小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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9話 : 衝突

メンマが角都と交戦し始めた頃。一方でキリハ達の方は、それぞれの忍び達が離れ場所に散らばり、敵味方入り乱れての乱戦となっていた。。

 

「土遁・土陵返し!」

 

突進してくるサクラに向け、滝忍の一人が土遁を使う。手で叩きつけられた場所の地面が割れ、まるで畳のようにめくれ上がった。その重量によって相手を押しつぶす術だ。サクラはそれを見ても止まらなかった。むしろ頑丈な土の壁に接近し、真っ正面から拳を打ち付けた。火薬が炸裂したかのような激音と共に、土の壁が粉砕された。

 

「馬鹿なあ!?」

 

――――桜花衝。

 

サクラの怪力の一撃により土の壁はあっさりと粉砕され、後ろに居た滝忍もまとめて吹き飛ばされた。致命打には至らなかったものの、滝忍にそれなりのダメージが。

 

サクラは更なる追撃を仕掛けようとしたが、横合いからもう別の忍びがサクラを襲った。

「土遁・土陵団子!」

 

上忍クラス、ランクBの土遁系の術。土で出来た巨大な、ゆうに直径10mはあろうかという団子がサクラを押しつぶさんと迫った。

 

「痛天脚!」

 

サクラは、逃げずにそれさえも真っ向から打ち砕いた。師匠譲りの怪力で、巨大な団子を真っ向から“蹴り飛ばした”。

 

「ぐあああああ?!」

 

後方にいた滝忍は、跳ね返ってきた巨大な団子に真正面からぶつかってしまうとそのまま、吹き飛んでいく。

 

「どうしたのよ、こんなもん!?」

 

桃色の怪力娘は今日も絶好調であった。

 

 

 

 

 

 

その少し前、ヒナタと対峙している滝忍は焦っていた。数で囲んでの押し潰すような戦術を使い、数的優位に立っている筈だったが、なかなか仕留められなかったからだ。遠間からクナイや手裏剣を投げるも、全てがその白眼で捉えられ避けられる。瞬身の術で切り込んでも、反撃の柔拳を受けてしまう。ヒナタを包囲する滝忍が何とかしなければ、と思考に意識を割いているその時だった。

 

「なっ!?」

 

横合いから、巨大な岩塊が飛んできたのだ。その軌道上にいた滝忍は驚きながらも、瞬身の術を使う事で何とか避けきる。だが、避けたその先には、ヒナタの姿があった。

 

「はっ!」

 

「ちぃ!」

 

ヒナタは瞬身の術で移動した滝忍に対して更に一歩踏み込み、牽制である抜き手を。それを防御し退いた相手を追い、間髪いれず更に踏み込み、回し蹴りを放った。

 

滝忍は側頭部に来た一撃をしゃがみ込むことでかわし、そして手に持ったクナイで即座に反撃に映る、が。

 

「ぐあっ!?」

 

付きだした腕は、ヒナタの繰り出した一撃で止められた。白眼で相手の攻撃の軌道を見切り、クナイが突き刺さる前にクナイを持った敵の腕部を両手の掌で挟み込んで止めたのだ。そしてヒナタはただ挟むのではなく、掌にはチャクラが篭めていた。

 

(腕への、柔拳)

 

ヒナタはトドメを刺そうと動き始めたが、もう一人の滝忍が仲間の窮地を救おうと無造作に間合いを詰めた。白眼の視界内に捉えられている事も知らずに。

 

「なっ!?」

 

ヒナタは背後から仕掛けられた攻撃を、片手だけで払う。まさか、と滝忍が気づいた時には遅かった。背後からの攻撃が失敗した動揺、その隙をついたヒナタは既に懐に潜り込んでいた。

 

避けられない。そう判断した滝忍は耐える以外にないと、来るべき衝撃に耐えて見せようと腹筋に力を入れたが、全くの無意味に終わった。

 

「が、っぐぁ!?」

 

腹筋を無視して胃へ抜けた衝撃。男は呼吸すら出来ず、その場にへたり込んだ。ヒナタは返す刀で顎へと掌打を放ち、男の意識を刈り取った。

 

