小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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36話 : 脱出(前)

 

 

「40秒で支度しな!」の宣言の後。一同は隠れ家から遠く離れた場所へと通じる、秘密地下通路を伝って外へと脱出。地上に出て数分を歩いた後、立ち止まった。

 

「ここまで来れば大丈夫だろう………一旦休憩にするか」

 

メンマの言葉を聞き、皆が足を止める。

 

「よっと………多由也、随分揺れたと思うけど大丈夫か? 傷は広がってない?」

 

「あ、ああ。傷は塞がってるから、問題は無いと思う」

 

「でも顔色は良くないね………まあ、血が足りないのかも。あれだけ出血したし。体力の方もまだ回復はしていないだろうから、無理はしない方がいいよ」

 

「………あり、がとう………ほんと、何て言ったらいいか」

 

「いいよ、別に。それに役得だったしねー」

 

メンマ少し笑いながら、先ほどまで背負っていた背中を指した。そのやりとりを見ていたサスケが、顎に手をやり何のことか分からないと首を傾げた。やがて、ポンと手を叩いて解答を口に出した。

 

「ああ、胸が「うるせえ!」うお!?」

 

サスケの呟きを聞いた多由也が、顔を真っ赤にしてサスケに殴りかかる。それを間一髪で回避したサスケが、多由也へと文句を言った。

 

「危ねえな、てめえ! いきなり何すんだ!?」

 

「お前が悪いんだろうが!?」

 

ぎゃーぎゃー言い合う2人の間に、マダオが入る。

 

「ほらほら、2人とも。今は逃げてる最中なんだし、騒がないの。できるだけ静かに争いなさい………ほら、ああやって」

 

マダオが指さす先には、静かに地面に屈み込んでいるメンマの姿が合った。

 

「………ふん、人誅じゃ。何、急所は外してある。安心せい」

 

「………てか………お……もい………っきり急所……………でしょ」

 

ここが急所で無かったら、どこが急所だというのか。股間を抑えて悶絶するメンマの背中を、白が優しく叩いている。更にその背後では、再不斬が「へっ、ざまあ」と言う表情を浮かべていた。

 

「「…………」」

 

その光景を見て、沈黙する2人。顔を見合わせてため息をつく。先ほどまでと違う、あまりのギャップの激しさに「なんだかなー」と思うサスケ、多由也であった。

 

 

 

「ありがとう、白。こんなに優しくしてくれるのはお前だけだよ………」

 

「でも、本当にいいんですか? 全部爆破しちゃって」

 

メンマのボケを華麗にスルーした白が、残してきた隠れ家の処置について聞いた。

 

「まあ………急ぎだったからね。それに、爆破した方が後腐れなくていいよ。戻れないなら、いっそ無くなってしまった方がいい。その方が割り切れるし」

 

痕跡も何もかも全て吹き飛ばせるし。主に、木の葉側に見られたら不味いものとか。ありったけの起爆札をセットしたので、何も残らないだろう。それだけの威力はある筈だ。脱出路用として地面に掘った、あの隠し通路も全て埋まるだろうから、追跡もし難いだろうし。

 

「ダミーの隠し通路も作ったしねえ」

 

本命、つまり俺達が使った脱出路は跡形無く消えるように細工した。ダミー用………今いる位置とは別方向に伸びる脱出路の方は、ある程度痕跡が残るように細工をしたのだ。これで脱出後の足取りはつかめなく、ある程度は攪乱出来るはず。

 

メンマは更に影分身を駆使してそれっぽい足跡も付けさせていた。それも、あからさまなものではなく、細かく調査してようやく分かるといった程度のレベルのものだ。

 

「それにほら。秘密基地が見つかって、それで脱出する場合には跡形もなく爆破するのはいわゆる一つのお約束ってやつでしょ?」

 

「………でもそれは悪の秘密基地のお約束なんじゃあ」

 

多由也が突っ込む。

 

(うむ、この世界にも漫画文化はあるようだなあ)

 

メンマは頷いた。そういえば、自来也も書いたんだっけか、と。

 

「でも俺達ってどっちかっていうと悪者だよね? ………だってほら」

 

