小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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26話 : 転機(2)

 

 

 

 

 

 

「………ニンニク風は食べ終わってもニンニク味やで。分かっとるんか、くそトンガリ」

~小池メンマのラーメン風雲伝 「宿敵!狼麺牧師!~十字架と鐘の音に~」より抜粋

 

 

 

「火の国の宝麺を」

 

「あい、宝麺一丁承りやした」

 

静かに、注文と受け答えを交わす。一方でマダオとキューちゃんに相談を。

さあみんなで考えよう。ばれた、と仮定する。だけどその場合、どこでばれたのか。

 

『横取り40萬!』

 

古いよ。今じゃもう誰もわかんねえよ。

 

『おっさんとは心外な。じゃなくて、まあ、はっきりとは分からないね。でも一番可能性が高いのは、木の葉崩しの時か守鶴戦の後からだろうね。身体の痛みと疲労のせいで、警戒が薄くなっていたあの時だろう』

 

通常状態ならば、気配に気づけたかもしれない。でも、あの時は。タイミングが悪かったようだ。時間的にもぎりぎりだったからなー。まあ過ぎた事はもういいとして、問題はこれからどうするかだ。

 

『ばれたとして、何か不都合があるのか?』

 

それも分からない。自来也の思惑もそうだけど、木の葉内で俺がどういう風に思われているか………同期かつ友達だったいのしかちょうの3人や、カカシとか………あと4代目に近しかった人は別として。それ以外の忍がどう見てるかによるね。

 

『そうだね。友好的ならば、良いかも知れないね。でも、その逆の場合も、十分に有り得る」

 

その時は、木の葉を出て行くしかない。前門後門となる前に、隙を見て逃げ出そう。留まっても泥沼になるというならば。

 

『でも、その場合は暁が厄介だね』

 

(ああ。イタチと鬼鮫を見て分かった。ありゃあ、化け物集団だ。1人で相手するには厄介すぎる)

 

何気ない普段の動作から見える技量。基礎からして、普通の上忍とは比べものにならないと分かった。思い知らされたと言って良い。S級犯罪者の称号は伊達じゃなかった。それに、どいつもこいつも結構な異能持ちだ。もしガチの殺し合いになったとして、再不斬と白を巻き込めるかどうかも分からない。

 

『あの二人は暁対策の援護のつもりで雇ったんじゃないの?』

 

(俺としては鬼鮫対策のつもりだったんだけどな。でも、同じ鍋つついた仲だろ?できる限り、死なせたくないとか思っちまうよ)

 

実際に暁のような猛者と戦れば、5割の確率であの二人は死ぬだろう。それほどまでに暁の連中は規格外だ。紳士を名乗る拙僧としては白みたいな良い娘を死なせたくはないし、悲しませたくはないで御座る。おまけで、再不斬もね。

 

『雇ってみたはいいけど、巻き込みたくないってこと? 本末転倒だね。まあ、それが君の良いところなんだだけど』

 

『ふん、ただ甘いだけだろう。お主自身の安全はどうする。誰よりもお主が一番、危うい立場におるのだぞ』

 

そこなんだよなあ。ああ、誰もいない所に行きたい。

 

『そんな場所はない。それに、あの二人も忍者だ。受けた依頼は果たすじゃろうに』

 

それでも、だよ。最終的に死なせずに『勝つ』ビジョンが浮かばないからにはね。このままじゃあ、ダメな気がするが………いまいち、ふんぎりがつかないな。

 

ばれないのが最上なのは変わらないけど。でも、ばれた時の事も考えておかないとなあ。

そうしている内に、ラーメンを食べ始める自来也。二人の間に、沈黙が横たわる。やがて、その沈黙を切り裂くように、鋭い声色で自来也が話す。

 

 

「………小池の店主よ。お主、3代目が死んだ事は知っているな?」

 

「はい。みなさん、悲しそうでしたね」

 

「当たり前だ………あの爺いだからの」

 

こちらの返事に相づちをうたず、自来也が懐を探る。そして屋台のテーブルに置かれるは、蛙が一匹。

 

「あの、これは?」

 

「この蛙はの――――連絡用の口寄せ蛙だ」

 

瞬間、空気が凍った。だが、まだ“終わって”はいない。震えそうな声で答えた。

 

「………はあ、それが何か?」

 

ひとまず、とぼけてみる。

 