「…………!?」

 

そして殺気を感じ取り、振り返る。見れば、先程腕に柔拳を叩き込んだ男が、起爆札付きのクナイをこちらに投げようとしていた。

 

「死ね!」

 

殺意と共に投げられる。だが、黙って爆殺されるヒナタではなかった。

 

「八卦空掌!」

 

軌道を見切り、クナイがこちらに届く前に八卦空掌の衝撃でそれを打ち落とした。打ち落とされた起爆札が爆発し、滝忍はそれに巻き込まれないよう瞬身の術で移動逃げる。

 

直後、滝忍の腹部を衝撃が襲う。

 

「………柔歩双獅拳」

 

先回りしての一撃。白眼の少女の声を最後に、柔拳の一撃を喰らった滝忍は意識を失った。

 

「ふう………次は?」

 

拳に雌獅子の迫力を乗せたまま。ヒナタは残る敵に向け、宣言した。

 

 

「なら、こっちから行くね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………赤丸!」

 

「ワン!」

 

一方、キバと赤丸も頑張っていた。シノの隣に待機し、相手がシノに近づこうとしれば、その速度を活かした体術により撃破していく。

 

「行け、虫達よ!」

 

シノは無表情のまま、相手の間合い外から虫を使ってチャクラを搾り取っていく。近接のキバと、遠距離のシノ。その連携に隙は無く、滝忍は迂闊に近づく事もできなかった。

 

「そこだ!」

 

時間が経てば経つ程に、相手は劣勢になっていった。

 

 

 

 

 

 

 

一方、少し離れて。いのの方は、複数の敵を幻術で足止めしていた。そこに、シカマルの影縛りが決まる。

 

「チョウジ、肉弾戦車!」

 

「分かった!」

 

チョウジが自分の全身に鋼糸を絡ませ、倍化の術を使う。そして鋼糸の先についた取手を、いのが掴んだ。

 

「今だ、いの!」

 

シカマルの影縛りが解かれたと同時に、いのは取手を掴むと全力でぶん回した。

 

「おらあああああああ!」

 

――――連携忍法・回転超特球の術。木の葉の白い悪魔が使う武器を参考に開発した新術である。影で捕らえられなかった滝の忍びが水遁を使って阻止しようとしたが、振り回された大質量の肉弾が関係ないと言わんばかりに全てを弾き飛ばした。

 

「く、怪力女め! ならば上だ!」

 

滝忍は死角である上からいのを襲った、が。

 

「ってえ、誰が肩幅広いのよ!」

 

相手の狙いを先読みしていたいのは回転の勢いを活かし、そのまま上へと放り投げた。肉弾は滝忍に直撃し、そのまま森の向こうへと吹き飛ばされていった。

 

その隙にいのとシカマルに攻撃を加えようと、肉弾を受けて弱っていた滝忍が、何とか距離を詰めようと走り出す。だが、2人は一目散に後退していた。

 

そこに。

 

「………ん、影?」

 

つられて空を見上げる滝忍。そこには。

 

「肉の、隕石!?」

 

超倍化の術を使って巨大化したチョウジが空を覆い隠さんとばかりに肥大し。

 

 

無慈悲な隕石の着弾により、周囲には地響きが広がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

「ふっ!」

 

鉄が交差する。チャクラが荒れ狂う。互いの群れ、その首領格である2人は殺意を交えていた。邪魔する者はいない。全員が、周りで同じように戦闘を繰り広げていた。

 

「く、やる………っ!」

 

クナイを手に持ち、一薙ぎ。上忍にしても速いその一撃をキリハは目で捉えて避けきる。だが避けた筈のクナイが通った後、キリハの皮膚に一筋の赤が描かれた。

 

「これは………飛燕!」

 

キリハは男のクナイからは風の刃が生えていたのを見た。その刃の長さは木の葉の上忍、猿飛アスマにも匹敵する程だった。切り裂かれた首筋を触る。やや余裕を持って避けたのが功を奏したようだ。動脈までは届いていない。

 

「………ならばこっちも!」

 

