小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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15.5話 : それぞれの一日

「つれづれなるままに、ラーメン」

 

 ~ 小池メンマのラーメン風雲伝 序章

   

   「――――そして、これより始まる」より抜粋 ~

 

 

 

 

 

~ 白 ~

 

 

選抜試験が終わった、次の日。

 

メンマさん達3人は、眉をしかめながら来るべき木の葉崩しについて話し合っています。何でも、本格的には参戦しないそうで。ですが、砂隠れの里に居るという尾獣、一尾の守鶴を宿す人柱力とは戦う必要があるそうです。

 

3人は難しい顔をしながら、どういった戦術で行くか意見を出し合っていますが………

 

「で、どうするつもりじゃ?」

 

「うーん、難しいんだよなあ。話し合うだけじゃ、絶対に駄目だし」

 

「それには同意する。自分が持つ力に囚われてるからね。自分しか見えてないっぽいよ。何をするにしても、それは戦闘で勝ってからの事だね」

 

「………難しいな。取りあえず殺し合いは避ける方向で行きたいんだが」

 

主に俺がしんどいし、俺がやばい。メンマさんは気怠そうにぼやくと、マダオさんが厳しくツッコミました。

 

「残念ながら、それは無理だと思うよ。話すにしても、何か切っ掛けがないとね。まあ、あの怨念じみた思考だけを取り払えれば話しは別になるけど」

 

「俺は人は殺さない! その怨念を殺す!! 」

 

「―――それはともかく」

 

無視するマダオさんに、「無視すんなよぉ」メンマさんはぶーたれていますが、キューさん達は完全に無視。その圧倒的スルー力に貫禄が見えます。慣れてるんでしょうか。

 

「あれはあっちに置いといて………たとえば、そうだな――――"萌え"とかどうだろう」

 

「「………は?」」

 

僕とキューさんの声が重なります。萌えって、何でしょうかそれは。

 

「ああ、萌えは草の息吹、即ち癒し。萌は生命の発芽、即ち感動。萌は生命、即ち魂………そうだろう、同胞よ!」

 

真剣な目で訴えるマダオさんに、ナルト君は腕を組んで深く頷きます。

 

「ん、確かに。確かにそうかもしれん。いや、そうだな。実に理に適っていボしァ!?」

 

神妙な面持ちで語るナルト君ですが、キューさんに殴られて向こうの方へ飛んでいきました。

 

「一理も無いわ、アホども。大体『もえ』とは何だ?」

 

「鏡を見れば分かると思うよ。まあ、それは後々詰めるとして、今は話を進めるけど、何か案はない?」

 

「はい! はいはい! 先生!」

 

「では、ナルト君」

 

しゅばっ!と戻ってきて挙手するナルト君を、マダオさんが指します。

 

「白のセーラー服姿で説得してはどうだろう」

 

え、ボク? と驚いている暇もありません。二人はこちらを見ながら、真剣な目で考え込んでいます。そして、マダオさんが親指を立てました。

 

「………ありだね」

 

「よし、それで行こう」

 

頷き呟くマダオさんに、膝をパシーンと叩いてこれで決定だとばかりに立ち上がるメンマさん。

 

「行くな!」

 

そんな二人に、キューさんの狐火が炸裂。しかし二人とも「わーきゃー」とか言いながら、その炎を避けました。あの、狐火って結構速いんですけど………二人とも余裕がありそうですね。

 

それはともかく、今の話しの内容がよく分からないのですが。

取りあえず、これだけは聞いておきましょうか。

 

「あの、セーラー服ってなんですか?」

 

「清純の象徴だよ。女学生が纏う聖衣みたいなものさ。ちなみに僕は裁縫が得意でね」

 

「大丈夫。きっと似合うから」

 

と、逃げ回っていた二人が瞬身の術で近くに寄ってきます。

肩を叩かれました。無駄に速くて見えませんでしたよ、まったく。

 

そして二人は虚空を見上げ、なにやら語り始めました。

 

「想像して見るがいい! 白×セーラー服! 正しくインフィニティじゃないか! ああ、俺は自分の発想が恐ろしい………」

 

「これで我愛羅君もいちころだね。セーラー服の白ちゃんが、はにかみながら近づいてくる。やがて目の前に立つと、跪いて、頬を撫でてその後―――」

 

そこで、キューさんが一言。

 

「――――変化が解ける。実は変化した再不斬だった」

 

「「ゴハァッ!!」」

 

