小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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※以下、注意事項です。


・この話をArcadiaへ投稿した日が、2010年3月。5年前です。
 当時の原作で不明だった点をオリ設定で補っています。


・劇場版とも混合した上での設定です。
 なので、「これは無理ー」って思われた方はブラウザバックをお願いします。





4話 : 真実

 

 

「遺言…………!?」

 

「―――遺言。死にぎわに言葉を残すこと。また、その言葉。いごん。ゆいごん」

 

wikiっぽくなったマダオを無視して、メンマは叫んだ。

 

「つまり、どういうことだってばよ!?」

 

「落ち着いて落ち着けい。こんららん、こんんらんしししているいりかから」

 

「お前こそ落ち着けマダオ。ムーンサイドみたいになってるぞ」

 

「………変わっとらんの、お主は」

 

紫苑が懐かしそうに呆れたように言う。

 

「つまり、うちはマダラは死んだのか………!?」

 

サスケは華麗にスルーした。

 

「そうだ。話を続けるぞ。言葉の通りに………うちはマダラは死んだ。ペインに殺されたんだ」

 

錯乱するメンマ達を華麗にスルーする兄弟。イタチは説明を続けた。

 

「ペインが………なるほど、それならば有り得るか」

 

「ああ。うちはマダラは桁外れの強さを持っていたらしいが、ペインならばそれを上回っている可能性もある。あれも規格外の強さだったからな」

 

「その物言い………奴と戦ったことがあるのか?」

 

「前に一度だけ。遭遇戦だけど、サシでやりあった。率直な感想は“勝ち目ねえ”。それに、ペインはまだまだ本気を出していないようだったし」

 

恐らくは仙人モードの自来也でも勝てないんじゃないか。まだまだ隠し玉を持っているようだし。メンマが答えると、イタチはそれもそうだろうな、と頷いた。

 

「順序立てて説明をしなければならんな。俺も、ペインと呼ばれる忍び………新・雨隠れの里を束ねていた忍びは知っていた。暁の表のリーダーだったからな」

 

「新・雨隠れか………半蔵は、ペインに?」

 

「ああ。一度は何とか逃れたらしいが、その後に起きた戦争で一族郎党皆殺しにされたらしい。詳細は定かではないが、マダラからはそう聞かされていた」

 

「戦争………? そんな話は聞いたことがないけど」

 

「一人対里。戦力差からいえば、戦争とは言えん。だが、ペインは大方の予想を覆し、一人で雨隠れの里………いや、半蔵の一族のみを虐殺したらしい」

 

「怨恨か………もしくは因縁か。余程の理由があったのかもな」

 

「そう考える方が正しいだろう。そして、マダラはその戦闘力と輪廻眼に眼をつけた。理由は二つある」

 

イタチは一本、指をたてながらその理由について説明した。

 

「ひとつ。直接的かつ純粋な戦力としてだ。五行の術を自在に操り、結界術をも駆使するペインの力はすさまじく、マダラはそれが欲しかった。そしてもうひとつ………」

 

そこでイタチはサスケの方を見た。

 

「サスケ。あの日、お前に告げた場所………写輪眼の秘密が書いている石碑の話は覚えているか」

 

「ああ、覚えてる。南賀の神社本堂………その右奥から7枚目の畳の下にある、一族の集会場だろ。写輪眼の本当の秘密が書かれていた、あの石碑のことだろ」

 

「そうだ。あの古の石碑には特殊な術が施されており、瞳力がなければ読むことさえできない。そして解読できる量は、写輪眼、万華鏡写輪眼、輪廻眼の順に多くなっていく」

 

「つまりはその石碑に書かれている内容を全て解読するために、輪廻眼を持つペインの力を欲したのか」

 

「そうだ。また別の思惑もあったようだが、それについては知らない。しかし石碑のことについては俺も知っていたし、事実マダラは俺に直接そう言っていた。しかし…………マダラの考えには、致命的な齟齬があったのだ。ペインについても、石碑についても」

 

「齟齬………食い違い? それはいったいどういう………」

 