キリハも、風の性質変化を得意とする忍びだ。相手の術に対抗すべく、クナイに風の刃を纏わせた。

 

「………面白い!」

 

「こっちは面白くないけどね!」

 

互いに打ち合う。風の刃が乱舞し、余波によって周囲の地面や木々に斬撃の跡が刻まれていく。

 

「はっ!」

 

「くっ!」

 

技量はほぼ互角。だが、気迫はキリハの方が完全に上だった。シグレは徐々に押され、後退していく。

 

「そこぉ!」

 

「甘い!」

 

決めの一撃、威力のある大振りの一撃をキリハが繰り出す。シグレはそれを読んでいた。大振りの隙を見極め、キリハのクナイの横腹に自らのクナイを当てる。

 

武器破壊の技。滝忍の一撃は見事にクナイを捕らえ、キリハのクナイが砕け散った。だが砕かれてなお、キリハの攻勢は止まらない。砕かれたクナイに構わず、腰に手を引きよせ、更に一歩踏み込んだのだ。近接の間合い、必殺の間合いから、掌打が放たれる。

 

「破っ!」

 

踏み込み、螺旋を描く軌道の掌打。月光の下での兄との一戦で学習したキリハだ。体術の理合を自分風にアレンジし、その理の長する所を推測。自らに適するようにくみ上げた。

前だけを見続けた、研鑽の乗った一撃。対するシグレは、武器破壊の達成感に気を取られて防御が間に合わなかった。胸に掌打を受け、吹き飛ぶ。

 

「………勝負あったね?」

 

キリハは掌の先から返ってきた手応えを認識し、告げる。少なくとも数本は折った筈だ。もう満足に動けまい。キリハの怒りに、気迫に、徹底的に押されたシグレは後ずさりながら喚く。

 

「くっ………何を怒っている。忍びなど所詮は国の道具だろう。あれも我も只の道具だ。怒る必要が何処にある!」

 

「任務のため感情を割り切って己を統制する事と、人を道具として使う事を一緒にしないで」

 

都合良く理屈を並べ立てるな、と言う。

 

仲間の意志を無視し、仲間の意識を認識しない事を。

忍者は里を守る盾や矛で、究極的に言えばいわゆる“道具のような”役割である事はキリハも分かっている。だが、人としての尊厳を無視し、“道具”と決めつけて扱う事は同じではないと考えていた。

 

「戯れ言を! あれは仲間などではない。そも、人間ですらない、生まれついての兵器だ! 兵器を兵器として扱って何が悪い!」

 

「一体、何を見てそれを言うんだ!」

 

チャクラが、ぶつかる。互いに距離を取る。

そこで、キリハは気勢を抑えると、静かな声で告げた。

 

「………何を信じてそれを言うの? 私には、分からない」

 

キリハは木の葉隠れの里の者と話し、分かった事があった。失った者を惜しみ、その原因を憎む気持ちは分かる。だが、年月と共に風化し、さらには歪められた情報を与えられた人達の言葉を聞いて、思ったのだ。

 

――――何を憎んでいるのか分からない。

 

何かを憎むのではなく、憎む事に意義があるのだと信じているようだった。彼らにとって真実などどうでもよい。自分の信じた理屈に従って、それを信仰しているとしか思えないぐらいに。人としての何かを見ずに、情報だけで肩書きだけで人を判断する。その瞳の中に、一体“誰を”映しているのか。

 

「はっ、本当に分からないのか? だとすればお前がおかしいのさ。爆薬と一緒に居たい人間など、存在はしない………誰もが人柱力の事を劇薬だと思っているさ。人間であるはずがないからな」

 

俺は間違っていないと。シグレはこの解答が正しいのだと断言した。

 

「もう、いい」

 

キリハは意を決した表情になる。対するシグレも、切り札を切る構えを見せる。

 

「俺は、ここで負ける訳にはいかない。里の未来のため、お前達を逃がすわけにはいかない」

 

「………逃げないから、来なさいよ」

 

互いに構える。距離は10間、18m余り。そこから、互いに一歩踏み出した。互いに上忍、一歩といっても常人のそれとはかけ離れている。

 