みんなが、メンマの指さす先………再不斬の方を見た。

 

「………そうだねえ」

マダオがしみじみと呟く。

 

「そうじゃな」

キューちゃんが頷く。

 

「……そうかも」

多由也がぽつりと呟く。

 

「否定できないな」

サスケが顔を逸らす。

 

「ちょっと、皆さん! ええと、ほら、再不斬さんだって、悲しい話を聞いたら涙流すことだってあるんですよ!」

白のフォローが入った。

 

「………」

 

だが、容姿についてのフォローは入らなかったので、再不斬がちょっと涙目になる。

 

「ああ、そういえば以前、俺が○ランダースの犬の話を聞かせたとき………見事に泣いてたよなあ」

 

話が終わった後、即座に逃げていったけど。メンマは思う。いや、しかしもしかしてとは思っていたが、まさかホントに泣いていたとは、と。

 

「………眼を押さえて静かに泣く再不斬さん………あれは、可愛かったですねえ」

 

白がその時の顔を思い出して、うっとりと呟く。その表情は色っぽくて綺麗でとてもとても見応えのある顔なのだ。だが皆は眼を逸らし、各々の言葉を呟いた。

 

「鬼の目に涙だねえ」

誰がうまいこと言えとマダオ。

 

「でも、可愛いってなあ………」

想像できん、とサスケ。

 

「まあ、人好き好きだから」

うんうんと頷く俺。

 

「割れ鍋に綴じ蓋?」

割と多由也が酷い。でも合ってるかも。

 

「豚に真珠?」

キューちゃん、それ意味が違うから。

 

「……………」

 

再不斬はじっと、屈辱に耐えているのであった。

 

 

 

 

数分後。

 

「そろそろ、ですか?」

 

「いや、まだだ20分ぐらいしか経っていない」

 

メンマは根の連中が家に侵入するまでの時間をある程度は予測していた。脱出後、ここまで移動した時間を含め、まだ予想時刻より30分は余っている。

 

「爆発作動まで待つか………一応、見届けなくちゃならんし」

 

「それまでじっとしているってのも芸が無いね………そうだ」

 

いい考えが、とマダオがある事を提案した。

 

「ねえねえ、これだけの人数が集まったんだし………何か、チーム名とか決めない?」

 

その言葉に、皆が考え込む。

 

「いいな、それ」

 

「確かに」

 

夢見る少年世代(身体は)のメンマと、正真正銘の少年世代であるサスケが同意する。

 

「とはいってもなあ」

 

「僕たちに共通点ってありましたっけ?」

 

「ああ、有ることはあるなあ。ほら………『帰る場所が無い集団』」

 

「………ずばっときたね」

ちょっと切なくなる。

 

「直球過ぎないか?」

ど真ん中である。

 

「………そうだね。それじゃあ語呂も悪いし………他に何かある?」

 

一瞬の沈黙の後、多由也がぽつりと呟いた。

 

「そういえば………里抜けするとき、左近に野良犬とか言われた」

 

多由也の言葉を聞き、その言葉にある集団の言葉が浮かぶ。

 

「うん、それなら『リザーブ・ドッグス』何てどう?」

 

親父は事故死しました。

 

「正に俺達のフィールドだね」

 

「うん、意味がわからん。却下じゃ」

 

キューちゃんに笑顔で却下された。メンマは致し方なしと首を横に振った。まあ、そりゃ分からんか、と。だがマダオ反応してくれてナイスジョブと親指を立てていた。

 

「それ以外だと、そうだなあ」

 

考え込む。目的に添う名前にした方がいいかもしれない。

 

「そう、『暁』に対抗して………『夜明けの船』なんてどう? 絢爛で舞踏な祭りが起こるかもしれないし」

 

「いや、船なんてないでしょ。てか何で船?」

 

「いやいや、夜明けときたら船でしょう。ねえ、メンマ君?」

 

「決まってないですよ。じゃあ、曙ってのは? もしくは曙光」

 

「ごっつぁんです! ………却下」

 

「黎明はどう?」

 

マダオが言って、メンマが答えた。

 