「ここからは少し特殊な術を使う」

 

そういうと、イタチは遺言が書かれているという紙を広げ、印を組んだ。

一瞬だけ目が眩む。

 

そして次の瞬間、メンマ達は石碑があるという場所に移動していた。

 

「移動した………いや、幻術か」

 

「そうだ。時は2年前。木の葉崩しの直後になる」

 

「あの日か………って、あれは?」

 

「うちはマダラと………」

 

続きの言葉はメンマが引き継いだ。

 

「ペインだな。前に見た姿と同じだ」

 

「ああ。その二人だ。木の葉崩しにより、哨戒の忍びが少なくなった。そして結界の効き目が薄くなった隙をつき二人はここに侵入した」

 

説明を終えたイタチは、マダラとペインを指差し、始まるぞと言った。

 

直後―――時間が動き出す。

 

幻術の世界で、メンマ達の前にいる過去の二人は、会話を始めた。石碑から読み取れたことを話しているのだ。六道仙人が広めた忍宗のこと。しかし六道仙人は道半ばにして、死んでしまったこと。その息子についても語った。

 

六道仙人の息子の、兄の方は仙人の眼と精神エネルギーを受け継いだ。写輪眼の祖といえる特別な瞳を持っていたこと。平和には力こそが大事だと思っていたこと。

弟の方は仙人の肉体を。生命力と身体エネルギーを受け継いたこと。平和には愛が大事だと思っていたこと。

 

そして、兄弟は後継者争いが原因で殺しあったこと。最後は、十尾について。六道仙人が倒した、世界を滅ぼす化物について。最終手段としての――――無限月読について。

 

「………以上だ。六道仙人について、ここに書かれている内容はこれが全てとなる」

 

「成程………しかし、十尾とはな。それに、千手とうちはの先祖は兄弟だったのか」

 

「ああ。六道仙人の後継者、それを巡る争いで互いに殺しあったらしいが」

 

「ふん、そしてうちはと千手も忍びの覇権を争い、殺しあった。血は争えんということか。しかし、果たすべき道は見えた。無限月読――――そのためには、完全体が必要だ」

 

「そうだな………」

 

その時、ペインの声色が変わった。

 

「どうした?」

 

「―――うちはマダラと呼ぼうか。お前は、今の話を信じたのか?」

 

「ああ。事実は神話になぞらえて語られる。それらしき寓話や神話も、各地に散らばっている。それに、事実そこに書かれて………いや、まさか」

 

マダラと呼ばれた男が険しい表情を浮かべる。対するペインは苦笑しながら、首を横に振った。

 

「嘘ではない。ここに書かれている事は、今お前に語った通りだ」

 

「ならば、何が違う? そして………何がそんなに可笑しい」

 

ペインは石碑に書かれている文字を解読している間、終始笑顔を絶やさなかった。

嘲笑でもなく、単純に可笑しいからという笑み。

 

「いやいや。その通りだよ。事実は神話になぞらえて語られる。火のないところに煙は立たぬし、何もないところから物語が生まれるはずがない。ただ――――神話は神話だ。史実ではない。中には語られぬ事実、歴史があり、騙られた歴史もあるということだ」

 

「何………?」

 

「如何にこの石碑がよく出来ているとはいえ、作り残したのは人間だ。裏にある真実、汚点、都合の悪いことを全て晒し、書き残してあると………本当にそう思うのか。確かに、尾獣と十尾について語られた内容は、大筋では間違っていない。だが細部に違いがある。それにここには、肝心のことが書かれていないぞ」

 

「どういうことだ……?」

 

「簡単なことだ。十尾の本質と役割だよ。何故、十尾が生まれたのか。何故、十尾が世界を滅ぼそうとしたのか。それがこの石碑には書かれていない」

 

だから俺がここで全てを語ってやる。

ペインはそう告げながら、微かな苦笑をマダラに向けた。

 

「そもそもの発端は、忍宗が広まったことだが………そうだな、人が力を欲するのはどんな時だと思う?」

 

