小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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11話 : 死の森を越えて

 

「どうして分からないんだ!確かに、キューちゃんは油あげが好きかも知れない!

 だけど油あげを入れたら、それはもうラーメンでは無くなってしまうんだ!」

 

『何を戯言を! お前はあれを食べても分からなかったのか!

 麺などむしろ添え物! 油あげこそが本体なのだ!

 美味いもの一つを求めて何が悪い!』

 

「違う! ラーメンは全てで一つ!

 メンマも玉子もチャーシューも、海苔もネギもスープも麺も!

 みなスープの元に調和して合わさって初めて、一つの形になっている!

 その調和が無いラーメンを、俺は作る事などできない!」

 

『ならば、しょうゆラーメンとは別として、メニューにきつねうどんも

 入れればよかろう!』

 

「ラーメン屋はラーメン屋、そしてうどん屋はうどん屋なんだ!

 その二つの品は、同じ店では決して相容れないもの!

 どうしてそれが分からない!」

 

『ならば、メニューはきつねうどん一つにすればよかろう!』

 

「ラーメン屋でメニューがきつねうどんだけって180度反対すぎるでしょ!」

 

『ならば油あげをワシにくれ!』

 

「話変わってるよ!?」

 

うつむき、歯を食いしばる。

 

「………どうしても分からないっていうのなら。

  キューちゃん、君が退かないっていうのなら………!」

 

『愚問!』

 

 

『「ならばっ!今こそ我ら、真に一つとなる時!」』

 

 

   突発的ショートショート

    

    「開店前のとある一シーン~相容れない運麺よ~」より抜粋

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一悶着あれど、取りあえず音隠れの人達にはお引き取り願った。

 

「次郎坊はどうした?」と聞くので、砂(フクロ)にしました、と言ったら、怪訝そうな顔を。あれ、意味が通じなかったのか? 坊やだからさ、と言った方が良かったか?

 

まあ、次郎坊がどうなったのは別として、この短時間で俺たちがここに辿り着いたのは事実。相手にはそれが分かったのか、油断無く身構える。

 

そんな二人を見て、ため息を吐きながら行ってやった。

どうやら、このまま大人しく退いてはくれないようだから。

 

――――ただ一言、「蜘蛛糸の人はいないの?」と。

 

その言葉は、最大限の警戒心を呼び起こしたのだろう。お前の知るはずもないことを知っているぞ、と。知らせるで、相手を警戒させるのには十分。

 

二人は先ほどとは違い、よりいっそう緊張した面持ちになる。周囲の状況、こっちが9人(一人昏倒中だけど)に比べ、あっちは実質4人という事を確認した後。

 

分が悪いと判断したのだろう、忌まわしげな表情を浮かべながら「見逃してやる」とだけ告げ、下っ端3人を連れて逃げていった。

 

それを見届けると、横でキリハがへたり込んでだ。精神的にも肉体的にも疲労を重ねたから、仕方ないともいえる。それでもすぐに気を引き締め、気丈にも立ち上がると、俺にお礼を言ってきた。

 

「あの………先ほどの蛇の時といい、度々ありがとうございます」

 

「いえいえ。さっきのも、成り行きだから気にしないで――――ってそこの3人、そろそろ出てきたら?」

 

ついさっきに感知した気配の主が居る場所。

背後でこちらの様子を伺っていた茂みに隠れている三つの気配に声をかける。

 

「………仕方ない、か」

 

返事と共に、苦虫を噛みつぶしたかのような表情を浮かべている、猪鹿蝶のトリオが出てきます。

 

「気配は消していたつもりだけど、よく分かったわねアンタ達? ………滝隠れの里の忍びにしてはやるみたいだけど」

 

ま、額当てのこれは偽造ですけどねー。それにしても、強気な発言。ま、木の葉隠れは自他共に認める最大の忍里ですからしょうがないか。

 

「気配が少しだけ漏れてましたから。いや、実に見事な隠行でしたよ?」

 

「それは、皮肉?」

 

いかん、警戒心を高めたか。

 

「いのちゃん、春原さんはさっきも私を助けてくれたんだよ。少なくとも今は、敵対する必要無いと思う」

 

「………分かったわよ。キリハ、あんたは相変わらず脳天気ねえ?」

 

「ぶー」

 

いかん、ぶーたれるキリハが蝶可愛い。

ってこらマダオ、悶えるな。クネクネするな。変な目で見られてるだろ。

 

「で、あんたらは?これからどうすんだ?」

 

