小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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8話 : 『網』の首領

「首尾はどうだ?」

 

「上々だ。トビからひとつ、予想外のことが起こったとの報告があったが………」

 

「内容は?」

 

「いや、今はいい。それ以外は順調だからな………そちらは?」

 

「七尾は木の葉の中に逃げ込まれた。あそこから七尾だけを奪うのは難しいな。流石に、木の葉全体を相手に立ち回るのは厳しい」

 

「………あれを使ってもか?」

 

「リスクが大きすぎる。いくら俺でも、あれだけの力を使いこなすにはいくらかの時間が必要となる」

 

「だとしてもあまり時間はないぞ。今は磐石だとしても、五影が集うと厄介なことになる。撹乱は続けているが、ふた月ともつまい」

 

「いくら小蝿でも、群れられると鬱陶しいからな。その分殺戮のしがいがあるんだが」

 

「少し黙っていろ飛段。ということは、早々に事を進める必要があるわけか………ならば先に、六尾の人柱力を捕獲しよう」

 

「そちらも発見したのか?」

 

「ああ。だが迂闊に手を出せない状況でな。いくらか兵を借りたいのだが、可能か」

 

「へっ、俺達二人だけで十分だっつーの。ったく年寄りはどうしてこうも慎重になるのかね」

 

「黙っていろと言ったはずだぞ、飛段」

 

「へっ、オレにはオレのやり方があるんだよ。人形使うのはかまわねーが、俺の取り分を減らすんじゃねえぞ角都よ」

 

「確約はできないな。それで、どうなんだ?」

 

「………いいだろう。何体か回す。俺が向かえれば一番いいんだが、この傷ではそれも厳しいからな」

 

「ふん、流石は音に聞こえた三忍だということか………それで、自来也は殺せたのか?」

「…………」

 

「………答える気はないか。まあいい、俺は俺の目的が果たせればそれでいいからな。邪魔者も減ったことだし、任務遂行は容易くなった」

 

「へっ、イタチと鬼鮫の野郎はまだ残ってるがな。それでどうするんだ、長門さんよ?」

「その名で俺を呼ぶな………イタチの方は、今は捨ておけ。あと一手、揃えればあいつらに抗う術はなくなるからな。あと、余計な被害は出すなよ」

 

 

「分かっている。いくぞ、飛段」

 

 

「ちっ、命令すんじゃねーって言ってるだろ………角都よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、キリハ達はザンゲツの命で迎えに来たという、シンとサイに連れられ、木の葉の忍び一同は網の本部のある町へと案内されていた。

 

「わー、結構大きいね……」

 

本部のあるそこは火の国の首都までとはいかないがそれなりに大きな町だった。町の中は、人々の活気に溢れ、まるで普通の町とかわらないようだ。

 

「………でも住人、どことなく荒くれ者というか、ヤクザ風味の顔をしている人が多いようだけど」

 

ぽつりサクラが呟き、サイがそれに答えた。

 

「それも愛嬌ってやつで。でも彼らの愛想笑いは見ない方がいいですよ………無法者多いから、滅多にはしないですけど」

 

「それはそれで強烈そうだしね………それで、あんた達兄弟は雰囲気が? 少し、彼らとは違うようだけど」

 

「ああ、僕たちは少し違うので。それ以上は言えないですけど」

 

答えると、サイは顔だけで笑う。

 

「へー、でもサイ君は綺麗な顔をしてるね」

 

「………ありがとう、と言えばいいのかな」

 

キリハの天然発言を受けたサイは、少し頬を赤らめる。そして視線の端にいる、自分を睨む男の方を指差しながら、言う。

 

「ところで何で僕を睨んでいるのかな、そこの彼は」

 

「………あれ、シカマル君どうしたの」

 

キリハが首を傾げて問うと、シカマルはいつもの仏頂面で答えた。

 

「何でもねえよ。ねえったらねえよ。聞くな馬鹿。あと思ったことすぐ口にする癖を直せ馬鹿」

 

「………なっ、馬鹿って言う方が馬鹿なんだよ!?」

 

またいつもの通りぎゃーぎゃーと言い合う幼馴染二人の姿。木の葉の同期一同は、何百回目かも分からないそれを、温かい顔で見守っていた。

 

その一連の流れを見ていたサイが、呆れたような声で言う。

 

