小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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4話 : 今後について

 

 

 

『ここは………?』

 

暗闇の中、目が覚めたメンマはあたりを見回した。そして、現実では無いことを悟る。今まで何度か見たことがあったからだ。夢と分かる夢。その中でメンマは二人の姿を見た

 

『………あれは…………キューちゃんとマダオ………?』

 

暗闇の向こう、2人の姿が見える。マダオは本来の姿、キューちゃんも大人の姿になっている。

 

『………で………お主は…………』

 

『…………仕方な……………既に……………』

 

何やら話し合っているようだ。途切れ途切れだが、2人の話声が聞こえてくる。

 

『……………すまな……………本当に……………』

 

『なに…………出来すぎ……………』

 

謝るマダオに、ため息を吐くキューちゃん。

 

『…………それで、いいの?』

 

『声は………聞こえたのじゃ………ならば、もう逃れる………』

 

そして、最後。キューちゃんは悲しく笑いながら、言った。

 

 

『叶わなくても。夢は、夢じゃろう?』

 

本当に綺麗な、そしてどこか儚い笑顔だった。いつも浮かべているものとは、違う。

 

 

『ま………………』

 

 

メンマは「待ってくれ」と言おうとした。

 

だが、声が出ない。手を伸ばしても届かない。

叫ぼうとするが、声にならない。足も動かなかった。

 

 

『く…………』

 

 

唇を噛みながら、それでも手を伸ばし、叫ぶ。

 

 

 

『………………ま』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………待ってくれっ!?」

 

「痛い!?」

 

メンマの視界に星が舞い散った。次に訪れたのは額の痛み。

 

「っつ~………」

 

「あいたたた………」

 

メンマは額を抑えながら呻いた。困惑する。

 

「…………あれ?」

 

「あいたたた………目、覚めました?」

 

ぶつかった相手。額を抑えながら涙目になっている人物を見たメンマは、思わず呟いた。

「…………邪神?」

 

「何ですかそれは」

 

桃色の邪神は額に青筋を浮かべながら、口をひきつらしている。

 

『………コマンド?』

 

「→逃げる………って違うよ」

 

余計な事言うなマダオ、と言いながら頭を振った後、状況を把握する。

 

「えっと、ここは………」

 

「日向の屋敷です。キリハのお兄さん」

 

「え………俺って確か………」

 

何が何だか分からない。何でそんな所にいるのか、額に手を当て思い出そうとする。

 

(それよりも………日向? いや、それよりも何で………………ん?)

 

考え事をしている最中、襖が開く音がした。入り口の方を見る。其処には、金髪と黒髪、2人の少女の姿があった。

 

「お兄ちゃん…………?」

 

声を発した金髪の少女の方の耳には、見覚えのある………というか俺が注文したあの緑色のイヤリングが付いていた。

 

「………まさか、キリハ?」

 

「………お兄ちゃん!」

 

目尻に涙を浮かべながら、こちらに駆け出そうとするキリハ、だが。

 

「それは待ってねキリハちゃん」

 

「モルスァ!?」

 

キリハは足を出した直後、その足を隣にいたヒナタにすくわれた。踏み出した勢いのまま、顔から畳へと突っ込む。

 

「ああああああああぁぁぁぁ…………」

 

そして転んだ勢いのまま、隣にある部屋まで転げ回っていく。

 

「…………」

 

『…………』

 

『…………』

 

地獄の様な沈黙。そんな中、ヒナタはメンマの横に座った後、話しかけてきた。

 

「初めまして………と、いうか」

 

あの時以来ですか、と正座しながらヒナタが、笑みを浮かべる。キリハが転げ回っていった向こうの部屋から、どんがらがっしゃーんという音が聞こえるが、あくまで無視である。

 

「………ええと、そうだね」

 

メンマは何とか気を取り直して、返事をした。

 

「まずはあの時のお礼を。助けていただいて、本当にありがとうございました」

 

「ええと………もしかして、シカマルから?」

 

「はい。中忍試験に合格した時に、シカマル君から教えられました」

 

あの時はちょっと手が滑ってしまいましたけど、とヒナタは笑う。サクラが少し引いているが、どうしたのだろう。

 

「そう…………」

 

礼を言われたメンマは考える。あの行動は偶然の産物、出くわしたが故の成り行き。所謂意識しての事ではなかった。ので、こうお礼を言われても、何と返したらいいのか。

 

『無難に言えばよかろう。どうしたしまして、で良いのではないのか?』

 

(そうだね、キューちゃん…………ん?)

