一方、滝隠れの里では。
「例の、シグレに付き従っていた滝隠れの忍びが………消えた?」
応援でかけつけた日向ネジ。滝隠れの忍び達の情報を集めるため、シグレに従っていた忍び達を尋問しようとしていたのだが。
「ええ。尋問した途端、急に……」
尋問を担当していたテンテンが、青い顔で答える。
「彼らがはめていた指輪から、何か黒い塊が飛び出して………そして、それに飲み込まれて……その黒い塊は、その後地中へ逃げていったんだけど
「それは……」
見たことも聞いたこともない術。加え、人を飲み込むというあまりにも異様な術の詳細を聞いたネジが、言葉を失う。だが何とか気を引き締めて、指示を出す。
「こうしていても始まらない。報告する必要もあるから、ひとまず木の葉に戻るぞ」
「はっ!」
鳥の形をした起爆粘土。かなりの速度で飛来するそれを、サスケは雷紋で真っ二つにする。雷遁による性質変化を纏わせた刀の一撃。粘土は斬られた後、爆発せずにそのまま土塊へと還った。
「なるほど、うん。性質変化を助長する刀だな」
デイダラはサスケが持つ刀の性質を見極めた後、その場から移動しながら次々と起爆粘土を放つ。一方で、地面に地雷を埋めてゆく。
(写輪眼で看破は可能………引っかかれば御の字だけどな、うん)
サスケは飛んでくる起爆粘土を全て写輪眼で捉え、一閃、二閃。雷の斬撃を繰り出し、斬って落とす。
「はっ!」
そして互いの距離がある程度近づいた時だ。サスケは全速でデイダラへと切り込んだ。
「………近づかれたらまずいな、うん!」
デイダラは後ろへ跳躍。また起爆粘土鳥を放った。
「っつ!」
サスケはそれも切り払おうとするが、違和感を覚えた。
即座に行動を切り替え、横へ飛んだ。
直後、起爆粘土が爆発。サスケに届く少し手前の場所で爆発したのだ。
(危なかった………)
間合いの外で爆発した起爆粘土を見て、サスケが呟く。
デイダラが取った方法は簡単だ。雷遁によって爆弾を潰されるなら、それを受ける前に爆発させ、爆圧だけを当てる方法だ。サスケも、流石に爆圧までは斬れなかった。
「追加だ、うん!」
追加の粘土がまた飛来。また、手前で爆発するのだろう。
サスケは戦法を変えて対応した。
「千鳥千本!」
刀が届かないのであれば、届く攻撃に切り替えればいい。そう考えたサスケは、起爆粘土に向け雷遁の形質変化による千本を放った。それは寸分違わず鳥の中心を射抜き、今までと同じように内部の爆発能力を打ち消し、普通の土塊へと還っていく。
生まれた間を、サスケは逃さない。
跳躍。
(地雷も消して!)
