「惜しい人を亡くしました………」
沈黙に包まれる部屋の中。黒板に広げられるは「みたらしアンコ」と書かれた暗幕。
そしてその下には、後頭部を打ったアンコさんが、まるで眠りにつくかのように………
そっと、胸の上で、手を組ませてやる。
そして振り返り、教室にいるみんなを見ながら、呟く。
「嘘みたいだろ。死んでるんだぜこれ「死んでないわよ!」」
起き抜けにアンコ女史に殴られました。
で、次の試験会場に移動するそうで全員が外に叩きだされた。
横暴だと思ったけど、暗幕見るたび全員失笑してたから当たり前っちゃ当たり前か。
「でもアンコさん、マジ短気」
グーで殴られるどころか、本気の一撃だったせいか結構な距離まで飛ばされた。
ちゃんと拳の勢い殺して、受け身も取ったけど。
「まあ、しょうがないよね」
「おいマダオ、お前のせいでもあるんだが」
「………どっちもどっちだと思うがの」
次の試験会場への移動中。二人とそんな会話をしているところ、予想外の人物が話しかけてきた。
「あの、大丈夫ですか?」
「ん?」
振り返ると屋台でよく見た金髪の美少女が。とういうか、キリハだ。同時にマダオのボルテージがヒートアップしているよう。あの、落ち着こうとしているのは分かるけどチャクラもれてますよ? え、無理? うん、ほっとこう。
「俺は大丈夫だよ、受け身も取ったしね。あの試験官、手加減ほとんどしてなかったから、ほっぺたがまだ痛いけど」
ちっとは手加減せんかいな。いや、俺も悪いんだけどね。あの後の失笑の嵐は、ちょっと哀れに思えるほどだったし。
空気読め、とかイビキ御大言ってたけど、空気読んだよね。バナナトラップにわざわざ引っかかるとか。芸人の鑑だよね。いや、偶然の産物なんだけどね。
「キリハ、何してるの」
「あ、サクラちゃん」
凸が近寄ってくる。その名は春野サクラ。そういえば近くで見るのは初めてか。
顔立ちは可愛いと言えるけど、ピンクの髪は無いわー。
「あ、さっきの人?」
面白かったねー、と会話を始めようとする二人。
だけど、それを後ろのスカした少年が止めた。
「サクラ、キリハ、何やってる。試験が終わるまでそいつらは敵だ。うかつに近寄るな」
至極ごもっともなので反論なし。うんうんと頷いていると、キリハとサクラには引きつった笑いを返された。あとマダオが会話邪魔されて不機嫌。サスケ君まじ逃げて。
(で、ここでサスケくーんとか山中いのが来て場が混沌と…………あれ、来ないね)
噂のいの嬢は、後ろの方で同じ小隊員である奈良シカマル、秋道チョウジと何やら話しているよう。次の試験について相談しているのか。
で、さっきは気づかなかったけど、いの嬢とシカマル少年も、雰囲気が違うような。
(心あたりは?)
(ん……あれのせいかな。昔助けたやつ)
(ああ、あれでかな? いや、よく分からないけど)
何せ白少年が白少女にトランスファームしている世界だ。何がおきても不思議ではない。驚かせたくば、女になった再不斬でも持ってこいってんだ。
あ、うそ、冗談です。
○ ● ○ ● ○ ● ○ ●
そしてやってきました死の森。何ちゅう名前だ。原作ならナルトがはしゃいであれこれなりますが、キリハ嬢はそんな事しません。
と、思ったらキバがやりました。みたらしアンコさんがすっと気配を殺して動きます。
でも何故かこっちに飛んでくるクナイ。
「危ないじゃないですか」
と、クナイを返すために差し出した。すわ世界の修正力かって驚いている暇もない。
右肩に直撃コースだったじゃねえか。
試験前に試験官自ら赤い血をぶちまけさせてどうする。
「ああ、ごめんなさいね…………チッ」
舌打ちって、まだかなり怒ってるようだ。ていうか完全に根に持ってるな。
流石にあの蛇野郎の弟子。かなりの粘着気質だ。みたらし団子だけはある。
更に、今のやりとりで他の受験生連中に警戒された。
まあ、あれだけの速さのクナイを掴んで止めるとか、警戒しますよねー。
面倒くさいので無視するけど。
(ん、蛇さんいるね)
気づいたかマダオ。流石マダオ。伊達にマダオは名乗ってないな。
(三連呼はやめて………で、分かる?)
