小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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24話 : 戦いの後に

 

 

目覚めると、雨音が聞こえた。

 

「布団の上………ということは、誰かが運んでくれたのか」

 

入り口の方を見る。すぐに、部屋の扉が開いた。

 

「………起きましたか?」

 

「ああ、白が運んでくれたのか。ありがとう」

 

重たかっただろうに。

 

「いえ。再不「ありがとう、白」」

 

白の言葉を遮る。………分かってるさ。でも俺だって、夢を見ていたいんだ。

 

「「…………」」

 

じっと見つめ合う二人。

 

「僕ではなく、ざ「有り難う、白!」」

 

また、遮る。これだけは、譲らない!

 

「「…………」」

 

 

 

 

 

 

「………やっと、起きたか」

 

「おはよーっす。無事戻れたんだ、二人とも」

 

「ああ。深追いする理由もないしな。適当に音隠れの奴らを狩ってきたぞ」

 

「ふーん、で木の葉の方、何か動きあった?」

 

「三代目火影が死んだらしいな………殺ったのは、元木の葉の抜け忍、音の首領だとよ。三忍の1人、大蛇丸だったか」

 

「それは知ってる。それ以外は?」

 

「特には無い。あれから、一日しか経っていないからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、そっちの方はどうだった?」

 

「ああ。音隠れのやつらを適当に相手していただけだ。それ以外は特になにもなかった。どいつもこいつも、雑魚ばっかりだったのが不満だったけどな」

 

「まあ、新興の里だからなあ。カカシクラスの奴はそうそういないって。上忍の数も少ないと思うし。歴史が浅い里は層も薄いね、きっと」

 

「そうでしたね。せいぜいが、中忍レベルでした。妙な術を使ってくる相手もいましたが、全て対処可能な範疇でしたから」

 

「へえ。流石の分析力だね。でも、そこそこ戦ったんでしょ。怪我しなかった?」

 

「………まあ、流石に無傷とはいかなかったが、深い傷は負っていない」

 

「チャクラは?」

 

「ああ、久しぶりってもんで、調節が緩くてな。結構、多めに使ったよ。新術も使ったしな」

 

「あ、使ったんだ、水甲弾の術。それで、どうだった?」

 

「思ったより使えるな。貫通力があって速度も上々な分、使い所が多い。場合によっては、複数を巻き込めるしな。まあ、味方が大勢いる場所では使いにくいだろうが」

 

「白は?」

 

「ええ。幻鏡氷壁の術、十分に役立ちましたよ。それに、体術もメンマさんに見て貰いましたからね。静かな所で周りを気にせず堅実に修行できた分、基礎能力も上がりましたし。魔鏡氷晶を使うほど、追いつめられる事はありませんでした」

 

「よかったね」

 

「ええ。で、そちらの方は?確か、一尾の人柱力とやりあったんですよね。遠くから見えましたよ、あの巨体」

 

「………その巨体を倒した、馬鹿げた威力の術も見えたがな。あれは、なんだ?」

 

再不斬が不機嫌そうな顔をする。

 

「怖い顔するなって。螺旋丸の応用だよ。複数の影分身で螺旋丸を使って、まとめて、発射する大砲。本来の威力を殺さず、その効果範囲を広げただけ。まあ、チャクラコントロールは激ムズだし、予備動作が大きすぎるからね。その分、貫通力と余波による制圧能力は折り紙付き。でも………」

 

そう言って、腕を見せる。そこには、治りかけではあるが、傷跡があった。

 

「制御しきれなかった。術の余波で腕が痛んだよ。人柱力並の回復力が無いと使えないね、この術」

 

今はもう治りかけているが、術を使った後は酷かった。その後の掌打も応えたね。

 

「隙も大きいしの。守鶴は大きい分、動きは鋭くなかったから使えたのだろう。上忍相手だと、逆に使い所が難しい術になるの」

 

「ていうか、あれだけの威力が必要になる場面ってそうそうないよね」

 

「そうですね。螺旋丸だけで事足りますもんね」

 

その後も、反省会を続けた。

 

 

 

 

「で、昼飯だけど。おととい作ったスープが残ってるんで、例のラーメンにしようかと」

「あ、僕作りましょうか?」

 