「貴様………突然、何を言い出す」

 

「答えなければ話は進まないぞ。真実を知りたいのであれば、答えた方がいい」

 

「………己の無力を嘆く時。あるいは、どうしようもない力が目の前にあった時だ」

 

「その通りだ。そしてあの時、人間はその言葉とおりの立場にいた。人より遥かに強靭な力を持つ変化と、妖魔。いまでは口寄せでしか呼び寄せられないが、当時はああいう化物がそこら中を跋扈していた。誰しもが己の身を守るために、力が必要だったのだ。殺されないために。生きるために、力を欲した」

 

「………」

 

「だから、忍宗………忍術は、爆発的な勢いで広まった。忍術が広まることについての危険性について、忍術を広めた仙人は気づいていたが、その当時は仕方ないと思っていた。事実、人間は妖魔共に追いやられ、絶滅の危機に瀕していたのだから」

 

「昔話、いや口伝やお伽話で聞いたことはある。だが、お前は………」

 

何故そこまで詳しく知っているのか。ペインはその疑問の言葉を無視して話を続けた。

 

「強力な力を以て妖魔共を屠った。時には蝦蟇仙人のような、変化に位置する存在の味方もできた。仙人と戦士達はその戦いに勝利し、人は己の住む場所を手にいれた。世界には人の平和が訪れたのだ。そして、次には何が起きたと思う」

 

「戦争が終わった…………つまりは、戦士達に居場所はなかった?」

 

「そうだ。忍術を扱える者たち………あの当時はただ戦士といわれていたな。戦士達は、平和な世には必要のない存在だった。どこかのお伽話に、“死の夜に輝き、平穏の昼に幻となる”と書かれていたな。その言葉のとおり、闇………つまりは苦難の時切り開くには、力は人々に希望をもたらす光となった。人々の憧れとなった。しかし………平和な時、明るい時代では、その限りではない」

 

強力な光は、明るい場所では必要無いのだ。まぶしすぎるのも鬱陶しいから幻になってしまえ。苦笑を混じえ、ペインは語った。

 

「戦士達は反発する。当然だろう、命を賭けて戦った結果に死を望まれるなど、誰が納得する。戦士達の怒りは殺意となり、その矛先は民に向けられた。妖魔ではなく、人間に向けたんだ。そして戦いは始まり、また夥しい数の人が死んだ」

 

裏切られた戦士たちは、戦いを挑んだ。自分たちの居場所を手に入れるために。

 

「人が死んだ。森が死んだ。多くの動物達が死んだ。色々な存在と殺し殺されあった。そうして、負の思念が世界に溜まっていくうちに、生まれた…………負の思念の集合体が。それが、九尾の妖魔だった」

 

「九尾の………十尾ではなくて、九尾の妖魔なのか」

 

「ああ。九尾の妖魔の存在については、当時の古文書にも書かれていたので、俺達も知っていた。人を害す災厄として語り継がれていたのだ。そして、今度は九尾との戦いになった。最高位と言えるほどに霊格の高い天狐に、妖魔核が宿った時、九尾の妖狐は転じて九尾の妖魔となる。遠い昔、龍が存在していた時代では龍に宿り、“九頭竜”ともいわれていたらしいがな。九尾の妖魔は強く、倒すのに時間はかかったが………仙人はそれ以上に強かった。激戦の末、仙人は滅びの象徴ともいえる存在を倒した。そして人を越える者………忍び達の神として、崇め奉られた」

 

「………成程。六道仙人が今も語り継がれ、神と呼ばれている理由はそれか」

 

英雄には倒すべき敵が必要。人を害す怪物を滅ぼして、英雄は神になる。そうして、初めて神話が成立するのだ。

 

「かつての戦士達の戦争。そして、九尾との戦いにより、当時いた人間の四割が死んだ。しかし、争いは終り、表面上は平和になった………そう、思われた時だ」

 

ペインの口調が変わった。畏れるものを語るように、言う。

 

 

「黒い衣を纏い、そいつは現れたのだ…………世界を滅ぼす化物が」

 