地面に埋められた地雷をすでに写輪眼捉えている。サスケは、雷を纏わせた刀を下段に構えながら走り出した。
「ちいっ!?」
地雷を潰しながら猛スピードで迫るサスケを見たデイダラは、一瞬逡巡したが、後方に跳躍した。間合いが再び開こうとする。
「千鳥流し!」
そこに、サスケは追撃。
「ぐあっ!?」
デイダラは跳躍中だったが、サスケの雷光の網にかかってしまう。
「そこだ!」
デイダラが雷撃により硬直。サスケはそこに踏み込み、突きを放った。
「っまだだ、うん!」
硬直が終わったデイダラだが、今度は後方に飛ばす土遁を使った。地に潜行したのだ。
「ちいっ!」
突きを避けられたサスケは、デイダラの使った術を看破した後舌打ちをする。
――――土遁・心中斬首の術。かつて、カカシから受けた術。だが、同じではない。使っているのは、デイダラなのだ。その危険性に気づいたサスケは、戦慄する。
掴まれた状態で爆発を受けてしまえばひとたまりもないからだ。サスケはその場に留まることなく、跳躍。空中で写輪眼による洞察眼でデイダラの位置を把握した後、着地する。
「………」
一方、デイダラは地面に出てきてサスケの位置を確認した後、すかさず起爆粘土を作り出した。開いた距離に、生まれた一瞬の間。そこに、デイダラはたたみ込む。
今まで使っていた、威力が比較的低いC1の起爆粘土ではなく、C2レベルのチャクラが篭められた起爆粘土を使う事を決心したのだ。まず、C2ドラゴンを呼び出す。そして、その龍のような形状のそ起爆粘土が口を開ける。そこから一斉に、起爆粘土が放たれた
数が多く、四方八方から迫り来るそれを、サスケは避けた。だが、その起爆粘土は追尾方だった。不意の軌道変更に虚をつかれた形になったサスケは、狼狽する。
「しまっ!」
咄嗟の対処が出来ない距離。間。そこで、デイダラが、叫んだ。
「芸術は、爆発だ!」
サスケは周囲の起爆粘土の爆発から逃れられない。爆圧に巻き込まれたサスケは、その全身をばらばらにされた。
一方。瀑水衝破によって生まれた、急造の池の上で対峙する2人、再不斬と鬼鮫。
くわっと目を見開き、印をくみ出す。
「水遁・水鮫弾!」
「水遁・水龍弾!」
2人の下にある水面が盛り上がる。やがてそれは高水圧の鮫と龍を化して、互いの敵を襲う。空中で龍と鮫は激突し、同時に弾け四方に散っていく。弾けた水の先、2人は背の愛刀を手に、距離を詰める。
「オラァ!」
「ハッ!」
一閃。袈裟懸けに振り下ろされた大刀は互いにぶつかりあい、その勢いを止める。激突の余波はすさまじく、周囲の水がその衝撃ではじけ飛んだ。
再不斬と鬼鮫は刀を振り下ろした体勢のまま、そこに留まり鍔迫り合いとなった。
「なるほど、単純な腕力も……!」
「てめえこそ、相変わらずの馬鹿力だな……!」
愛刀を眼前に、にらみ合う。
(ちっ、あまり近づくのも……!)
鮫肌の能力に舌打ちをする再不斬。鍔を一端押した直後に後方へと跳躍し、再び首斬り包丁を振るう。鬼鮫はそれを鮫肌で迎え撃つ。
呼気と共に放たれる斬撃の連鎖。唐竹、袈裟、胴、逆袈裟、切り上げ、横一文字。繰り出された大質量の鉄塊による応酬。呼気があたりに響く回数と同じだけ、大刀と大刀がぶつかりあう。2人の間に火花が生まれては消え、激音が鳴り響いては消える。
鬼人と怪人。
怪物の異名を取る2人はその名にふさわしく、人を越えた膂力をもって互いの敵の肉を斬り潰す、あるいは削り殺さんと手に持つ大刀を振るう。
「ここだ!」
「ぬっ!」
鬼鮫の唐竹の一撃を、再不斬が斜め方向の斬撃で打ち逸らす。切り落としだ。軌道を逸らされた鮫肌が、再不斬の横にある水面へと叩きつけられた。空振りにより、鬼鮫の重心が若干だが崩れ、身体が泳ぐ。
「その首、もらった!」
再不斬は、その隙を逃さない。切り落としのために打ち払った刀をくるりと手元で返し、鬼鮫の首へ向け横薙ぎの一撃を繰り出す。身体の頑丈に関係なく、クナイでも受けきれない。直撃すれば即死の一撃だ。鬼鮫はその一撃を、かがむことだけで回避する。上忍にしても化け物じみた反射神経が無ければ不可能な回避方法だが、鬼鮫も並ではなかった。
「次はこちらですよ!」
空振りに終わった再不斬の一撃。鬼鮫はそこで生まれた隙を、詰める。
「オラァ!」
一歩踏みだし、鮫肌を握っていない方の手で再不斬の腹を殴りつける。
「ぐあっ!」
怪力の一撃を腹に受けた再不斬の足が立っていた水面から浮き、離れる。そこに、鬼鮫の追撃の一撃が振り下ろされた。
「くうっ!」
顔面に振り下ろされた一撃を、首斬り包丁の腹で受け止める再不斬。だが、激突の衝撃に押され、池の底へと沈んでいった。
「水遁・五色鮫!」
鬼鮫は、更に追撃。五匹の鮫が再不斬に向け放たれた。
だが、その鮫は再不斬には届かない。突如現れた渦に飲まれて、消えてしまったのだ。
(これは!)
