突如、森の入り口でようこそと言われシントゥアンとシエルはキョトンとした。
この人はいったい何を言っているのか、と。
だがベルスロウは不適に笑うと、コートのポケットから小さな石を取り出した。
その石は、あの時か面の人物が使った転送用の魔法石とよく似ていた。
「あっ、それは・・・」
「転送用の魔法石、ですか?」
その石を見たシントゥアンとシエルはほぼ同時に声を上げた。
だがその言葉は予想通りだったのか、ベルスロウはちょっと違うなと不適に笑いながら答えた。
「こいつは転送も可能だが、とある鍵でもあるんだよ。」
「鍵、ですか?」
「そっ、まあ玄関を開ける鍵だと思ってくれていいぜ。
だから、この魔法石じゃないと絶対に俺達のギルドには入れない。
見つける事も出来ないんだよ。」
ベルスロウは説明しながら石に魔力を与えた。
すると、あの時同様石が強く光出すと、一瞬にしてベルスロウ達を光が飲みこんだ。
あまりに強い光にシントゥアンとシエルは眼を覆った。
そして光が次第に消え、2人は恐る恐る眼を開けると、森の中なのか辺りは木や草木で覆い尽くされ、葉の隙間から日の光が降り注いでいた。
だが2人はいつの間にか森の中にいる、と言う事よりも目の前にある光景に驚きのあまり声を失った。
そう、今2人の前には明らかに人の手によって作られた巨大な建物がそびえ立っていた。
「こ、これが・・・」
驚きのあまり唖然としていたが、よくやくシントゥアンが口を開いた。
すると、建物奥から巨大な何かが、ぬっと顔を出した。
「ド、ドラゴン!?」
顔を覗かせたのは長い首に立派な角、そして鋭い牙を持ったドラゴンだった。
かなり高齢のドラゴンなのか、人で言う顎辺りには立派な髭があり、右目には大きな傷があった。
「くっ、ここでドラゴンに会うなんて!!」
シントゥアンはとっさに身構え剣を抜こうとするが、剣は先の闘いで折れてしまっている事を思い出したのか、柄に手を掛けた状態で固まってしまった。
シエルも同様に身構えたが、目の前にいるドラゴンは今まで見た来たモンスターの中でも破格の貫録と絶対強者のような覇気を放っており、その足は震えていた。
「ま、まさか古龍、『エンシェントドラゴン』・・・」
シエル同様、足を震えながらシントゥアンはまるで自分に言い聞かせるように呟いた。
竜、ドラゴンにも生息地域などによって多種多彩な姿形をしており、それぞれ異なる名がつけられている。
だが、今3人の前にいるのはドラゴンの中でも別格と言っても過言ではない、古龍エンシェントドラゴンと名がつけれた存在だ。
ドラゴンは他の生物よりもはるかに長寿で、中には数千数万年を生きる個体も存在すると言われている。
その長い時間でドラゴンは、歳を重ねるごとに知識を得、能力を高めることで、全てにおいて万能とも言うべき力を身につけ、神にも等しいとも言うべき能力を身につけることがある。
それは他の生物では到底たどり着くことの出来ぬ境地でもあり、またドラゴンの中でも限られた個体しかたどり着けず、伝説の存在として語り継がれている。
それが古龍と呼ばれるエンシェントドラゴンだが、その伝説上の生物が今姿を見せていたのだ。
「っ・・・」
「あっ、あぁ・・・」
まだ、何もしていないのにその姿からシントゥアンとシエルはその緊張感からか、過呼吸にもなりかけていたが、ベルスロウは古龍と言う事をを気にする素振りも見せず普通に接近した。
「おい、長老!!
急に出てくるなよ。普通の奴ならビビるから。」
それだけでなくベルスロウは平然と古龍に向かい、長老などと呼び話かけ始めた。
思いもしなかった行動に、シントゥアンとシエルは更に唖然とした。
『何、見慣れぬ気配を感じたものでな。
ただの確認しに来ただけだ・・・』
だがベルスロウの言葉を理解するだけでなく、人の言葉で普通に会話をし始めた事にもう2人は驚きや唖然、恐怖など全て通り越し逆に驚くほど冷静になってしまった。
「あ、あのベルスロウさん?
長老って?」
「あ?あぁ・・・
あのエンシェントドラゴンの事だよ。
元々はこの樹海の奥地でひっそりと住んでたんだが、うちのギルドメンバーの奴がちょっとした事で見つけてスカウトしちまったんだよな~」
シントゥアンの質問にベルスロウは面倒臭そうに答えたが、その答えもまた予想だにしていないものだった。
「スカウトって・・・」
「まあ、それに関しちゃ後でな。
んで、今は互いの利害の一致から色々と手伝ってくれてるわけ。
そんで他のドラゴンやモンスター達もまとめ上げてるし、俺達も色々と助けてもらってるから長老って呼んでんだ。」
「は、はぁ・・・」
「う、うん・・・
もう私今日色々あり過ぎて、数日は何があっても驚いたりしない自信あるよ。」
2人はもう何があっても驚かない、そんな事を思っているとエンシェントドラゴン、長老がぬっと2人をよく見ようと顔を近づけた。
それに応じ、建物の後ろから今まで見えなかった巨大な4本の四肢に胴体、そして翼が見え、その姿は凛々しく、神々しいものだった。
『・・・分かってはいたが、お前はまた余計な事をするな。
お前も分かっているのだろ?