「前に、カカシが里に侵入した賊に倒されての」

 

あ、あの時か。う、話しの流れが不味いなぁ。

 

「カカシは里一番の忍びと言ってもよい。そのカカシが倒される程の相手………ワシは警戒して、里中にこの蛙を放っておった」

 

「はあ」

 

生返事をするも、冷や汗が背中を伝っていく。

 

「そして、その中の一匹がの。あの本戦の会場におった」

 

その言葉に戦慄する。そのせいか、あの会話を聞かれていたからか。

 

「そして、あの時、大蛇丸が去った後に爆発した煙玉の煙の中、一匹だけ屋根の上におった………後は、分かるな?」

 

断言する口調。こちらを睨む自来也。でも、それは逆に言えば、証拠ともなる。

 

(断言はしない。ということは確かな証拠がなく、そうだという確信には至っていないということか)

 

『そうだね』

 

確信を得ていているなら、それこそ問答無用だろう。こういう、遠回しな方法を取る必要もない。今の流れから、あの時の俺と3代目のやりとりを聞かれていたのは確実だ。だが、肝心の接点が見つからないとみた。

 

『木の葉にはラーメン屋が結構多いからねえ。それに、全部の言葉は拾えなかったみたいだね』

 

予測だが、恐らくその通りだろう。悩む俺に構わず、自来也は決定的な問いを発してきた。

 

 

「それで………どうだ? いい加減、正体を現してみんか?うずまきナルトよ」

 

 

来た。

 

 

(冷静に、自然に答えろ………!)

 

動悸が止まらない。だが、ここは普通に受け答えしなければならない。

 

俺は極自然な動作で前髪を掻き分け、笑いながら答えた。

 

 

 

 

「そんなんちゃうで」

 

 

「…………」

 

 

 

沈黙。失態に、俺も黙りこんだ。

 

いかん、動揺のあまり関西弁になってしまった………!

不自然にも程がある。あ、自来也さんが半眼でこっち見てる。

 

(………今思いついたんだけど、愛と平和に訴えるのはどうだろう)

 

『愛と平和?………いや、先生の場合だと「エロと自由」の方が効果的かと』

 

ですよねー。

 

『だが、誤魔化しが効く雰囲気では無さそうだぞ』

 

(まあ、流石にね)

 

 

………仕方ないか。

 

 

「………一つ。一つだけ、聞きたい事が」

 

「ほう………それはなんじゃ?」

 

周りの空気が緊張の色を帯びる。

 

 

「アンタは、俺の敵か?」

 

 

聞きたい事を要約すれば、これに尽きる。俺を害す存在なのか、そうでないのか。俺の言葉に、自来也は目を逸らす。自来也は数秒沈黙した後、口を開く。

 

「………少し前までは、どう思っておったのか」

 

ゆっくりと、水を飲む自来也。

 

「姿を隠し続けるお前に、疑念を抱いていたのは確かだ。何故正体を隠したままでいるのか………だが、のぉ」

 

蛙を静かに撫でる。

 

「あの時、3代目と………ジジイと交わしていた会話で、あのジジイの死に顔を見ての。お主の事が分かった気がした。だから、こう言おう」

 

似合わない、真摯な眼差しでこちらを見つめる。

 

 

「ワシはお前の敵ではない」

 

 

返事を受け、辺りを見回す。そして、誰かに見られていないか探る。

 

 

「そうっすか………じゃあ、よっと」

 

 

掛け声と共に、変化を解く。

 

 

「………若い頃のミナトに似ているな」

 

 

しみじみと感慨深げに呟いく。静かに、自来也は泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後は話し合い。いや、拳は使いませんよ?

 

「しかし、それだけの術を何処で覚えた?1人ではその域には辿り着けないじゃろう………それに、あの螺旋丸を応用した超高等忍術。師は?」

 

「え?この人だけど」

 

印を組んで口寄せ。

 

「召還、Q&M!」

 

ドロンと煙が立ち上る。

 

「お呼びとあらば即参上!」

 

「ぶふぅっ!」

 

膝を付いて両手を広げるマダオ。ポーズ取るなきめえから。あと、自来也が呼吸困難で死にそうなんだが。

 

「ミ、ミミミミナトぉ!?」

 

「あ、言っとくけど、穢土転生じゃないからね」

 

「だとすればどうやって………九尾の襲来で、死んだと聞いたのだが」

 

