「今後も我々の志を継ぎ、戦い続ける全ての同胞に幸あらん事を―――豚骨、万歳」
~ 小池メンマのラーメン風雲伝 第九百五十六話
「第四次麺界大戦・豚骨派第二基地奇襲作戦
『真白のスープを越えて』」より抜粋 ~
「と、いうことで豚骨ラーメンの開発に取りかかります。準備はよろしいですね?」
「はい、老師」
白と一緒に、調理場に立つ。今回のコンセプトはこれだ。
豚骨ラーメン、火の国仕様、こってりでもさっぱりね!
「名付けて、『火の国の宝麺』だ!」
運麺を決定する、麺族最高の武器だね!
うん、突っ込みがないね!
「………と前振りしてなんですが、すでに出来ております」
この2週間で完成させました。俺の突然の完成宣言に、皆が驚く。
「え、とかなり早いですね」
「ああ、それにはとある事情があってな」
前世で店の決め手用に研究を重ねていたのが、熊本風豚骨ラーメンだったのだ。
それにこの世界での食材でアレンジして、味を一段上のものに昇華させたので。
これが新しい店の看板麺になるだろう。
「角煮って男のロマンだよね」
「でも、太りそうなラーメンですよね………」
そうなのだ。豚骨かつ角煮。豚の油の二重奏である。
「大丈夫だって、忍者なんだし。普通に修行してれば太らないよ」
「そうですねー」
むしろスタミナつけて修行せい、と言わんばかりのラーメンである。
「あと、このラーメンはね。豚骨だとはいってもそれだけではない、と言う風な味に仕上げるつもりなんだ」
「と言うと?」
「まったりとしてそれでいてしつこくない味」
テンプレかつ王道だね。
「うーん、分かるような、分からないような」
「それでいて栄養たっぷりこってり、でもお腹と肌に優しいラーメン」
「難しそうですね」
「うん、かなーり難しかった。試行錯誤繰り返して、まあ味の形はいろいろあったんだけど………最終的にはこれを使いました」
取り出したるは例の豚の大腿骨。通称「ゲンコツ」だね。
「この豚の骨ね。煮込むと面白い味になるんだよ。これに木の葉近郊で取れる、ある鶏の鶏ガラを一定量加えて一定時間煮込むと………更に面白い味に」
「試したんですか?」
「一応ね。で、これ」
白にスープが入った小皿を差し出す。
「………ほんとだ、味は濃いめなのに、後味がしつこくない」
「そこに、味付けした角煮を加えてみました。同じ豚から取っているので、スープとのハーモニーが凄い」
キューちゃんにお椀を差し出します。中に入ってるのは、少量の角煮と麺とスープ。
「………ふむ」
一口、食べる。直後、キューちゃんの動きが止まった。
(判定や、如何に!?)
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「70点、という所じゃな」
――――まじでか。
「でも、まあ………結構美味いぞ」
何!? あのキューちゃんの口からそんな言葉が!
「まじで!?」
「ぶもぎゃ!?」
ずさっと駆け寄―――あれ、途中で何か吹き飛ばした?
まあどうでもいいか。それよりも、だ!
「なっ」
キューちゃんに駆け寄り、がっしと肩を掴んで前後に揺する。
「今美味いって! 美味いって言ったよな! うおっしゃあああああーーーーーーーーーー」
嬉しさのあまり、掴んだままキューちゃんを高い高いする。抱き上げたまま、一緒にクルクルと回った。ああ、その言葉が聞きたかったんだよ!
「ちょ、っとまて、この!」
ああ、何かキューちゃんが赤い顔してるけど、可愛いな!
さあ、一緒に踊ろうか!
「ま、ちょ、口を、このぉ、お主!?」
顔を真っ赤にして、じたばたと暴れているキューちゃん。ああ、頬ずりしたくなる程かわいいじゃねーか畜生! 肌もすべすべな!