水の大渦。その現象を把握した鬼鮫が、急いでその場から飛び退く。直後、水の渦巻きはその勢いのまま、竜巻のように空へと昇っていった。放ったのは再不斬。彼が得意とするA級の水遁術、水遁・大瀑布の術である。
鬼鮫はその術の範囲から逃れ、警戒態勢を取る。
「っ、そこ!」
そして背後から襲ってくる殺気を感知した鬼鮫が、振り返り様鮫肌を振り抜いた。首斬り包丁にあたった感触もない。柔らかい手応え。
サイレントキリングの達人である再不斬だったが、相手が悪かった。気配を気取られ、鮫肌の一撃を顔面に受けて、無惨にも削り殺されたのだ。
――――再不斬の水分身が。
「っ上ですか!」
気配により、鬼鮫は再不斬の位置を察知する。水分身はあくまでフェイクで、本物の再不斬は、水の竜巻とともに上空へと飛んでいたのだ。
そして、落下の勢いを活かし全力で唐竹の一撃を振り下ろす。
激突。
「くうっ!」
鮫肌で受ける鬼鮫。だが先程より明らかに強い斬撃の威力に押され、鮫肌の位置を維持できない。押された鮫肌が下がり、鬼鮫の肩へと食い込む。削られた肩から鮮血が舞う。
(くっ、これは………!?)
鬼鮫の怪力を以てしても止めきれない、あまりにも重すぎる一撃。見れば、再不斬の大刀の表面には水の塊の残滓があった。大半は鮫肌により吸収されたのだが、未だ残っているそれを見て鬼鮫は疑問符を浮かべる。
一方、再不斬は効果があったことにほくそ笑んでいた。再不斬が空中で使ったのは、水遁・水刃撃という術。雪の国で見せた水刃翔の亜流術で、斬撃の切れ味を倍増させるという術だ。
だが、本来ならばこの術は鬼鮫には通じないものだった。鬼鮫の愛刀・鮫肌はチャクラを吸収してしまうためだ。斬撃の切れ味が上がったとして、それが鬼鮫の身に当たらなければ意味がない。
鮫肌で受けられるだろうし、その場合逆にチャクラを吸収されてしまうのがオチだ。だが、この場面であえて再不斬が水刃撃を使ったのには、理由があった。
(刀の重量を増加させたんですか……!)
重量を増加させ、自由落下の勢いに乗せることで斬撃による衝撃力を文字通り“水増し”したのだ。鮫肌では水による切れ味は吸収できても、その斬撃のエネルギーまでは吸収できない。
「まずは一撃!」
してやったり、と再不斬が言う。
「かあっ!」
鬼鮫は肩に負った傷の痛みをこらえながら、力任せに鮫肌を振り上げ、首斬り包丁を押し返す。再不斬はその押される勢いに逆らわず後方へと飛び、再び水面へと着水する。
離れた2人。元の距離である。先程とは違い、再不斬は不適に笑っている。対する鬼鮫は肩の傷を見たあと表情を更に真剣なものに変える。
「……成る程。数年前のアナタとは、まるで別。随聞と、強くなりましたねえ」
「…そういう手前はあまり変わっちゃいねえがな?」
「いえいえ……そうでもありませんよ!」
再び、斬撃の応酬が開始された。
「砂手裏剣!」
「大カマイタチの術!」
「喰らうじゃん!」
迫り来る風の刃と、仕込み人形による爆弾付きクナイ、砂手裏剣。放たれたそれらは、しかしサソリには届かない。
「ソオラァ!」
――――砂鉄結襲。
サソリは三代目人形を操り、砂鉄を結集させたの。土遁以上の硬度を持つ鉄の壁で、その攻撃を全て防ぎきる。
「くっ、あの鉄の壁は厄介だな……!」
傷もついていない壁を見たテマリが、忌々しげに舌打ちする。
「何か手が………って来るじゃん!」
結集させられた砂鉄が宙に浮かぶ。それが、一瞬震えた直後である。
「っ、テマリ、カンクロウ!」