「はい。あのとき、僕は確かに死にました。今いる僕は、封印の術式に篭められた、ただの残滓です。人格は波風ミナトそのものですが」

 

「ただの変なおっさんだろ」

 

「そうです、私が変なおっさんです………って酷くない!? 君も人の事言えないと思うけど」

 

「失敬な、一緒にすんな!」

 

「まあ、五十歩百歩じゃの」

 

「キューちゃん!?」

 

漫才をする俺等をよそに、自来也は呆然としたまま。

 

「あー、ゴホン、そして、童女は何者じゃ?もしかして………」

 

「九尾のキューちゃんです」

 

頭を抑える自来也。レディを前に失礼な。

 

「………はあ、何から驚いていいのやら。そういえば中忍試験に潜り込んだ忍びがおったと聞いたが………」

 

何やら考え込んでいるようだ。そして、ふと手を叩いた。

 

「その中に、金髪で着物を着た童女の姿をしたものがおったとか。あれは、おぬしらか?」

 

その通りで御座います(イグザクトリィ)

 

一礼をするマダオ。そのネタは目の前のMエロ仙人には分からんから。

 

「まあ、つもる話しは後にして」

 

「この先の事、じゃな」

 

「えっと、知ってるかもしれませんが、俺は木の葉に戻る気ありません。だからどうしましょう。逃げていいですか?」

 

その気になれば、すぐに逃げられる。印を組んで、自来也に問うた。

 

「………むう、やはり木の葉に戻る気はないか。じゃが、この里には留まって欲しいのじゃが」

 

やっぱり、去って欲しくないか。まあ、四代目の忘れ形見だもんなあ。

 

「………じゃあ、条件付きということで一つ。留まるに当たって、自来也さんにはいくつか、守ってもらいたい事があるんですど」

 

「なんじゃ?」

 

「1、俺の正体を木の葉側に公表しないこと」

 

「それは………」

 

「俺の存在については………まあ、あれこれ言ったってね。暗部を含めた木の葉の忍び全員を納得させるのは無理でしょうから。一部の馬鹿が勢いで突っ走らんとも限らんし、知っている人数は最小限でお願いしまっす。“二度目”はもうごめんですので」

 

「………それは、仕方ないか」

 

「メンマ=ナルトは、綱手姫と自来也さんだけで。これは絶対に徹底して欲しい。生きている事実は………四代目と同期の面々と、カカシ」

 

「前半については分かった。だが、後半はもうみんな知っておるぞ」

 

「は!?」

 

「いや、三代目が事切れる時の話だ。お主達、傍におったじゃろ?色々と怪しまれておったからの」

 

そうだったのか。危ない危ない。

 

「疑惑は晴らしておいた。色々とぼかしながら、の………そうじゃ、前半の条件についてじゃが………妹のキリハも駄目なのかの?」

 

「あー、心の準備が出来ていないので、もう少し待って欲しいっす」

 

「………そうか」

 

自来也もそれ以上は言ってこない。かつての事件、あの時里に居なかった事に負い目でもあるんだろう。

 

(まあ、こっちはもうすっぱりと割り切ってるんだけど)

 

向こうにはわだかまりが残っているか。

 

「2、俺の仲間には手を出さないで欲しい」

 

「仲間?」

 

「いや、雇った忍びが二人いるんすよ。霧の鬼人と将来有望な美少女が1人」

 

「忍びを雇った?何故じゃ」

 

「いや、『暁』対策にちょっと」

 

「………『暁』についても、知っとったか」

 

「ええ、まあ。さっきも暁のメンバーの二人がラーメン食いにきましたし」

 

「そのようじゃの。人づてだが、報告を聞いた。うちはイタチと干柿鬼鮫がこの里に来たそうじゃが………」

 

「推測の通りです。恐らく俺を狙っての事でしょうね」

 

「そうじゃろうな。で、向こうはお主の正体に感づいたのか?」

 

「いえ、ばれてませんよ。ただ、居るならばこの里といった風に当たりは付けているでしょうね」

 

探索途中だろうが、いつまでも隠し通せるかどうか。

 

「まあ、それはおいといて………この二つを約束してもらえれば、逃げません。木の葉に留まりましょう。逆に、破れば二度と戻ってきません全力で姿を隠しますから、もう二度と会うことはないでしょうね」

 