うん、汚いチャクラが少しだけもれてるからね。
というか、アンコさんも気づけばいいのに。
あんな舌を持っている人、世界で一人しか知らねえよ。大勢居ても困るけど。
そんなこんなで巻物配布。俺のチームは天の書だった。さっと隠す受験生達。見せびらかすような馬鹿はいない。この阿保のマダオ以外には。チャージなどさせるものか、ってうるせえよこのやろう。
で、最後に試験官から話があるようだ。
「最後にアドバイスを一言…………死ぬな!」
良い言葉だ。何のアドバイスにもなってないけど。
と思ってると、アンコ女史は綺麗な顔で微笑んでくれた。
「アンタは死ね」
ひどい。
そんな呪いを受けながら森に入って、10分後。力量を読めてない下忍さんがこちらに奇襲を仕掛けてきた。足音出てるし体臭消しきれてないしタイミングも甘々だったので、奇襲というよりも自殺といった方が正しいような。
だから、いっそ一思いにやってやりました。
端的にいうと、こうだ。
「ガシ! ポカ! 下忍は死んだ! スイーツ、みたいな」
「いや、殺してないでしょ」
その場のノリだよ空気読めよ。まあ、本当は後ろから頭を叩いて気絶させただけ。意味も理由も無く、しかもこんな格下相手を殺すことはしない。
「ん、天の書か」
持っているのと同じです。かぶりました。
仕方ないので次の犠牲者を。
ガシ! ポカ! 下忍は死んだ。
ガシ! ポカ! 下忍は死んだ。
ガシ! ポカ! 下忍は死んだ。
ガシ! ポカ! 下忍は死んだ。
計4チーム12人の後頭部を叩いた、けど――――――
「全部天の書とかどないなっとんじゃあああああああああああああ」
「うーむ、日頃の行いのせいじゃの」
「そうだね~」
「………そうかも知れないねキューちゃん。だがマダオ、お前が言うな」
くそ、何かの嫌がらせか? もしかして、木の葉の陰謀か?それともアンコ女史の呪いか?神よ降りてこい、ここがお前の墓場だ。
「くそ、こうなったら」
「あれ、それどうするの? その巻物って、試験官を呼んでしまう口寄せの巻物だと思うけど。開けたら即座に発動するタイプだから、やめといた方がいいよ」
流石マダオ。試験と巻物の関係から、中身が何であるかを一瞬で看破します。
で、俺はこれをどうするかというと。
「まずは木に登ります」
「結構高いね」
えいこらさとチャクラで吸着して木登り。
そして頂上まで来ると、いっせいに巻物を開けた。
「ええ!?」
最後に、一斉に空中へ投げつけます。
「そぉい!」
「「「「「おわ!?」」」」」
空中に呼び出される中忍。腐っても中忍だからこの程度の高さじゃあ死にはしませんが、焦りはするだろう当然だ。うん、イライラしてやった反省はしていない。相手は木の葉だしこれぐらいはいいよね。
「さあ、撤収!」
「「ちょ!」」
全速でその場を退避しました。所詮は中忍なので、追ってきても無駄無駄。
数分もすれば、簡単に追手を振り切れた。
「最悪だね君」
「自分、悪戯がしたい年頃なんで」
「いやいや精神的にはもうオッサンでしょ」
「男はいつまでも少年なのさ。というか、マダオには言われたくないぞ」
「「………」」
「あー、殴り合ってるとこ悪いが、例の娘っこ。かなりまずい状況になってるぞ」
「「何!?」」
「くっ」
突然現れた下忍――――いや、あれは下忍じゃない。あんな殺気と威圧感を放てる下忍など、存在しない。
でも、考えている暇もない。私の目の前には、こちらを飲み込もうとする大蛇が居る。
どこから現れたのか、なんてこともいい。まずは、この敵をどうにかしなきゃ。
でも、見た感じかなり訓練されているようで隙がない。私より動きも鋭く、油断すれば一気に飲み込まれそうだ。でも、負けてなんかいられない。あの下忍に扮した化物が、二人を襲っているのかもしれないのだから。
「はっ!」
気合と共にチャクラを込めた攻撃を当てる。でも、びくともしてくれない。術で吹き飛ばそうにも、その隙が無い。印の方に集中すれば、たちまち丸飲みされるだろう。
決め手打つ手も、無い。でもこのままじゃいずれやられる。純粋な体力といった点では、蛇の方が圧倒的に上だ。このままじゃジリ貧になる。
二人の所へ逃げようかと思ったけど、先ほどから肌にひりついているこの殺気がその選択肢を選ばせてくれない。
どうも、尋常じゃない。自来也のおじさんに匹敵するかもしれない。
ここで私が蛇をつれて戻ったら、事態が悪化する可能性がある。
「っと!」
こちらの思考の間隙を察したのか、蛇が突進をしかけてくる。その速度は早く、サスケ君に匹敵するぐらいだ。だが、避けられないというほどでもない。
跳んで避けられる――――だが、その直後に私は凍りついた。
「!?」
突進をかわされた蛇が、私の背後にあった木に巻き付き、その遠心力でこちらにUターンしてきたのだ。こっちは空中に居るし足場もないから、移動できない。
(ま、ず………!)