「っ、いい加減に離さんかぁぁぁ――――!」
声と共に放たれたのは凄いビンタでした。
「えらい目におうたわ………」
「正直すんません」
いかん熱くなりすぎた。淑女にこのような振る舞いをしてしまうとは、土下座せざるを得ない。でもキューちゃん顔が少し赤い。
「大体なあ! その、こういうのはちょっと慣れておらんのじゃ」
………かわええ。おいマダオ見てみろよ、俺たちが夢見た光景がここに――――ってマダオ。壁にめりこんでどうした、一体何があった!
―――ま、いいや放置しよう。
「あの、メンマさん。このラーメンなんですけど、材料足りるんですか?」
「あーいいところ気づいたね。実は、常時店に出すには、量が足りないんだよ。だから一日限定5~10食ぐらいになると思う」
「そうですか。それで、このラーメンは明日から出すんですか?」
「うん、その予定だけど」
「えっと………申し訳ないのですが、明日は再不斬さんとの修行の予定がありまして」
「ああ、そうだったっけ。まあ、本戦の日まで、あまり時間ないもんね………仕方ない、俺1人で開けるよ。」
本戦が近い、それは木の葉崩しも近いということ。激戦が予想される。それに向けての修行です。ここのところ、二人は特に修行に力を入れている様子。邪魔したらダメだね。
ま、俺も、新術の方の仕上げをしておきますか。
発掘したマダオと一緒に、訓練室に入る。この部屋は常時結界で守られているので、滅多なことでは壊れたりしない。
「さてと………じゃあ、逝こうか?」
何か字が違う気がするんですけど。えっとマダオさん、何やら怒ってらっしゃる?
分からんが、取り敢えず始めようか。
「あい、水入りマース」
と口寄せの巻物でで水を呼び出す。広い部屋の床が、水で満たされた。
「じゃあ、一発目いくよ………水遁・水龍弾の術!」
マダオが術を発動する。これは、我愛羅対策の訓練だ。水を砂に見立てての、模擬戦となる。しかし………でかいぞ、おい! いつもの三倍はある。
「こら、マダオ、もちっと手加減しろ!」
術の規模がいつもの倍になっている。いくらなんでもやりすぎだ、馬鹿たれ。
「ちゃんとやれ。ぶっ飛ばすぞこの野郎」
「まあ、まともにやったら僕が負けるけどね――――だが断る」
てめえ………ってその術は!
「水遁・水牙弾の術!」
それは確か、対象の周囲から水の牙を盛り込ませ、中央へと殺到させる術!
前後左右に逃げ場なしと判断した俺は、急いで天井へと跳躍し、そのまま足にチャクラをこめて天井へと吸着した。
足は天井に、頭は地面に。俺は逆さになったまま、マダオに向かって叫んだ。
「ってマダオ! てめえ今、俺のケツ狙っただろ!」
飛び上がる寸前、俺は見た。水の牙が、俺のケツのあった位置を通り過ぎたのを。
………あやうく掘られるところだった。
「ん、大蛇○対策も兼ねてだよ。一石二鳥とはこのことだね」
「うおい………嫌な想像させるなよ」
緊張感どころの騒ぎじゃねえ。というか、負ければそんな目にあうのか。そんな貞操を守る戦いは嫌だぞ、負けて失うものが多すぎる。
「ま、それは置いといて………でかいの行くよ?」
マダオが印を組みながら、片方の腕を上げる。そして締めの印を組む。
あれは、再不斬の………!
「水遁・大瀑布の術!」
発動と同時、部屋にある水が集まり、全てを飲み込む瀑布となって俺に襲いかかる。
これでは、逃げ場がない。
(さあ、今日こそ………やってみせる!)