「君たちは随分と仲が良いんだね…………って兄さん、何で僕を睨むの!?」

 

気づけば隣、兄がこちらを睨んでいるのだ。サイは驚きながら、その理由を尋ねた。だが返ってくるのは『ニクシミデヒトガコロセタラ』という怨嗟の声ばかり。

 

「黒いよ!?」

 

「………シンです。彼女いない歴=年齢の兄です。シンです、相変わらずカワイイ子は全て弟に持っていかれるとです。シンです、今なら螺旋を滅ぼせそうです」

 

どこからか電波を受信した兄は、錯乱坊となっていた。いわゆる一つのチェリーである。

「………サクラっ!」

 

「あの、いきなり呼び捨てにしないで欲しいんだけど」

 

ピンクの邪神ターン。しゃーんなろーのスタンドを召喚。

 

「………す、すみません」

 

 

やがて一行は、兄弟に案内されて本部の中へとたどり着いた。キリハ達8人は兄弟から説明を受け、本部の奥にある接客用の部屋で、網の長を務めているザンゲツと会うことになった。部屋は狭く、また大人数での面会は無理だとのことで、3人に絞ってほしいとのこと。キリハは同じく上忍であるシカマルと、いのを連れていくことにした。

 

3人は案内された場所、接客室に入る。そこで予想外の光景を見て、少し驚くこととなった。部屋の中はそこらの裏組織とは段違いに整っていたのだ。調度品もそれなりのものを使っているようだったし、掃除も十分になされている。網は無駄な贅沢を嫌うと効いたが、ここは少し違うようだった。

 

予想外と思いつつも、シカマルはこの部屋が整えられている理由を考えた。ここは組織の長が来客と話し合い、交渉をする場所だ。汚いままでは“網はこんなものか”、と相手に舐められるし、余計なストレスを生んでしまう。落ち着き、安らぎのある空間でこそ、いい交渉ができると言うものだ。

 

だがそれだけではなく、護衛の忍びが潜めそうな場所も多くあった。もしもの時の事を考えているのだろう。3人は部屋を見て想像できる網の内状を考察し、評価を再修正する。分かってはいたが、そんじょそこらの裏組織とは規模と格が違うようだと。

 

あとはザンゲツの人柄のことだけが分からない。少し聞いておきたいと思った山中いのは、隣にいるサイにザンゲツのことを訪ねる。

 

「地摺ザンゲツ様って、どういう人なのかしら………先代は男の人だって聞いたけど?」

「ええ、その通り。ですが二代目は女性です。というか、彼の娘なんですけどね」

 

「………ということは、網は世襲制なの?」

 

「いえ。親子とはいっても養子です。先代と今代の間に血縁的な繋がりはありません。先代が彼女の素質を見出して………っと、これ以上はまずいですね」

 

「こちらもぶしつけにすみません」

 

「いえいえ、そういえば情報は秘匿されていましたし。それに、そんな事を言ったらこっちの兄なんかどうなることか」

 

「………いや、ちょっとサイくん?」

 

「全く、いくらモテないからって女性の艶声を聞いただけで鼻血を出すとか………男以前に人としてどうかしていると思うよ?」

 

「わ、我が弟ながら辛辣すぎるっ」

 

いい笑顔で毒舌を吐く弟に恐れをなす兄。

 

「いやでも中々いい胸してたし、声も色っぽかっ………げふんげふん。あー嘘。いまの嘘だから。だから引かないでね皆さん?」

 

一歩退く面々に向け、シンがうろたえながら言う。キリハといのはシンのあまりの狼狽えっぷりが可笑しくなったのか、少し噴出する。

 

「………いや、いいけど。それよりもあんたたちとか、町の中とか……想像していたのと違うわねえ」

 

「ああ、網の事? いや、何処もこんなもんだと思うよ。町の中で視線ぎらつかせている奴なんていないって…………まあ、あいつの影響が無いとも言い切れないけど」

 

「へ、あいつ?」

 

「とある本物の馬鹿がいてね………いやいや、何でもないよ。それよりもザンゲツ様、来たようだ」

 

直後、部屋の扉が開く。そして入ってきた女性の姿を見た木の葉の3人は、少し驚いた。

――――まず目についたのが、燃えるようなような赤い髪。

 

