小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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12話 : 決着

 

 

~ 犬塚キバ ~

 

消えた―――と思った次の瞬間、俺は宙に浮いていた。飛段のとった動作は単純だろう。地面を蹴って前進して顔を掴む、それだけだ。虚動もフェイントもくそもない、ただ実しかない、普通の動作。

 

だが、前の二つの動作は認識できなかった。気がつけば俺は顔面を捕まれ、宙に浮いていた。つかまれた時の衝撃が頭を襲う。首は折れなかったが、脳が揺さぶられているみたいだ。万力のような力で締め付けられるが、それもどこか遠い世界での出来事に思えた。

 

風切り音が聞こえる。鎌を振るうつもりだろうか。

手で視界を塞がれているため、見えない。

 

「ワンっ!」

 

横から、白い巨大な犬――――赤丸だ。赤丸が、飛段目掛けてとびかかる。

 

「ひゃっはあ!」

 

奇声が聞こえた。次の瞬間、赤丸は吹き飛んだ。大の大人二人分はあろうかという巨体が、まるでボールのように宙を舞う。

 

「しいっ!」

 

逆側から呼気。誰かは知らないが、俺を助けようとしているのだろう。顔面を掴む腕に打撃が入った。衝撃で腕が外れる。

 

「いてーだろうがよお!」

 

声の後、また吹き飛んだ。奇襲をしかけた男は、飛段の一撃を腕で防御した。していた、はずだった。防御に加え、わずかに後ろ飛んで衝撃を逃そうとしていた。あの状況では、およそ理想的な回避行動だったはずだ。

 

なのに金髪の男――――シンだ。シンは冗談のように吹き飛んだ。ぼきりという音も聞こえた。衝撃を殺した上で、腕を折られたのだ。シンはそのまま、信号ようの煙玉みたく軽々と、林の向こうへ飛んで行った。

 

「兄さん!」

 

誰かの声が聞こえる。俺は腕から逃れたものの意識がはっきりせず、地面にうつ伏せに転がっているから分からないが、何かが飛段の方に飛んでいくのは感じた。

 

そして、飛段が何かを投げる音も聞いた。それは唸りを上げて飛んで行ったはずだ。尋常でない勢いだったのも分かる。そのすぐ後、誰かが倒れる音が聞こえた。

 

(って、寝てるばあいじゃねえ!)

 

そこで、意識を取り戻す。

 

「よくも赤丸を!」

 

四脚の術。俺は飛段に真正面から接近し――――間合いに入る直前、側面に進路をずらす。直後、鎌が地面に突き刺さった。あのまま進んでいれば、頭にあの一撃を受けていたことだろう。鎌の一振りは神速といっていいほどに早く、足をわずかに斬られてしまった。

(こんなもん!)

 

だが、支障はないと。俺はそのまま飛段に突進した。

 

「通牙!」

 

赤丸がいないので、これしか使えない。だが、鍛えに鍛えた獣人体術、一人でも十分に倒すには足るはずだ。必殺の一撃が飛段の腹をえぐる。

 

「駄目だキバ、離れろ!」

 

着地した時、遠くからシカマルの声が聞こえる。どうやら完全には回復していないようで、音がぼやけている。

 

「ってえだろうがあ!」

 

衝撃。最初とは違い、反応はできた。振り上げられた蹴りの一撃、それは僅かに身体の端を掠めただけだ。なのに俺は宙を舞った。

 

「ちいっ!」

 

宙に浮いている――――俺の、下。シカマルの影が飛段を捉えた。だがそれも一瞬だけ、影は力任せにひきちぎられた。いや、一瞬だけ捉えて、すぐに離したのだ。

 

影を振り払うべく右手を勢い良く動かした飛段、あるはずの影の抵抗を感じられず、腕を振り抜いてしまい―――バランスを崩す。

 

「いの!」

 

「了解!」

 

同時、いのが突進。チャクラで地面を弾きながら一気に近接し、助走のスピードそのままに怪力を叩き込む。師である綱手やサクラほどとはいえないが、怪力は怪力。常人ならば必殺の一撃が直撃する。

 

「え………!?」

 

だが、飛段は動かない。根を張ったかのようにその場にとどまり、いのを睨みつけるだけだった。

 

「く………きゃっ!?」

 