キューさんがつけ加えた一言に、二人が吐血しました。もんどりうって倒れてますが。

何やら、マダオさんの方のダメージが大きいようです。一体何があったというのか。

 

「くっ、マダオ! しっかりしろ、マダオ! バカヤロウが………無駄に想像力豊かなお前のことだ。リアルに想像しちまったんだな………!」

 

力無く倒れ伏すマダオさんを抱え、ナルト君は必死に揺さぶります。

うっすらと目を開けるマダオさん。やがて僕の方を見ると、呟きます。

 

「白ちゃん………良い夢を、見させて貰ったぜ」

 

うわごとのように呟くマダオさん。せーらー服とやらを着た再不斬さんを思い浮かべたのが原因でしょうか。今にも力尽きそうなマダオさんに向かって、ナルト君は悲しそうに叫びました。

 

「あれが………良い夢でたまるかよ!」

 

「やかましいわ」

 

「イ゛ェアアアア!」

 

先ほどより巨大なキューさんの狐火で、寸劇を繰り広げている二人は、もろともに吹き飛ばされました。

 

 

 

 

 

 

「あ、キューさん……その、お疲れ様です」

 

「ああ………本当にな」

 

ぷすぷすと焦げた二人を見ながら、キューさんは疲れたように肩を落とします。その姿に少し笑ってしまいます。マダオさん「すね毛が、すね毛ガっ……!」と悪夢を見たかのように呻いていますが大丈夫でしょうか。

 

まあ、それはともかく。

 

「そろそろお昼ですし、ごはんにしましょうか」

 

用意が出来たので、いつもとちがって食卓を4人で囲みます。

 

「ちょっとキューちゃん、俺の稲荷取らないでよ」

 

ナルト君が、キューさんに文句を言います。どうやらその箸で稲荷寿司を奪ったみたいです。先ほどの仕返しでしょうか、僕の動体視力でさえ霞んで見えるほどの速さでした。キューさんも凄いですが、気づくナルト君も凄い。

 

「はて、何のことじゃ?」

 

と無視して稲荷寿司を食べるキューさんのほっぺたを、ナルト君がじっと見ます。

………御飯粒ついてますね。急いで食べ過ぎです。

 

「はあ、まあいいか~。後一個残ってるしー」

 

と、視線を正面に戻した後、ナルト君の目がくわっと開かれました。

 

「ぐううううううううう!?」

 

その直後、キューさんが真っ赤な顔をしながら口を押さえます。

 

「ふ、油断大敵、自業自得、因果応報」

 

にやりと笑うナルト君の手には、練り辛子が握られていました。

 

「うぬ、貴様………!」

 

「えー、何のこと?」

 

睨むキューさん、クマーとか言いながらとぼけるナルト君。互いに戦闘態勢に入ろうとしますが………っていい加減にしてください。すっと、二人の間に、僕は千本を投げつけます。

 

「そこまでです」

 

「「………はい」」

 

頷き、押し黙る二人に、僕は笑顔で忠告しました。

 

「ほんと、いい加減にして下さいね二人とも。食事中ですよ」

 

「「………はい」」

 

良かった。話しを聞いてくれたようです。あれ、どうしたんですか、マダオさん。震えちゃって え、何?ごめんなさい、もうしません、クシナ?

 

誰ですかそれは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事が終わり、皿を洗っているとキューさんが背後からこちらに近づいてきました。肩越しに見ます。どうやら、食器を下げてくれているようです。

 

「ほれ、これで最後じゃ」

 

「ありがとうございます」

 

食器を運び終わったキューさん。運び終えた後、何故かその場を動きません。数分間、何となくしゃべることもなく、二人で黙り込みます。水の流れる音と、食器を洗う音。

それを打ち破ったのは、キューさんの声でした。

 

「お前は………」

 

「はい?」

 

「いや、お主達は我のことが怖くないのか?」

 

いきなりの言葉に、思考が止まります。

 

「我の事は知っているんじゃろう? なのに、そういう素振りも見せん」

 

「怖い、ですか………まあ、九尾のことなら考えた事はあります」

 

ともすれば一国をも滅ぼせる妖魔。でも、実感がわかないというのが本当のところだ。

 

「それに、色々と考えたんですけどね。なんか、あの二人と話しているキューさんを見てると、そんな事を考えているのが馬鹿らしくなったというか」

 

「あの二人と………馬鹿らしく?」

 

「はい。正しくは、あの二人と話している時のキューさんの顔を見て、ですけどね」

 

「………そうなのか?」

 