そして左目に付けられた黒い眼帯である。同姓のキリハ、いのから見てもその顔立ちは整っているが、陽だまりのような愛嬌のあるそれではなく、刃のような鋭利な美貌。身体の起伏もはっきりとしており、センスのいい藍の着物がまた魅力に拍車をかけていた。

 

だが、切れ長の吊目。黒の瞳の奥にある輝きは強く、それを見たシカマルは火遁による激しい炎を連想させられた。年の頃は20代後半。だが、身に纏う威圧感は熟年の忍びに勝るとも劣らない。ただ綺麗なだけの人ではなく、若いというわけでもない。見た目だけで、そう思い知らされる程だった。

 

「すまない、少し遅れてしまったな………私が組織“網”の二代目頭領、地摺(じすり)ザンゲツだ」

 

「木の葉隠れの里から参りました。上忍、波風キリハです」

 

「同じく上忍、奈良シカマルです」

 

「中忍、山中いのです」

 

「波風、ということは………そうか、お前が四代目火影の娘か」

 

ザンゲツは名乗った面々のうち、キリハの顔だけを見ながら、面白そうに言った。

 

「え、ええそうですけど………えっと、あの?」

 

何でそんなにじろじろ見るんですか、と首を傾げるキリハ。それに対し、ザンゲツは何でもないと手を横に振った。

 

「それで、六尾の人柱力がウチの土方軍団の中にいるとのことだが………」

 

「はい。そしてその方々は、現在火の国の南部にある街道に居るとの情報を掴みましたので」

 

「状況が状況だからな。霧の追い忍が火の国の国境内に入ってくれば、不味い事態になる、か」

 

「その通りです。ですが彼は今、土方の方々と一緒にいるようです。こちらとしても現在の状況で網との関係を悪化させたくなく………」

 

「事情は分かった。だが今、ウチは忙しいんだがなあ。お前たち大国の忍びが、あちこち破壊してくれたおかげで。その傷跡が一朝一夕で修復できないものだと、おまえたちは理解しているだろう」

 

木の葉崩しを忘れたわけではあるまい、とザンゲツが言う。

 

「………耳に痛い限りです。が、それだけで退くわけにもいきません。戦争になればまた被害が増えます。それだけは避けたい」

 

「それは勿論分かっている。だが網の基本理念として、来るものは拒まないというものがある。それに木の葉から依頼されただけで、はいそうですかと承諾する訳にもいかん」

 

「ですが、それでは………!」

 

キリハが立ち上がり、何事かを言おうとするが、シカマルがそれを止めた。

 

「戦争を止めたいというのは私も同じだ。こちらとしてもお得意様である木の葉との関係を悪化させたくない」

 

「ならば、どうするおつもりですか」

 

「私が提案するのは、もう少し待ってくれないかということ。そのひとつだけだ」

 

「………それはまたどうして?」

 

「今施工している工事、終わるのが五日後だからだ。それが終われば、六尾の人柱力………ウタカタは目的を遂げ、網を去るだろう」

 

「目的、ですか?」

 

「ああ。何でも全うに働いて賃金を得た上で、とあるラーメン屋の代金を返しに行きたいとのことだ。部下からの報告で確認はしている」

 

ラーメン屋のところでザンゲツとシン、サイは鼻頭を指で抑えた。見ればシカマルも同じような心境らしく、眉間に皺を寄せている。

 

「………えっと、あの、今何かまずいところでも?」

 

「いや、トラブルメイカーというのは存在するのだなということを再確認しただけだ」

 

「はあ………」

 

「それにしても五日、ですか。ぎりぎりの時間ですね………今賃金を与える訳には?」

 

「作業を終えてこその仕事だ。他は知らんが、うちは少なくとも途中で抜けるような奴に、賃金を与えるようなことはしていない。人数もぎりぎりだし、他に迷惑がかかるからな。なに、終わり次第私から説得をするさ。聞くところによると、そんなに凶暴な奴でも無いみたいだしな」

 

「………分かりました。ですが、あちらの方にはどう対処さえるおつもりですか」

 

「それが、お前たちを呼んだ理由だ。襲い来る可能性がある暁、そいつらの相手はお前たちにしてもらいたい」

 

「なっ」

 

「不可能か? ならば言ってくれていい。こちらにもそれなりの力を持つものがいる。無理ならば無理と言ってくれていいぞ」

 

「なっ、できます! やります! 引き受けました!」

 