シカマル君はそれでも警戒を緩めていない様子。うーん、やっぱり先ほどの隠行といい、原作と違うっぽいなあ。放つ気配も、下忍にしては鋭いし。

 

ここはさっさとずらかることにしようか。取り敢えずは、と。

 

「天地の巻物がまだ揃って無いんで、取りあえず索敵かな」

 

「………目の前に敵がいると思うが?」

 

「まさか。日向やうちはを敵に回せる程の力はないよ」

 

と、日向のネジ君を見た後、サスケの方に視線を向けたが、それがまずかった。

 

(サスケ少年が起きとるがな! やべ、目があった)

 

黒いチャクラを体中から吹出しながら、サスケは低い声でチームメイトに声をかける。

 

「キリハ、サクラ………誰だ、お前らをそんな風にしたのは」

 

先ほどの戦闘で、少ないですが手傷を負っている二人。それを確認すると、サスケはクナイを手に持ち、

 

「危ない!」

 

突進してきた。傍にいたイノを咄嗟に突き飛ばし、そのクナイを手に持つクナイで受ける。

 

「お前は、敵か?」

 

「違う、と言っても、聞く耳もってないようだね」

 

呪印の影響が、チャクラが高まっている。力に酔っているようだ。

 

「ふん!」

 

サスケはこちらの言葉を聞こうとせず、回し蹴りを放ってくる。

取りあえず避けよ――――ってぐあ! 痛い! 足が! マダオ! 死ね、って痛え!

 

足の痛みで硬直していまい、避けきれずに横腹を蹴り飛ばされた。

いや、全然効いてないけど。

 

「次は、てめえだ!」

 

と、近くにいたキューちゃんに殴りかかる少年。あー、不味いって。

 

「やれやれ」

 

疲れた声と共に、動作は一瞬のこと。下忍にしては速いサスケの拳だけど、キューちゃんはそれを片手で無造作に掴んだ。見切るとかそういうレベルじゃない。ただ、其処にあるものを掴んだという風に。

 

掴み、動きを止めたまま、サスケの顔を凝視。

その後、忌々しげな表情を浮かべて言葉を零した。

 

「ふん………写輪眼、か」

 

心底嫌そうに呟いた後、キューちゃんはその掴んだ拳を横に引っ張り、勢いのまま、頭上に持ち上げる。

 

「なっ!?」

 

驚くサスケ、そしてその他全員も動揺を隠しきれないようだ。まあ、どう見ても自分より年下のあんな童女が、人一人を軽々と持ち上げるような怪力を持ってたら驚くよね。

 

キューちゃんは持ち上げたサスケを、そのまま軽く放り投げた。

しかし宙に投げられたサスケは、空中で回転して着地。

 

すかさず踏み込んでくる。

キューちゃんはため息一つと共に、迎撃の拳を放とうとする。

 

(ちょ、それはまずい!)

 

あの一撃、直撃すれば赤い花が咲いてしまう。そう判断した俺は片足で跳躍し、その蹴り足で飛び蹴りをぶち当てる。

 

「てめえ!?」

 

うるせえエビフライぶつけんぞ。その眼力に何かを察したのか、ばっと飛びず去る。

そのまま注意深くこちらを睨んできた。でも踏み込めないようで、二の足を踏んでいる。

 

今ので力量を察したか――――その目で俺たちの力量を察したのか。

でも数秒後、キューちゃんは何の気にもしていないという風にサスケに背中を向けた。

 

「………行くぞ。興が殺がれた」

 

「「承知」」

 

その威厳のある童女の声に、おもわず付き従ってしまう俺とマダオ。

 

ちょっとキューちゃん、何か機嫌悪くなった? 声と顔が怖いよ。

ま、それはさておいて、逃げるか。

 

怪我している方と逆の足で、跳躍。ひとまず木の上に昇る。

 

「待て!」

 

「待ちません、さようなら」

 

マダオに肩を借り、そのまま逃げる。いいよいいよ、ってお前のせいだろマダオ!