「………そうなれば、ジジイもキリハもミナトもクシナも、悲しむの………分かった飲もう、その条件」

 

横のミナトを見ながら自来也は了承の返事をする。

 

その回答を聞き、俺はひとまず安堵のため息をついた。

 

(良かった………一時はどうなることかと)

 

今更、ここから去るのも何だったし。これでいいのだろう。全てが丸く収まったとも言えないが。それでも最悪ではない。挽回も可能だ。いちいち、動揺もしていられない。何もかも都合良く事が進むなんて思っていなかったし。

 

「まあ、代わりといってはなんじゃが………一つ頼みたい事がある」

 

「何ですか?」

 

「今から、ワシとキリハは綱手の探索の任務に当たる。その探索を手伝って欲しい」

 

「今このタイミングということは………五代目火影の要請が目的ですか?」

 

「ほう、よく分かるの」

 

「そりゃあ分かりますよ。三代目の死後、今木の葉はトップが不在。それじゃあ、色々と問題あるでしょうから。綱手姫なら、火影になるに申し分ないでしょうね。力量も、血筋も」

 

三忍の1人で、初代火影の孫だ。反対の声が上がる事もないだろう。

 

「その通りじゃ。そこで、お主には護衛を頼みたい」

 

「………何で、俺が?」

 

「戦後の片づけで、皆忙しくての。それに、大蛇丸の奴が腕の怪我を治そうと、綱手に会いに行くかもしれん」

 

「で、しょうね。そしてその周りには、音隠れの忍びがいる………」

 

十中八九、護衛の忍者がついているだろう。

 

「探索は必要じゃが、大勢だと余計に目立つ。暁が動き出している今、むやみに目立つのは避けたいからの」

 

「少数なら、精鋭を揃えた方が良い、ということですか………え、それじゃあ、キリハを連れて行くのは何故ですか?」

 

「いや、むさい男ばかりだとあれじゃし」

 

可愛い孫と一緒に旅をしたいんですね、わかります。

 

「えっと、先生?」

 

静かに、自来也の背後に立つマダオ。手にはクナイ。ちょっと刺さってる?

 

「………いや!見聞を広めるためにのお!」

 

誤魔化すように大声を上げる自来也。だが、マダオは怒っている。

 

「隙あり!」

 

「くっ!」

 

無駄に高度な体術を使って、自来也が危機を脱する。駄目だこのエロ仙人、早く何とかしないと。静かに対峙する二人にため息を吐きながら、とりあえず了解ー、と返事をする。

だが。

 

「はあ!」

 

「ふっ、腕を上げたのお、ミナト!」

 

拳で語り合うバカ師弟。ちっとも話を聞いちゃいねえ。

 

ちょっとうんざり。

 

「ああもう、平穏な日々を、送りたいんだけどなぁ!」

 

 

空への叫びは、虚空に消えた。神様のバカヤロウ。

 

 

そうして拳で語り合う師弟を外に、俺とキューちゃんは閉店の準備をした。

 

「まあ、ここで要請に断ると、色々と面倒になるからの」

 

自来也に聞こえないよう呟いたキューちゃん言葉に、俺はそうだねと頷く。素性については色々と納得してもらえたが、それで信頼を勝ち得たとか思ってない。まだまだ、これから油断はできない。

 

出した条件を確実に呑ませるためにも、ここは応と答えなければ後々に響いてしまう。ままならないねえ。

 

「ままなる人生はお主には似合わんよ。そもそも」

 

(それも悲しいねえ)

 

腕を組んで断言するキューちゃんに向かって、俺は泣いた。

 

「じょ、冗談じゃから泣きやまぬか!」

 

焦ったキューちゃんの顔に癒されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いうことで出発!」

 

「あの、おじちゃん?」

 

「………何もいうなキリハ。いや、いわんでくれ」

 

「ラーメン食べたい」

 

「ワシは稲荷じゃ」

 

当初の予定を逸脱して、ここに5人のパーティーが組まれた。

 

「まあ、いいか」

 

それですませるあたり、キリハもキリハだった。

 

「いざ往かん、年齢詐欺師を迎えに!」

 

「………おまえ、それ絶対に綱手の前で言うなよ!」

 

 

フリですね、わかります。

 

 

何はともあれ、木の葉隠れの外へ、次代の火影を探索に。

 

5人一組の、前途多難の旅が始まった。

 

 

 

 


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