“アレ”を使う間もない。だけど諦められなくて、クナイを抜き放ち構える。
最悪、噛み付かれても相打ちにはする。
そう、覚悟を決めた時でした。
「パンスト流星脚ーーーーーーーーーーーー!」
まるで閃光のように、あの人が現れたのは。
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危なかった。危機一髪だった。
もうすこしで丸飲みにされる所だったキリハを助けられた。うん、普通のレベルじゃ無理だよね。あの口寄せ蛇。下手すれば中忍ですら倒されそう。蛇君、全力の蹴りを入れた後にまた反撃されるかと思ったけど、キューちゃんがじろりと一睨みすると一目散に逃げた。どうやら野生というか動物の本能で彼我のレベル差を感じたようだ。
「で、大丈夫だった?」
笑顔で語りかける。無視するわけにもいかないので。
「………うん、大丈夫だけど、その」
「だけど?」
「えっと、どうして助けてくれたんですか?」
戸惑いながら質問してくるキリハ嬢。そうだよね、他国の忍びなんて助けないよね。
俺はいいごまかし方を考えながら、ポリポリと頬を書く。どう言ったものか。。
(ってええい、野次馬二人、物陰から見るな! 散れ!)
「って、ああ! も、戻らないと!」
キリハ嬢、仲間のピンチに気づいたようで、急ぎ助けようときびすを返した。
でも一瞬だけ立ち止まり、振り返ると「ありがとう」と笑顔で言ってくれました。
そして顔を凛としたものに戻した後、全速で仲間の元へ駆けつけていった。
「うん、きちんとお礼を言えるなんて、やっぱりええ子やなー」
「それはそうでしょう。だって僕とクシナの娘だよ?」
「………ほんとうに、ええ子やなー」
「今の間はなに」
つつ、眼を逸らしてしまった俺を、一体誰が責められよう。
「それで、あの娘を助けにいかなくていいのか?」
「………あ!」
発禁伝説さんがあちらにいらっしゃるじゃないですか!
「まずい――――でも、この姿のままで行くのもダメか。ちょっと姿を変えていかなきゃ」
でも一人じゃ心もとない。それでキューちゃんちょっと、と呼び寄せる。
「ん、何じゃ?」
手招きしたキューちゃんにチャクラを流し込み、変化の術を発動する。
「変化!」
「そんな………」
高く、大樹の枝の上。下では、何やら絶望の表情を浮かべて信じられないという顔をしているキリハが居た。
間に合ってよかった。絶対に助けねば!
「そこまでだ」
威厳が出るように意識して、静かに告げる。
反応するだけの余裕があったのは、大蛇●だけだった。
「………何者?」
俺から発せられる気配で、その力量を感じ取ったのだろう。大蛇○は即座に警戒態勢に移った。遊びのないその構えに、一切の隙は存在しなかった。
流石と言っておこうか、だがそうでなくては。
――――赤いマフラーたなびかせ、胸に宿るはただ一つ。
一心不乱の友情求め、今日も彼は世界を越える。黒い童女を傍に置き、さあ高らかに名乗りを上げよう。
「それが少女の危機ならば、それを阻止するのが我ら影。
拙者の名はロジャー。ロジャー・サスケ! 白の真珠にして少女の盾! 世界忍者!」
雰囲気と世界観を、全て置いてけぼりにして。
俺は今の自らの姿に相応しい名を、声も高く名乗り上げた。