小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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エピローグ

 

 

 

虹の氷壁の前。そこに、今回の関係者、全員が集まっていた。

 

「………少し、演出を手伝いますか」

 

カメラが回っているのを見た白が、死角に移動する。そして多由也を見ながら、お願いします、と呟いた。

 

「ああ、そうか…………じゃあ、吹くぞ」

 

「はい」

 

多由也の笛の音が、大気を満たす。それを聞きながら、白は印を組む。

 

「えい」

 

軽い掛け声と同時だった。雪が降り出したのは。密度は本来の雪と比べ、小さいが。

 

「おお………!」

 

周りから感嘆の声が上がる。

 

 

「虹色の…………雪?」

 

 

 

 

 

 

 

虹が降る氷壁前の広場。その中心で倒れるサスケの元へ、雪絵が歩いていく。

 

「………終わったようね」

 

チャクラをほとんど使い果たし、力尽きて仰向けに倒れるサスケに、雪絵が話しかける。

「ああ。約束、果たしたぞ」

 

サスケにしては珍しい。笑顔を浮かべながら、雪絵の問いに答える。それを見た雪絵は、サスケの横に座り込むんだ。

 

「………よいしょっと」

 

「おい!?」

 

頭を持ち上げて。

 

「どう?」

 

「いや………」

 

どう言えと、とサスケが口ごもる。大女優の膝まくらだ。恐れ多いにも程がある。一方、膝まくらした瞬間だが、多由也の笛の音が一瞬だけ崩れた。

 

「………あの」

 

「………」

 

額に青筋を浮かべながらも、演奏を続ける多由也。無言だが、全身から発しているえもいわれぬ迫力が怖い。

 

 

 

 

 

 

 

「しっかし、本当にドトウ叔父をぶちのめしたわねえ」

 

向こうで転がるドトウを見ながら、雪絵が呟く。まだ、死んではいないようだ。

 

「結構、ギリギリだったけどな………」

 

玉座の間での一対一でも、そう。サスケの修行が目的とはいえ、死線と呼べる程にぎりぎりの所での戦いだった。その時である。

 

「………って、あれは………」

 

雪絵の固有チャクラに反応したのだろう。氷壁が本格的に崩れだし、雪絵の昔。幼い、小雪姫だった頃の映像が流れ出す。

 

「………私、あんなこと言っていたんだ………」

 

雪絵は呟く。幼い、今はもう思い出せない。過去の小雪姫は言っていたのである。正義の味方のお姫様に成りたいと。そして、もう一つの夢があった。

 

「“女優さんになりたい”、か…………そうか、そうだったわね」

 

雪絵の頭の中、胸の底、色々な想いが交錯する。悔恨の日々。絶望を見た後、夢が闇に隠れた日。夢を、夢と認識できなくなった日。

 

「もう、叶えていたんだ………」

 

「………いや、たった今………叶ったんじゃないか?」

 

サスケは身体の痛みを感じながらも、何とか呟く。

 

「夢を、思い出したんだから」

 

思い出した瞬間に叶うとか、皮肉な話だけどな、と苦笑する。

 

「そうね………」

 

雪絵は笑いながら、空から降ってくる虹色の雪を掌に包み込む。あれから、もう10年。夢とか、悲しみとか。絶望とか、色々あったけれど。

 

「夢も望みも………本当に、叶ったんだ」

 

「………そう、だな………だって、ほら」

 

サスケが、雪絵の掌を指さす。

 

「もう、虹は。その手の中にあるんだからよ」

 

サスケの言葉に、雪絵はきょとんとした表情になった。

 

「………そうね」

 

空に映る映像。小雪姫と、何ら変わりない程に。心の底からの笑みを、浮かべたのである。

サスケはその笑顔を見ながら、呟く。

 

 

「これで、ハッピーエンドだぜ……………」

 

 

満足の笑みを浮かべたサスケは、笛の音に導かれ、そのまま意識を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そして、2週間後。

 

「色々と、本当にありがとう」

 

富士風雪絵、いや風花小雪が頭を下げながら、お礼を言う。

 

「いえいえ! ………任務でしたから、お礼を言われるまでも」

 

白が慌てたように切り返す。

 

「それでも、よ」

 

「はい」

 

白と小雪、2人が微笑みあう。顔立ちが整っている者どうし、非常に絵になっていた。あの一戦が終わって。決着がついてから、二週間が経過した。偽王ドトウは処刑され、小雪姫が新たな雪の国の君主となったのだ。

 