「王子ものぞむーもいないので却下。暁と一緒に太陽を支えるのは嫌です。叢雲にも進化しないし」

 

「じゃあ、反対の意味で………宵闇とか」

 

「いや、それはちょっと………ていうか、ねえ?」

 

「そうですよ。サスケさん、サスケさん。それだと暗殺専門組織にしか聞こえないんで」

誰を屠るの、誰を。メンマのツッコミに落ち込むサスケをよそに、別角度から切り込んでみる。

 

「じゃあ、『傭兵騎士団』は? 水素の心臓持ってないけど。それに、あの団長には適わないけど、響きが好きだから」

 

「傭兵は分かるけど、きしって何?」

 

「遠い世界の侍みたいなもの………といっても分からんか」

 

「じゃあ、大逆転号は?」

 

「7つの世界最後の希望を託されるのはちょっと。大役過ぎる。荷が重い。プリンセス・ポチもいないし。プリンセス…キューちゃんはいるけど」

 

「………7、7か。そういえば、7人なんだね………それじゃあそのままセブンなんてのはどう?」

 

「てってれてーれ、てってれてーれ、てってれてーれ、てってって! ………でも俺が批判されるから却下」

 

「なんで」

 

「モールモースの騎兵隊最高! っていうか、後半はあれだよ、カルバリー・ディスピアー!ってか。まあ転生とはちょっと違うけど

 

「えっと、じゃあ七星は? セプテントリオンとか」

 

「いや、コードネームがちょっとつけられないし」

 

それに名字無い人いるし。白がHになちゃーうよ。サスケがステイツになっちゃうし。

 

「それじゃあ、七色………“虹”なんてどう?」

 

「あ、なかなかいいね………でも保留」

 

「う~ん、何かこうびりっと来る者が無いね」

 

「そうだなあ。隠れ家につくまで時間があるし、それまでに少し考えておくか」

 

立ち上がり、時計を確認する。まだ、予定時間より10分あるが………ん?

 

「来た、か」

 

影分身から連絡が入った。根が隠れ家に急接近中らしい。

 

「………よっと」

 

足にチャクラを篭めて、岩場の上へと跳躍する。気配は消したまま、隠れ家のある方角を見て呟く。

 

 

「想定していた時間より早いけど………始まるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、同時刻。森の中静かに建つ、メンマ邸周辺。そこには、“根”の部隊、2小隊が展開していた。幾多の罠の群れを、僅か40分足らずで潜り抜けた手練れ揃い。

 

ハンドサインで合図。1小隊が周囲を警戒する。そしてもう1小隊が、メンマ邸へと静かに忍び寄る。近接し、壁に触った後、ハンドサインを送る。

 

(隠避結界が張られている模様)

 

再び互いにハンドサインを交わし、頷きあう。

 

「………」

 

そして無言のまま、正面入り口に小石を投げつける。数瞬置いて、もう一つの窓から侵入した。誰もがこれ以上はない最適のタイミングでの侵入、そう思っていた。

 

だが侵入した直後だ。突如、家の中から大声が発されたのは。

 

『だが足りない! 足ぁりないぞぉ!!』

 

「!?」

 

驚きに硬直する4人。それを他所に、声は続いた。

 

『お前達に足りない物、それは情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さぁ、そして何よりもぉおおおおおおお!!」

 

同時、起爆札が一つだけ爆発した。

 

「く!?」

 

後退する4人に向け、どこかの世界のアニキの名言が告げられた。

 

『速さが足りない!!!』

 

同時、ボンと煙玉が破裂する。煙の中から、アヒルのおもちゃがよちよちと歩きながら出てきた。

 

『………と、いうことで既にポックン達は脱出済みダピョーン………ユー達がノロノロしてっから、クスス、間抜け。アホだね。馬鹿だね。トンマだね。マダオだね。入り口に探知結界が張ってあったの気づかなかった? 御陰でゆっくりと逃げ出せました。あと手始めの爆発だけど、驚いた? 身構えちゃったりした? ねえ今どんな気持ち? ねえどんな気持ち?』

 