 

キューちゃんの声を聞いた時、メンマの両肩がびくっと跳ねた。

 

(何か…………言わなければならない事が………)

 

忘れているような。大切な何かがあったという感触が頭をよぎる。

 

(………後で聞くか)

 

ここはひとまず、ヒナタの礼に答えようと、メンマは言葉を返した。

 

「どういたしまして。それよりも、何で俺は此処に居るんだ」

 

「え、覚えていないんですか?」

 

ヒナタが首を傾げる。

 

「いたたた…………酷いよ、ヒナタちゃん」

 

その時、向こうの部屋から、キリハが戻ってきた。

 

「ごめんね、キリハちゃん。でも、あのままだとお兄さんも危ないと思ったから」

 

まだ怪我の方も完治していないしね、と笑う。対するキリハはその笑顔から何かを感じ取ったのか、「そ、そうだね」とひきつった笑みだけを返す。

 

「そういえば………まだ、痛むな」

 

胸を抑える。

 

「一時は本当に危ない状態でした」

 

「………というか、かなり不味い状況で気絶したのに」

 

よく生きてたな俺、とメンマは安堵の息を吐いた。

 

「本当に、間一髪でした。死の森の方から、急に人が飛んでくるものですから………」

 

すごく驚きました、とヒナタが言う。

 

「………えっと、ヒナタ………さん? が助けてくれたのか」

 

「そうです。あと、ヒナタと呼んで下さい」

 

ちょっとはにかんだような笑顔で言ってくる。

 

「え、でも」

 

「呼んで下さい」

 

「え、で「呼んで下さい」」

 

(え、何か性格違くね?)

 

何が彼女にあったのだろうか、と首を傾げる。

 

「ええと………ヒナタ?」

 

「はい!」

 

ヒナタは少し頬を赤くしながら、大きな声で答える。

 

(おおう、癒し系オーラが……)

 

白に匹敵する程のほんわかオーラを感知。キューちゃん、事件です!

 

『お主、後でセッキョーな』

 

(そんなご無体な!)

 

『………いや、それよりも。キリちゃんが何か言おうとしてるよ』

 

マダオの言葉を聞いたメンマはキリハの方を見た。

キリハはため息を吐きながら、語り出す。

 

「死の森の外で待機していたヒナタちゃんが、白眼で見つけてね」

 

咄嗟に追いかけ、回天で受け止めたんだよ、と言う。それを聞いたメンマは、ヒナタに向かって礼を言った。

 

「そうなんだ、ありがとうヒナタ……って何で顔が赤いの?」

 

見れば、ヒナタの顔は林檎みたいに真っ赤になっていた。

 

「ああ………その、えっと」

 

ヒナタは指をもじもじさせながら、視線を下に逸らしている。

 

(あれ? 俺変な事いった?)

 

と、思った時だ。

 

「………回天でも受け止めきれず、結果的に姉上はその大きな胸で受け止めたのですよ

 

入り口の方から声。見れば、ヒナタとおなじ黒髪、そして白い眼をした少女が佇んでいた。

 

「あれ、ハナビちゃんだ」

 

何処か気の強そうな少女。これが、日向ハナビか。

 

「いらっしゃいませ、キリハさん、サクラさん…………それに、初めましてうずまきナルトさん」

 

「ああ、初めまして…………ってそれよりも。

 

胸で、ってどういうことと、突然乱入してきた日向ハナビに聞いてみる。

 

「いえ、回天というか、全身から発したチャクラの膜であなたを受け止めるまでは良かったらしいのですが………」

 

そこから、まさか回転して弾き飛ばす事はできないでしょう、とため息を吐く。

 

「勢いを殺しきれないまま………それでもナルトさんを離さずに、全身で抱きしめながら転がったそうですよ」

 

加え、胸に常備している大きい二つのクッションが良かったようです、と呟きながら、ハナビはため息を吐いた。何処か憂鬱な表情を浮かべているのは何故だろう。

 

「でも、そこで姉上は気絶したようで………ってすみません、姉上」

 

ハナビはその怖い笑顔は勘弁して下さい、とひきつった笑いを浮かべた。

 