――――砂鉄界法。
球体から棘が生まれ、放射状に広がっていく。
「くっ!」
襲い来る鉄の刺を我愛羅は砂の壁で防いだ。テマリは鉄扇で受け止め、カンクロウは腕に仕込んだ機光盾封で砂鉄を防いだ。
「砂縛牢!」
反撃に移る我愛羅は得意な忍術を使う。砂がサソリを押しつぶさんと迫る。だが、派生して出来た砂鉄の槍に貫かれ、勢いを殺がれた。
「………埒があかんな」
近づいてこない我愛羅達に対し、サソリは舌打ちをする。遠距離同士のやりあいだと、攻撃が届くまでの時間がどうしても長くなる。
(持久戦か……)
サソリは胸中だけで呟いた。そして、こちらが有利だと笑う。あちらと違い、こちらは一撃を当てるだけでいいのだ。
(砂鉄に仕込まれた毒の麻痺、人柱力でも抗えまい)
一人一人、確実に仕留めてゆけばいい。そう思ったサソリは、再び砂鉄時雨を放ち始めた、
一方、白と多由也は残った音忍達全てを倒した後、全員を縄で拘束していた。残った音忍は4人いて、3人が中忍、一人は上忍クラスというかなりの戦力だったのだが、2人の連携攻撃により呆気なく撃破された。
「しかし、音忍か。大蛇丸と暁が手を組んでいるという予想、当たっていたようだな」
「そうですね」
「でも腑に落ちない。大蛇丸の性格上、今更暁と手を組むとかいう選択は選ばないと思うんだが」
「必要に迫られても、ですか?」
「ああ。どうも引っかかる。まあそれは後で考えるか。決着がつくまで、こいつらを見張っておこう」
「しかし、思ったより速く、かたを付けられました」
「………あの術、役に立ったか?」
「ええ、それはもう随分と」
白が、呟く。
「秘術・五音。かなり使えますね」
音韻術が2、五音(ごいん)。効果は、味覚も含めた五感が鋭くなる事である。
「そうそう、五感が鋭くなるってのもあるけどなあ。何か、こう、別の効果もあったな」
模擬戦では気づかなかったけど、と多由也が言う。
「はい。勘も、鋭くなったような気がします」
相手の戦術というか、持ち術に対する勘、いわゆる戦闘勘というものも鋭くなっていた。
「相手の攻撃を予測し、相手の次の行動を予測する能力も………高くなっていました」
今回の音忍の全員が、能力も分からない初見の敵である。にも関わらず、これだけの短時間で倒す事ができた事実に、多由也が満足そうに頷く。
「メンマ曰く、勘とか戦闘勘? いわゆる“第六感”ってのは五感と記憶・経験が組み合わさった故の、相互作用が在って初めて働くものらしいからな」
経験無くして勘は働かず、五感が鈍い奴は勘も鈍くなる。特に、戦闘勘というものはそれまでに経験してきた五感の感触を素地に生まれるものだ。洞察力による予想と勘は紙一重ともいうし、密接な繋がりがあるのかもしれない。
「そうですね、それも関係しているのかも……ん?」
言葉の途中、とある違和感を覚えた多由也は、違和感がした方向である、地面を見る。
「どうしました?」
「いや、何か………地面が揺れているような」
「再不斬さん達の戦闘による余波と思いますが………違うんですか?」
「……何か、違うような気がする。確かめてみるか」
幸い、術の効果によりあと数分は五感が高まったままだ。
ちょうどいいと思い、多由也はしゃがみ地面に耳を当ててみる。
「………やっぱり、地表面が揺れているんじゃない………これは、なんだ?」
吹き飛んだサスケを前に、だがデイダラは気を緩めない。
「………幻術だな、うん!」