雪忍達は、首領であるナダレが再不斬との戦いで死亡。ミゾレはメンマの一撃で気絶、フブキは白の点穴で仮死状態にされていただけなので、その2人は“網”の方に連行されていった。そして雪の国内部の豪族の承認を得た末だ。戦後の処理が全て終わり、本日風花小雪姫の戴冠の儀が執り行われることとなったのである。

 

「あの発熱機。まだ、未完成だそうですが………実用化できるといいですね」

 

「ええ。例の組織の人達が、匠の里の技師を紹介してくれるらしいし」

 

そう遠くない内にこの国にも春がくるようになるらしいわ、と小雪が笑う。匠の里の技師の方だが、メンマが裏で“網”と取引したのだ。取引材料は、雪忍の裏事情。

 

あの3人他、一部の抜け忍は一時期“網”に所属していたらしい。諸々の責任、その一部はドトウというか、雪の国にもある。

だが勿論、網にも責任はあるとのことで、組織お抱えの技術者を紹介するという事になった。あと、チャクラの鎧は設計図ごと葬られる事になった。メンマも、匠の里の技師達も、網も。全員がそれに同意した故の事である。

 

あれは、無い方がいいものだ。様々な観点から、そう結論づけられたのである。

 

「複雑な気持ちは、あるけどね………でもドトウ叔父にも責任があるからには、これ以上は望めないわ」

 

それよりも、この先である。三太夫他、一部の家臣達からは責任追及の声が上がっていたそうだが、小雪姫の一言で沈静化したらしい。

 

「これからが大変ですね」

 

「でも、やりがいがあるわ。白も、いつか見に来てね」

 

「はい」

 

白というか全員が、小雪限定で名前を明かしていた。決して他言しない、という条件付きでだ。

 

「で………あの、金髪の少年は?」

 

「メンマさんですか? ええと………」

 

白が困った表情を浮かべる。何でも、メンマ曰くジモティー秘伝の味噌ラーメンがあるとかで、それを食べに町の方へと下りていってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

「これは…………!!」

 

メンマ(イワオ変化済み)の眼がくわっと開かれる。流石は極寒の地、雪の国。素材は木の葉周辺に比べ劣るが、その分料理法へのこだわりは侮れないものがあった。この味噌ラーメンだが、ともかく味が深い。塩、とんこつには無い、また違った味の深さがある。口の中に広がる味噌の風味がそれを教えてくれる。

 

そして、身体の芯から暖かくなる。

 

「これは………香辛料か」

 

「うち特製の、な。まあ、客の好み次第だが………辛い分、味が引き締まるぜ」

 

「………くっ、恐るべし、味噌バターラーメン………!」

 

奥が深い。かつてない強敵である、とメンマが戦慄する。

 

「………ほらよ」

 

その戦慄するメンマに、親父さんがあるものを渡す。

 

「これは………レシピ? おいおいオヤジさん。秘伝と書かれているぜ? …………俺に、渡していいのか」

 

「こいつは、俺の………いや、俺達雪の国の民の気持ちだ………取っておきな」

 

オヤジさんが笑う。

 

「あんた小雪姫の護衛だろ? ってことはあの偽王ドトウを倒してくれた忍びの1人だ」

 

ここ数日、小雪の護衛についていたメンマ達は、変化済みの姿だがその外見を覚えられていたのだ。

 

「遠慮はいらねえ。それに、海の向こうにまで俺の味が広まっていくってのもな。悪くねえぜ………あと、海向こうの素材と掛けあわせたら、また別の味を引き出せるかもしれねえ」

 

そう考えたら、わくわくしてくるだろ? とオヤジさんが男前に笑う。

 

「………有り難く。有り難く頂戴するぜオヤジさん。最高のもの、作ってみせる」

 

「へっ、ばっきゃろー。ラーメン屋名乗る以上、それは当たり前だあ」

 

「そうでしたね。それじゃあ、お元気で」

 

笑い、頷きあいながら、麺に命をかけている男2人は、固く握手を結んだ。

 

 

 

 

 

 

「………そ、そうなんだ。じゃあ、サスケ達は?」

 

白は、「よ、呼び捨て……」と内心で思いながらも、小雪の問いに答える。

 

「サスケ君は、どうも経絡系の調子が良くないそうで。多由也さんの治療を受けてます」

 

 

 

 

 

 

「痛ってええ!」

 

「………我慢しろ」

 

音による秘術のよるチャクラ流の調整。かつ、無茶な酷使で痛んだ経絡系の治療である。

「まったくよ。もうちょっとスマートに勝てなかったのか?」

 

「いや、結構相手も強かったしな………ほとんどがあの鎧の加護だったんだろうが」

 