分かっているうえで、自分が何をしているか理解しておるのだろうな?』
2人を見つめた長老は、今度はベルスロウを見何やら意味深な事を尋ねた。
だが尋ねられたベルスロウは興味なさそうに欠伸をしながら返事をした。
「あ~、分かってるて。
説教なら後で聞くから、中入っていいか?」
『・・・お前と言う奴は。』
長老はどこか諦めたように言うと、顔を引っ込めずどんっ、ずどんっと言う地鳴りを鳴らしながら建物の裏へ戻って行った。
「あ~、んじゃあ中入っか。」
長老と呼ばれるエンシェントドラゴンの姿が完全に見えなくなると、ベルスロウは2人を促し建物の扉を開け中に入って行った。
2人もまた恐る恐る中へ入ると、とても広い屋敷のような広間が眼についた。
「お帰りなさいませ、ベルスロウ様。」
2人が玄関で立ち止まっていると、奥からメイドの衣装を着た女性が2人現れ声をかけてきた。
その2人は互いに顔がよく似ており、年齢もシントゥアン達と大差ないようにも見える。
ベルスロウはメイド姿の2人に軽く挨拶をし、何か会話をすると1人がシントゥアン達を見た。
「ベルスロウ様よりお話は伺いました。
私はこのギルドの皆様のお世話をさせていただいております、リエーフと申します。
こちらは姉のリュコスです。
シントゥアン様、シエル様以後お見知りおきを。」
そう挨拶し、頭を下げた。
姉のリュコスもまた妹のリエーフから一歩離れたところで同様に頭を下げており、2人は突然の事に戸惑いながらも返事をした。
「さて、んじゃあこっち来てくれや。」
そしてベルスロウに奥の部屋から手招きさて行くと、そこは食堂なのか大きなテーブルに大量の椅子が並べられていた。
そこにはベルスロウ以外に6人の男女がいた。
パッと見多くの者はベルスロウと同年代か、少し年下の者もいれば、1人どこか貫録のある40代くらいの男性もいた。
「お~、揃ってるな。
んじゃあ紹介すっわ。
今回、ギルドに入ることになったシントゥアンとシエルだ。
仲良くやってくれ。」
ベルスロウは突然そう言うと、シントゥアンとシエルは驚き、他の6人達は何やら思いつめた者もいれば、2人の顔をよく見る者など様々なリアクションをしていた。
「えっ、入ることになったって・・・
いいんですか!?」
ベルスロウが言った事が信じられず、シントゥアンは聞き返し、シエルもポカーンと口を開け固まってしまっている。
確かにこのギルド、ブラッドレス・ペヤァーズに入りたいとは思っていた。
だが、偶然シエルと街で会ったギルドマスターが、これまた偶然モンスターからの襲撃と遭遇し、そしてそのままついて来ただけだった。
道中で質問など多くの会話をしていたが、てっきり試験でもするのかと思っていた2人は驚きしかなかった。
「あ?何だ嫌だったのか?」
「えっ、いや・・・
嫌と言うかすっごいうれしいんですけど・・・」
「そんな簡単に入れてもらっていいんですか?」
シントゥアンとシエルの気持ちと疑問はもっともだった。
ギルドマスターがなんか怠そうにしたり適当な所や、古龍をも管理しているだけで普通のギルドではないと思ってはいたが、それでも世界最強とも呼ばれ謎の多いギルドでもあるだけに、こんな簡単に入れてもらえることが不思議でならなかった。
「ん?まあいいんじゃね?
一応俺がマスターなんだから、俺が決めてもよ。」
ベルスロウの予想外の回答に、シントゥアンとシエルだけでなく、その場にいる他の6人も呆れかえっていた。
「ベルスロウ・・・
お前、少しはギルドマスターとしての自覚をだな――」
するとこの場で1人、東洋の衣服に身を包んだ男性が一歩前に出、ベルスロウに講義をしようとするもベルスロウは面倒臭そうにあしらった。
「あ~、そうだラースン。
後の事頼んでいいか?」
「なっ!?