ねじ巻きで動いているのだろう。変な顔をしているアヒルのおもちゃが、おちょくるように左右に動き出す。それを見た4人が、思わずといった風に呟く。

 

((((………うぜえ))))

 

感情を知らない筈の『根』が心の底から苛立っていた。拳を力一杯握りしめている。余程むかついたらしい。

 

硬直したまま動かない根。その前で踊るように歩くアヒル。だが歩き出して数秒後、急にアヒルがあるメッセージを残して。その動きを止めた。

 

『尚、この家は後十秒で大爆発人生劇場になるので、お近くにいる皆様は避難の準備をして下さい………それでは“根”の諸君。ごきげんよう、さようなら』

 

突如、部屋の四方から光りが沸き上がる。

 

「………っくそ、光玉か! ………退け!!」

 

小隊長が叫び、危険を察知したのか、瞬時に外へとでる。光に防がれた視界の中でも鼻と耳は効く。火の臭い、そして起爆札が作動するような音を感じ取ったのだろう。察知から決断。その間、僅か3秒。手練れ故の速さである。

 

「………ここから離れろ!」

 

家を脱出後、即座に外にいた小隊へ告げる。それを聞いた小隊は、何故の言葉を問わずに従い、木の葉瞬身を使い家から離れる

 

 

そしてきっかり十秒後。家の隅々にまで仕込まれている、特製の起爆札が一斉に爆発した。

 

 

「「…………………っ!!」」

 

 

根の小隊は爆風に飛ばされないよう、地面に伏せてやり過ごす。外壁と柱を粉砕され、屋根から崩れ落ちる隠れ家。構造物が破砕する音がする。

 

「………まだ、か………!」

 

そして倒壊しきった直後、もう一度爆発が起きた。

 

「………………!!」

 

先ほどと同程度の爆発。それは倒壊した家屋全てを砕き、打ち壊し尽くした。

 

「……………くそ」

 

崩れ落ちた瓦礫を念入りに砕くため。痕跡を無くすための細工。二段仕掛けの爆発が起きるよう、前もって細工されていたようだ。あまりにも念入りな仕掛け。次の目的地の地図など、見られたら不味い情報は軒並み消去されたのだろう。それを悟った小隊長が毒づく。

 

「どうします? 追いますか?」

 

小隊員が苛立たし気に、小隊長へと訪ねる。

 

「……………これ以上深追いすると危険だ。待ち伏せされている可能性も無いとは言い切れん」

 

だが、隊長は撤退を選択した。撤退する理由………それは、あの置きみやげのせいだった。

 

「………我々“根”も舐められたものだ」

 

わざわざ爆発する事を知らせてくれた。しかも時間通りに。それは、逃げる側の自信の現れだと感じ取ったのだ。

 

『別に追ってきてもいいよ。返り討ちにしてやるから』、と。

 

「………撤退だ」

 

不用意に追跡したとして、捕まえられるとは思えない。そして待ち伏せされていた場合、それを退けて捕獲しきれるとも思えない。そう判断した小隊長は、撤退の選択を取った。爆発音を聞いた暗部が調査に来る。今、ここで顔を合わすわけにもいかない、と“根”の8人はすぐにその場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

「………どう?」

 

「………退いたな。気配が遠ざかっていく」

 

隠れ家周辺に置いておいた影分身から、情報が入る。

 

「成功したみたいだな。それじゃあ」

 

呟き、岩場から飛び降りる。

 

「次の我が家へと、行こうか。このまま、国境を越えよう」

 

「「「了解」」」

 

 

一行は立ち上がり、並び歩き出す。

 

 

 

 

「………どうしたんですか?」

 

だがメンマだけは立ち止まっていた。それを見た白が、心配そうに話しかける。

 

「…………いや」

 

白の問いかけに首を振り、頬を張って自分に活を入れる。

 

「………大丈夫そうですね。じゃあ、僕は先に行ってますから」

 

「ああ」

 

白が先に行くのを見て、砕け散った………自分が爆破した隠れ家の方に振り返り、1人呟く。

 

 

「…………あばよ、今まで世話になったな」

 

 

初めて持てた、自分の家。それに対しての別れの言葉だった。

 

「これで、いいんだ………行くか」

 