「2人、抱き合ったままの状態で気絶していたとか。傍から見れば、お兄ちゃんがヒナタちゃんを押し倒しているように見えたらしいよ」

 

俺の顔がヒナタの胸の間に挟まっていたらしい。

 

「ちなみに第一発見者は近くにいた父上と私でした」

 

その後、同じ班の忍びも追いついてきたらしい。

 

『………ええと、よく生きてたね』

 

マダオが言う。

 

(ぼそっと呟くなよ。怖いだろ)

 

「ちなみに父上はその光景を見た途端、八卦六十四掌の構えを取っていました」

 

(よく生きてたな俺………)

 

虚空を見上げながら呟く。

 

「えっと、それは流石に冗談だよね?」

 

キリハが訊ねる。

 

「本気と書いてマジでした。すんでの所で私がナルトさんの名前を呼ばなければ………」

ハナビはそこで黙りこみ、視線を逸らした。

 

「ハナビちゃんに話しておいてよかった………」

 

キリハが安堵のため息を吐く。

 

「あ、ちなみに中忍ですんで、私」

 

「そうか………ありがとう。本当にありがとう。命の恩人だよ」

 

『ヒアシさんも大概だねえ………』

 

『………お主、キリハが見知らぬ男に押し倒されていたらどうする?』

 

『え、螺旋丸で挽肉にするよ?』

 

当然じゃない、と言うマダオ。メンマとキューちゃんは、五十歩百歩ということわざを思い出していた。

 

「それにしてもクッション、か」

 

キリハの呟き。それを聞いた俺は、思わずヒナタの方を見てしまった。

 

(…………しかし、確かに)

 

でかいなおい、と呟きながら小さく頷く。

 

(でも、覚えていないのか………………くそ、もったいねえええええええええええええ………え?)

 

心の中心で悔しさを叫んでいる最中、後頭部を誰かにぐわしと掴まれた。

 

「何を見ているのかなお兄ちゃん。あと、何を考えてるのかな?」

 

「………今は遠き理想郷を」

 

富士の如く聳えるそれを、見つめながら、返答する。ハナビやキリハ、サクラとは明らかに違う。多由也以上かもしれぬ。多由也は日本で言えば駒ヶ岳クラス。テマリは宝剣岳ぐらいか。それすらも上回る、圧倒的な戦力だ。正に日本一。

 

『………確かに、でかいね』

 

『…………マルカジリ? スリオロス?』

 

その山と隣にいるハナビを見ながら、メンマは思わずとある歌を口ずさんでしまいそうになった。直後、乙女達は何かを悟ったのかぴきぴきと額に青筋を浮かべた。

 

「………何か、失礼な事を考えていませんか?」

 

「いや、確かにヒナタには敵わないけど………でもサスケ君に手伝ってもらえれば………キャッ」

 

「お兄ちゃん? 山は分かるけど、谷を越えてって、どういう意味かな? かな?」

 

メンマは思った。助けてハットリくん、と。

 

『うん、ちくわは美味しいよね。鉄アレイは御免だけど』

 

『………後で説教じゃ。火の実の刑じゃ』

 

 

場は混沌の渦と化した。メンマは、その後にあった事は思い出したくないという。いよいよ収集がつかなくなったが、メンマの“人には未来がある”、という言葉だけを残して、ひとまず場は沈静化した。

 

『いや、それだとシズネさんとかどうするの?』

 

(それは言わない約束だよおとっつあん)

 

 

閑話休題。

 

 

「そういえば、誰か治療してくれたんだ?」

 

「応急処置はシズネさんと火影様。その後は、サクラちゃんといのちゃんかな」

 

「………えっと、いの、ちゃん? 此処にはいないようだけど」

 

「どうもいのが、全力を出しすぎたようで」

 

なんでもメンマの容態が安定した直後、ぶっ倒れたとの事。今は実家の方で静養しているらしい。

 

「そうか………後で礼を言わなければなあ」

 

「………そうですね。そうすれば、いのも喜ぶと思います」

 

「うん…………あと、お兄ちゃん。これだけは聞いておかなければいけないんだけど」

 

そこで、キリハは表情を変える。忍びらしい、真剣な顔。

 

「一体、あの場所で誰と戦ったの? 痕跡がどうにも普通じゃなかったよ。桁違いの風遁と火遁が使われたような形跡があったし」

 

「ああ…………」

 

『そういえば、随分と派手にやりあったもんね』

 