「それでも無茶しすぎだ。後ほんの一握り残っていたからよかったけど………チャクラを使い切っていたら、呪印の封印もやばいことになるのを忘れるなよ」

 

「ああ、すまん………で、それとは別に」

 

「何だ?」

 

不機嫌そうに片眉を上げながら、多由也が返事をする。

 

「お前、何を怒ってるんだ?」

 

「………怒ってないぞ」

 

「いや、怒ってるだろ。気絶して、意識を取り戻してから、ちょっと………変だぞ」

 

「………怒ってないて言ってるだろ」

 

「嘘だ。言ってくれ、何を怒って「怒ってない!」」

 

サスケの言葉が遮られる。それにむっとしたのか、サスケの方も口調が荒くなる。

 

「いいから、言えよ! そんなんじゃあ、どうしていいか分からないだろ!」

 

「怒ってないって言ってるんだ! 私がそう言ってるんだから、気にする事もないだろ!」

 

多由也も言わない。というか、言えない。膝枕をしていた雪絵とサスケ、あの時の光景を思い出す度、何故か怒りがこみあげてくるなんて言えないからだ。

 

「………!」

 

「………!」

 

無言でにらみ合う2人。

 

「………あほらしい。白の所に戻るか」

 

その部屋の外、様子を見に来た再不斬がその一連のやりとりを耳にすると、心底呆れた風にぼやきながら部屋に入らず去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戴冠式の翌日。港で、出航する船を見上げる三太夫と小雪、そして船に乗り込んでいる撮影隊と護衛の面々が居た。

 

「本当にありがとう………元気で」

 

「いえいえ、そちらの方も。それでは、私共はこれで」

 

見送る小雪と三太夫に向かい、メンマが会釈する。

 

「監督も。次回作が決まったら………私にも、一報を頂戴ね?」

 

「ああ、勿論だ。真っ先に連絡を入れるぜ」

 

渋い声でマキノ監督が返す。まるで、娘を見るかのような目で語りかける。

 

「しかし、君主と女優の両立とは………随分とまた、思い切った事を」

 

サスケが呟く。

 

「私は欲張りだからね。それに、ファンの期待は裏切れないし………それに、三太夫他、重臣達も協力してくれるらしいし」

 

「姫様………」

 

三太夫が複雑な表情で返す。

 

「良いと思うよー。ファンも凄い多いようだし、ね」

 

メンマが複雑そうな表情で答える。

 

(言えない。依頼の理由が、“網”内での士気維持のため、なんて)

 

どうにも、想像以上にファンが多かったようである。ザンゲツの夫もそうらしい。男ってやつは………と呆れるザンゲツにあの時だけは同情したくなった。

 

(まあ、仕方ないか)

 

メンマも男なので同意できる部分もある。それを考えれば止めて欲しくないとも思う。

 

「………まあ。それに、誰かに勇気を与える仕事なんて、そうそう無いぜ?」

 

「確かに、ね。まあ、両立は辛いだろうけど。みんなと頑張って、何とかするわ」

 

「へっ、そうこなくちゃあなあ。まあ、次回作に関しては時間がかかるだろうが、待っててくれや。それよりも先に、完結編を仕上げなくちゃあよ」

 

この二週間で、あらかたの部分は取り終えたらしい。後は、編集するだけだ。

 

「まあ、それでも撮った一部は編集してもらいますがね」

 

守秘義務、と一言呟く。

 

「そりゃあ、まあなあ………ちっ、それに関しては仕方ねえか」

 

編集無しにそのまま流されたら、正体がばれかねない。そして、雪の国にまで追求の手が及ぶかもしれない。メンマが監督に交渉した結果、メンマ達の素性がばれない範囲で、編集と再撮影をしてもらう事になった。

 

まあ、カカシやサクラ、シカマルにキリハ辺りにはばれそうな気もするが。まあ暗部というか、ダンゾウにばれなければ問題は無い。それに、相手は世界のマキノ監督だ。そう、無茶な事もできまい。雪の国にしてもそう。確信が無い限り、迂闊な真似はできないだろう。

 

「それでも、最高の絵が撮れたからな………今回の完結編、大ヒット間違いなしだ!」

 

「そう、かつてない程の、最高の完結編に! 絶対、仕上げましょうね、監督!」

 

「応! 次回作はそれからだ!」

 

何でも、あの忍び同士の一戦を見たマキノ監督だが、次回作のインスピレーションが浮かんだらしい。ともすれば命を落としていたのかもしれない時に映画の事しか考えないとは、とことん写真しか頭に無いのだと一行は苦笑した。

 

「あんた達は………変わらないわね」

 

雪絵が苦笑する。

 

「それじゃあ。船が出るようですので」

 

「………ええ。名残惜しいけど」

 

「さようなら、ですね」

 

 

 

 

同時、船が動き出す。船にいるサスケと、港にいる小雪の目が交錯する。今回の一件で、距離が近くなった2人。見つめ合いながら、視線だけで会話をする。

 

(………頑張りなさいよ?)