 

その名を、十尾という。

 

虚空を見上げたペインの顔には、渋面が浮かんでいた。

 

「あれは………違う存在だ。“九”尾を越える者として“十”尾と呼んだが、そんな生易しいものじゃない。九という数字の通り、自然の最終防衛機構を………更に超えた存在だ。口伝にも存在しない、終末を告げる鐘のようなもの。妖魔でもなく、生物でもない、ただの現象。言葉にあてはめるとすれば、そうだな―――」

 

―――曰く、終りと始まりを司るもの。ペインはそういって、眼を閉じた。

 

「どうあがいても勝てない。初めてその化物と対峙した瞬間に、仙人はそう感じたらしい。それもそうだろう。滅びそのものを滅ぼすことなどできないのだから。如何な神といえど、死には抗えないのと同じだ」

 

どんな神話の中でも、神は死ぬこと。死は万物に平等に降り注ぐ終りで、それを消すことはできない。死を殺すことはできないように。

 

「初戦は惨敗。多大な犠牲を払いながら、撤退に成功した後、俺は必死にあの化物を倒す方法を探したよ。あの化物について、徹底的に調べた。そうして探せば色々と出てくるものでな。遠い昔にも現れた、十尾を倒すために作られた存在。空の国の空中要塞にある、十尾を模した存在、零尾や、遺跡群………気がとおくなるほど昔、十尾に滅ぼされた者達………その遺言と遺産が、世界各地に存在していた」

 

「―――確かに。この世界の技術体系には、突発的に発達したものもあるらしいな。納得できないのも多い。非常に高度な文明を持っていたと思われる遺跡も、各地に残っている。それが、十尾に滅ぼされた人の残滓というのか」

 

「然り。そして古文書にはこう書かれていた。“祖は九を越えた人類に下される最後の審判。次の時代へ誘う滅びの波。満たされた十、その次の始まりである、零を司り、世界の輪廻を回す怪物。世界そのものを媒介として具現する化物”と」

 

「終りと始まり。死と再生………成程、世界の最終防衛機構とでもいうのか」

 

「その通りだ。負の思念に染まった世界が手遅れになる前に一度滅ぼし、その後再生する役割を担う………バカバカしいと思うだろう? 当時の俺達も、そう思っていた。強大な力を持つ戦士たちが、一太刀も浴びせられず、虫けらのように尽く殺されてしまうまではな」

 

「それほどまでに?」

 

「強い弱いの話ではないさ。戦闘が殺し合いである以上、死を司る存在に勝てるわけがないだろう。そも、立っている舞台そのものが違うのだから。正攻法では敵わないし、消すことも出来ないと悟った仙人は――――封じ込めることを選択した」

 

「………」

 

「世界が作り出したものとはいえ、存在は存在だ。いくらでも対処しようがあると思った仙人は、己の持つ仙人の肉体と眼を駆使して十尾を己の内に封じ込めた。その偉業を達成した時、それを成した仙人のことを、そして眼のことを人々はこういった」

 

 

ペインは自らの眼を指差し、言う

 

 

「世界の輪廻を司るものを、己に封じ込めし者。そして、それを可能とした、あらゆるチャクラの本質を見通す眼」

 

 

そして己の肉体を指差す。

 

 

「その封じた肉体を以て“六道”仙人。それを成した眼は“輪廻”眼と呼んだ」

 

 

それが伝説の始まり。だが、と反論する声があった。

 

「六道輪廻、か。成程………話におかしいところはないが………それが真実だという証拠はあるのか」

 

「全て本当にあったことだ。そしてその過程で、俺は十尾の仕組みを理解するに至った。しかし、十尾はいつまでも封じ込められる存在では無かったのだ。六道仙人はまず、十尾のチャクラを少しでも減らそうと画策した。九尾の妖魔の戦闘の際に理解した、妖魔核の術式を模倣して、負の思念を段階的にだが、いくつかに分けた。それが一尾から八尾まで。今では九尾も一緒くたにされて、総じて尾獣と呼ばれているらしいがな」