獲物を処断すべく振り下ろされる鎌。いのはそれを側転しながら避けるが、完全には躱しきれなかったようだ。赤が見える――――鎌が、いのの皮膚をわずかだが引き裂いたのだ。同時、俺は地面に着地する――――脳が揺れた。

 

「くっ、影縫い!」

 

その隙を狙い、シカマルが追撃を加える。だが影の槍は飛段が無造作に払った、ただの一振りで吹き飛ばされた。返す刀で鎌を振る。

 

「ぐっ!?」

 

わずかに身を引いたのが良かったようだ。胸を斜めに切り裂かれながらも、シカマルは後転しながら距離を離す。

 

 

「………遊びは終りだぜ………さあ、俺と一緒に最高の苦痛を感じようぜえ!?」

 

 

(あ………れ、は………?)

 

 

暗くなっていく視界の中。見えたのは、自分の身体から流れる血を使い、地面に変な方陣を書いている飛段の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ 山中いの ~

 

(くっ、不味い………!)

 

鎌を投げつけられたサイ、直接傷をつけられたキバ、シカマル、私。全ての血を取り込み、飛段は地面に方陣を書いて―――その上に乗り、大きい針のようなものを懐から取り出した。見れば、飛段の皮膚には特殊な呪印のようなものが浮かんでいる。

 

(あれが振り下ろされれば………!)

 

シンと赤丸を除く私たち4人は、死ぬ。それを何とか防がなければならない。だけど、どうするか。距離は空いているし、私の怪力で殴るのもまずい。

 

逡巡。硬直。そして、それを逃してくれる飛段では無かった。

針が―――足へと振り下ろされる。

 

「ああぁぁっ!?」

 

「ぐうっ!?」

 

「………!?」

 

「ぐう………!」

 

同時、足に激痛が走る。呪いが発動したのだ。皆の足から、血があふれ出てくる。

 

(…………駄目だ、私………私がなんどかしないと!)

 

今一番近くにいるのは私だ。キバは気絶しているし、シカマルとサイは遠い。

 

(迷っている暇は無い、やるしかないんだ!)

 

もう止まることは許されない。そう判断した私が、決意と共に走り出す。

 

「い……の……!」

 

背後からシカマルの声が聞こえる。殴るなと言っているのだろう。それは分かる。殴れば、私達にも傷が写されるのだから。つまり、飛段は殴れない。ならば殴れるのは――――ひとつだけだ。

 

「うあああああああああっ!」

 

鎌の間合いに入る、一歩手前。そこで立ち止まり、私は全力で跳躍する。

 

(出来る、出来るはず――――!)

 

綱手様との修行中、何度もためしたけど結局は一度もできなかった技。だけど必要だ、今この時にこの技が。

 

(しくじれば―――みんな死ぬ。だけど、そんなことはさせない)

 

今までも出来なかった。失敗するかもしれない。脚だって怪我をしている。成功する確率など一割にも満たない。

 

(だけど、それがどうした!)

 

並べ立てた不利を心の中で蹴っ飛ばす。できるできない以前に、やらなければならないのだ。ならば確率など二の次だ。

 

(やる、やってみせる、やってやる―――!)

 

失いたくない。死なせたくない。死にたくない。だって、まだあの人に何も言っていない。私は胸中に渦巻くその想いを全て脚に載せ、血がしたたる脚を振り上げて――――地面へと叩きつけた。師匠が得意とする、脚を破壊槌に見立てた必殺の踵落とし、痛天脚。

 

(手応えあり!)

 

着弾点で衝撃が膨れ上がり、破壊の波が周囲へと伝わっていく。やがて激音と共に周囲の大地は砕かれ、粉々になる。飛段の足元に敷かれた血の方陣も巻き添えにして。

 

「クソがあ!」

 

あと一歩のところで陣を崩された飛段が、忌々しげに叫ぶ。そして突進し私の前で止まり、異様な形相を浮かべたまま鎌を振り上げた。振り下ろし、私の脳天を裂くつもりだ。躱さなければならない。その場から退かなければならない。だけど、脚が動いてくれない。先の痛天脚の代償だろう、脚の筋肉が損傷しているようだ。

 

(後ろが無理ならっ!)