なぜ俺が・・・」
「お前一応サブリーダーみたいなもんじゃん。
つーことで、ヨロシク。」
「待て、話は・・・ちっ・・・」
ラースンと呼ばれた東洋の衣服の男性の返事を待たずに、ベルスロウは1人食堂を後にした。
そして勝手に新人を入れ、挙句の果てにその後の事も任されたラースンは軽く舌打ちをし、その鋭い眼でシントゥアンとベルスロウを見た。
その眼光に2人は恐ろしさのあまり半歩下がってしまった。
「これラースン、そう睨むでないぞ。
小童共が震えておるがな。」
その様子を見かねたのか、この場で最年長であろう40代の男性が助け舟を出した。
「ベルスロウが連れてきたのだ。
何か理由があっての事だろう・・・」
「・・・勝手にしろ。」
男性に言われ、ラースンは一言言い捨てると、ベルスロウ同様食堂を出ていってしまった。
「やれやれ、アイツもまだまだだな。
っと、すまなかったな。
アイツは普段は冷静なのだが、ちょっとしたことですぐカッとなってしまうんだ。」
「あっ、いえそんな・・・」
「アイツの名はラースン。
ラースン・ドラーク・・・
根は良いやつだし、このギルドの事を第一に考えていてここのサブリーダーを務めている。
そして儂はグリーモ・ヴォルペだ、これから頼むぞ小童よ。」
そう自己紹介しグリーモは手を差し伸べた。
それをシントゥアンは戸惑いながらも握手し、シエルも同様に握手をした。
「グリちゃん。
私達もちゃんと紹介してよ~」
グリーモとの握手を終えると、この中で一番小柄な少女が2人の前に出てきた。
「ねーねー、私はベルトニーって言うんだ。
ベルトニー・フリーゲね、貴方達は?」
「あっ、僕はシントゥアンって言います。」
「私はシエルです。よろしくお願いします。」
「ふむふむ、シンちゃんにシーちゃんね。
これからよろしく!!」
元気がいい、と言う言葉がぴったりなベルトニーに突如あだ名を付けられハイタッチを求めるように手を掲げた。
2人はこれまた戸惑いながら手を上げると、ベルトニーは勢いよく2人の手にタッチし気分よく元いた場所へ戻って行った。
「やれやれ、ベルトニーの嬢ちゃんは元気がいいな。
俺はアスト・アラクランだ。
ヨロシクな、綺麗なお嬢さん。」
今度はアストと名乗った美形の男性が、シエルの片手を握り片膝をつき挨拶してきた。
突然の事にシントゥアンは驚き、当のシエルも何が何だか分からずオドオドしていた。
すると突如1人の女性がアストの頭部を勢いよく打った。
「いたっ!!痛いじゃないか、レヴィン!!」
「シエルちゃんが困ってるように見えたからね、助けてあげたんだよ。
私はレヴィン・シュランゲよ。
アストはこう見えて結構女たらしだから気を付けてねシエルちゃん。」
「は、はい・・・」
「ははっ、で俺で最後か。」
レヴィンに叩かれたアストは面白くなさそうに、シエルから手を離し数歩後ろに下がった。
するとまだ名乗って居なかった最後の男性が勢いよく一歩前に出ると、力強く口を開いた。
「俺はプライドだ、プライド・タオース。
このギルド一番の稼ぎ頭だからよ、困ったことあったなんでも言ってくれや!!」
「・・・さて、以上が儂らギルド、ブラッドレス・ペヤァーズのメンバーだ。」
最後の人物プライドの紹介が終えると、グリーモが改めて説明をするために再び2人の前に出てきた。
「儂らはベルスロウを含めた7人で主だって依頼をこなしている。」
「7人!?たった7人ですか!?」
予想外の言葉にシントゥアンは声を大きくして驚いた。
隣にいるシエルも驚きのあまり口を開けて固まってしまっている。
それもそうだ。このギルド、ブラッドレス・ペヤァーズは無籍国ギルドながら世界中から多くの依頼が寄せられ、その依頼は物資の運搬からモンスターの討伐、用心警護など幅広く且つ危険な任務が多くあると聞いてきた。
そして、その依頼の内容やこなしてきた数、様々な国からの信頼などからいつしか世界最強のギルドなどの呼び名が付くほどだった。
その世界最強のギルドの主だったメンバーがたったの7人と言う事は、たった7人で世界最強とまで呼ばれる程のギルドにしたと同時に、個々の実力がどれほどのものか2人には計り知れなかった。
「まあ、先ほど表でリュコスとリエーフにも会っただろうが、他にも仲間いる。
だが彼女らは儂らと共にギルドで生活はしているが、任務を受けはせん。
任務に行く儂らの代わりに、家事をしたり、色々な雑務などをやってくれている。
いわばそれが彼女らの任務だ。」
グリーモはここで言葉を止め、観察するかのようにシントゥアンとシエルを交互にじっくりと見た。
2人は不用意に口を挟まず、緊張した面持ちでグリーモの様子を見ていた。
「ふん・・・
どうやら小童、お主らはどちらかと言えば儂らと共に依頼をこなして行く方が適しているようだな。
・・・どうやら、詳しくはまた後日のようだな。」
するとグリーモが食堂の入り口を見つめ、2人はそれにつられるように見ると、そこには先ほど出ていったラースンともう1人、執事服を着た若い青年が立っていた。
そしてラースンは、ついて来いとだけ言うとさっそとその場を後にした。
シントゥアンとシエルはグリーモ達に頭を下げ、急ぎラースンの後を追った。
食堂を出、3階まで登り、一番奥のある扉の前にたどり着くとラースンは足を止めた。
「ここがお前達の部屋だ、好きに使え。」
そう言い扉を開けると、中には2人分のベットと収納スペース。
そして中央には丸テーブルが置かれた中々な広さを持った部屋だった。
「すまないが2人で共有して使ってくれ。」
中に入り、ある程度の説明を終えたラースンが最後にそう言った。
仲間とは言え、男女を同じ部屋にする事になった事に対しての発言だろうが、2人にとっては特に気にするようなことではなかった。
「別に大丈夫ですよ。
ずっと2人で旅してきましたから・・・」
「逆にこんな立派な部屋を用意してくれただけでうれしいです。」
その言葉にラースンは少し驚いたのか軽く眉が動いた。
いくら一緒に旅をして来たり、信頼しきった仲であっても異性と同じ部屋と言うのは少なからず抵抗は出る。
だが2人はそんなことを全く気にするようすもないのは、ラースンが思っていた以上に2人の絆、信頼は強く、固く結ばれていた。
「そうか・・・
なら、明日の正午。
改めて食堂に来てくれ。
後の事は頼むぞ、ヴァルケン。」
「かしこまりました。」
ラースンが明日の予定だけ伝え、後の事を執事服の青年ヴァルケンに任せると部屋を後にした。
ラースンを見送ったヴァルケンは改め2人を前に自己紹介を行った。
「私はヴァルケンと申します。
この度はシントゥアン様とシエル様の身辺のお世話を申付けられております。
以後、お見知りおきを。」
そう言い深々と頭を下げたヴァルケンに2人も軽く会釈をし答えた。
そしてヴァルケンはこのギルドとメンバーについて説明し始めた。
「それではお2人にはここでの利用などについてご説明いたします。
まず初めにですが、このギルドが開拓された周囲へは行かないことです。」
「開拓された?」
「そうです。
まだギルドの外見しかご覧になっていないと思いますが、周囲はベルスロウ様達がより生活しやすいよう、ある程度開拓なされたのです。
その周囲には、ベルスロウ様達に協力的なモンスター達も多く出入りし、この森の中でも比較的安全なのです。」
「も、森?」
ヴァルケンの説明の要所要所で質問しなかなか話は進まないが、ヴァルケンは嫌な顔せず1つ1つ丁寧に教えていった。
その中で協力的なモンスターと言う言葉は、このギルドに来た時であった古龍長老で簡単に受け入れることが出来た。
だが、この場が森だと言う事は2人とって初めて知った。
多くの木々があったことから森の中ではないかとは思っていたが、本当に森の中にギルドがあると言う事を知った。
「でも、どうして森の中に?