そして皆の方へと振り向き、その場を駆け足で去っていった。

 

 

 

「グッバイ、我が家」

 

少し寂しい。その言葉は、虚空へと吸い込まれすぐに風と消えた。

 

 

 

 

 

 

 

そして旧メンマ邸爆発から2時間後。調査隊が帰還した時刻へ、時は戻る。

 

サスケ失踪の報が届いた直後である。自来也が慌てた様を見せながら、火影の執務室へと入ってきた。

 

「………綱手! 少し話したい事がある。今、いいかの?」

 

「自来也か。悪いが今忙しい…………?」

 

不機嫌な顔をして、自来也の誘いを断ろうとする綱手。だが、自来也の顔色を見て、何かを悟ったのか、その部屋に居る忍びに向けて、退室を促した。

 

「悪いな。追って命令は出すから、それまでは待機。ああ、キリハは残れ」

 

「「「「了解」」」」

 

その場にいた木の葉の上忍…中忍全員がその場を立ち去る。

 

「………で? このタイミングで話があるということは、勿論うずまきナルトの事だろうな」

 

「うむ」

 

頷いた自来也に、項垂れていたキリハが顔を上げる。

 

「………おじちゃん!? 兄さんは、兄さんは無事なんですか!?」

 

自来也を掴み、必死に問いかけるキリハ。手には青筋が浮くほど、力が込められていた。

「………どういう事じゃ?」

 

何故お前等が知っている? と不思議そうに呟く自来也に、一連の出来事が知らされた

 

「手鞠、か。成る程のう………こりゃ、ナルト。お前から説明せんか」

 

「………いやあ、まさか手鞠が残ってるとは思わなかったわ」

 

そういえば頑丈な箱にしまってたっけと声が聞こえる。同時、自来也のポケットから一枚の白札が飛び出した。

 

「札が、喋った…………あ!?」

 

そしてその札は音を立てながら、仮初めの姿からとある少年の姿へと戻る。

 

「心配かけてすいません。今噂の人物です」

 

「………兄さん!? 無事だったんですね!?」

 

「ああ………っておーっと、掴みかかってくれるなよ。これ影分身だから。衝撃与えられるとすぐに消えちゃうから」

 

影分身の唯一とも言える弱点だ。外側から一定以上の強い衝撃を受けると、すぐにでも消えてしまう。

 

「で? 話は聞かせてくれるんだろうな」

 

綱手が不機嫌そうな顔のまま、メンマへと事の次第の説明を迫る。

 

「ええ、勿論。そのために、影分身を潜伏させていたんだし」

 

サスケを拉致した後ね、と呟く。

 

「で、何があった?」

 

「はい、実は――――」

 

と、一連の事を説明し始めるメンマ。ただ、嘘を一つ混ぜた。襲ったのは、“根”ではなく暗部なのだと。キリハが此処にいる今、ダンゾウの事を話すのはまずいと思っての事だった。

 

「木の葉の暗部、か」

 

「そう。隠れ家は放棄して、今は新天地を求めて驀進中………じゃあ、納得しないよね」

 

「………当たり前でしょ!! いいから、今何処にいるの!?」

 

詰め寄るキリハに、メンマは咄嗟に答えた。

 

「ええと、終末の谷近辺。そこに………おい!?」

 

メンマの言葉が終わらないうちに、キリハが執務室を出て行った。何としても本体に追いついて、面と向かって話をするようだ。

 

「………はあ。話は最後まで聞けというのに………それで、だ」

 

自来也の問いかけに、メンマは首を傾げる。

 

「はい?」

 

「お主を襲撃したのは“根”の者か?」

 

「ご明察」

 

「はあ、ならば仕方ないかもしれんが………このまま出て行く気か? せっかく兄妹、長年の時を経て会えたのだというのに」

 

キリハはどうするという問いに、俺は首を振りながら答える。

 

「どうするもないですよ。どうにかできるんだったら、どうにかしてます。それができないからの選択です。分かってないとは言わせませんよ」

 

「………だが、あいつは納得せんと思うぞ」

 

自来也が唸る。頑固だからの、と呟きながら。

 