「早いわ阿呆! ちったあ考えてから発言しろ!」

 

シカマルの拳骨がキリハに炸裂する。

 

「痛い!?」

 

「え~すみませんが、その返事には少しお時間を頂きたく……」

 

「何、無論タダでとは言わない。こちらの主張をある程度受けいれもらう形になるのだからな。謝礼は出すし………以前に木の葉に“貸した”ものひとつ。それを、今回の件でチャラにしてもいい」

 

「………貸し? というと、8年前の」

 

「その通りだ。先代と三代目火影殿の間で交わされたものだが………五代目火影殿にそう言えば分かるはずだ。それに、謝礼も用意するし………こちらからも戦力を貸与する」

 

そう言うと、ザンゲツはシンとサイに視線を向ける。

 

「シン、サイ。お前たちは木の葉の忍びと共に護衛の任務につけ………今回ならば、できるな?」

 

ザンゲツはキリハを横目で見ながら、シンとサイに問いかけた。

 

「了解しました」

 

「引き受けたぜ姉御ごはっ!?」

 

弟の肘打ちを受けて悶絶する兄。それを呆れた目で見ながら、ザンゲツはキリハ達に向き直った。

 

「それで、返答は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、あいつら戻ってきたぞ」

 

「あれ、でもシカマルだけ戻ってきてないね」

 

厠かな、とチョウジが首を傾げる。

 

「みんなおまたせ~」

 

「おう、それでどうだった?」

 

「うん………」

 

頷くと、キリハは皆に先の話し合いの結果を説明する。

 

「“暁”か………それで、引き受けたんだろ?」

 

「うん。尾獣を奪わせるわけにはいかないし、今の状況じゃ木の葉からの援軍も期待できない。だから五日間限定だけど、護衛につくことになった」

 

「他に手はないのか?」

 

「その当たりは今、シカマルがザンゲツさんと話しているけど。何でも裏の事情ってやつがあるらしいから、私とキリハは少し席を外して欲しいって………」

 

「何だそりゃ。あっちがそう言ってきたのか」

 

「ううん、シカマル君の提案だよ。“キリハといの”は席を外してほしいって」

 

「何でまた………」

 

「あいつ、私たちに色々と隠し事をしているらしいからねえ。キリハの兄さんのことだって、そうだったし」

 

「九尾か………そのうずまきナルトって人は今どうしてるんだ?」

 

「うん、師匠に聞いたんだけど、ナルトは今暁の情報を集めてるって言ってた」

 

と、サクラが答える。

 

「呼び捨てかよ」

 

「ナルトさん、とかねえ。なぜだかしっくりとこないのよ。本人にも確認取ってるし、別にいいじゃない」

 

「同い年だし、別にいいんじゃない?」

 

「そんなものか………それで、そのキリハの兄貴ってどんな奴なんだ? 確か木の葉崩しの時に顕在化した一尾を倒したとか」

 

「私とシカマル君、いのちゃんもね。雲隠れの忍びに攫われそうになったところを助けてもらったんだ」

 

「そうだったな………でもそいつ、その時俺らと同い年だろ? そんなガキの頃に、雲の忍び相手してよく勝てたよな」

 

「………里の外へ出て行った、いや出ていかざるをえなかった経緯を考えれば不思議ではないだろう。何故ならば一人で生きるには何者にも屈しない力が必要だからだ」

 

「………それもそうかもなあ。俺達みたいに、仲間がいるってこともねえだろうから………っと、すまんキリハ」

 

「いいよ。兄さんもそれほどは気にしていないようだったし。“それよりも明日だ! 明日はきっといい日だ!”って叫んでた」

 

「………それはそれで変な奴に聞こえるんだが、ってキリハの兄じゃねえか納得」

 

「うん、キリハの兄だしねえ」

 

「キリハの兄だからな」

 

「キリハのお兄ちゃんだからね」

 

「何かみんな酷くない!?」

 

「え、いつも通りだよ?」

 

「ヒナタちゃんも酷い!?」

 

「それよりこれからどうすんだ。シカマルが戻ってくるまでここで待つのか」

 

「ううん、近くに美味しい店があるからそこで待っててくれって」

 

 

 

 

かくして一行はたどり着く。伝説級のボロ屋に。

 

「………キリハ。本当にここなの?」

 

「うん、間違いないはずだけど。ほら、裏から湯気も出てるし」

 