それに私達も調べてたけど、森の中にあるなんて情報聞いた事なかったよ?」
シエルの疑問はシントゥアンも思っていた。
2人は長い間ブラッドレス・ペヤァーズについて調べてきた。
だが、今まで調べた情報の中には場所を示すものは無く、情報屋ですら正確な位置を把握はしていなかった。
「おや、ベルスロウ様より伺ってはいなかったのですか?
ここは、世界最大の森林『インタネティ・フォレスト』の中に存在しております。」
「インタネティ・フォレスト!?
世界最大って言うか、まだその広さすら判明してなくて、永遠に広がってるって言われてる森の中じゃない!?」
ヴァルケンの言った言葉に、シエルは異常に驚き、シントゥアンもまた青ざめた顔をしていた。
インタネティ・フォレストは、その広さが判明していないほどの広大な森林であると同時に、人にとっては未開の地でもある。
人が把握できないほどの広さ故に、今まで各国から選りすぐりの冒険家や調査員が森の中へと行ったが、帰ってこれたのは数人しかいない。
その帰ってきた者の証言では、森の中には数多のモンスターが住みついており人が入れる場所ではないと言われている。
またモンスターだけでなく、予想だにしていない異常気象や、突如視界が闇に覆われたり人智を超えた場所として有名である。
そんな場所にこのギルドは存在し、また今自分達がそこにいるのだと初めて知った。
「そんな場所にあるなんて・・・
そりゃ、ギルドの場所なんて分かるわけないよ・・・」
だがここでもう一つ新たな疑問が生まれたが、それは簡単に答えが出た。
それは依頼や外の街に行くためにはどうすればいいのか、だが魔操術の仮面の人物や、森の入り口でベルスロウが使った転送の魔法石を使えば事足りた。
「転送石をご存知でしたら、詳しい説明は不要ですね。
もっとも後にラースン様から詳しいご説明があると思いますので私から申し上げることはありませんね。
他に何かご不明な点はございますか?」
ここでの大まかな説明を終え、ヴァルケンが他に聞いておきたい事がないか尋ねると、シントゥアンとシエルは少し考え、他にもこのギルドには誰がいるのか、協力的なモンスター達はなど聞きたい事を聞き、ヴァルケンは丁寧に答えた。
「そうですね・・・
協力していただけるモンスターは、後に長老様よりお伺いください。
そもそもこの森の不思議な力も長老様のお力ですしね。
ですがこれについては私が答えるよりも、正確な情報を得ることができます。
それとこのギルドには、ベルスロウ様を含め依頼を行う7名の方々・・・はもうご存知ですね。
後は私を含め7名の者達が使えております。
リュコスさんとリエーフさんはとは既に面識があると伺っております。」
そう紹介されたリュコスとリエーフの名を出され、2人はここで最初に会った2人の姉妹のメイドを思い出した。
どこか人当たりがよく明るい感じの妹リエーフと、対照的にどこか暗く何か拒絶している印象がある姉リュコス。
改めて思い返せば、2人はシントゥアン達と同年代の様だが、ヴァルケンも同い年のように見える。
「私を含め3名が主に皆様のお世話をさせていただいております。
残りの4名は、簡単に申しますが庭師や書類などを管理する事務職。
設備のメンテナンスや医務を担当しております。」
今まで依頼を請け負っていたのは7人だった事も驚きだが、それを支えていたメンバーも7人、合計14人で世界最強の座に君臨しているのが驚きでしょうがなかった。
「ねえ、ヴァルケンさん。
ちょっと気になったんだけど・・・
その人達の歳ってひょっとして・・・」
そして新たな疑問をシエルが口にした。
このギルドの構成メンバー、ベルスロウやラースン達は自分達より少し年上と言った感じで、最年長であろうグリーモですら40代であろう。
更に言えばベルトニーは下手しらた自分達よりも年下かもしれない。
今まで各国を回った際、様々なギルド本部を見てきたが、そこに比べて平均年齢は明らかに低かった。
彼らに使えている身とはいえ、ヴァルケン達も若すぎる印象があった。
それが少し気がかりでなかったが、ヴァルケンから予想外の回答が返ってきた。
「申し訳ありません。
私も含め、使えている者達は正確な年齢を把握はしていないのです。」
「え?」
「私達は幼き頃にベルスロウ様に救われ、ここで生活している為自分の年齢はおろか、生まれた日すら存じていないのです。」
今まで真面目な顔で話していたのに、突如どこか悲しそうな表情で言うと2人は言葉を失った。
そして同時にシエルは先の街でベルスロウが言った『下には、下がいる』と言う言葉を思い出した。だがそれ以上何かを言う事はなかった。
そして翌日、2人は先日ラースンに指定された時間に食堂へ赴いた。