「………でしょうね。まあ取りあえず、直に会って話をしてみます…………それと」

「何だ?」

 

「我愛羅に、伝えておいて下さい。『約束は必ず果たすから』と。それだけ伝えたら分かる筈ですから」

 

「ふん、それ以外は聞いてくれるな、と言うことだな? まあ、わかった。それで、だが………」

 

綱手の表情が、真剣なモノに変わる。

 

「………分かってますよ。『あの声』に関してですね?」

 

対するメンマも同じ。どうやら、自分だけの空耳ではなかったようだ、と表情を真剣なものに変える。

 

「どうもな、我愛羅に聞いてから、心中に漂う嫌な予感が消えてくれない………そういえば、お前の方はどうだったんだ?」

 

「聞こえましたよ。たった一言。それだけで、キューちゃんが恐慌状態へと陥りました………俺も、聞こえました。正直、心の臓を抉られたかと思いましたよ」

 

「………それほどまで、か。それで? お前はあの声の主について、何か心当たりはあるか?」

 

「いえ。まだ、声の主については分からないです。ただ………」

 

「ただ?」

 

「どういう意図であれを発したのか、と考えましてね………あれ、あの言葉なんだと思います? どういう意味で繰られた言葉だと思いますか」

 

「………『殺す』か。端に脅しという訳ではなさそうだが」

 

「脅しではないでしょうね。他意は含まれていませんでした」

 

そこで、一端おき、メンマは断言した。

 

「そう、本当に他意は無いでしょう。ただ、殺す。その事しか考えていないような声でした。正直、初めて聞きましたよ。含むものの無い、純粋な殺意のみで構成されている声ってやつを」

 

思い出しただけでも震えが来る。メンマはそう言って、小さな声で続きを話す。

 

「殺す、か………ねえ、どういう時に『殺す』という言葉を使うと思います?」

 

「………そうだな。脅しか、苛立った時とか、敵意を示す時とか…………後はそう」

 

「宣戦布告、ですか」

 

「………ああ」

 

告げる言葉。お前を殺すと、亡くすと、消すと。存在の否定を示す言葉。

 

「それか、あるいは………いえ、何でもないです。今のは忘れて下さい。」

 

言葉を発するも、即座に否定するメンマ。

 

「しかし、だ。その場合、宣戦布告をするにも………誰に向けての言葉だ? 尾獣にか? もしくは人柱力に対してか?」

 

明確に聞こえたであろう者、もしくは存在は、今のところその2種のいずれかとなる。

 

「情報が少なすぎるな。それだけでは何とも言えんだろうから………ワシも、ガマ仙人の方を当たってみる。お主も、それ以外の情報が掴めたら、即座に連絡をくれ」

 

何か嫌な予感がするからの、と自来也が肩をすくめる。

 

「………了解っす。じゃあ俺はキリハを待って「ちょっと待て」」

 

との言葉は途中で遮られた。

 

「それと、だな」

 

「何ですか? 綱手姫」

 

「気持ち悪い言い方をするな。5代目火影と呼べ」

 

「了解、5代目火影。それで、何かあるんですか?」

 

 

「ああ、キリハの事を含め、少し頼みたい事があるのだが………」

 

そして始まる、綱手の説明。それを聞いているメンマの顔が、徐々に不機嫌なものになっていく。

 

 

「………正直、そういうのは趣味じゃないんですけど………まあ仕方ないですか。でもこれっきりですからね。ああ、それとサスケの方ですが………」

 

と即座に交換条件を出すメンマに、綱手はお人好しめと思いながらもその条件を了承した。

 

 

やがて、時間が来る。

 

 

「じゃあな、うずまきナルト………死ぬなよ」

 

「ええ、5代目火影姫も、末長く健やかに」

 

それを聞いた綱手が、おかしそうに笑う。

 

「………っ、医療忍者に言う言葉か」

 

「………ああ、確かに。そりゃそうですね」

 

 

 

火影の執務室に、2人分の笑い声が響き渡った。

 

 

 

「ワシは無視なのか………」

 

 

との自来也の呟きは黙殺されたようだった。

 

 

 


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