死の森、随分と破壊してしまったなあ。そういえば。でも、仕方ないとも言える。相手が相手だし。

 

「………暁の首領だよ。輪廻眼を持った忍びだ」

 

「ちょ、ちょっと待って!?」

 

「暁の首領ですか!?」

 

「うん。というか、敬語はやめてほしいんだけど」

 

「ええと………いや、それより、あの暁………です………よな?」

 

「サクラちゃん、それ変だよ」

 

「………ええっと! 気を取り直して………それよりも!」

 

「はい!」

 

何故か背筋をただしてしまう。

 

「暁って、その………サスケ君のお兄さん、うちはイタチが居るっていう、あの?」

 

「そう。その暁」

 

五代目から聞いてると思うけど、とため息を吐く。

 

「変態蛇、本名オカマ○もいた、あの暁だ」

 

「………元三忍の、大蛇丸ですか」

 

「そう。首領の奴は………それはもう凄かったよ。二度と戦りたくないね」

 

勝つビジョンが全く浮かばないと、メンマは乾いた笑いをこぼした。

 

「単純な力量で言えばあの大蛇○より確実に上だ。一対一じゃ誰も勝てないと思う。いや、過言じゃなくてね。変態的な強さだったよ」

 

一方でサクラは大蛇○の強さと、師匠の事を思い出したのだろう。あれ以上ですか、と呟く内に顔がどんどん青くなっていった。

 

「それよりも、あの後誰もあいつの姿を見てないの?」

 

「はい。襲撃者は雨隠れと岩隠れ、それに霧隠れの中忍・上忍クラスの忍びによるものだけで」

 

首領のように突出した能力を持つ忍びはあの場に現れませんでした、とヒナタが言う。

 

「ちょっと。ちょっと待ってくれ。雨隠れはともかく、岩と霧もか?」

 

「はい。一体どこから侵入したのか…………襲撃班の中に、何人か混じっていました」

 

「何とか撃退しましたけど、かなりの被害を受けました。キバ君とシノ君、それにネジ兄さんも、少し前まで入院してましたし」

 

「………え、そんなに?」

 

「いえ、軽度の怪我でしたから。先週、退院しました」

 

「………先週? っていうか、あれから何日たったっけ」

 

「え、十日だけど」

 

「十日!? じゃあ我愛羅、じゃなくて風影は?」

 

「砂隠れの里に帰られました。何でも、向こうでも襲撃事件があったらしくて」

 

聞けば、向こうも岩と霧と雨の混成部隊に襲撃されたらしい。デイダラ、サソリは居なかったようだ。

 

『そうだね………でも、これってどういうことかな』

 

(………正直、分からん)

 

メンマは深くため息を吐きながら、訊ねた。

 

「雨隠れはともかく、岩隠れと霧隠れに使者は出したのか………って部外者がこれ以上聞くのは駄目か」

 

「いえ。火影様から、許可は出ていますので」

 

「そうか………それで?」

 

「………まだ戻ってきてないんです。もう一週間も経つのに」

 

ヒナタが悲しそうな表情を浮かべる。

 

『向こうで里の者に殺されたか、道中で暁の手の者に殺されたか………いずれにせよ、きな臭い事この上ないね』

 

「しかも、それに加えて、ね…………」

 

「何かあったのか?」

 

「霧と岩の方から、使者が来てね」

 

岩と霧、それぞれの使者が言うには、木の葉と砂の忍びに水影様と土影様が襲われた、らしい。

 

「………は? え、どういうこと?」

 

「行方不明になっていた忍びが、その………死体を見るに、木の葉と砂の忍びには違いないようで」

 

「向こうも、襲撃者の死体を見た時は随分と驚いていたようだけど」

 

何でも、日向ネジが白眼の洞察眼によって相手が動揺するのを察知したらしい。

 

「………それもあって、現在五大国の隠れ里は厳戒態勢に入っています」

 

「迂闊に動けば戦争にまで発展する、か」

 

『いやはや、どうにも………分からない事が多すぎるね』

 

「ああ………ひとまず、綱手姫に報告するか」

 

 

 

そして、数時間後。変化をした綱手が、日向邸にやってきた。

 

「おお、意識は回復したようだな」

 

「ええ、おかげさまで。それで、俺を襲った相手ですが………」

 