 

逃げる前に、いの嬢が何事か呟いていた。

やや神妙な面持ちだが、まあここは逃げるしかないか。

 

 

 

 

「成り行きだから、気にしないで………?」

 

 

 

で、その後逃げた俺たちは取りあえずそこら辺に居た下忍を狩って、地の巻物ゲット。

そのまま目的地に辿り着き、第2の試験クリア。

 

もちろん、到着する前に変化済み影分身と入れ替わった。

あそこ、退屈そうだし。

 

――――ま、ここは取りあえず、我が家に帰るとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ………」

 

『どうしたの?ため息なんかついて』

 

帰り道、二人にはひとまず中に戻ってもらった。

多人数だと目立つんで。足はすでに治療済み。

 

治療は未熟な掌仙術でOKなぐらいの軽傷。この程度の怪我は実戦で幾度かあったので狼狽えるほどでもない。苦手な部類だけど、これぐらいの怪我なら治せる。九尾というかきゅーびと表現した方が似合う彼女のお陰か、持ち前の自然回復能力と併用すればそうそう死ぬこともない。

 

「ため息………いや、ね。今回も出会いが無かったなあって」

 

『まあねー。実質助けたのはキリちゃんだけだったし。山中さんちのいのちゃんには警戒されてたしね』

 

「はあ………不幸だ、気が重い」

 

鬱だ。今ならば獅子咆哮弾を打てる自信がある。

 

『猛虎高飛車! 猛虎高飛車! 猛虎高飛車!』

 

うぜえよマダオ!ちょっとネタ教えたら直ぐものにしやがって!

 

『でも反応が無かったら寂しいんでしょ?』

 

(………そうね。一人は、寂しいものね)

 

これも芸人としてのサガか。

 

『いいから、さっさと帰るぞ』

 

キューちゃん、先ほどからちょっと不機嫌だ。

サスケの写輪眼見てからだけど、何か妖魔時代のことを思い出したのかな?

 

 

 

やがて、家の前の森の入り口に辿り着いた。まずは侵入者防止用の罠を解除。

 

ここの罠を解除するには、俺たち(俺と白と再不斬)のチャクラパターンと、専用の合い言葉が必要になる。

 

合い言葉は一応週毎に変えている。

 

今週は確か―――――ああ、あれだったな。

 

「"新たなるラーメンの器よ。願わくば宿るべきあなたのそのラーメンに幸いあれ"」

 

封印は解かれました。別に体重80キロの童女は出てこないけど。

そこから走って数分。玄関を開けると、なにやら食卓に座る再不斬の姿が。

 

「………お前、今試験中じゃなかったのか?」

 

帰ってくるなり、再不斬の不機嫌な声で出迎えられました。

なにこれ理不尽。

 

「っていうか二人とも、何してんの?」

 

「ちっ………見れば分かるだろ」

 

食卓には、白と再不斬二人の姿が。

おいおい、美味そうなもん食ってるな!

 

「えっと、ナルト君も食べますか?」

 

と言ってくれる白嬢。笑顔に心が癒された。

 

――――でもね、俺は空気が読める男なんだ。

 

『嘘だっ!』

 

黙れマダオ。そしてこれを見ろ! どう見ても再不斬専用に作られた料理! そして、エプロン姿の白嬢!ああちくしょう、ポニーテールが眩しいぜ!

 

そして、白嬢は俺に笑顔でこの料理を勧めてくれてはいるが、その表情はどことなく悲しそう!総合すると、どう見てもこれはこれですよマダオさん。

 

「うあ~んちくしょう――――! 眉無しなんて眉毛書かれて個性を無くしちまえ――――!」

 

「ちょっ!?」

 

泣きながら、おじゃま虫である俺はその場を逃走した。いつの間にか我が家は二人の愛の巣になっていました。なによ、ちょっと家を空けたぐらいで!

 

でも見ていてすげえ微笑ましいので、許してしまいそうな自分が悲しい。俺はフラグのフの字も立っていないというのに。今ならば最大級獅子咆哮弾でも放てる自信がある!

 

『猛虎高飛車! 猛虎高飛車! 猛虎高飛車!』

 

「だからうぜえって言ってるだろマダオォォォ!」

 

口寄せで呼び出したマダオと死闘を繰り広げました。

 

 

「はあ、全くこいつらは」

 

 

ため息を吐きながらも、キューちゃんはいつもの調子に戻ったのが不幸中の幸いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休息を取り、第3試験が始まる前日。俺たちは影分身と入れ替わった。

整列している中、何やら視線が。

 

(えっと………山中いのに、日向ヒナタ。それに奈良シカマル?)

 

何でそんな目で見てくるのかねい。

 

(あ、その三人って子供の頃に助けた面子じゃないの?)

 

(そうか………な、何だってー!?)

 

(落ち着かんか)

 

(キューちゃんに言われるとは。っていうか、ばれた? いや、姿も違うし、ばれる筈ない。なら、何で?)

 

(さあ。まあ、変化している内はばれないから、そう慌てる事もないんじゃない?)

 

(そうだな)

 

取りあえず、試験をクリアした面々を見渡します。お、音の三人も揃ってるか。リーの表蓮華を喰らったあの下忍も来てるな。足ががくがく震えてるけど、立てては居る。カブト当たりに治療してもらったか?