 

思うのと行動するのは同時だった。私は身体を前に倒し、前転、振り下ろされる鎌の内側へと入り込む。そのまま、飛段の股の下を抜けつつ、取り出したクナイで股を斬りつける。

 

「このアマぁ!」

 

だけどそれも時間稼ぎにしかならなかった。振り返った飛段は再び鎌を振り上げる。もう身体が動かない。ここで終りなのだろうかと、そう思った時。

 

飛段の振り上げた腕が、吹き飛んだ。

 

「…………あ?」

 

何か起きたか分からない。ただ、鎌を持つ腕、その周囲の空間が歪んだように見えた。そしてその歪が、空間ごと飛段の腕を削り取ったのだ。

 

(いったい何が………ってこれは、シャボン玉?)

 

気づけば、私の身体はシャボン玉に包まれた

 

(これは、ウタカタの………って、みんな運ばれてる)

 

シャボン玉の中から周囲を見回せば、倒れている4人全てがウタカタのシャボン玉に包まれていた。そのまま、背後の森の方へと運ばれて行く。

 

そしてまたもう一本、飛段の腕が飛んだ。

 

(………っ、あれは!?)

 

そこでようやく存在に気づいた。本当にいつの間にだろうか。気づけば、熟練の忍び――――上忍中の上忍が放つ独特の気配が二つ、周囲に存在していた。

 

 

 

「間一髪。だけど、複雑な気分だねえ」

 

 

銀髪のマスク、先の空間を歪めた忍びが、半眼になりながらためいきをついた。

 

 

「同感だ………任務じゃなければ、てめえと共闘なんざ」

 

 

心底ごめんだ、と。大刀を振り抜き、腕を斬り飛ばした忍びが、忌々しげに呟いた。

 

私はそこで意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだぁ、てめえらは!?」

 

「なにって………援軍に決まってるでしょ」

 

「少し遅刻しちまったけどなあ」

 

答えると同時に二人は移動し、飛段を挟みこむ陣形を取る。互いに十分な距離を保ちつつ、刃のような殺気を篭めた。

 

「例の呪術に必要な陣はもう、崩されたからな。遠慮なく行かせてもらう………しかし紅もアスマも良い生徒を持ったもんだ」

 

「これだから木の葉の忍びはおっかねえんだ。脚を怪我してんのに、あそこまでの破壊力……しかもあの状況で懐に飛び込むか、普通」

 

「………のんきに雑談してんじゃねえ! ああ!? 随分と余裕かましてんなあ!」

 

「腕が無いのによくも吠える………ま、見たところ随分と怪我しているようだからね」

 

「ふん、確かに速さと力は大したもんだが………いくらなんでも、そう長く続くようなもんじゃねえのはわかってる」

 

「いやいや、助かったよ。流石に初見でその動きを見せられたらオレでも対処できなかったろうけど、幸か不幸か、もう見れたからね」

 

「………だからといって気を抜くなよ猿真似野郎」

 

二人と一人、周囲に殺気が充満する。視線の動き一つでも気取られ、殺されるような緊張。下忍、中忍とは住む世界が違う、上忍特有の空間が生まれた。

 

「言われなくとも。そっちこそ、霧隠れの尻拭いっていうのもあるし、よろしく頼むよ………再不斬!」

 

「抜け忍の俺に言う事か。お前から先に殺ってもいいんだぜ、カカシよ!」

 

飛段を囲んで二人。かつて波の国で相見えた二人が、現在の共通の敵に対して、その矛を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『正攻法で角都の心臓を四つ奪うのは、至難の技だ。故に油断をつくか、怒らせて乱す』

そして敵を欺くにはまず味方から、とサスケ達はキリハ達にその存在を隠しながら、裏で動き続けていた。思わぬ伏兵、もの言わぬ人形に足を止められたせいで、少し遅れてしまったが。

 

『忍者は裏の裏をつけ。生み出された間隙に、作り上げた勝機に敏となれ』

 

その戦訓の通りであれば、今この状況はこちらの有利にあると言えるだろう。

 

「でも流石にこんな状況は想定してなかったぞ………っ!」

 

「きゃー! きゃー!」

 

荒れ狂う爆炎の傍で、二人は必死に逃げ回っていた。

 

「怪獣だなまるで………」

 