瞬時に間合いは狭まり、対峙、その距離僅か。

 

一足一刀などと生ぬるい間合いではない、致死の間合い。

 

命を天秤の上にのせる距離。

 

 

「殺っ!」

 

掛け声と共に、抜き手を放つ。手には風の刃が在った。素手の速度に必殺の切れ味を持つ、シグレが開発した奥の手。

 

――――風遁・飛燕斬。

 

 

「破っ!」

 

キリハは、掌打を。だがチャクラを発し、止め、威力を高めたそれは。微量だが性質変化を織り込んでいる。速度に優れた、風の忍術を極めた、キリハの奥の手。

 

――――風遁・螺旋掌打。

 

 

 

瞬く間もあればこそ、切り札を切った刹那に二人の影は交差した。余波による突風が、場に吹き荒れる。

 

 

そうして。

 

「………くっ」

 

キリハが肩を押さえてうずくまった。かなり深くまで斬られているのか、血が勢いよく噴き出していた。飛ぶ燕の如き鋭利な一撃は、キリハを捕らえていたようだ。

 

――――だが。

 

「………………かはっ」

 

竜巻の如き一撃を受けたシグレは、その螺旋に脇腹を抉られていた。そのまま、前のめりに倒れる。

 

 

風の性質変化を含んだ螺旋は、その余波により竜巻を生み出した。それは飛燕の一撃を弾き、逸れた刃が喉ではなくキリハの肩を裂いた。竜巻は進路を変えず、標的をそのまま貫いた。

 

 

 

(………間一髪だったな)

 

肩の傷を見て、呟く。もしかしたら負けていたかもしれない。

 

(まだ、遠いか)

 

いつかの兄の背中を思い出し、空を見上げる。空は暗雲。キリハの今の心中を現しているかのように。

 

「………さて、と。止まっている場合じゃないや」

 

キリハは自分の頬をはり、周囲を見渡した。

 

(戦闘は終わったようだね)

 

満身創痍になりながらも、何とか立っている味方を見て安堵のため息を吐く。どうやら、全員が無事なようだ。

 

 

「…………急がなきゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先に戦っていた場所から、少しはなれたところで。

 

「しぶといな…………」

 

「貴様がな」

 

メンマと角都は互いに息を切らせながら睨み合っていた。情報の利があるメンマだったが、相手の対応の早さと戦術の引き出しの多さに、攻めきれないでいた。一度だけ全速の踏み込みから、影分身の陽動を活かして螺旋丸を決めたのだが、心臓を一つ潰すことだけしかできなかった。同じ手は2度通じない。戦術もいよいよ限定され、息も切れていた。

 

角都は角都の方で、全方位からの地怨虞による触手攻撃をも振り払う、メンマの卓越した動きを捉えきれないでいた。先の踏み込みによる一撃にも、驚いていた。スピードで劣る角都はどうしても後手に回ってしまい、守勢ぎみになってしまう。ならばと遠間から得意の複合忍術を放つも、相手はそれを捌く。未だ、決定打を当てられないでいた。

 

攻めあぐねる二人。やがて睨み合いの時間が3分になった後だった。

 

 

「「っつ!?」」

 

2人は同時に、同じ方向を見た。視線の先の木から、やがて男が生えてくる。

尖ったアロエを身に纏う男。メンマはその姿に見覚えがあった。

 

「こんな所にイタノカ、角都。滝隠れの忍達、全員敗れたよ。それで、木の葉の忍び達がこっちに向かってイル」

 

「………ゼツか。思ったより速かったな」

 

角都は尖ったアロエを身に纏う男の姿に驚きもせず、その情報を噛みしめた後静かに舌打ちをする。

 

メンマは実物で見るにはあまりにも異様な男の姿に驚き、硬直していた。確かにトゲトゲアロエヤローだと。メンマは原作のナルトの表現が至極正しいものだったと思い知っていた。

 

(暁では情報収集専門のメンバーだ。あしゅら男爵みたいな顔をしてるけど、2人が合体しているのか? 音隠れの、左近と右近みたいに)

 

考えているメンマだが、先に結論を出したのは角都の方だった。

 

