたはずなのに何ともなく、平然としていた。

 

「ほい、到着。」

 

ベルスロウがシントゥアン達の元へたどり着くと同時に、再び指を『パチンッ!!』と鳴らすと、仮面の人物だけでなく辺りのモンスター達はハッっとなってベルスロウを見た。

 

「お前、いつの間に!!」

 

ベルスロウの存在に今まで気づかなかったかのように声を上げた仮面の人物に反応し、辺りのモンスター達も標的を見つけた合図か大きな咆哮が所々上がったのと同時に、多くのモンスターが突如斬り刻まれた。

 

「なん・・・で?」

 

仮面の人物は驚くと同時に、戦意も喪失しつつあるのか持っていた短剣が手から離れ地面に落ちた。

それが合図となったかのように、残っていたモンスター達が一斉にこの場から散り散りに離れていった。

 

「なっ、しまった!!」

 

その光景に仮面の人物は反応し、何かしようとしたのか地面に黒い光の模様が発生したが、すかさずベルスロウが仮面の人物の前に立つとその模様が消えた。

 

「っ・・・」

 

「なあ、お前さん。

それ、魔操術(まそうじゅつ)だろ?それもとびっきりの。」

 

「魔操術だって・・・」

 

ベルスロウが言った操魔術と言う単語にシントゥアンはが反応したが、シエルは何の事か分からずキョトンとしていた。

 

「シン、その魔操術って?」

 

「その名の通り魔、つまりモンスターを意のままに操る事が出来る魔法だよ。

けど、モンスターの意を反し思うがままに操る事は、生き物の尊重を侮辱するとして、魔導協会が指定する禁術の1つだよ。」

 

「と、言っても習得したり発動するには相当の時間や魔力が必要となるからそうそう出来る魔法じゃないがな・・・」

 

シントゥアンの説明に捕捉するかのようにベルスロウが続け、仮面の人物はばつが悪そうに少し後ずさりをした。

 

「まっ、別に禁術を習得しようが俺としちゃどうでもいいが・・・

生き物の意思を尊重しないのは許せねぇな。

それと、魔操術ってことはだな・・・お前さんもうどこまで『墜ちて』いる?」

 

ベルスロウが静かに言うと、仮面の人物は少し舌打ちをしたが、シントゥアンとシエルは意味が分からずキョトンとした。

 

「っ、知らないね。

ここは分が悪いね、退却させてもらうよ。」

 

そう言うと仮面の人物は逃げるように何かの石を懐から取り出したが、ベルスロウが一瞬早く反応し、固めた拳を顎目がけ放った。

ベルスロウの拳は見事に顎に命中すると同時に、仮面の人物は空高く舞った。

 

「がはっ!!」

 

あまりの衝撃に仮面が割れると、男性であろう素顔が現れになったが、その顔の所々に竜のような鱗が見えた。

だがそれと同時に、撮りだされた石が眩しく光出すと一瞬の内に仮面の人物の体が光に飲み込まれ、光が消えるとすの姿も消えていた。

 

「ちっ、逃がしたか・・・」

 

ベルスロウは別に悔しそうでのなんでもなさそうな口調でそう言った。

 

「あ、あのベルスロウさん?

あの光はいったい?」

 

突如石が光だし、瞬く間に人を飲みこみ姿を消した。

その事が疑問に思ったシエルは聞いた。

 

「あれは転送用の魔法石だ。

使用時に強烈な閃光を放ち、周囲にあるモノを記録した場所へと送ってくれる。

まっ、石が超貴重でかなり高価なもんだから簡単には市場に出回らない物だ。

ある程度、距離とか制限はあるがな。」

 

シエルの疑問に淡々と答えながらベルスロウは2人に纏わりついていた光の縄をいとも簡単解き、助け起こした。

 

「あ、あの助けていただいて本当にありがとうございました。

何とお礼を言ったら・・・」

 

そして助けられたシントゥアンは礼を言い、辺りを見渡した。

そこにはあの仮面の人物に操られていたとは言え、ベルスロウによって倒された多彩なモンスターだったモノが大量に転がっていた。

大地は抉れ、地は赤黒く染まり、ベルスロウの圧勝とはいえ、その戦闘の激しさを物語っていた。

 

「っ・・・」

 

その光景にシントゥアンは言葉を失ってしまい、悲しげな顔をした。

隣にいるシエルもなんと声をかけていいか分からず、心配そうにシントゥアンを見た。

 

「あ~、そうだお前さんたち・・・

これからどうするつもりだ?」

 

2人の様子にとりあえず何か言わないと不味いと思ったのか、ばつが悪そうに頭を少し掻きながらベルスロウは尋ねた。

その口調は先ほどまでとは違い、真剣みはないものの、怠そうでのんびりとだがどこか安心できる、そんな声だった。

 

「あっ、そうだ!!

ねえシン驚かないでね!!

この人、ベルスロウさんって言うんだけどね!!」

 

「あ~、俺の事なら自分で言うさ。」

 

ベルスロウに言われハッとなったシエルは少し興奮気味に言った。

だがベルスロウはシエルの口からでなく自分の口で言うとシントゥアンの前に一歩出た。

 

「改めて俺はベルスロウってもんだ。

お前さんたちが探してる無籍国ギルド、ブラッドレス・ペヤァーズの創設者にして現ギルドマスター。

ベルスロウ・アルクトスだ。」

 

「ブラッドレス・ペヤァーズのギルドマスターって・・・

まさか、そんな・・・」

 

「どう、驚いたでしょ?」

 

ベルスロウがそう名乗ると、シントゥアンは驚き眼を見開いた。

それをシエルは嬉しそうに笑みを見せ、ベルスロウもまた軽く笑って見せた。

 

「さぁ~て、まあ一応どうするつもり・・・とは聞くが、こんな外じゃあれだ。

ゆっくり話ができる場所で話すか?」

 

「はい!!」「うん!!」

 

シントゥアンとシエルは元気よく返事をし、ベルスロウと共にそのまま街から離れていった。

道中、幾度となく質問しあったり、世間話をしていると、3人の前には次第に木々や草木が生い茂る道を行き、気が付けばどこかの森の入り口まで来ていた。

そこでふとベルスロウは足を振り返り、シントゥアンとシエルを交互に見、口を開いた。

 

「さて・・・ようこそ、だな。

俺達のギルド、ブラッドレス・ペヤァーズに。」

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