サスケは巨大化した角都の姿を見ながらぼやく。指輪から黒い塊が飛び出したかと思うと、黒い触手に融合したのだ。そしてみるみるうちに大きく成り、巨大化した触手で襲ってくる始末。もし心臓が複数あれば、どうなっていたのだろうか。

 

「きっと仮面から火とか吹いてきたんだろうなぁ」

 

現実逃避しながら、遠くを見るサスケ。でもその足は止めていない。

 

「いやー! 黒い触手がきもーい!」

 

サスケは隣にいるサクラの叫びを聞きながら、さてどうしたものかと思考にふける。

結論。

 

「いや、これ無理………と言いたいところだけどうわっ!?」

 

「死ね!」

 

言葉と同時に放たれた槍のような触手が、サスケの頬を掠めた。

 

「サスケ君!?」

 

「いや、掠り傷だから心配ない」

 

すれ違いざまに一太刀喰らわせてやったし、とサスケが呟く。

 

「動きが止まって………? あ、元に戻った」

 

「手応えはあったけど、流石に図体が大きすぎるか」

 

雷遁を纏わせた斬撃。それを受けた角都、わずかに動きを硬直させたが、すぐに活動を再開したようだ。サスケは執拗に繰り返される触手の攻撃を躱しながら、この相手をどう倒すか考え続けた。

 

(千鳥………無理だ、そもそも近寄れない。麒麟………駄目だ。雲の無い今じゃ、雷雲まで持っていけない、っと!)

 

頭を貫きにきた一撃を写輪眼による洞察眼で捉え、間一髪で避ける。

 

(色々と試してみるか!)

 

すれ違い様に刀を抜き、居合い抜きの要領で触手を斬りつけた。

 

「豪火刃」

 

チン、という納刀の音と共に、切り口が発火する。

 

「火、だと?!」

 

燃える触手を見た角都が、驚きの表情を浮かべた。

 

「うちは一族の得意科目だぜ? ………お生憎さま」

 

サスケは得意げに言う。火遁による属性変化を雷文によって増幅、それを剣の表面に纏わせて切ったのだ。切り口から発火した火はやがて勢いを増して、炎となった。だが、その炎は別の触手に巻きつかれて、すぐに消されてしまう。

 

「やっぱり大きすぎるな………」

 

切り口を発火させる豪火刃、人ひとりであればそれなりの傷を負わせることはできるが、目の前の巨体が相手では意味がないようだとサスケは分析する。

 

(ならば、あれを使うしかないか………仕方ないけど)

 

胸中でひとつだけ、案を見つけたサスケ。リスク的な意味でできれば使いたくない術なのだが、と嫌そうな顔をするが、そうも言っていられないと首を横に振る。

 

そして修行を思い出した。決めたのならば最速で迅速に。教えに則り、サスケは決断する。

 

「………サクラ!」

 

いつかのハンドサインを出しながら、サスケは煙玉を取り出した。

 

「っ了解!」

 

サクラも笑みを浮かべ、同じく煙玉を取り出した。どうやら忘れていないようだ、とサスケも少し笑みを浮かべた。

 

「一端退くぞ……!」

 

言葉と同時、二人は煙玉を爆発させて角都の視界塞いだ。

 

そして後方にいるナルトと合流するため、撤退を始めた。

 

 

「――――逃がすか!」

 

 

それを追って、角都も大きくなった自らの身体をひきずりながら、走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サスケとサクラに角都の相手を任せ、メンマは一端最後方まで戻っていた。気絶してしまったキリハを安全なところに預けるためだ。服が無いのではまずいと自分が着ていた上着を被せ、横抱きにしたのだが、キリハは気絶してしまっていた。服をかけて横だきにした直後、顔が真っ赤になり、何事か叫んだあとにぽってりと意識を失ってしまったのだ。

 

『………うらやましいのう』

 

「ん、なんか言ったキューちゃん」

 

『っ、なんでもない』

 

「………? っと、ここらへんか」

 

たどり着いた最後方には、網で聞いた水色の着物の人柱力・ウタカタと、木の葉の忍び達。そして治癒に当たっている白と、多由也と―――懐かしい顔がいた。

 

「サイ………」

 

仰向けに寝転んでいる、かつての親友。ためしに呼びかけてみたが、返事は無い。胸が上下しているため、気絶しているだけのようだ。

 

「再会の喜びは後にするか………白、多由也。怪我の程は?