「はい。それに、知識だけで人を見るのは嫌ですから。僕も………過去にそういう経験をしたことがあります」

 

外形だけで、形式だけで人を見る。だから、霧隠れのような血継限界狩りのような悲劇が起きるのだ。人を見ないで、驚異を見る。保身のために、無情にもなり。

 

でも、それだけを優先する人は、果たして真っ当な人間と言えるのだろうか。忍者だから、それでもいいのか。

 

――――僕は、違うと思う。だから、怖がるより前にこの人の事を見る。

 

「昔の事は知っています。でも、知っているだけです。実際にこの眼で見ましたが………違う、と感じられました。全てを説明するのは難しいですが、違うと………だから、怖くないですよ」

 

「そうか」

 

「そうです」

 

また、会話が途切れます。そしてしばらく、食器を洗う音だけが響いて、数秒後。じっと合う視線と視線。やがてキューさんはふと俯くと、きびすを返して、台所の外へと去っていきました。

 

「………じゃあ、な。ワシはあやつに先ほどの仕返しをしてくるから」

 

照れたんでしょうか。キューさんはこちらに顔を見せようとせず、向こうを向いてます。その姿に思わず笑みが浮かんでしまう。

 

………ちょっと、ナルト君と似ているとこがありますね。

 

「頑張って下さい。食べ物を粗末にすることはいけませんからね」

 

背中にかけた応援の言葉に応えず、片手をあげて答えるキューさん。

 

(ほんとに似てますね)

 

その可愛いともいえる後ろ姿を見て、僕は思わず笑ってしまった。

いつ以来だろう、前にこんな生活をしたのは。

 

明けない夜は無いと誰かが言った。止まない雨は無いと誰かが言った。

それが嘘だと思える程、長い夜を過ごして。気づけば、強引に引き上げられていた。

 

否、問われたのだ。一緒に来るかと、こちらに選択肢を用意してくれた。それで仲間になって――――だけどメンマさんは、導く言葉も、甘い言葉も、教えてくれなかった。

 

方法を指し示しただけ。あとは自分で歩けとばかりに、環境を用意して。

まるで自分で夜をつっきれと、雨を止ませろと言っているかのよう。

 

――――僕、いや、私には尊敬すべき人が二人いる。

 

再不斬さん。私を必要だと言ってくれた人。ナルト君。運命?何それ食べれるの?と言った人。切り開くという意味を教えてくれた人。

 

………そのどちらも、手を引いてはくれないけれど。

 

(でも、それが正しいのかもしれない)

 

『それでも朝は来るんだ、絶対に』とメンマ君は言った。

 

僕はその言葉の意味を考える。

 

それは、希望の言葉で、同時に絶望の言葉だと思った。あるいは、苦しみが晴れる、清々しい朝が訪れる。あるいは、避けようのない、照らされる日が来る。父を殺した僕はその時にどんな想いを抱くのだろうか。

 

道を往くという事は簡単なことではない。こんな世界だから、苦境という雨は誰にだって降り注ぐ。道の途中に雨宿りする場所はない。

 

必要なのは、それでもと歩き続ける意志。

それは、暗闇を抜けるために必要なものと同じである。

 

(一人じゃ、無理だったろうな。手を掴んでくれた人が居るから)

 

そういえば、どちらも橋の上でだった。再不斬さんには霧隠れの里にある橋の上で。メンマ君には波の国の橋の上で。陸と陸を繋ぐ、その途中にある場所で助けられて、ここにいる。

 

(自分で立つしかないと言ってくれたのは、ナルト君だった)

 

だから、私は此処にいる。だからどうした、と言い続けながら。

背後を振り返るのを止めた。それだけで、強くなれたように思う。

 

(ありがとうございます、にはまだ速いですけど)

 

まだまだ始まったばっかりだ。でも、この場所では頑張れる。

 

(キューさんのことも、見ていて面白いですしね)

 

いまいち自分の立ち位置が分かっていないように感じられた。見た目通りの幼子に見える。それでも、いつも彼の背中を追っかけてるのが分かる可愛いとはこのことか。

 

私は手に持っている皿を拭きながら、笑った。

 

………って、何か向こうが騒がしいですね。

 

「ここで会ったが百年目!待っていたぞ再不斬!」

 

「………何でいきなりハイテンションなんだお前。それより、白を知らないか? ちっと遅れたが昼の飯を食いたいんだが」

 

「ふ、悪夢とは乗り越えるためにある。だから、氏ね、再不斬! 俺の明日見る夢のために!」

 