そこにはヴァルケン以外誰もおらず、3人で昼食を取り終えたところでラースンとプライドがやってきた。
そこでヴァルケンとは別れ、2人の後を着いて行くとギルド建物の外、広い整備させれた平原のような場所に来た。
そこには1人、鎌を手にした若い青年が草の手入れをしていた。
「シィアン!!」
プライドに名を呼ばれた青年、シィアンはそこで初めて彼らがきた事に気が付いたようで、ハッと顔を上げ作業の手を止めこちらまで来た。
「ラースン様、プライド様どうかなさいました?」
「昨日言っておいたろ。時間だ。」
そう告げられると、もうそんな時間かぁと呟くと、ラースンとプライドの後ろにいるシントゥアンとシエルを見た。
その眼は決して友好的なものではなく、疑念、拒絶と言った眼をしていた。
「・・・シィアン。」
何かを察したラースンが少し強めに言うと、2人に対して軽く会釈をするとそのままギルドの方へ帰って行った。
「あ~、何だ。
アイツはシィアンつって、辺りの管理してもらってんだ。
簡単に言えば庭師のようなもんだよ。
まっ、かなり広大な場所を1人で管理してるってすっげー奴なんだよ!!
まっ、俺ほどじゃねーがな。」
プライドがシィアンの事を教え、少しでも場を和ませようと明るい口調で説明し、少し冗談も言ったようだが、2人は特に気にしてはいなかった為、意図が分からず生返事をした。
「・・・アイツは用心深いんだ。
それに1人でいることが多い。できれば仲良くしてやってくれ。」
そして捕捉と同時にラースンが頼むと、2人は大きく頷いた。
「・・・さて、早速だがお前達に聞いておきたい事がある。」
一度仕切りなおすかのように、プライドがどこからか持ってきた椅子に皆が腰かけテーブルを囲むように座った。
ラースンはテーブルに数枚の紙を広げ、2人をよく見た後口を開いた。
「お前達は外の世界を旅していたそうだな。
そこで剣術や魔法を身につけたそうだが・・・どちらも我流でか?」
そう聞かれ2人は頷いた。
小さいころから世界各地を渡り歩いていた2人にとっては、剣も魔法も教えてくれる人はおらず、自分の力で身につける他なかった。
2人にとって生きていくためにはそれしか術はなかったからだ。
「・・・ならば、剣については特には言わん。
だが『魔法』もしくは『魔力』について知識はあるか?」
魔法または魔力についての知識と聞かれ、シントゥアンはシエルを見た。
魔法に関してはシエルの方が得意であり、精通していたからだ。
一方シエルは何と言って言いか分からないように、顎に手を当てう~ん、と考え込んでいた。
「・・・魔力は、行きとし行けるものすべての内側にあるものだ。
そしてその魔力を外へと具現化したもの、それが魔法だ。」
そう説明しながら、ラースンは用意していた紙の中から1枚の用紙を見えやすいように置いた。
シントゥアンとシエルはその用紙を覗き込むようにして見ると、魔力や魔法についてより詳しく書かれていた。
『魔力とは生命の源とも言われ、命あるものすべてに宿っている。
そしてその魔力を生命体の外へ出す事で、様々な現象を起こせるのが魔法。
しかし、魔力は命の源。魔法を使えば減り、一定の時間や体力を回復させれば元に戻るが、魔力を全て使いきってしまうと死ぬ危険もある。
また魔力には生命体それぞれによって異なる色で表される。
それを『魔力色』と呼ばれ、それと同時に適した魔法もまた決まっている。
例として魔力色が赤ならば炎系の魔法が適してる。
また他の魔力色の魔法に適応さえできれば、魔力色が赤の場合でも水系の魔法など様々な魔法を習得することも可能である。
現在、生命体の魔力色を知る事は容易となってるが、適した魔法は本人が分かっていると言われている。
詳しくは魔導協会へご連絡ください。
以上、初めての魔法魔力の予備知識 魔導協会推薦本より引用』
「・・・引用、ですか。」
確かに簡潔かつそれなりに分かりやすくは纏められているが、結局のところ本から持ってきたものだった。
何か色々と用意はしてくれていたようだが、ふと他の資料を見てみるとそこにも引用の文字が書かれていた。
「まあ魔法は誰もが扱えるものであり、異なる魔力を持っているわけだ。」
シエルが何か言いたそうな眼で言ったが、ラースンは少し間を置いて話を逸らした。
その事にシントゥアンは苦笑いし、プライドは物珍しそうにラースンにつかかった。
その後2人は用意された魔法の資料だけでなく、剣を使用した戦闘、ギルドしての規則、依頼などについて様々な事を短いなりに学んでいた。
「さて、そろそろ講義も終わりだが・・・
最後に2つほど言っておくことがある。」
もう資料も見終え、日も大分傾いて来た時にラースンがいつも以上に真剣な表情で話し始めた。