 

「つまりは、九尾こそが唯一の尾獣。オリジナルで、他はただの模倣だというのか?」

 

「ああ。各地に散らばった擬似妖魔核は、それぞれ霊格が高い生き物に宿ったようだ」

 

「確かに。数十年だが、一尾は砂隠れの老僧と呼ばれた古狸の変化が、数百年前に突如凶暴化。変異し、生まれた存在だと聞いたことがある」

 

「妖魔核が宿ったのだろう。そして六道仙人はそれらを人の中に封印し、力を利用する術を開発した。いつか再び現れるかもしれない十尾に抗うために。再び生まれるであろう、九尾の妖魔を封じ込める術も開発した。十尾を宿してから封印に至るまでの間にな」

 

「九尾を殺さず封印してしまえば、十尾は生まれないと考えたのか」

 

「ああ。六道仙人が十尾の本体を封じ込めたとはいえ、九尾の妖魔核は健在。負の思念が再び生まれれば、九尾の妖魔もまた生まれるだろうと、そう思った。その時、世界が再び十尾を生みださないとも限らなかった。だから九尾を封じ込めはしても、殺してはならない。六道仙人は息子達にそう伝えた」

 

そこまで語ると、ペインは歯をくいしばり、「そしてもう一人いる」と言った。

 

「もう一人だと………? 千手とうちは以外に、六道仙人の血を受け継いだものがいるのか。しかし、聞いたことがないぞ」

 

「当たり前だ。隠すように伝えたからな」

 

ペインが石碑を叩く。

 

「ここには書かれていない。仙人の眼を受け継いた兄、仙人の肉体を受け継いだ弟。その二人の―――妹。強力な仙術を授けた末の娘には、もしもの時のため、十尾を封じ込める仙術を授けた」

 

その言葉に覇気はない。メンマはそれが気になったが、話は続く。

 

「あれは覚醒後、世界の負の思念を集め、大きくなるからな。覚醒直後であれば、十年単位で封じ込めることができる。十年あれば、いくらか対策も取れるかもしれない。人柱力の力を駆使すれば、あるいは勝てるかもしれないからだ。しかし特殊な封印術や仙術は、使いようによっては危険極まりない術となる。そのため、その存在についての全てを秘匿するように伝えたのだ。事実、この石碑にも書かれていない。秘中の秘である、娘の魂に刻まれた術を受け継ぐ女系の一族については」

 

「女………そして化物を封じ込める術を伝える、血継限界だと………まさか、鬼の国の!?」

 

「然り。今は鬼の国の巫女と呼ばれているらしいな。初代火影の盟約を聞くに、千手の一族の方には今も密かに語り継がれ、その存在と役割について知っていたようだが………」

ペインは自分の拳を血管が浮き出るほどに強く握り締めた。

 

「それはまた別の話だ………話を戻すぞ。膨大な十尾のチャクラをいくらか切り離すことに成功した六道仙人は、そのまま自らの肉体ごと十尾を永遠に封じ込めることにした。一度発生した十尾は、世界を滅ぼすまで止まらないらしいからな。だから自らの肉体を巨大な岩で覆い、そのまま空へと飛んでいった………それが、月だ」

 

「話が大きすぎるが………本当にそんなことが可能なのか」

 

「六道仙人の力だけでは無理だ。それが可能となったのは、封印に十尾の力を使ったからだ。十尾の力を核として、強力な引力を生み出し、巨大な岩に包まれたまま、空へと飛んだ。そして太陽の光とと十尾の力をそのまま封印術を保持する力に利用し、生み出された力を循環させ半永久的に作用する………地爆天星という重力を操る術と、仙術を基本とした特殊術式を併用した封印術で、十尾の本体とその大半を封じ込めることに成功した」

 

ペインは地下の広間の天井を指差す。それを聞かされたマダラは未だ信じられない。しかし話に不自然な点が無いのも事実。歴史の裏で消えていった事実など腐るほどある。それを知っているうちはマダラだからこそ、有り得ると思ってしまう。

 