逃げ場が無いなら、逃げないだけ。好都合だ、今ここで完成させてやる。
(―――俺の新しい術を)
意を決して、叫ぶ。
「見せてあげる………螺旋丸のバリエーション!」
直後、繰り出した新術と水の大瀑布がぶつかり合い、部屋の空気が激震した。
水しぶきが晴れた後。俺は先程のまま天井に足を吸着させながらそこに立っていた。
「………やったね」
「ああ。ラーメンに合わせて新術も、これにて完成だ」
これで何とか対守鶴戦の目処は立った。あとは、来週の本戦を待つのみか。
「ま、その前に掃除しなけりゃね」
「うげ」
見ると、強化していた部屋の扉と壁があちこち壊れていた。
● ● ● ● 『再不斬』 ● ● ● ● ●
「さて………やるか」
「はい、再不斬さん」
明後日はいよいよ実戦の日だ。修行の進み具合を確認するために、俺と白は訓練室にて最後の模擬戦を行っていた。
対峙してすぐ、まずは白が動いた。千本を投擲し、距離を詰めようとする。
「甘え!」
千本を刀で弾き、その勢いのまま振り下ろす。白は自慢のスピードを活かし、それを避けきると瞬時に反撃に移る。
「はっ!」
先と同じ、再度千本を投擲する。だが白は、正面ではなく上方へと投げた。
そして上方から聞こえる、甲高い音。
「チッ!」
投げられた千本が、上から振って来る。見れば、俺の頭上には氷の小さい壁がある。千本はあれに弾かれ、その軌跡を変えたのだろう。
だが避けられないほどでもない。俺はバックステップで上から来る千本を躱し、体勢を整え――――ようとするが、正面から飛来する千本が体を掠めた。
「時間差、か」
上に気を取られると、正面の千本が。正面の千本に気を取られると、上の千本が。
あるいは、後ろからも。四方八方から、千本が襲いかかってくる。
「なるほど――――極小量の氷の壁を超速で展開する事により、千本を弾く壁を作るってところか」
小さい氷の壁を利用した全方位攻撃。これは、初見の相手には特に有効となるだろいう。何しろ、外れたと思った千本が急に方向転換して襲いかかってくるのだから。
死角からの攻撃も可能なので、あるいは千殺水翔より対応し難い術になる。格下相手ならば、これだけで封殺できるほどに厄介だ。上忍相手では通じないが、それでも応用力がある。
流石に魔鏡氷晶の術に比べれば速度は落ちるが、この幻鏡氷壁の術は応用次第で様々な場面に対処できるだろう。一瞬顕現させる事により、相手の視界を防ぐ事もできる。
ただ、多大な集中力と使う場を見極める冷静な思考が必要になってくる。それは、白の資質と合っているので問題はないのだが。やがて分かったと手を上げると、白が攻撃を止めた。
「よく分かった。この術は、一対多の戦闘にも使えるな」
「そうなんですよ。応用次第で、どんな場面でも適用できそうですし………」
加えて、魔鏡氷晶よりはチャクラ消費量が少ない。決め技ではなく、戦術の要に組み込める術となる。
「後、一瞬ですが身を守る壁にもなりますので、防御にも応用できます………まあ、今の術のレベルでは、まだ無理なんですけど」
そこは今後の課題になるだろう。
「じゃあ、次は俺の番だな………と、流石に模擬戦で使うのは危ないか。白、ちょっと横に寄ってろ」
まずは口寄せの術で、大量の水を呼ぶ。
すかさず印を組み、手を前に上げ、その手のひらの前に水を集めていく。
「すごい………!」
口寄せされた大量の水は形態変化により圧縮され、やがて球の形になる。
呼び出した水のほぼ全てを固めると、俺は術の名前を告げた。
―――水遁・水甲弾の術。
そして、超圧縮された水の弾が勢いよくはじき出される。大量の水で押しつぶすことよりも、固めた水の弾で撃ち貫く事を重視した術。これは四代目火影と共同で考え、開発した術だ。
並の防御では防げない。弾の速度も速いため、避けることは困難だ。