「いや、いい、白。座っておれ」

 

と立ち上がるキューちゃん。

 

「今日はワシが作る。お主等は疲れておるだろう。大人しく座って待っておれ」

 

「「「………は?」」」

 

 

 

 

 

「出来たぞ」

 

「「「おお」」」

 

普通に上手そうだ。

 

 

 

 

「「「いただきます」」」

 

一口。うん、上手い。

 

「まあ、いつも見ておったからの」

 

得意げに胸を張るキューちゃん。

 

「本当、美味しいですね………あれ、メンマさんのだけ、赤い玉のような具が入っているようですが」

 

「おお。色づけに少し、の。一つしか無かったので………メンマのラーメンに入れたのじゃ」

 

へえ。どこかで見た具だな………あれ、俺が買ったんだっけか。思い出せないな。

 

「まあ、いいか。いただきまーす」

 

 

その赤いブツを一噛みした瞬間、世界が砕けた。

 

 

 

 

ああ綺麗な星空が見える。

 

夜の闇が空を占拠する中、流星が次々と流れ落ちていく。その黒を引き裂くように、光り輝いていた。

 

(あ、降ってくる)

 

 

あまりにも、幻想的な風景。やがて、その流星の細かな部分が見えてくる。

 

(ああ、ってあれは…………!)

 

戦慄する。

 

流星の先っちょについてたもの、それはマダオの顔だったから。

 

 

 

(………天から降る一億のマダオ)

 

 

わあ、綺麗とか言ってる場合じゃない。むしろ、ホラーである。夏の夜の思い出が、一気にトラウマへと昇格する程にアレである。

 

絶叫しながら、俺は現世に復帰した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶるっきゃおう、○らむに!」

 

「何で!?」

 

取りあえず、横に居たマダオを殴り飛ばした。

 

 

そして、取りあえず歌う。

 

 

「燃え上がれ、唇、焼き尽くせ~♪ 辛くそーめーてくー。くちーのなかーをー♪」

 

 

歌う。歌わなけりゃ、やってられない。辛い、辛い、辛すぎる。つらい、つらい、つらすぎる。何だこれは、『新しい世界にこんにちは』しそうになったぞ。

 

(………思い出した!これは以前、市場で………洒落のつもりで買った、激辛香辛料)

 

色があまりにも鮮やかな赤だったんで、思わず買ってしまったブツだ。あの時、店主は何て言ってたんだっけ。

 

(あ、思い出した。通称、『火の実』だったっけか。確か、口の中から尻の穴まで、全てを焼き尽くす安心保証とか何とか)

 

アフターケア《排便》までばっちりだという、容赦ないフレーズに心惹かれたのだ。そういえば先の一戦に持っていった筈だったが、気絶していたせいか、忘れていた。何かに使おうとネタで買ったのが先の戦闘で役に立ったことは嬉しい誤算だったが、今はネタで買った事を激しく後悔している。

 

口の中が、火の、ようだ。

 

「どうしたのじゃ?」

 

不安そうに、訪ねるキューちゃん。正直な事を話したら………やめとこう。

 

(意地があるだろ!男の子にはよ!)

 

 

その笑顔、曇らせない!ラーメンとスープと一緒に食べきる。

隣では、マダオ、白、再不斬の3人が静かに拍手をしていた。

 

(小さな同情、大きなお世話だこの野郎)

 

まばらな拍手は悲しいよ。

 

「美味かった!おかわり!」

 

喜色満面なキューちゃん。急いで、またラーメンを持ってくる。

 

 

 

 

だが、そのラーメンには、また例の赤いブツが乗っていた。

 

「よく見たらもう一つあった」らしい。

 

笑いながら、嬉しそうに言うキューちゃん。

 

………絶望した。

 

白と再不斬に助けを求めるが、静かに目を逸らすされた。マダオはどんぶりで顔を隠している。裏切ったなこの野郎。

 

(ここは撤退するのが上策…………だが、麺王は、退かぬ! 媚びぬ! 省みぬ!)

 

罪なき童女の笑顔のため!私は逝く!