ほとんど怠そうにしているギルドマスターのベルスロウと違い、常に真剣な表情を崩さないラースンがより険しい顔をしたため、2人は一瞬ギョッとなり、プライドもまた茶化す事なく行く末を見守った。
「まず1つだ。
これよりは外の世界と生き物と渡り合う事が普通となる。
対抗するために力を付けるのはごく自然の事だ。
だが・・・力に驕るなよ。」
「それは・・・どういう事ですか?」
力に驕るな。言葉の意味は理解できる。だがその真意が分からなかったベルスロウは思わず問いかけた。
対抗するために力を付ける。そこで実力が付けばいずれ力に驕るのは分かる。
その驕りが慢心を生み、油断となり取り返しのつかないミスにもなりうる。
だが、ラースンが言った真の意味は違っていた。
「力あるモノにはリスクを伴う、と言う事だ・・・」
そう言うとラースンは突然、和服の中から両腕を出し引き締まった上半身を露わにした。
突然の何をするのかとベルスロウは唖然し、シエルはきゃあ!!と短い悲鳴をあげたがラースンは気にせず後ろを向いた。
「「!!??」」
そしてラースンの後姿を見て2人は、突然の行動の意図を知ると同時にその姿に言葉を失った。
何故なら、ラースンの背中の左側には酷い火傷の跡。右側には凍傷の酷い跡があった。
見ているだけで痛くなるような火傷の跡に目を覆いたくなる2人にラースンは、静かに眼を背けるなと呟いた。
しばらく、するとラースンは袖に腕を通したが2人は先ほど見た光景が眼から離れなかった。
「あれが俺が負ったリスクだ。
寸前のところで止められなければ、俺は自らの魔力に内側より焼かれた。
俺自身だけでなく、周囲にあるすべてを巻き込んでな・・・」
そう言われ2人はハッと、思い出しただけで吐きそうになるのを堪えながら先ほど見た火傷の跡についておかしな事に気が付いた。
左側は火などによる高温の火傷だったが、右側は氷などによる低温による傷痕だった。
対となる温度による傷痕だが、綺麗に半分分かれておりどちらも同時に負った傷のようにも見えた。
通常ならばつくはずもない傷痕に2人は初めて気が付いた。
「これが・・・魔法によるリスク、ですか・・・」
しばらくしてようやく声を振り絞る事が出来たのはシントゥアンだった。
シエルは、普段自分が使っている治癒魔法にも同じことが起こるのではないかと、見えぬ恐怖から少し震えていた。
「そうだ。強大すぎる力は他だけでなく我が身へと降りかかる。
強大となった魔力に制御が効かず暴走。膨大な魔力を外へ一気に放出した反動。
そして魔というものの副作用でもある。」
「魔の副作用、ですか?」
魔の副作用と言われ、シエルは震える声で聞き直した。
その声はどこか弱く、もしかしたらすでに自分にも影響が出ているのではないか。いずれ暴走してしまうのではないか。
様々な不安が一気に押し寄せてきていた。
「そうだ。
魔とは元々人の心を惑わす悪鬼、災いをもたらす魑魅魍魎の事だ。
つまり魔法の元をたどれば常人には不可能な結果を実現させる力だ。
だが今や人々は魔法が一般化となり、原点も様々あるとされ今だその根本たる原理は解明されていない。
微弱な魔には人体に影響はないとされているが、強大な力を使いすぎると有害となる。
それが副作用だ。」
「まっ、ベルから聞いたがあんたは治癒魔法をよく使ってたみたいだが・・・
見たところ影響ないから、はっきり言って問題ないだろうな。」
ラースンが堅苦しい説明を続ける中、プライドが2人を安心させるように口をはさんだ。
影響はないと言われ、当のシエルは少しばかしホッとしたようだがそれでもまだ不安の色が抜けてはいなかった。
「・・・一応言っておくが、副作用や暴走などは禁術クラスの魔法でしかそうそう起こることではない。
お前達は此間、魔操術を使用する人物に会ったそうだな。」
そう言われシントゥアンがあの時の最後の光景を思い出した。
あの時、仮面を割られ露わになった素顔には人のモノとは思えない皮膚をしていた。
そう、まるでモンスターと同じような竜にも似た鱗だった。
「・・・あの人の顔、まるで竜みたいな鱗がありました。
ま、まさか!!」
その光景を思い出しながらシントゥアンは言葉を発したが、その途中で理解したのかハッとなった。
そしてラースンもまた正解と言わんばかりに静かにうなずいた。
「魔操術。魔によって魔を操る一種の呪術。
膨大な魔力に魔を受け入れる精神力・・・
普通の者ならまず発動する事すら出来ない魔法だが、もし使おうものならその行く末は魔としか言いようがない。
魔操術の副作用は、自らが魔物へと変化する。」
どうしてそうなるか原理は今だ分からない。
人ならざる者を我が物にしようとした神の裁きか。
発動するには魔物に近い魔力が必要となるために、その魔力が体を覆い徐々に肉体を変化させているのか、様々な憶測が飛び交ってはいたが魔法の根源が分かっていないうちは解明される事はない。