一対一の戦闘で特に使えるだろう。
「こんなところか………それに、地力もあがったしな」
「あの二人、体術もすごいですもんね………」
影分身との組み手で、体術もレベルアップした。
「さて、来週の実戦に向けて………最後の仕上げだ。いくぞ、白」
「はい!」
「今日もラーメン日和だな………」
『お主にとっては毎日じゃろうが』
ごもっともだね。晴れた日にはしょうゆラーメン、雨の日にはみそラーメン、暑い日に『もういい』
最後まで言わせてよ。
『お客さん来たみたいだよ』
「いらっしゃい………って、三代目!?」
「うむ、キリハと自来也に聞いてのう」
おでれーた。ま、取りあえず注文を聞きますか。
「うーむ、どれにしようかのう」
「お悩みのようでしたら、新メニューの『火の国の宝麺』がオススメですよ」
「うむ、じゃあそれで」
承りました。それじゃ、いっちょじいさまのために作りますか。
……‥至高の真白色スープに、角煮の威容。麺は中太、やや固め。ネギは添える程度少なめで、あとは海苔を添えて、と。
「お待ち」
ごとり、と目の前に丼置いて。出てきたラーメンに、三代目は若干渋い顔をしている。
ま、見た目こってりですから、一応お年寄りになる三代目の反応は分からなくないですが。
一口食べると、驚きの表情を浮かべます。そして二口、三口。一通り食べると、感嘆の言葉を零しました。
「うむ、美味い! 最近こってりしたものは駄目じゃったが………これは不思議と食べられるの。しかも美味い」
「ありがとうございます!」
それから、三代目は一気に食べつくしました。うん、その笑顔のために作っています。
そして食後に、三代目の話しを色々聞いた。キリハが、とか木の葉丸が、とか。そういえば、孫である木の葉丸君って見たことないけど、どんな感じになっているんだろう。
まさか、キリハに惚の字になっていたりして。
『………ありえるね。キリちゃん天然だし』
少年ならば、というか普通の男でも勘違いする言動してそうだな。
あと、自来也の話も聞いた。最近、更にいいものを書くようになった、とか。
おいじじい、顔がエロいぞ。
あと作品を聞くに、『イチャイチャ・ナイト』とか、『イチャイチャ・メモリアル』とか………え、俺のアイデアを採用したのか。ちょっと後で見てみようかなあ、でも………
『うむ、見ると承知せんぞ?』
まいがっ! まあ萌え最先進国から来た我が身だし。実物が足りないのなら、後は妄想で補えばいい!
『噛むぞ?』
嘘です。犬歯を見せつけないで下さい、キューちゃん。でもその笑顔がすてき。
それから三代目と会話し続け、小一時間経った。一通り話し終わった三代目は、忙しいのでのうと。もうこんな時間か、と急いで帰ろうとしていた。
「あ、これよかったらお土産にどうぞ。夜食にでもしてください。美味しいですよ」
おみやげの稲荷寿司を渡す。サービスです、というと三代目は驚いた顔をする。
「………よいのか?」
「はい。あのラーメン、今日から出しましたので、三代目が初注文客になります。だから、その記念として」
「………そうか、では頂くとするか」
「ありあしたー」
礼を言う三代目。
『………もうほとんどチャクラも残ってないようだね』
そうだな。あれじゃあ、大きな術は使えないだろう。よくて上忍の下位クラスぐらいか。
(因縁が絡まなければ、人の良い普通のおじーちゃんなんだよなあ)
情に厚くて、甘くて。忍者の世界じゃ、それが裏目に出るのは当たり前だろうけど。
それでも、上忍より上で、あんな真っ当な感性を残している忍者になんて会ったことない。きっとぶつかっただろうなあ。忍界の無情さと真正面から戦って、それで今の人情味溢れる木の葉を支えてきたのか。
(………決めた)
『どうしたの?』
(んや、何でもねーよ)
そろそろ嵐が来る。明日は休んで、明後日の木の葉崩しに備えるとしますか。