答えるとキリハはすみませ~んと言いながら、入り口の扉を開く。

 

「いらっしゃい………って随分と大所帯だね」

 

額当てを見るに木の葉の忍びのようだけど、と聞くおばちゃん。

 

それに対し、キリハが説明をする。

 

「ああ、ザンゲツのお嬢ちゃんの紹介かい。なら、そこに座って待ってておくれ」

 

「分かりました」

 

言われた一同は大人しく席についた。

 

そして20分後。

 

「待たせたね」

 

「って、ザンゲツさん!?」

 

「ん、何を驚いてんだい」

 

「いや、それは……」

 

こんなボロ屋に来るとは思わなかったので、と言いそうになったキリハ。だが傍らにいたシカマルの姿を見て、言葉を止めた。

 

「どうしたのシカマル君!?」

 

見れば、シカマルの顔は青白くなっていた。さっきまでは元気だったのに、この変わりようは一体何事か。そう思ったキリハはシカマルに理由を聞いてみるが、「胃が………胃が………」と言い、首を横にふるで答えてはくれなかった。

 

「おばちゃん、ラーメン頼みます。お前たちもそれでいいか?」

 

ザンゲツの言葉に、皆が頷いた。というかメニューがないので何があるのか分からないのだ。進めてくるものならば間違いはないと、頷いた。

 

「ここのラーメンすげえ旨いんだぜ」

 

ザンゲツの隣にいるシンが、誇るように言う。

 

「そうなの?」

 

「そうだ。何しろイワオ………げふんげふん。噂のラーメン屋も通ったって店だからな」

「噂の………というと、さっきの話に出てた?」

 

いのが訪ねると、サイは溜息をつきながら答えた。

 

「どうやらそうらしい。全く、相変わらずというべきなのか………」

 

「え、サイ君とシン君、その人と知り合いなの?」

 

「サイでいいよ。うん、長いことそいつとは会っていなかったけどね」

 

「そうなんだ………」

 

 

「辛気臭い顔しなさんな。ほら、出来たよ」

 

 

 

 

 

 

 

「すげえ旨かったな」

 

食べ終わった後、キバが満足げに頷く。

 

「………木の葉の一楽に匹敵するかもしれないね」

 

「うん………あれ、キリハは?」

 

「ああ、店の中です。あのおばちゃんとザンゲツ様が、キリハさんに話があるようで」

 

「そうなんだ………って、まだうなってるのシカマル」

 

「すまんがいの、胃薬もってないか」

 

「………しっかりしなさいよ。一体何があったの?」

 

いのが聞くが、シカマルは答えない。ただ一言、この世には知らない方が良いってことは山ほどあるんだよな、とだけ返すだけ。

 

 

 

 

 

一方、店の中。キリハはザンゲツと店主のおばちゃん、シンとメンマに関する話をしていた。

 

「………そうですか、兄が」

 

「ああ。旅に出るまでは、ここに泊まってくれたんだよ」

 

「シン君とサイ君も、兄さんに会ったことあるの?」

 

「ううん、どう言えばいいのか………ってちょ、キリハさん!?」

 

キリハは返答に悩むシンの襟元を両手で掴んで、前後に激しく揺さぶる。

 

「何処!? 今何処にいるの!? いのちゃんが言うにはもう戻ってこないかもって!?」

 

「ちょ、待っ、ぐえっ」

 

答える間もなくシェイクされたシン。首をガックンガックンさせながら脳を前後に揺さぶれられる。

 

「ふむ、そういうところは兄に似ているな」

 

横からかけらた声に、キリハはそちらの方を向く。ザンゲツは笑っていた。先程とはまた印象が違う、ザンゲツの目はは組織の長としてのそれではなく、一人の友人を思い出すかのようなものに変わっている。

 

「え、ザンゲツさんも兄さんを知っているんですか?」

 

思わず尋ねると、ザンゲツは笑みを深くした。

 

「知っているもなにも、付き合った時間だけなら、他にいる誰よりも長い自信があるぞ………例外を除いて」

 

「そういえばそうだねえ。網に入ってから一ヶ月後だったっけ………今から言えば11年も前になるのか。紅音(アカネ)ちゃんとあの子が出会ったのは」

 

「………アカネちゃん?」

 

誰のことだろう、とキリハが首を傾げながら聞く。

 