 

「みなさんかなりの深手を負っていますが、命に関わるほどではありません」

 

「そうね………くっ、ありがとう。私も手伝うわ。シカマル、起きて。足を出しなさい」

足の傷は塞がったから、といのも治療に当たる。致命傷ではないが、浅くもない傷口だ。止血しなければ命に関わる。

 

「すまん………っと、キリハ?!」

 

シカマルが俺の方を見て、驚き、叫んだ。

 

「いや寝てないよ、シカマル君!」

 

その声に反応したキリハが、手を上げながら勢い良く身体を起こした。

 

 

「………あ」

 

 

「………え!?」

 

 

「………!?!?!?!?」

 

 

鼻から鮮血が、舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数分後。

 

「ただいま~」

 

色々あったけど戻ってきたよ、とメンマは皆に告げる。

 

「遅いぞ」

 

「いや、本当にね………色々あって」

 

「って、その血はどうした!?」

 

サスケはメンマの胸元にこびりついている血を見て、驚きの声を出していた。

 

「ああ、返り血だよ。俺の血じゃない」

 

「後方にも敵が居たのか!?」

 

「敵といえば、敵かな」

 

偶然っていつも敵に回るよね、とメンマは愚痴った。そして貧血に陥っているであろう、シカマルの顔を青空に浮かべた。

 

(無茶しやがって………)

 

『嫌な事件だったね………』

 

奈良シカマルよ、永遠に。でもこの服のクリーニング代は後で請求するからな、と心の中で呟く。

 

「それとほっぺた………それ、ビンタの後だろ」

 

「ああ、これはお前の嫁にやられた」

 

勘違いなのに、そんな趣味ないのに、と愚痴る。いや確かに白かったけど………げふんげふん。

 

「………嫁?」

 

いったい誰のことだと、サスケが首を傾げる。

 

メンマは「いい加減にしろふざけんなこのニブチンが!」と言いたかったが、横にいた桃色の物体から先に突っ込みが入った。

 

「ちょーっと待ったあ! 今の言葉は聞き捨てならないわ!」

 

「おおっとここでサクラのちょっと待ったコール!」

 

『ミス! サスケ君は首を傾げている!』

 

「………いい加減、目の前の現実を見据えてくれないか?」

 

そこに渋い顔のイタチが現れ、呆れた声で的確な突っ込みを入れた。

 

「あ、イタチさんだ。ちわっす」

 

紫苑と菊夜さんをザンゲツに預けにいたが、どうやら戻ってきたようだ。メンマは現在の戦力と状況をまとめるながら、相手の情報を集めはじめた。

 

「サスケの嫁に関する話は後で聞くが………取り敢えずは、あれだ」

 

イタチさんはカカシと桃地君が相手をしている、黒くどでかい物体を指差す。

メンマはうんざりとした顔で尋ねた。

 

「正直見なかったことにしたいんだけど………あれ、もしかして角都と飛段?」

 

「………気づけば、あの有様だった」

 

どうしようも無かった、とサスケが首を振る。

 

「サスケを追いかけてきた角都と、飛段がな………何故か、合体した」

 

「合体とな!?」

 

なにそれ怖い、と慄くメンマ。ていうか合体って、と戦慄いている。

 

「どうりで大きいはずだ。尾獣とまではいかないけど、結構なサイズになっているな」

 

「恐らくはあいつらの中にある十尾の………欠片だろうな。それが引き寄せ合ったんだろう。あれは傍にいるもの全て喰らおうとする性質を持っているからな」

 

そんな暴食な、とメンマは頭を抱えた。だけど十尾の在り方としては、そうあって正しいのかもしれないと、気を引き締めた。

 

「暁の二人も驚いていたぜ。あいつらにとっても予想外の出来事だったんだろう」

 

「まじですか」

 

聞くに、十尾の力を使ってパワーアップした二人。

 

「シカマル風に言うと“角”都が成って龍馬、“飛”段が成って龍王ってところかな。それが混ざるか………厄介な。理性が無くなっていることだけが救いだろうけど」

 

あの巨体が角都の意のままに動くとしたら、勝ち目は無かっただろう。でも暴走しているだけならば手はあると、メンマは笑いながら告げた。

 