「微力ながら助太刀致す!」

 

「人の話を聞け!」

 

「えーい、やかましいわ静かにせんか!」

 

爆発音。

 

「ぐわあああぁぁぁ―――」

 

「熱いって―――」

 

「俺がなにをしたああああぁぁぁぁ!!」

 

 

ああ、今日も隠れ家は平和です。

 

 

 

 

 

 

 

~ 奈良シカマル ~

 

ラーメン屋九頭竜。ここで食うのも久しぶりだな。

 

「こんにちはー、メンマさん」

 

「あ、キリハちゃんいらっしゃい。今日は・・4人だね」

 

「はい」

 

結構キリハのやつここ通ってるのな。それにしても身体中が痛え。

 

「ほら、しっかり歩きなさいよシカマル」

 

いのが俺の背中を叩く。お前に言われたくねーよ。あれだけぼこぼこ殴った本人が言うことか。

 

「あー、あははは。あれはごめんねー」

 

と手を合わせて謝る幼なじみ。はあ、まあいいか。いつもこんなんだし。それでも、今日のはひときわ激しかったな。俺は昼の出来事を思い出す。

 

 

 

~~

 

 

 

「えー!じゃあ、アンタ、あの人にあったの!」

 

「あー、一応な。一瞬だったけど」

 

「何で私も呼んでくれないよ!」

 

急に激昂するいの。う、怖ええ。

 

「無茶いうなって!こっちもいっぱいいっぱいだったんだから」

 

「………何で私も呼んでくれなかったの?」

 

泣きそうなヒナタ。

………だから、俺にどうしろと?

 

「何で!?」

 

「何で?」

 

う、こら、詰め寄るな、拳を振り上げるな、白眼を発動させるな!

 

「ちょっとまてえええええええぇぇ………」

 

 

 

~~

 

 

 

「まさかヒナタに詰め寄られる日が来ようとはな」

 

「ごめんなさい………」

 

「まあごめんって。それより、アンタ名前も聞けなかったの?」

 

「懲りてねえな………まあいいか。名前は一応聞いたけど『おまえらに名乗る名前は無い』って言われた。まあ他国の忍びだから迂闊に名乗らねーのは当たり前だろ」

 

「え、ちょっと待って。それって昨日の話し?」

 

「え、うんそうだけど。キリハ、昨日に何があったか知ってんの?」

 

「うん、カカシ先生から聞いたよ。里に侵入した不審人物について、でしょ?」

 

「………まあ、一応そうなんのかな。俺は助けて貰ったけど」

 

「そうなんだ。カカシ先生は殴られて気絶させられたって言ってたけど」

 

「マジで!? え、カカシ先生ってかなり強いんでしょ!?」

 

「うん、いちおう、そう………なのかなあ?」

 

キリハが首を傾げる。遅刻魔にイチャパラ馬鹿だからな。まあ、気持ちは分かる。ヒナタでさえ頷いてるぞ、おい。

 

「えっと、なんか負けた上にあのマスクに落書きされたみたいで。今日の朝会ったけど、かなり凹んでたよ」

 

「落書き……ちなみにどんな事を書かれたの?」

 

「『カミーユ参上』だって。気絶してる間に書かれたらしいけど」

 

「カミーユ? なんか、女の名前みたいだな」

 

「先生もそう言ってたけど………」

 

と、全員がこちらを見る。はあ。お前らもあのとき顔を見てんだろうに。

 

「………あの人は男だよ。顔も骨格も男のものだ。金髪の癖毛にマスク、それに………なんかカカシ先生に似ている声だったような………」

 

「あ、そうもいってたな」

 

「何者なんでしょうね。というか、何であの時病院に居たのかしら」

 

「わかんねえ。俺らを助けた時も、まったく意図が不明だ、とか言われてたからな」

 

というか、あの我愛羅を病院の中に入れんなよ。この里の防備体勢はどうなってんだ。まあ、風影の息子らしいから仕方ねーのかもしらんけど、あれ危険人物すぎるぞ。

 

「どうしたの?」

 

「いや、何でもないさ。それより、カカシ先生は他に何か言ってたか?」

 

「えっと何か呟いてたよ。『いや』とか、『まさか、違うし………』とか、『ありえん』とかぶつぶつ言ってた」

 

「そうか………お、来たか」

 

木の葉風ラーメンと稲荷寿司のセット。あれ?何か量が多いような気がする。と、メンマさんの方を見ると、親指を立てて笑っていた。どうもボコられた事に同情してくれているようだ。

 

………男の情けが胸に染み渡るぜ、ちくしょう。

 

「あ、シカマル多いから一個ちょうだいねー。いやー、今月実はピンチでねー」

 

「あ、私もー。一応、情報料ってことで」

 

「………あの、シカマル君。元気だして」

 

………世の無情が胸を染めるぜ。無情の名、汝の名前を女という。お前らちょっとはヒナタの奥ゆかしさを見習えよ。

 

ヒナタ? あーいいよいいよ、もってけ。ったく女はこれだからよ………?