 

しかし――――予定の域を大過なく。まあ、大したイレギュラーもなかったからね。今ここに居るのは、原作+俺たち3人という顔ぶれ。サスケがこちらを睨んでいるのが気になるけど。

 

(……のう、あのうちはの坊主が思いっきりワシを睨んでくるんじゃが、殺していいか?)

 

駄目です。我慢しなさい。

 

(ちっ)

 

うーん、どうも木の葉と音の下忍達には、警戒されているみたいだ。特に音隠れの視線がひどい。多由也達が何かを言ったのかもしれん。本戦には出ないからどうでもいいけど。

 

(そういえば、第3試験まで出る必要無かったんじゃない?)

 

(一応出とく。イレギュラーが多すぎて、何があるか分からない。情報が足りないし………機会があるなら、情報は収集しておくにこしたことはない)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試験官による説明が終わった後。私は試合をする部屋の外に出て、カカシ先生に声をかけた。

 

「ん?何、キリハ」

 

「サスケ君の事ですけど………」

 

「ああ、今から治療するよ」

 

カカシ先生は、その言葉に表情を曇らせる。

 

「取りあえず、俺に任せておいて。あの呪印も、どうにか抑えるから」

 

「はい。それで、ですね――――大蛇丸の事を聞きたいんです」

 

「大蛇丸の………そういえば、キリハは知ってるんだったっけ。あいつは自来也様と同じ三忍だものね。それで、何か言われた?」

 

「はい。単刀直入に聞きます………私には兄が居た。そしてその兄は、暗部に殺されたんですか?」

 

その一言に、カカシ先生は硬直する。

 

「もしその事が本当ならば、もし兄がいて、それが殺されたのであれば、色々と――――「キリハ」」

 

名前を呼ぶ声で言葉を遮られた。はっと見上げたカカシ先生は、今までに見たことが無い程に落ち込んでいるようで、弱く懇願するように言ってきました。

 

「必ず、後で話すから。今はちょっとだけ待って欲しい」

 

「え………良いんですか? 今までとは違って、私に隠すことはしないと?」

 

「鋭いからなあ、キリハは。それに、絶対に突き止めると決めているんでしょ?」

 

その問いに、私は力強く頷く。当たり前だ。諦めるものか。

 

「だったら、俺から話すよ。こうと決めたら動かないでしょ? でも、この試験が終わるまで待っていて欲しい。俺の一存じゃあ決められないからね」

 

「はい」

 

今は追求はしない。カカシ先生に浮かんだ表情が、あまりにも悲しく見えたからだ。

それだけでも、分かる事はあった。

 

(少なくとも私に兄が居た事は確実で。でも、カカシ先生達が悲しむような事件があって………)

 

立ち去る先生の背中を見つめて、私は拳を握りしめた。

その時、背後から声を掛けられた。

 

「そこで、何をしている?」

 

声の方向、背後へと振り返る。其処には、着物姿をした、年下の女の子がいた。

 

「あなたは………」

 

確か、あの状態のサスケ君の攻撃を受け止め、無造作に投げ飛ばした少女。

春原さんと同じチームの子だったっけ。

 

「ううん、何でもないよ?」

 

「そうか」

 

それきり、女の子は黙った。

 

「えっと、チームの仲間は?」

 

「仲間? ………ああ、あやつらか。一試合目はあやつら同士の組み合わせ何でのう」

 

と、広場の真ん中を指さす。

 

「えっと、春原さんと………」

 

指さされた、対戦相手を示すものには、こう書かれていた。

 

"春原ネギ 対 長谷川泰三"

 

その二人は広場中央で対峙していた。しかし両者ともに、目を瞑っている。

やがて、審判である月光ハヤテ特別上忍が出てきた。

 

間もなく、開始の合図が出される。

旋風が舞い、激音が鳴ったのはその直後。

 

――――その一連の動作を、果たして何人の下忍が視認できたというのか。

 

二人は下忍ではあり得ない速度で互いの距離を詰めると、間髪入れずに攻撃を。

両者の腕が霞み、体が交差した。

 

(……は、はやい!?)