「掲げる親玉、“玉”が玉兎からの使者だというのも笑えないけど、な」

 

「全くだ………」

 

「それでも倒さなきゃならない。相手が玉兎かなら、こっちは金烏で答えてみる?」

 

玉兎は月、金烏は太陽の別称だ。そしてメンマは太陽と呼ばれてもおかしくない程の威力を持つ、この3年で積み上げてきた切り札の一つを切ろうと提案した。リスクも高いが、生半可な術じゃあれは倒せないだろうとp。

 

「それは………俺も考えていた。だが、あれは近づかなければ使えないだろう。今のあの化物の隙をつけるのか? 今はカカシと再不斬相手をしているけど、あの触手による攻撃は想像以上に厄介だぞ」

 

サスケの意見にメンマは頷く。縦横無尽に放たれる触手、確かに厄介そうだと打破する方法を考える。

 

「そうだな………」

 

大樹を穿ち、大地を削り取る威力を持つ巨大な触手。あれを掻い潜る必要があるのか。あるいは、動きを止める必要がある。メンマはシカマルの顔が浮かべたが、影真似で抑えられそうもないように思えた。

 

「………でも、決定打となりうる術はあれしかないな。一応、あいつに攻撃はしてみたんでしょ?」

 

「ああ。一通りの術は試したが、どれも効果が薄くてな。すぐに再生してしまうし、表皮も硬い。黒い塊になって目が無くなってしまったから、月読もできんしな」

 

「分かってると思うけど、天照もNGだよ。こんな森林地帯で不滅の黒い炎が延焼したりしたら、ね」

 

メンマは止めてくれと言った。それこそ洒落にならない事態になるだろうと首を横に振る。近くに村があるし、もし巻き込んだら、と思うとぞっとする。一般人を巻き込むことだけはできない。

 

「それは分かっている………火がついたとしても、その箇所だけを切り離されて防がれる可能性があるしな」

 

リスクだけが大きすぎるのでは意味がない、とイタチは溜息をつく。溜息の多い人だ。

 

「………」

 

一方、無言で安堵の息をつくサスケであった。

 

「おっと、多由也と白も戻ってきたようだし………前衛できばっている二人も作戦を伝えようか。木の葉の忍びと、シンとサイ。あの10人のおかげで、体力とチャクラは温存できているし」

 

「案はあるのか?」

 

「対角都用の戦術はあって………その延長上だね。一応、あるにはある」

 

そうして、メンマは皆に作戦について説明する。

 

「ぶっつけ本番で、それだけの連携が?」

 

「肝心なところは………ほら、写輪眼があるから何とかなると思う」

 

後は勇気とか気合でカバーするしかない、と言う。

 

あれだけの気合を見せてくれた先発、木の葉の忍びの意気に応えて見たいという気持ちもある。

 

「そうだな………負けていられねえ」

 

「私も、サスケ君と一緒ならやれると思う」

 

「………」

 

「何故睨む多由也!?」

 

「知らん。勝手にしろ」

 

揉める三角関係。そこに、白が突っ込んだ。

 

「……痴話喧嘩は後にしてくれませんか? 再不斬さんが頑張ってますので早くして下さい」

 

と、白が明るく、だが妙に通る声で3人に告げた。

 

「「「すみません」」

 

謝る3人。メンマから白の顔は見えないかったが、見える位置にいる3人は震えていた。メンマはそれを見て、きっと眼だけは笑っていないのだろうと思った。

 

「では始めましょうか………ナルトさん?」

 

「了解………多由也、まずはあの二人に作戦内容と役割についての伝心を」

 

「分かった」

 

頷くと多由也が笛を吹く。音遠投写の術を使い、前衛のカカシ、再不斬の二人に作戦の内容を告げるのだ。二人は触手による攻撃を捌きながら、「OK」の合図をこちらに返す。

「白は?」

 

「いつでも」

 

「サクラは?」

 

「色々と聞きたいことがあるけど、サスケ君とあんた、カカシ先生がいるんなら問題はないでしょう。追求は後でするけどね」

 

白と再不斬の方を見ながら、サクラが複雑そうな表情を浮かべるが、一応は頷いた。

 

「イタチ兄さん?」

 

「既に準備はできている」

 

「サスケ?」

 

「笛の音があれば、問題はない――――やってやるさ」

 

 