メンマは綱手に経緯を説明した。今この場にいるのはシズネさん、キリハ、メンマに綱手様だけだ。ヒナタとサクラには悪いが、席を外してもらった。

 

「それにしても、輪廻眼か………」

 

綱手は顎に手を当てながら、忌々しげに呟いた。

 

「そうです。対峙して分かりましたけど、あれ尋常じゃないですよ………いくらなんでも強すぎる。チャクラ量も馬鹿みたいに多かったし、忍術はどれも極めて殺傷能力の高い、厄介なものばかり。思い出すだけで手が震えますよ、ほら」

 

「それほどまでにか。………私も、そんな術は見たことも、聞いたこともない」

 

「自分もです。例の、黒い何かは出てきませんでしたけど」

 

「………黒い何かは恐らく、正体を隠すためのものだろう。そんなデカブツを口寄せしたら、襲撃者が誰かすぐに分かるからな」

 

「で、しょうね。それはともかく、各里を襲った忍び達ですけど………どう見ます?」

 

「誰かが裏で糸を引いているのは間違いないだろう。だが、それが誰か………どうにも、確定ができない」

 

そもそも情報が少なすぎる、と綱手は言う。

 

「他の里も馬鹿ではないでしょうから、すぐさま戦争という最悪の事態にはならないでしょうが」

 

シズネがため息を吐いた。

 

「まあ、今は軍備収縮の時代だからな。極めて明確な理由が無い限り、どの里も宣戦布告といった………まあ、迂闊な行動はできないだろう」

 

大名の意向もあるしな、と綱手は肩を竦める。

 

『それでも雷影殿あたりは迂闊に動きそうだけどね』

 

マダオの呟きを聞いた俺は、問い返す。

 

(え、そんなに短絡的なのか?)

 

『うん』

 

すぐさま断言するマダオの言葉を聞き、雷影とは一体どういう奴なんだと頭を抱える。

 

「ん、どうした?」

 

「いえ、何でも雷影は短絡的だと、うちの居候が」

 

「………ああ。それだけど、な」

 

綱手の顔が曇る。

 

「雷影殿がな。どうやら何者か襲撃され、今は意識不明の重態だそうだ」

 

「………はあ!?」

 

「例の二尾が行方不明になった場所に雷影自ら出向いてな。そこで、何者かに襲撃された。雲隠れの里側はその事実を隠したかったようだが………どうにも動揺が大きすぎたらしいな」

 

外まで情報が漏れていたんです、とシズネさんが沈痛な面持ちを。それほどまでに深刻な事態ということだ。情報を封鎖しきれなかったぐらいには。

 

一同は無理もないと考えた。二尾を失った直後、その動揺を収める立場にいる頭を更に失ったのだから、と。

 

(そりゃあ、動揺するかしかし、雷影って強かったのだろうか………ん? どうした、マダオ)

 

『ええっとね………あいつが使った、あの雷を身に纏う術なんだけど』

 

(ああ。あの移動速度が滅茶苦茶速くなる術か。どうにも完全には使いこなせていなかったようだけど)

 

『うん。で、思い出した。あれ、雷影殿の得意忍術だよ』

 

(は、まじで? ………いや、そうか)

 

「どうした?」

 

訊ねてくる綱手に、メンマは私見を混じえて事情を説明した。

綱手は、頭を抑えて溜息をついた。

 

「頭が痛いな。あれは写輪眼でもコピーできない類の術だった筈だが、それをコピーしたとなると………」

 

「考えられるのは、輪廻眼の恩恵ですかね。確かに、奴は五行の術、その全てを使いこなしてましたから写輪眼のコピーとはまた違う原理を持っているのかもしれない」

 

「そもそも、忍術を開発したのは六道仙人。今、術が開発されて………昔よりその数は増えたんでしょうけど、あくまで輪廻眼によって生まれた術からの派生ですからね」

 

「そう言われれば、そんな気もするが………まあ白眼や写輪眼とは違い、今まで輪廻眼の使い手が現れた事などないからな」

 

そういった能力があるかもしれない、と綱手が言う。

 

「………そうですね。しかし、あの眼には何が見えているのでしょうか」

 

「知らんよ。私たちには理解できない何かが見えているのかもしれないが、それに共感する事はないだろうな。今までの行動、どうにも理解し難いものがある。何を目的としているのかは分からないが………」

 

綱手はお茶を飲んで、言葉を続けた。

 