「ああ、私の名前だ。ザンゲツは頭領としての名でな。本名は紅音という」

 

「そうだったんですか………それで、兄さんとはどういう関係で?」

 

「悪友であり戦友であり………一時期は護衛でもあったな。あいつがどう思ってるかは知らないが、私はそう思っている………ああ、心配しなくてもあいつと私の間に恋愛感情はないぞ」

 

だからその眼をやめてほしいんだが、とザンゲツは顔をひきつらせながら、ジト目を向けてくるキリハに言った。

 

「………そうなんですか。兄さんが網に所属していたとは知っていましたが、頭領と付き合いがあるとは思ってもみませんでした」

 

「まあ、あいつの立場ならば普通、目立たないように努めるからな。頭領に接触するなどもっての他なんだろうが………運命という馬鹿は、悪戯をすることが無類の好事らしくてな」

 

そう言いながら、ザンゲツ、いや紅音は苦笑する。

 

「今の網を構成する者達と同じく、私も戦災孤児でね。初めに会ったのはこの店で、夜の酒盛りをしている時だった」

 

思い出し笑いをしながら、ザンゲツはメンマとの思い出を語った。酒盛りをしたあとの夜道。当時13歳だったザンゲツは、同じく網の一員であった酔っ払いに襲れかけたのだ。

だがそこを通りかかったメンマが“ロリコンは病気です!”と言いながらその酔っぱらいを撃退したらしい。その後、ロリコンとはどういう意味かと問いかける紅音に、イワオが素直に答えたことで乱闘に発展。

 

「13歳なんだからロリじゃない!」という紅音の主張に対し、ナルト、当時のイワオは「ロリは皆そう言うのだよ!」と反論。

 

激戦の末、「少女期って響きはいいよね」という説得に対して紅音は同意、和睦はなされたのだという。

 

「今思い返せば、私も酔っていたのだろうな………」

 

「それでも突っ込みどころ満載です。っていうか、その頃から酒を飲んでいたんですか………」

 

「当時は忘れたいことが多かったのでね――――今は、逆に忘れたくないことが多くなったんで、酒はそうそう飲めないのだが」

 

「………?」

 

「忘れてくれていい。まあ、そこからは私と今の旦那………同じ孤児院の仲間連中と、それとなく付き合ったりしていた。だけど、あいつはいつも一人でいようとしていたな」

 

「え、組織の一員なのでは………?」

 

「心は組織の中に無かった。あいつはいつも夢ばかりを追っていたからな。属せず、信頼せず………先代ザンゲツとはまた違った繋がりをもっていたようだが」

 

「でもそれは許されないのでは」

 

「普通ならばな。だが忠はなくても、信はあった。渡世の仁義ってやつも持っている。それに、先代と私個人としては返し切れない借りがある」

 

「それは………?」

 

「7、8年前の事件に関連することでな。それ以上は、木の葉に帰ってからあのシカマルという奴に聞くと良い………いずれ火影に成りたいと言うのであれば、隠れた裏の事情を知る必要があるだろうからな」

 

組織の長になりたいというからには、忘れたくても忘れられない、忘れてはいけないものも知ることが必要だ。ザンゲツは真剣な眼をしながら、キリハにそう告げた。

 

「………それで、今回は私たちを?」

 

「話には聞いていたからな。いずれ木の葉を背負って立つ8人、あいつにしても信頼のおけるという者たちを一目見たかった。組織の長としても、個人としても」

 

「そうだったんですか………」

 

「そうだ。そしてひとつ、忠告しておこうか………あいつは、一人で何でもやろうとする悪癖がある。必要となる場合以外は、誰にも頼らない。無茶をする時もある。だから、変に優しい言葉をかけられたら注意することだ………何も言わずに去っていくぞ」

 

「………肝に銘じておきます」

 

「それでいい。ところで…………そろそろシンを放してやって欲しいのだが」

 

「え?」

 

視線を正面に戻すキリハ。そこには、土気色の顔をしてうわ言を呟くシンの姿があった

 

 

「ああ………星が見えるよ紫苑………え、夕焼けこやけでさようなら? うんそうだね、逝こうか―――――」

 

 

見れば、シンの口からは何かもやのような白いものが抜け出ていた。

 

 

「い、逝っちゃだめー!?」

 

キリハはそれを口に戻そうとしながら、叫び続けた。

 

 

 

 


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