そして、魔物へと墜ちた人は自我を失いただ本能のままに動き、人として最期を迎えることはない。
「・・・あのラースンさん。
先ほどの話ですと、ラースンさんも禁術クラスの魔法を使った事あるんですか?」
ある程度落ち着きを取り戻したシエルが1つ疑問に思った事を口にした。
先ほどのラースンの説明では魔力が何らかの理由で暴走、もしくは反動によって背中に消えることのない傷痕を負った。
だがそれはラースンが禁術クラスの魔法を使用したリスクとも言える。
しかし帰ってきた答えは意外なものだった。
「・・・確かに禁術クラス。いや、禁術と言うレベルを超えた魔法・・・いや呪術と言った方がいいかもな。
俺の、弱さが・・・力のなさが故に生まれた魔法だ。」
そう言いながら、どこか寂しそうにラースンは空を見上げた。
だが組んでいる腕には明らかにその事を悔やむかのように力を込めていた。
「・・・すまない、話がそれつつあったな。」
「まっ、要するに力ある技にはリスクがあるから考えて使ったりしろよ。」
ラースンが申し訳なさそうに言うと、プライドがこれまた簡潔に先ほどの話をまとめた。
先ほどまで重い話をしていたのに、最後はあっさりと言われ2人ははぁ・・・と生返事をするだけだった。
だが、魔法の便利さについては2人は今までの旅で分かってはいたが、危険さについて初めて知る事なった。その意味ははラースンの傷痕から重々に理解する事が出来た。
「そして2つ目だが・・・お前達は今まで生き物を殺めた事はあるか?」
「えっ、あ、はい・・・
あっ、でも殺めたのはモンスターで仕方なくって事が・・・」
ラースンから伝える最後の2つ目の事に2人は一瞬理解が出来なかったが、戸惑いながら返事をした。
外の世界を旅してきた時、襲われ身を護るためにモンスターを殺す事は別に悪いことでもなければ、どちらかと言えば正当な防衛である。
そもそも街の中では法が存在するが、街の外ではすべての法は適応される事はない。
街の中は法による秩序で守られいるが、外の世界ではすべてが無法地帯。仮に殺されたとしても文句も言えなければ、ただ単純に生きるための力がなかったと他の者からは思われて至極当然な事である。
だから2人も生きる為にモンスターを殺めた。だがラースンは少し考えた後、質問の内容を言い直した。
「すまない、質問内容の幅が広すぎたようだ・・・
言い直そう、人を殺めた事はあるか?」
「「!!??」」
先ほどよりも生き物の幅が一気に狭まった質問に2人は驚き、言葉を失った。
出会ってまだ長い時間共にしていなが、ラースンが冗談を言う人間ではない事も分かってはおり、また質問をしたラースンの眼が自分達を試すような挑戦的な眼をしていた。
「そ、そんな・・・人を殺めたなんて・・・」
「ちょっと、ラースンさん。
そんなのある訳ないじゃないですか。」
何とか返事をする事が出来たが、今だ驚きが勝っていた。
そしてラースンは、そうか・・・とだけ言うと2人に近づいてきた。
突然の近づいて来た事に驚き、2人は反射的に半歩後ろに下がったがラースンは気にせず2人の真正面まで来ると歩みを止めた。
「っ!!」
「ひゃ!!」
そして次の瞬間、ラースンは腰に納刀されていた2本の剣を引き抜くと同時に、シントゥアンとシエルの喉元に向けられた。
片刃の細い刃がわずか1、2センチのところで止められ、もし少しで動こうならば刃が喉元を斬り裂いていた。
2人は驚きと恐怖から完全に動けなくなり、シントゥアンは呼吸をするのも忘れ、シエルに至っては瞳からうっすらと涙が浮かんでいた。
しばらくするとラースンは剣を喉元から離し納刀すると、2人は糸が切れた人形のようにその場に倒れこんだ。
「っ、はぁはぁ・・・」
「う、うぅぅ・・・」
普段ならばいきなりこんなことされたら怒るのだが、今は怒りより恐怖が勝っていた。
それほどラースンの迫力が、眼が、殺気が2人を支配していた。
その支配下から解放された2人は忘れていた呼吸をし、新鮮な空気を肺に取り入れた。
「なっ、何するんですか!?」
ようやく呼吸が落ち着き始めたシントゥアンが文句を言ったが、ラースンは悪びれた様子もなければ何を言っているんだと言ったような眼で2人を見つめた。
「・・・忘れてないか、ここはギルドの敷地内ではあるが外の世界だぞ。
いつ死んでもおかしくない場所にいることを自覚しているのか?
依頼の仕事先は常に死と隣り合わせと言う事を理解しろ・・・」
確かにギルドに寄せらせる仕事は千差万別、様々な内容の依頼が寄せられる。
中には街の中での手伝いなどもあるが、多くは街から出ての内容が多くだ。
商人の護衛、モンスターの討伐や素材の調達など例を上げれば切りはない。
だが――
「だ、だからって急に剣を向けないで下さいよ!!