 

またメンマさんの方を見ると、渋い笑顔で首を横に振っていた。

そして、メンマさんは俺のスープの方に視線を移す。

 

つられてみると、って、あれ? 木の葉風ラーメンの具を見ると、チャーシューが気持ち厚く切られていた。

 

………渋いサービスしてくれんじゃねーか。メンマさんよ。

 

 

また来ようかな………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ 波風キリハ ~

 

 

「じゃあ、また明日ね。いのちゃん」

 

「キリハもね。あ、そうだ。明日からの修行、シカマルとチョウジも参加したいそうだけど、良い?」

 

「自来也のおじちゃんに聞いて見るけど、良いと思うよ。サクラちゃんとキバ君も参加したいって言ってたし。まあ、みんな木の葉の下忍だもんね」

 

「自来也様直々に修行を付けてもらえる、ってんだから参加するわよ。あ、そういえばサスケ君は?」

 

「カカシ先生と修行だって」

 

「そっか。じゃあ、また明日」

 

そこでみんなと別れた。あとは、自分一人しか住んでいない家に帰るだけ。

まあ、お手伝いさんはいるけどね。

 

「あー、月が綺麗だなーっと」

 

見上げながら、呟く。

 

そして、カカシ先生と三代目のおじーちゃんに聞いた話を思い出した。

 

兄さんは九尾の尾獣を宿す人柱力というものだったらしい。父さんが兄の中に九尾の妖魔を封印したのだとか。父さん自身も、その封印術の代償によって命を落としてしまって。母さんも、同じ時期に死んで、それで今は私一人と言うことだ。

 

(でも、一人じゃないかもしれない)

 

皆は兄さんが生きている、と言っていた。もし死んでいたら、九尾が顕現している筈だから、と。

 

(でも何年も探して見つかっていないって事は………止めよう)

 

きっと生きている。そう思うのだ。もしかしたら、身近にいて私を見守ってくれているのかもしれない。

 

(自分勝手な考えだね)

 

それでも、そうあって欲しいと思う。兄さんの気持ちを考えれば、それは忌避すべき思いなのかもしれないけど。

 

「家族、かあ」

 

思わず口に出してしまう。友達はいるけど、父も母も兄妹も居ない。それでも、常に周りに誰か居てくれたので、1人ではなかった。

 

だから寂しくはないけど………それでも家族というものを知りたい。

毎日一緒の家に住んで、遠慮なく意見を言い合って、喧嘩して。

 

本来ならば、きっと居た筈だった兄さんと――――本当なら、横に居たはずだろうけど。

 

「どうしてなのかな………」

 

兄さんを襲った人は、九尾襲撃の事件で家族を奪われた人だったと聞く。九尾に恨みをもっていたのだと。

 

(でも、兄さんは九尾じゃないよ)

 

おじーちゃんから聞いたけど、兄は口数が少ないが、普通の子供だったらしい。朝昼晩は普通にご飯を食べて、夜になれば普通に眠る子供。どうして、そんな子供を九尾だと思って――――思い込んで、殺せるのか。

 

立ち止まり、虚空に訪ねてみる。でも、頬を撫でる風も、空に浮かぶ月もその答えを教えてはくれなかった。

 

「って、あれ?」

 

何故か、月に春原さんと長谷川さんの顔が浮かんだ。

何故か、笑みが浮かんでくる。

 

「………まあ、あの寸劇は面白かったけど」

 

バナナで試験官を転ばすわ、樹上で笛を吹いた後飛び降りて骨折するわ。

まるで火の国の首都に居るって聞いた、芸人みたいな人だった。

 

「………帰ろっか」

 

今日は帰ろう。明日から、また修行だ。あの日向ネジに勝つために、頑張らなくてはいけない。運命が全てという日向ネジに、『だからどうした!』を貫き通すために。

 

 

「やってみますか」

 

 

私は自分の頬を張った後、家に向かって思いっきり走り出した。

 

明日をもっと頑張るために。

 

 


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