爆発で吹き飛んだように見えたサスケだが、デイダラはそれは幻術によるものだと気づいていた。イタチと戦った際に写輪眼による幻術で敗れたデイダラは、写輪眼対策にと自らの眼を魚眼レンズを備えているスコープで覆うようになったのだ。
「後ろだ、うん!」
幻術を看破し、背後から忍び寄ったサスケへと爆弾を放った。その後、眼に移るのは吹き飛ばされ、血を撒き散らすサスケの筈だった。しかし、実際は違う。
「水、分身!?」
サスケは幻術を使った直後、爆発による煙に紛れ、忍具口寄せを使ったのだ。
口寄せされた水を使い、再不斬からコピーした水分身の術を使い、その分身体を特攻させた。水分身は本体より能力が低下する。だから、気配を殺して近づいても気づかれる。
ならば気づかせた上で効果を出せばよいと考えた、サスケの策は見事にはまった。
撒き散らされた水が、デイダラへとかかる。同時、水分身が持っていた鋼糸の束がデイダラの元へと落ちる。その鋼糸の片方はサスケの元にあり、すでにまとめて雷紋の刀身へとくくられていた。サスケは水分身がやられたのを確認した後、雷紋を地面に突き刺しながら印を組む。
「雷遁・大雷華!」
雷紋によって増幅された雷は鋼糸を伝導し、デイダラの元へと辿り着く。
「うああああああぁぁ!?」
水に濡れ、感電しやすくなっているデイダラはその電流を受け、その場に跪いた。その余波を受け、C2ドラゴンも形を失っていった。だが、まだ終わってはいなかった。
“ドラゴンと一緒に散ってゆくデイダラ”を見届けながら、サスケは気配がする方向へと振り返った。
「………粘土分身、か」
振り返るサスケ。そこには、デイダラの姿があった。特別驚くわけでもない。さっき地中に潜った時に入れ替わっただろうことは、推察できた。
あの一撃で決められなかったのは残念だが、まだまだ策はある。それより、あれほどに精巧な粘土分身を維持するにはチャクラを喰うはずだから、あれを早めにつぶせただけ有利になったと考えている。
「………」
サスケは無言のまま睨んでくるデイダラを睨み返し、再び戦闘の構えを取った。
「来いよ自称芸術家。お前の爆弾など全部蹴散らしてやる」
サスケの、苛立ちを含んだ声。それを聞いたデイダラが、問い返す。
「何を怒っているんだ、うん?」
「お前が芸術家と名乗った事だ。芸術家ではないお前が、芸術家を名乗った事だ」
思わぬ答えに、デイダラは一瞬きょとんとなる。だが、その言葉の意味を理解した後、憤怒の表情を浮かべた。
「オイラの何処が芸術家じゃない、うん!?」
憤怒の表情と怒りが混じったチャクラがサスケに向けて放たれる。だが、サスケは負けず劣らずの怒りの感情を盾に、答えを返す。そう、サスケは怒っていた。本人の前では決して口には出さないが、サスケは心の底から尊敬している芸術家が、ただ一人だけいた。
多由也だ。
「お前の芸術というのは、それか? その、爆弾か?」
「そうだ、うん!」
サスケに造形は解らない。美術というものは解らない。だが、芸術とは須く誰かの心を満たすためにあるものだと理解している。多由也からもそう聞かされた。
メンマも、料理人で芸術家とは言い難い。だがその根は同じで、誰かの心を満たすためにその道で頑張っている。
その2点から、サスケは目の前の芸術もどきの忍術もどきを認めない。
――――誰の心も満たさない芸術などあるものか。
その言葉をデイダラに叩きつけ、構えを取る。目の前の相手を打ち倒すために。
サスケは構え、スピードを上げるため、通常時より更に足へとチャクラを篭めて。