マダラは首を横に振りながら、かろうじてといった風に、言葉を紡ぐ。

 

「…………ひとつだけ聞かせろ」

 

警戒の声色が混じった質問が飛んだ。

 

「何故、石碑に嘘を書いた。これは六道仙人本人が遺したものではなかったのか」

 

「“忍宗を広めた結果争いが起こり、九尾が生まれた。そして九尾を滅ぼすことによって、世界を滅ぼす化物が出てきてしまった”。そんな劇薬にしかならない真実そのものを遺すと思うか? 忍びか普通の人々に知られれば、間違いなく大規模な戦争が起こる。当時の六道仙人は事の露見を何よりも恐れた。知られれば、また戦争になりかねなかったからな」

 

良いものなど一つもない。そういいながら、ペインは石碑を叩いた。

 

「そうかもしれないな………あともうひとつ。お前は話の中で、“俺”といった。“六道仙人”ともな。つまりお前は………六道仙人の生まれ変わりなのか?」

 

「いいや、厳密には違う。確かに、六道仙人の記憶の、その断片は持っているが、六道仙人そのものではない。肉体も普通のものだ。仙人の肉体ではない」

 

少し感情が入り込んだせいか、人称がばらばらになったけどな、と言いながらペインは自嘲する。

 

「そもそも魂の形はそれぞれが違う。外から干渉し、一度魂の形が変わりでもすれば、それは元の魂と違う存在となり、全くの別人となる。生命力そのものを扱う術はあるが、魂を扱える術はほぼ無いに等しい」

 

「………大蛇丸の不屍転生はどうだ。あれは違うのか」

 

「不老など………そんなものは有り得ない。さっきも言っただろう。万物には須らく死が存在すると。無限の生など、夢のまた夢だ。あの術も同じで………本人も気づいてはいないようだがな。術を使い肉体を変えていく度に、魂は劣化していく。―――やがてあいつは破綻し、“元木の葉の三忍・大蛇丸”ではなくなる。すでにその兆しは出ているだろうな。そして人格が死ぬことを“死”と呼ばずになんと呼ぶ」

 

ペインは一歩。マダラの方へ歩を進め、告げる。

 

「お前が忍び世界に絶望しているのは分かっている。そのために無限月読を成そうというのだろう。人の性を悪と見極めたお前は、争いを無くすために永遠の夢の中に逃げることを選ぼうとしているが」

 

そんなことはさせない。ペインは強く告げた。

 

「あれは本来ならば下の下索だ。今のこの平和な世界に、無限月読は必要無い。消えるのは、忍びだけでよいのだから」

 

「何だと………ならば、お前は何をするつもりだ!?」

 

「かつて遺した、輪廻眼の定めそのままに動く。自らが封じ込めた、十尾の………世界の代行者としてな」

 

ペインは掌を広げながら、言う。

 

「あの時………十尾を永遠に封じ込めようとした時、六道仙人はとあることを危惧した。輪廻のシステムを壊すことを。だから、いつか………世界がどうしようもなくなった時がくれば、十尾の代行として世界を滅ぼし輪廻を回すと。世界が二度と生まれ変われないことを避けるために、もしもの時は自らが手を下すと誓った。その誓いの言葉が言い伝えとして残っているはずだ」

 

「………輪廻眼を持つものか。“世が乱れた時に天から遣わされ、世を平定せし創造神となる。あるいは、遍くを無に帰する破壊神となる”だったか」

 

「そうだ。正しく伝わっているようだな。そして我は死ぬ間際、こうも遺した。強力な忍術を扱うものこそを、忍者と呼ぼう。そして強力な忍術を扱えるこそ、耐え忍び………天災の時以外は、普通でいろ。権力と結びつくな。表に出ることは二度同じ過ちを繰り返すことになる。心を以て刃を振るう者こそを忍者。心無い、ただの刃と成り下がるな。相手の存在を知りその痛みを知り、人との繋がりこそを想えと」

 

ペインはしかし、と首を横に振った。

 