 

(はっ、言われるまでもない………あんたもな)

 

互いに、親指を立てながら、不適な笑みを交わす。その背後、白が手を振る。

 

 

「それじゃあ、お元気でー!」

 

「あんたもねー! 結婚式には私も呼びなさいよー!」

 

『「「「ぶっ」」」』

 

メンマとサスケ、キューちゃんにマダオと多由也が吹き出す。一際大きい吹き出しをしたのは再不斬であるのは言うまでもない。

 

「………白?」

 

「ええと、何か?」

 

白の満面の笑みを前に、再不斬が目を逸らす。その頬は若干赤く染まっていた。

 

「………いや、何でもない」

 

(((このヘタレが)))

 

当事者の2人以外の全員が、内心で呟く。

 

「………ともあれ、だ」

 

視線を感じながらも、状況を打破すべく再不斬が動く。

 

「これ、手紙だ」

 

再不斬が懐から一枚の手紙を取り出し、サスケに手渡す。

 

「これは……………って」

 

中に入っていたのは、一枚の写真と、メッセージ。そこには、眠っているサスケの頬に口づけをする、小雪が映っていた。

 

『うちはサスケ殿。願いを叶えた先、いつかまた会いに来てね』

 

そして、写真に書かれているメッセージを読み切ったサスケの顔が、真っ赤に染まる。

 

「どうしたんだ………っておい」

 

素早くのぞき込んだ多由也が硬直する。背後、それを一瞬だけ見た他の面々が、うあちゃーと呟き、頭に手をやる。

 

「うはー、大胆だなお姫様」

 

「しかも、女優…富士風雪絵のサイン付きだ。これ、ファンに見られたら殺されるねサスケ君」

 

『ふーむ、お姫様もやるのう………というかサスケのやつ今にも殺されそうなんじゃが』

 

「うーむ、ボクとしてはどちらを応援したらよいやら」

 

「………やれやれだぜ」

 

各々の所感を言いながらそそくさとフェードアウトしていく4人+1。触らぬ神に祟りなし~といいながら、船室の中へと入っていく。

 

残されたのは妙な威圧感を発する多由也と、その威圧感に呑まれたサスケだけであった。そして多由也が顔を真っ赤にしながら、神速の手を動かす。

 

「………痛ってえ! なんで頬をつねる!?」

 

「………知るか! 手が勝手に動くんだ! ………ああああ、何だこの気持ちは!」

 

「知るか………ぐあっ!」

 

 

 

顔を真っ赤にしながら、サスケと多由也の2人はぎゃーぎゃーと言い合う。

 

相変わらずの一行、相変わらずの喧噪を乗せた船は、吹きすさぶ風と、波に運ばれて。

 

 

 

 

雪の国に春と虹を呼び込んだ一行は、名前を残す事無く。

 

 

風花小雪姫の心にだけ、その名前を刻んで去っていった。

 

 

 

虹色に輝く氷壁を、背にして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小池メンマのラーメン日記・劇場版

 

 SASUKE ~大疾走!雪姫忍法帳…その虹の先に~

 

 

 

 

 

 

 

                                      了

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、このまま帰るんですか?」

 

「いや。匠の里でサスケの刀を発注した後………」

 

そこで、メンマがにやりと呟いた。

 

「今回の任務でみんな疲れたようだし。途中にある温泉街で、一泊止まっていこうぜ」

 

『「「賛成!」」』

 

白と多由也、キューちゃん達女性陣が賛成する。

 

「でも、隠れ家にも温泉があるんじゃあ………」

 

サスケが口を出す。抓られた頬が赤く染まっていたが、誰も指摘しない。

 

「いやー、家だと女性陣が家事とかしなきゃならんでしょ? ………大金も入ったし、慰安だからね」

 

「ありがとうございます」

 

「いや………でも、何か」

 

「何?」

 

マダオが訊ねる。

 

「誰かと会いそうな気がしたんだ。そんだけ」

 

「はは、そういえば木の葉の方も、慰安旅行とか在ったねえ」

 

「まあ、シーズン外れてるし、問題無いだろ」

 

「じゃあ決定で」

 

 

 

 


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