それにさっきの質問の内容もまだ分かりませんし・・・」
シエルが言った事ももっともだった。
依頼を受けたうえで、常に死なないよう警戒を解くな。その事を伝えようとしたのならば別にこんな脅しにも近いやり方でなくとも方法はあった。
それに先ほどの人を殺めた事はあるか?と言う質問に対しての関連性も見えない。
だがラースンは、はぁ・・・とため息をすると仕切りなおすかのように2人を見た。
「恐怖によって身に沁みこむ・・・
いずれ真なる意味が分かる時が来るだろう。
そして、質問の意味だが・・・その言葉通りだ。」
「意味はいまいち分かりませんが、質問は言葉通りって?」
「依頼によっては盗賊の退治など対人の依頼もある。
また外の世界でなにが起こるか分からん。場合によっては突如人との斬り合いなども普通にある。
そうなった場合、お前達は自分の身を護るため、依頼を遂行する為に他者の命を奪う事はできるか?」
ラースンの言葉に2人は顔を見合わせ、しばらく下を向き黙り込んだ。
場合によっては対人の依頼、予期せぬ人との命のやり取り。
2人は今まで外で活動する盗賊などに襲われた事もあった。だがその時は何とか逃げ延びることが出来、また多少応戦はしたものの命を奪うまではしなかった。
だがそれは偶々運がよかっただけだった。
殺らなけば、殺られる。それが外の世界の通りでもある。
だが2人はその覚悟がなかった。人を殺めると言う事は他者の全てを奪うと同時にその関係者の悲痛、奪ってしまった者の思い、殺めてしまったという自責。
様々なモノを背負うことにもなる。それはどんな人でも同じことではあった。
「・・・その覚悟がないなら、今ここで覚悟を決めろ!!
そんな中途半端な覚悟でお前達は今まで生きてきたのか!?
そんなことで揺らぐ気持ちでギルドの仕事をしたいと思っていたのか!?
そんなことでこの世で生きていけると思っていたのか!?」
半端な覚悟では、自責と罪悪感の恐怖で簡単に潰されるのだが、ラースンは今すぐ決めろと無茶を言いだした。
だがそれはラースンが、プライドが、ベルスロウが、このギルドにいる皆がその覚悟があると言う事でもあり、またギルドに入るための本当の試験でもあった。
「・・・そんな覚悟、決められると思ってるんですか?」
しばらくの沈黙の後、振り絞るかのような声でシントゥアンが言葉を発した。
その言葉にラースンだけでなく、プライドも眉を顰めた。
「僕達はそんな覚悟持ってはないよ。
だけど、中途半端な覚悟で生きてきたって言うのだけは許せない。
俺達の夢は、目的は他の人の幸せを奪ってまでも手に入れるものじゃない。
だから他の人を殺める覚悟なんて、俺達は持ち合わせてないし、持つつもりもない!!
それでダメだって言うなら、僕達は僕達のやり方で世界に抗って見せる!!」
そう言い放つと、シントゥアンはラースンを敵意むき出しと言ってもいいくらい睨んだ。
シエルもまたシントゥアンと同じ考えなのか大きく頷くと共に、同様にラースンを睨んだ。
「ぷっ、あはぁぁぁぁぁ!!
気に入ったぜ、てめーら!!こんな奴ら始めただ!!」
しばらくの静寂の後、最初に声を上げたのはプライドだった。
突然気に入ったと笑い出し、2人の肩に腕を回すと豪快に笑い始めた。
予想外の事に2人は困惑し、ただなされるがままの状態だった。
「はぁ・・・
プライド、2人を任せたぞ。」
そんな様子を見たラースンは幾度目のため息をすると、プライドに2人を任すと言い1人ギルドの屋敷へと歩き始めた。
「別に構わねーがお前何すんだよ?
つーか任せるって何?」
「ベルスロウと話をしてくる。
最初は実力見るなりあるだろ・・・」
そう言われ、プライドはそれもそっかと納得し、さっそく2人と何かを話だすと色々と動き始めていた。
そんな様子をチラッと見たラースンは少し口元を緩め屋敷へと足を運んだ。
ラースンがベルスロウの部屋の前へとやってきたのはすぐの事だった。
ドアをノックすると、あ~・・・と気の抜けた返事が返ってきた為ドアを開けると椅子に腰かけながら窓からその景色を眺めているベルスロウがいた。
手元には火のついたタバコがあり、室内には鼻につく臭いと煙が少なからず立ち込めていた。
「・・・なぜお前があの2人を連れてきたか、少なからずは分かった。
だが、俺は全てを認めるわけではないぞ。」
ドアを閉め、ラースンが真っ先に言った事はシントゥアンとシエルの事だった。
その事についてベルスロウは、タバコを吸うと同時に間を置き、ん~・・・と何と言っていいのか考えていた。
「まっ、別に認める認めないはどうでもいいんじゃねーか?
そのうち、分かるだろーよ・・・
『リュウガ』よ。」
考えがまとまったのか、タバコの火を消しながら何やら意味深い事を言うと同時に目の前のいるラースンの名ではなく、別の名を口にした。
その瞬間、ラースンはベルスロウを睨むと同時に、ピシッと言う音と共に窓ガラスに小さな亀裂が入った。
「どういうつもりだ、『シドウ』。
返答によってはただでは済まさんぞ?」
その声には確かな殺気があり、眼もまた仲間に向けるものではなく敵を捕らえるかのように鋭い眼光をしていた。
そしてラースンもまたベルスロウの名でなく別の名を出したが、ラースンのように敵意をむき出しにするのでは無く、あ~あ~、ガラス直さないとな~と呑気な事を気にしていた。
「貴様ぁ!!」
そんなベルスロウの様子に怒りを覚えたのか、ラースンは納刀されている2本の内、1本の柄を手にしたところでベルスロウが指をパチンッと鳴らすと、その場からベルスロウの姿がふぅ~と消えた。
「・・・ちっ。」
突如消えたベルスロウに、1人部屋にいたラースンは舌打ちをし部屋から出ていった。
その際、ラースンの黒いはずだった両目の内、左目が真っ赤に染まっていた。