その時に、サスケは“声”を聞いた。
「あとは、お前一人だな」
サソリは、地に倒れ伏すテマリとカンクロウを一瞥した後、我愛羅へと告げる。
諦めろ、と。
「くっ……」
傷を受け倒れた2人と、その周囲に散らばっている破壊された傀儡人形を見て我愛羅が呻く。三代目風影人形と一対一で戦っていた時は何とか無傷で済んでいたのだが、サソリが他の傀儡人形を繰り出してからは状況が一変した。
砂鉄を操る三代目風影人形を筆頭に、数の暴力をたのみに攻撃してくる人形達。その数は事前情報で得られていた100機とは至らずとも、その1/5はあった。100機全部を繰り出してこないのは、三代目風影人形の操演を疎かにしないためであろう。
攻守両立できる砂鉄攻撃を主軸に、多角的な攻撃を仕掛けてくるサソリ。我愛羅達は応戦し、凌ぎ、反撃し、その人形の全てを破壊する事に成功したが、その時にカンクロウとテマリ2人は一撃を喰らっていた。毒が染みこんでいる砂鉄の飛礫を受けてしまったのだ。カンクロウは胸に、テマリは腕に一撃を受け、その場に倒れた。
「砂瀑牢!」
我愛羅は2人を砂で運び、自分の背後に庇いながら応戦を続けている。
「………砂鉄城壁」
だが、幾度攻撃しようとも文字通り鉄壁の防御力を誇る三代目風影の守りを抜く事ができない。そこからも、2人の激戦は続いた。
異能ともいえる忍術の応酬。砂対砂鉄が浸食しあうそれは、点と点ではなく、面と面の争い。陣取り合戦じみた戦いの果て、2人を背に庇いながら戦う我愛羅の顔に、疲労の色が浮かび出す。
「はあ、はあ……」
「なかなか、しぶといな一尾。だがこれで終わりだ」
呟き、サソリが繰る糸を翻す。同時、宙に浮かんでいる砂鉄がその形状を変えていった。
「……砂鉄の、剣?」
「くたばれ」
――――砂鉄剣牢。
サソリの呟きとともに、砂鉄でできた巨大な剣が我愛羅を襲った。対する我愛羅も、砂瀑の盾では防ぎきれないと判断し、自らがもつ術の中で最高の防御力を誇る術を繰り出す
最硬絶対防御・守鶴の盾。
砂鉄の巨大剣は狸の形状をした砂の塊に突っ込み、だがそれを貫けず半ばで止まった。我愛羅の防御力が砂鉄の攻撃力を上回ったのだ。だが、我愛羅は安堵の息を吐かず。目の前で変化する状況に向かい、ただ叫んだ。
「剣が!?」
見れば、砂に突き刺さっていた砂鉄の剣が崩れ出したのだ。そして、我愛羅を捕らえようと周囲に展開していった。
このままでは捕らえられると判断した我愛羅の判断は速かった。背後の2人を抱え、瞬身の術で砂鉄がまだ覆われていない後方へと離脱したのだ。途中、我愛羅達は砂鉄に触れそうになったのだが、身に纏う砂でかろうじて防御。紙一重だったが、無傷での離脱に成功した。
「くっ、かくなる上は……!」
退避に成功した我愛羅が、一際大きなチャクラを練り込む。それを察知したサソリが、砂鉄群を自分の所へ戻す。追撃するという選択肢もあったのだが、相手の術の事もある。無茶をする必要もないと考え、ひとまず防御することにしたのだ。
(それに、体力も限界だろう)
他の2人は既に倒れている。ここは賭けに出る場面ではないと判断し、砂鉄を再び結集させた。サソリと3代目人形の前に、壁が出来ていく。黒い壁に遮られ、サソリの視界が塞がれていく。見えるのは、砂鉄だけ。
だから、見えなかった。
視界が塞がる一瞬前に、我愛羅が笑みを浮かべたのを。
――――毒を受け倒れていたはずのテマリ、カンクロウが立ち上がった姿も。
(いくじゃん!)
(応!)