「ちっ………チャクラも残り少ない。強引に押し切ってもいいのだが…………」

 

角都はメンマを睨みつけたまま、再び舌を打つ。メンマの手には、螺旋丸が握られていた。

 

「数が増える。リスクの方が大きいか。仕方ない、撤退する」

 

「分かったヨ。飛段は回収しておくネ」

 

「頼んだ…………おい」

 

角都がメンマの方を向き、言葉を投げかける。

 

「というわけで、決着はお預けだ。次、会った時には必ず終わらせる」

 

殺気も露わに、角都はメンマの心臓の方を指さし告げる。

 

「お前は俺が殺す。そして今奪われた心臓の代わりに、お前の心臓をえぐり取ってやる」

だからそれまで誰にも殺されるなよ、と角都は嗤った。

メンマはそれを嫌な顔で拒絶した。

 

「あの蛇野郎と違って、心臓抜かれればふつーに死ぬ身体なんだよ、俺は。それに4つもあるならいーじゃないか、心臓の1つや2つぐらい」

 

「………蛇? 大蛇丸の事か?」

 

「………って、やべ」

 

それとなく、視線を逸らす。状況を見れば、わざとらしい。芝居だと看破されるかもしれない。だが、今角都は疲労の極致に達しているはず。獲物を目の前にして撤退するというのが良い証拠だ。通常時程の判断力は無い筈。あとは角都の性格上、その疑念が何処まで膨らむかが、問題となってくるのだが。

 

『あらゆる意味で五分五分だね』

 

確かに、決定的ではない。これ以上やると逆に怪しまれる。

さり気なく、そっとだけ。種火は小さくていい。派手な炎は直ぐに消える。

小さな種火でも、育つ要素はあるのだから焦る必要はない。

 

『………大蛇○だしね』

 

色々と各方面に信用のないオカマだしね。

 

「………まあ、今はいい。いくぞ」

 

 

渋面を浮かべたまま、角都達は去っていった。

 

 

 

 

 

「…………ふう」

 

角都達が去っていった後、メンマはその場に座って寝転がると天を仰いだ。

 

『しのげたね。大丈夫?』

 

「何とか、な……………ん、キューちゃん?」

 

『…………何じゃ?』

 

答えるまで随分と間があった。

 

「なんか、声に力無いけど………大丈夫?」

 

『ああ………何とか、な』

 

「………そう。ああ、そういえば七尾の娘はどうしたんだろ」

 

気配に動きがないところを見ると、未だに気絶しているようだが。

 

「キリハに任せるか………それより、砂隠れだ。マダオ、確か飛段の方が何か言ってたよな?」

 

『一尾、リーダーの予想、そして僕達を知ってたという事。総合するに、砂隠れに最低でも2人、もしかしたら4人、暁が向かっているのだろうね』

 

「2人ならばまだしもなぁ。4人はちと最悪か」

 

想像もしたくない事態になっちまうと、メンマは舌打ちをする。

 

「仕方ない、飛雷針の術で飛ぶ…………?」

 

そうして、立ち上がろうとした瞬間だった。

 

「あれ?」

 

メンマは自分の視界が急激に歪んでいく感覚に襲われていた。

 

「あれれ?」

 

土の壁が顔面目掛けて迫ってくるような。メンマは避けることもできず、顔面をしたたかに打ち付けた。

 

「………痛い…………」

 

咄嗟に手を前に出す事もできなかった。それ以前に、身体が全く動かなかった。

 

「…………あー、くそ。これもしかして地面か?」

 

顔面にぶつかってきた壁を見て、呟く。全身がまるで正座の後の足のように痺れ、感覚が鈍くなっている。それに、平衡感覚も無茶苦茶だと。

 

『………まずいね。先の戦闘での傷、開いたようだ』

 

(………え、いや、それ本格的にまずくね?)