皆の確認を取り、メンマは柏手をうつ。

 

パン、という乾いた音で場を引き締めた。

 

 

「OKだ。ちょっとした邪神退治だけど、いっちょやってみようか――――多由也!」

 

 

「了解!」

 

指示に頷き、多由也が笛を吹く。全員の間に、流れるように綺麗で、かつ清廉とした旋律が届いた。

 

秘術・五音。

 

対象の五感を高める術。チャクラの流れも高められるし、術の効力も強まる。同時に、前衛の二人がこちらに後退してくる。もちろん敵も追いすがってくるが、問題はない。

 

「初手は頼むぞ、うちは兄弟!」

 

「了解した」

 

「やってやるぜ………!」

 

二人は下がってくる前衛とスイッチし、前方に出ながら印を組む。

結の印は虎。

 

「「火遁・豪火球の術!」」

 

兄弟二人の豪火球が合わさる。大きな豪火球は、突進してくる化物を包み込んだ。

 

「ヲヲヲヲヲヲ!?」

 

巨大な火球に化物がたじろいだ。

 

「白、サクラ!」

 

「了解しました―――サクラさん!」

 

白の血継限界である氷遁により、サクラの眼前に巨大な氷塊が生み出される。そしてサスケとイタチが後方に退いたと同時、サクラが眼前のそれを殴りつける。

 

「どっせえい!」

 

圧縮された氷が怪力によって砕かれながらも打ち出される。勢い良く打ち出された氷の散弾が、化物の各所を打ち貫いた。

 

「まだまだ行くわよ!」

 

腰を落として、正拳を打つサクラ。見た目どうかと思うが、今は黙っておこう。しかし威力はまずまずで、氷の散弾は化物の表皮を撃ち貫けているようだ。

 

即席の術だけど大したものだ。

名付けるならば、“氷遁・桜花鏡咲”といったところだろうか。

 

「言ってる場合か、続いて行くぞ―――!」

 

「写輪眼!」

 

再不斬が忍具口寄せ、巻物を使い、大量の水を口寄せる。即席の池ができたその上、再不斬はカカシと一緒に水の上に立ち、因縁のあの術の印を組みながら放った。

 

「「水遁・大瀑布の術!」」

 

巨大な水の竜巻が化物を飲み込む。ダメージは与えられていないようだが、動きは封じ込められたようだ。

 

―――それでいい。これは目くらましにすぎないのだから。

 

「白!」

 

「はい――――行きます!」

 

打ち出された氷、大瀑布によって周囲に満たされた水を使い、白が化物の周囲に氷の鏡を作り出す。

 

秘術・魔鏡氷晶。遠方に設置した氷の鏡へ移動する術だ。今や上忍クラスの白が使えば、神如き速さでの移動が可能となる。相手が人間であればこのまま千本による攻撃で串刺しにするのだが、化物相手では通じないだろう。

 

だけど、なにも攻撃するために使わなければいけないという道理はない。

 

「ギギギィ!?」

 

 

最早人ならぬ声となっている化物、その驚愕の声が当たり一面に鳴り響いた。白がやったことは簡単なことで、鏡による移動を利用し、幾重にも束ねた鋼糸を化物に巻きつけたのだ。鋼糸の先端には錘がある。

 

「―――完了です!」

 

鋼糸を全て巻きつけた白が先端の錘を掴み、メンマ達の方へ投げた。一方で化物はさせるものかと触手を四方八方に展開した。

 

「うあっ!?」

 

近くにいた白が吹き飛ばされた。周囲の硬質な鏡諸共、宙に吹き飛ばされる。

 

「白―――くそっ!」

 

「うあっち!?」

 

「危ない!」

 

「やられるか!」

 

「うおい!?」

 

そして同時に、メンマ達にも触手を放ってくる。

錘も触手に巻き込まれ、宙に放り出された。

 

「くっ!」

 

予想外の事態。だけど、まだまだ修正は可能だ。メンマは錘に向かいマーキング付きのクナイを投げつけて、飛雷神の術を使う。

 

そして錘を拾い、地面に着地して一歩後方に退く。

 

イタチ兄さん、カカシ、サスケの写輪眼組みは写輪眼で錘の軌道を予測し、鋼糸付きのクナイを投げつけた後、手元に引き寄せた。

 