「戦士の傍系、チャクラを扱う侍という監視システムをも作ったようだが、その願いは、言葉は………無駄だったようだな。今やお前たちは世界の荷物でしかない。大名からは恐れられ、その力も疎まれている。あの大戦と軍事力縮小が、全てを物語っている」

 

「…………忍界大戦か」

 

「三度もよく起こしたものだ。ああ、仏の顔も三度までという言葉を知っているか? そして今、四回目を起こし尾獣を集めようとする馬鹿もいるようだ。戦争で忍術は発展し、今では昔とは比べ物にならないほど多様を極め成長した………危険な忍術も生まれ始めた。このままでは世界そのものが滅びかねない」

 

それは許容できないと言い、ペインは親指の肉を噛みちぎる。

 

「そして今………木の葉崩しにより、また大勢が死んだ。十年を待たずに、十尾がここまで形になるほどに負の思念が集まっている………!」

 

「ぐっ………」

 

ペインの威圧感が倍増する。メンマは幻術と分かっていながらも圧された。その圧力は、かつての一尾の比ではない。その場に居た全員が、気圧されていた。

 

「あの日、あの夜、あの月を見上げ――――目覚めてから十数年。各地を旅し、色々なものを見てきた上で、結論を下す。我、世界の意志を代行せり。あるべき循環を取り戻すため、未だ幼き十尾と共に動く。人の痛みを忘れた忍びに、世界を滅ぼす可能性を持っている忍びに――――裁定を下す!」

 

血にぬれた手を、地面に叩きつける。

 

「――――人と世界の痛みをその身に刻め!」

 

言葉と共に。ペインは煙の中、マダラへと手をかざした。

 

「なにぃっ!?」

 

 

かざされた手に、マダラが吸い寄せられる。それを見たマダオが驚きを見せた。

 

「触れた………!?」

 

「引力を操る術か………!」

 

「“万象天引”。その名の通り、万物をこの手に引き寄せる。位相空間だろうが擬似空間だろうが形骸化した存在だろうが、この術の前に例外はない」

 

そして、ペインはマダラの耳元でぼそりと呟く。すると、マダラの顔が驚愕にそまる。

 

「くっ―――――!!!」

 

マダラはペインの手から逃れようと、あらゆる術を試す。だが、それは無駄だった。輪廻眼の能力は、チャクラの理と本質を見通すこと。写輪眼のように忍術の術式を写し取る能力は無いが、その眼は全てのチャクラを、忍術を根源から理解する。

 

「お前の術は既にこの眼で見た。種も理解した。下準備はぬかりないぞ」

 

「それはっ、まさか………何故だ、九尾は死んでいない筈………!」

 

「いや、九尾の妖魔は死んだよ」

 

「なにを………」

 

「全てはお前の招いたことだ。怨念を果たすため、よりにもよって九尾を使った報い………それが、今ここにある状況を作り出した。全てはお前を発端として、始まったのだ! 因果応報とは、こういうことだ!」

 

煙の中から現れたのは、黒い化物。

小さいが、その禍々しさは損なわれてはいない。

 

「これが十尾!?」

 

「然り!」

 

口寄せの術。完全体ではなく、幼生体の十尾をペインは呼び寄せたのだ。

 

「うちはマダラだと? ………これ以上、貴様の臭い演技に付き合うつもりはない。己しか見えていない愚図はここで()ね」

 

手掌と共に、黒い塊がマダラを包み込んだ。断末魔を上げながら、うちはマダラは十尾に飲まれていく。

 

「くっ、こんなところで―――」

 

声は次第に小さくなっていく。そうして、最後の一言がつぶやかれたが、声にはならなかった。唯一、唇を読み取ったミナトだけが驚愕に染まり。

 

10秒の後。広間には静寂だけが残されていた。

 

「さてと。始めようか」

 

残るペインは、十尾に触れながら虚空を見上げ。

 

六道の理の元にと、この世に存在する忍び全てに向かって宣戦を布告した。

 

 

 

「忍者、滅ぶべし。お前たちは全員、俺が―――――――殺す」

 

 

 


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