 

 

がぶり、どさ。

 

私は死んだ。スパイシー(涙)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ、ここはどこだ。何か唇がひりひりするんだけど。

 

「目が覚めたか」

 

「あ、キューちゃん」

 

俺は布団に寝かされていた。そして、布団の横には、キューちゃんが正座をして座っていた。

 

「すまんかったの」

 

「え、何が?どうも、気絶する前後の記憶がないんだけど」

 

あと、唇がひりひりするんだけど、と言うと、鏡を差し出される。

 

「うお、なんじゃこりゃあ」

 

唇がタラコのように膨れあがっていた。

 

「ばかものが。正直に言えばよかったのじゃ」

 

「え、何が?」

 

どうも、覚えていない。脳が思い出すのを拒否しているのか。

 

「………もういい。お主は、もう少し寝ておれ。昨日の戦闘による疲労も、まだ取れておらぬのじゃろ」

 

「………ああ、ありがとう。そうするよ」

 

そのまま、天井を見上げる。

 

(でも、じっとしていたくないんだよなあ………どうしても、思い出してしまう)

 

先の戦いだが、一歩間違えれば死んでいた。怒りに身を任せ、意地を見せたとしても、こうして後になって思いだすと、今でも少し手が震える。我ながらヘタレだなぁ、くそ。

 

「………大丈夫か?」

 

キューちゃんが、心配そうな声を出す。

 

「気づいてたんだ」

 

「当たり前だ、ばかもの。何年一緒にいると思っている」

 

「………大丈夫、とは言い切れないかなあ。ほら」

 

布団から手を出す。

 

「やっぱり、あの巨体と真正面から戦うのは、怖かったよ。思い出すと、手が震えるんだ。情けないだろ」

 

「………いいや?」

 

キューちゃんは俺の言葉を笑顔で否定し、震えている俺の手をゆっくりと掴む。

 

「怖いものは、怖い。恐ろしいものは、恐ろしい。それは当たり前だ。人も獣も妖魔も、それは変わらぬ。何故、恐怖を感じる事を恥じる必要がある」

 

そして、キューちゃんはもう片方の手を、俺の手の上に被せた。

 

「情けない、というのはの。『怖い』という感情を、『恐怖した』という事を、誤魔化してしまう事だ。昔、お主自身が言っておったろうに」

 

「今は、震えればいい。身体の反応そのままに、身を任せろ」

 

「………」

 

「また、戦う時が来るのじゃろ?その時に備えるように、の」

 

その時は、また戦った後で震えればいい、とキューちゃん。………見透かされてるな。

 

「分かった、そうする。でも、キューちゃんに手を握られてたらね。何か恐怖が飛んじゃったみたいだ」

 

「はは、それは良かったの」

 

 

二人で笑い合う、が。

 

 

「ところで、襖の向こうの君達。何を聞き耳立ててやがるのかな?」

 

言った途端、襖が揺れた。

 

「………へっ、バレちゃあ、仕方ない!」

 

居直って襖を開け放つマダオ。ぶっ飛ばすぞ、おい。あと、白。何で正座して聞いてるの。再不斬。まだラーメン食ってるのかお前。でも、肩がびくっと跳ねたよな。それに、不自然に顔を逸らすな。もしかしてチャクラで耳強化して聞いてたんか。お前。

 

「っつ!…………お主等ァ!」

 

キューちゃんは握っていた手を急いで背中に隠し、入り口の方を向いて、マダオと白を睨み付ける。

 

だが、マダオは俺とキューちゃんの握り合った手を見たのか、ニヘラと笑った後、正座をしながら静かに襖を閉めた。

 

「………ごゆるりと」

 

パタン、と襖が閉まる。

 

「するか! 待たぬか、お主等ァ!」

 

キューちゃんは、襖を破ってマダオ達を追いかける。

 

「いや、家壊さないで………」

 

呆れた声で。でも、手の震えは完全に収まっていた。

 

 

(相変わらず、退屈とは無縁な面子だな)

 

 

それでこそだけど。壁の向こうからキューちゃんの放つ狐火による爆発音と、マダオと再不斬の悲鳴を聞きながら、俺はそんな事を考えていた。

 

 

 

 


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