 

『ものすごくまずいね。救援を呼ばなければいけないんだけど………身体、動く?』

 

(腕だけなら、何とか。でも立つのは無理。声も、もう出ない)

 

朦朧とした意識の中、何とかマダオに答える。

 

『なら、僕を口寄せして。血もあるから』

 

俯せになりながら、地面を横目でみる。こけた拍子に額が切れたのだろうか、赤い液体が見えた。

 

「…………く」

 

何とか腕を動かして、指先で血を拭う。

 

 

 

 

 

 

 

~ 小池メンマ ~

 

 

何とか数十秒かけて、口寄せの術を発動する。

 

「………よし」

 

じゃあ救援を呼ぶよ、とマダオは俺の懐から起爆札を1つ取りだした。

 

(頼んだ)

 

居場所を知らせる爆音が鳴る。

 

(あー、色々とばれちゃうな)

 

マダオも、今は変化を使っていない。使うだけの余裕が無い。

 

(それでも、助けられたから良しとするか)

 

俺も死んでない。彼女も死んでない。敵は去った。万々歳だ。

 

(少しは、修行した甲斐があったのかな)

 

口と信念だけで生きていける程この世界は甘くはないと悟ったあの日以来。兼任ながらも鍛えてきたこの力、無駄ではなかったようだ。未だ、死なせたくないと思った人は死んでいない。理不尽に全てを奪われる少女を、一時とはいえ助ける事が出来た。この後は木の葉がどうにかしてくれるだろう。俺が口を出さずとも。

 

 

――――大丈夫じゃ。

 

(そうだよなあ、○○。お前の口癖だったよな。根拠なんか、一切なかったけど。これで、後は暁を倒すだけだ。これが終われば、やっと元に戻れる)

 

――――お主には、夢があるのか?

 

(あるとも。前に説明しただろう。借りものじゃない、頑張って初めて手に入るもの。イカサマなんか絶対に通じない、一生懸命やった者だけが到達できる。誰も奪わず、誰かを笑わせる事ができる、偉大な力さ)

 

――――叶うといいな。

 

(叶えるさ。とあるハンデを背負って、見る者来る者殺しに来るだろう未来。人外連中ぶっ倒して生き残れれば、後は何とでもなる。諦めなければ、道は開けるんだから)

 

――――そう、かもしれんな。

 

(ああ。だから○○。お前も、諦めるなよ。さよならなんて言うな。ガキはガキらしく、素直に甘えていればいいんだよ)

 

――――無理じゃ、それに妾は。

 

(無理じゃない。お前の事を、重荷だなんて思っちゃいない。きっと治るって。いつかきっと、俺が治してみせる)

 

 

形のない問答。白い霧がかかった世界。

 

そこに俺は、女の子が立ち上がる姿を幻視した。

 

 

(っ、やめろ。その術を止めろよ紫苑)

 

全身から、チャクラが流れる。何か、紋様を描いてるようだ。

 

『――――大丈夫じゃ。妾は大丈夫。お主に貰った言葉がある。これ以上借りを作るなど、お主の夢を邪魔する事など。………だから行け、小池メンマ』

 

(お前を忘れて、か)

 

『務めは十分に果たした。これ以上、お主に一体何を望む。それに妾は、お主のバカっぷりが結構好きだったのじゃ』

 

(――――だから忘れろって?)

 

『何、気にするな。これも妾の我が儘じゃ。全身がズタボロで血にまみれたお前の姿など、二度も見とうない』

 

(俺の望んだ結果だって………俺の勝手だ)

 

『ならば妾もそうしよう。お主の、お主がくれた言葉に従ったまでじゃ。誰も彼もが幸せになるそのために、戦うのじゃろう?』

 

(ああ)

 

『ならば留まるな。此処はお主の戦場では無い。在るべき場所へ向かえ。いつか来る。中身は歪になれど、お主はそういう宿命を背負っている』

 

(宿命とか…………そんなの、俺の知ったことか)

 

『ああ、それでいい。そのままでいいから、流れるままに生きよ。いつか時が訪れる、選ぶ時が来る。其処が、お主の戦場じゃ…………“うずまきナルト”お主の事は忘れぬ』

 

 

それまでは大人びた顔を保っていた少女は。

 

 

『………ありがとう。だから、さようならじゃ』

 

 

最後に年に沿った笑顔を見せた後、その術の結となる印を結んだ。

 

 

 

 


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