「どうにも、嫌な予感がする。防ぐために動かなければならないだろう」

 

「そうですね。全面的に同意します」

 

「しかし、暁と雨隠れの里が此度の事件に関わっているのは間違いないようだな。暁や雨隠れ程度の大きさの組織だけで、あれだけの事が成せるとは思えない」

 

「………すると、他に協力者が居るか、協力する組織がいるって事ですか? そんな、いったいどんな奴が……………ってああ」

 

『………そういえば、いたね。』

 

一人、いや2人心当たりがあった。

 

「大蛇丸が居る音隠れの里か、“根”のダンゾウ。そのどちらか、あるいは両方ですか」

どちらも木の葉隠れ出身ですね、と言うと綱手姫は頭を抱えだした。

 

「それは言うな。頭痛が酷くなるから」

 

「すいません…………あ、そういえば我愛羅は何か言っていました?」

 

「ああ、例の奴らはこちらで預かっておくから、後で迎えに来てくれとのことだ」

 

「了解しました」

 

「ああ、ついでに。例の風影殿の姉………テマリといったか。随分とお前の事を心配していたようだぞ」

 

「………テマリが?」

 

「ああ。お前が意識不明の重態になっている事を伝えた時………あの娘、随分と狼狽えていたぞ」

 

「………そうですか」

 

ぽりぽり、と頬をかきながら答える。

 

『よ、色男』

 

(うっせ)

 

まあ、あの後も何回か会っていたしな………友達に成ったし。しかし、心配してくれるとは嬉しいねえ。

 

『まあ、初回の別れ際はアレじゃったがな………』

 

(それは言わんで下さい)

 

散々だった初会話。あの扇子の一撃により気を失ったメンマは、何を話していたのか、細部を思い出せなくなっていた。

 

『何忘れようとしてるの。あの後、何度も説明したでしょ』

 

(…………)

 

『助平な事はいかんと思うぞ』

 

(すんません。まじですんません)

 

平謝り。だが、メンマはあの後もテマリとは何度か会っていた。例の冷製のラーメンの事とか、後は新作のラーメンの事で相談があったからだが。

 

『いやあ、それにつけても見事な闘牛士っぷりだったよ………』

 

『華麗にスルーとはああいう事をいうのじゃな………』

 

キューちゃんとマダオが何事か呟いている。

 

(ん、何か?)

 

『『いや、何にも』』

 

(?)

 

 

そして、会話は進む。

 

 

「敵の思惑についての確証は得られないが………狙いは分かる。恐らく、こちらの動きを硬直させる事だろう。実際、各国が緊張している今、木の葉としては迂闊に動けない状況にある」

 

「そうですね。あとは、獲得しようとするものについても」

 

「各隠れ里の尾獣、か。しかし、ある程度は奴らに捕獲されたのだと思うのだが」

 

「現状、生存が確定しているのは一尾の我愛羅と、滝隠れにいる七尾、あとは雲隠れにいる八尾だけですか」

 

「ああ。二尾、三尾は捕らえられたと見て間違いないだろう。あと、襲撃があった日に、滝隠れ付近で何やら大きな戦闘音、そして戦いの後があったらしい」

 

何でも、其処は七尾の人柱力である少女の家がある場所だったという。

そこでメンマは首を傾げた。

 

「らしいって、確定では無いんですね」

 

「ああ………七尾の少女は、滝隠れの里からは忌み嫌われていたそうだからな」

 

その話を聞いたメンマは思わず拳を握りしめた。どこでも一緒か、と。

 

「………話を戻そう。今まで得た情報から、岩にいる四、五尾と………霧にいる六尾。そして滝にいる七尾も恐らくは………」

 

互いに暗い表情を浮かべる。

 

「………そうですね。となると、我愛羅の方を………ってキリハ?」

 

何か言いたそうな仕草を見せるキリハに対し、メンマは何かあるのかと訊ねた。

キリハは困った顔をしながら、話しだした。

 

「ええっと………落ち着いて聞いて欲しいんだけど」

 

「うん」

 

「えっとね。私、任務で滝隠れの里の近くに居たんだけどね」

 

「あ、そうなんだ…………え、それで?」

 

 

あの時は分からなかったんだけど、と前置いて。

 

 

 

「その襲撃があった二日後だけど………私、その七尾の人柱力らしい子を見たんだ」

 

 

 

 


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