 

これでも火影の娘で、今まで多くの上忍さん達を見てきた。動体視力にも、それなりの自信はある。そんな私でも、二人の動きは捉えきれなかった。

 

二人の口の端から血が流れ、頬が赤くなっているということは、おそらくは交差すると同時に打撃系の何かを打ち合ったのだろう。

 

結果は相打ちらしい。しかし、互いに不敵な笑みを浮かべている。

私は息を飲みつつ、隣に居る金色の少女に声をかけた。

 

「試合………始まったけど、こんな所にいていいの? 担当上忍は?」

 

「その者なら、今は厠に行っているらしい」

 

そうなんだ。頷きつつも私は風のような速度で体術の応酬をしている二人を見た。

 

「………凄いね、あの二人」

 

「ま、凄いの内容にもよるがな」

 

少女はため息を吐いたけど、何でだろう。

 

「ええと、その、あなた………私は波風キリハっていうんだけど」

 

「今は………ひ、氷雨チルノという。まあ、親しい者からはキュウと呼ばれているから、そっちの名で呼んで欲しいものだがな」

 

「キュウ?」

 

その名前、どこかで聞いたような気がするけど思い出せない。

後でカカシ先生にでも聞いてみよう。そんなことより。

 

「じゃあ、キューちゃんって呼ぶね」

 

「ごほっ」

 

名前を呼ぶと、キューちゃんは何故か咳き込んだ。

 

「どうしたの?」

 

「いや………何でもない」

 

何か、呟いている?

聞こえないけど、「血、かの」とか何とか。

 

「それより、二人の試合を見ていなくていいの」

 

「まあ、な。どちらが勝ってもあまり変わらないからかまわん」

 

「変わらない………?」

 

確かに勝ち抜けは一人だから、確実に一人は通るってことだけど。

力量が一緒なのかな。

 

「しかし、あやつら………本気でやりすぎじゃ」

 

戦っている二人を見て、キューちゃんが苦笑する。二人の顔はもうぼろぼろだ。キューちゃんとしては、下忍に似つかわしくない速度で殴り合っている方に怒っているのかもしれないが。

 

(確かに、あれならば苦笑するかもね)

 

どれだけ健闘しようとも、この試合の勝者は一人。普通ならば手を見せず、片方が譲るべきだ。しかし二人は本気の戦いを繰り広げている。

 

―――でも、それを見ているキューちゃんは笑っていた。

どこか、嬉しそうに。

 

「仲良さそうだね、あなたたちは」

 

この三人、底には信頼がある。直感だが、そう思った。

私の勘はあまり外れた事が無いのだ。

 

だけどキューちゃんは私の言葉に、首を振る。

 

「仲がいい、とは少し違う。でも、まあ」

 

顎で試合会場を指す。そこは既にクライマックス。

両者のチャクラが高まり、会場を静かに揺らしていた。

 

ハヤテ上忍でさえ、目を真剣にさせ注視している。

 

 

やがて、二人は目を鋭く、細く。ニイ、と口の端をつり上げると、パシンと自分の手のひらを叩いた。

 

同時に、声が鳴り響く。

 

「勝負!」

 

チャクラが吹出し、

 

「応!」

 

両者寸分違わぬタイミングで踏み出し、その距離を一気にゼロとした。動作は全く同じ。大きな呼気と共に、間合いに入る一歩を踏み出し、鋭い掌打を放った。

 

真正面から、虚の動作もない、小細工抜きの一撃勝負。

足元の床が軋むのを感じる。

 

そんな激烈な踏み込みと共に繰り出された互いの一撃が交差する。矢のような掌底はぶつかり合うことなくすり抜け、互いの身体を打ちすえた。

 

どぐり、という鈍い音が鳴る。

やがて二人とも、時が止まったかのように硬直した後、

 

(あっ)

 

笑いながら、長谷川さんの方が崩れ落ちた。

 

「っと」

 

しかし、倒れない。立っている春原さんが、支えたからだ。

長谷川さんはそのまま、身体を預ける。その顔に――――悔しさはなかった。

 

負けたのに、笑っている。そして、春原さんも同じように笑顔を浮かべていた。勝ちや負けに関係なく、二人は互いに笑っている。どちらが優れているか、などと考える様子も見せず、ただ可笑しそうに笑っていた。

 

そして、それはキューちゃんの方も同じで。

それは、あの二人と同じ種類の笑顔だった。

 

見ている者の心を揺さぶるような、一切の嘘偽りのない笑顔。

 

そんなキューちゃんは、可愛らしい八重歯を見せながら快活な声色で私に告げた。

 

「見ての通りじゃ――――あいつらと一緒に居ると、退屈だけはせんよ」

 

 

キューちゃんが浮かべたその笑顔と声は、一種の感嘆を覚えるほどに透き通っていて。

 

奇跡のように整っている容姿も相まった可憐さを目にした私は、同性ながらも見惚れてしまう程だった。

 

 


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