2人は起き上がる。攻撃を受けた振りをしていたのだ。メンマから渡された毒避けジャケット……“防刃繊維が組み込まれた服”に当たるように誘導し、わざと被弾。傷を受け毒を受け、昏倒した振りをしていた。チャクラの動きを察知したサソリが、少し動揺を見せる。
我愛羅はサソリの動揺に構わず、仕上げの最初となる大きな術を放った。
「潰れろ!」
砂瀑大葬。砂の大津波が、サソリと3代目人形に襲いかかる。
「砂鉄傘層!」
だが砂の大津波は砂鉄の傘により左右に分けられ、サソリの身をを飲み込むこと叶わず、後方へと逸らされていく。だが、それは我愛羅達にとっては予測の内だ。
「……テマリ、カンクロウ、行くぞ!!」
我愛羅が最後の力を引き絞る。足場の砂を集め、チャクラを以て締め固める。やがてそれは形状を変えていく。先は尖っていて、後ろは平ら。まるで銃弾のような、槍のような、矛のような形状。
「お先に、行くじゃん!」
それが放たれる前に先んじて、カンクロウの絡繰り人形から攻撃が放たれる。仕込みを施すのも、忘れない。
一方、もう片手で繰られた人形から、攻撃が放たれる。毒が染みこんだ仕込み針による、全方位からの攻撃。だが、それは砂鉄に防がれてしまう。
「甘い!」
攻撃を察知したサソリが、砂鉄の壁を広げ、カンクロウの攻撃を尽く弾き飛ばしたのだ
だが、カンクロウはしてやったりと笑みを浮かべる。カンクロウの役割は、壁を少しでも広く"薄く”すること。
「そこだ!」
薄くなった防御壁。そこに、我愛羅の乾坤一擲の一撃が放たれた。
それは、最硬であり、絶対なる攻撃。
「守鶴の矛!」
叫びと同時、矛が唸りを上げて空中を疾駆した。
「風遁・大カマイタチの術!」
その周囲に、追い風となる風刃の嵐を伴って。風により更に速度を増した矛は風の乱流を巻き込み、急速に回転し始めると、風刃と共に砂鉄の壁へと突っ込んでいった。
「何ィ!?」
視線が防がれているサソリには、見えない。だが、その今までにない衝撃を伴った一撃に、驚きの声を発する。衝突のエネルギーとは、質量×速度の二乗である。威力も増々だ。
通常よりも更に速く放たれた矛。加え、回転も加わったのだ。いわば、超高速で飛来するドリルのようなもの。加え、我愛羅の残存チャクラのほぼ全てを篭めた矛だ。硬度も折り紙付きで、鉄の壁にぶつかったとしてもその形を崩すことなく。
「貫けぇ!」
回転しながら、砂鉄の壁を貫いていく。そこに、更に一撃が加えられた。
「行けぇ!」
大カマイタチの術により鉄扇を振り抜いたテマリ。その巨大鉄扇の重量による遠心力を殺さず、更に回転、一歩前に踏み込んで重心を固定。そのまま身体の中心軸を固定し、遠心力そのままに折りたたんだ鉄扇を、砂鉄壁に突き刺さっている矛の尻へと投げたのだ。
その壁の8割までを貫いていた矛。巨大扇子の一撃により、更に後押しされ、やがて砂鉄の壁を貫いた。
だが。
「惜しかったな…!」
壁を貫きはしたが、サソリには届かない。半ば、頭だけを出す形となった矛を見たサソリが、安堵のため息を吐こうとする。
「いや、終わりだ」
我愛羅が呟き、砂の矛の結合を解く。
「細工は、流々」
カンクロウが、告げた。砂の中にある、最後の仕込みを作動させるために。
砂の矛の中にある仕掛け。傀儡糸は一本しか繋げられなかったが、仕込みはただ1つで単純なもの。
「――――仕上げをご覧じろ」
カンクロウが言葉と共に糸を繰る。砂の中に隠されていた玉が分解。その中身を砂鉄の壁の向こう側にぶちまける。現れたのは、ナルト特性の起爆札。それも、10枚重ねだ。
「しまっ……!」
――――言葉の最後まで、口に出す事は叶わず。サソリは3代目人形諸共に、砂鉄の檻という閉所で威力が増大された爆発に吹き飛ばされた。