操風車三の太刀の応用だろうか。しかし何だこのチート共は。

 

『――――全員拾えたぞ、今だ!』

 

多由也による合図。

 

くしくも四方に散らばれたメンマ、サスケ、イタチ兄さん、カカシが印を組む。

 

カカシはメンマ、イタチ兄さんがサスケの術をコピー。

 

3人の写輪眼が回転し、結の印が同時に結ばれる。

 

「「「「雷遁・雷華の術!」」」」

 

四人同時に雷華の術を放つ。四方から雷の火花が散り、鋼糸を伝って化物へと届く。大瀑布によって水に濡れている化物は全身を感電させられて、その場に硬直した。

 

「サスケ!」

 

「応!」

 

カカシ、イタチが雷華の術を持続させて動きを止めている間、メンマとサスケは一端後方に退いた。

 

止めとなる術を使うためだ。

 

「ようやくじゃな………行くぞ、狐火!」

 

キューちゃんの周りに炎が荒れ狂う。

 

「螺旋丸………!」

 

メンマはその炎を螺旋丸で取り込む。

 

「こっちも行くぞ!」

 

サスケが全力でチャクラを練り込み、写輪眼に集中。

 

姿写し、心写しの法を使い、螺旋丸を使っているメンマの動き、チャクラに同調する。

 

 

「「あああああああっ!」」

 

 

炎は風に煽られてその勢いを強くする。

 

メンマは風の性質変化で螺旋丸の密度と風のチャクラを高める。

 

サスケはその風の上に火の性質変化を重ね、更なる豪炎を発生させる。

 

 

「行ける…………っ!?」

 

 

そこでメンマは致命的な光景を目にした。化物の表皮に角都の仮面が浮かび上がっているのだ。そして、その口には水の塊が見えた。

 

「水の砲弾を………っ!?」

 

あれを受ければ吹き飛ばされてしまうだろう。それはまずい。とメンマは舌打ちをした。

直撃を受ければこの螺旋丸が暴発し、一度爆発すれば諸共に焼き尽くされて骨も残るまい。だが、どうすればいいと考える暇もなく、水の砲弾がメンマ達に向けて放たれた。

 

 

「サスケ君!?」

 

 

サクラの絶叫に甲斐はなく。水の砲弾が直撃し、煉獄の炎は解き放たれ、当たり一面地獄絵図となるはずだった。だがメンマ達に飛んできた水の砲弾、それは氷の壁によって防がれていた。

 

「堅牢氷壁………!」

 

メンマとサスケは視界の端に、吹き飛ばされた白の姿を見ていた。先の触手による一撃でダメージを負ったのだろう、頭から血を流しているようだ。だけど状況を判断し、やるべきことをやった白。ばたりと倒れ、地面に伏せた。気絶したようだ。

 

 

「ヲヲヲヲヲヲヲヲン!」

 

 

雷撃の範囲から逃れている触手が数本、こちらを襲ってくる。今度こそ仕留めるつもりだったのだろう、が。

 

「させるかよ!」

 

「しゃーんなろ!」

 

再不斬の首斬り包丁と、サクラの投げた巨大な岩によって防がれた。イタチとカカシは変わらず、雷華の術を浴びせて化物の動きを止めて続けている。

 

 

(思えば、奇妙な縁だ)

 

メンマは苦笑する。かつては殺しあった6人が、時を経てこの場所に集り、助け合っている。背後では応援の旋律が流れていた。

 

 

――――そうして。

 

(場は整った)

 

(やれるな)

 

(誰に言ってる)

 

 

軽い口調で二人。それでも、繋がった螺旋の中では術が完成していた。

 

 

「――――光り射す世界に」

 

 

高めに高められた炎の奔流が螺旋の中で荒れ狂う。一人では有り得ない熱量が、その中に閉じ込められていた。風によって炎が高められ、生まれた熱風をも利用して更なる高温へと登りつめて行く。

 

 

 

「汝ら暗黒―――――住まう場所無し!」

 

 

叫び、突進する。迎撃は無い。あるはずがなかった。全員の尽力により、万難は排されたから。

 

故に、あとはぶつけるだけだ。

 

 

「「乾かず、飢えず、無に還れ!」」

 

 

高めに高められた膨大な熱量を持って対象を焼き尽く術。螺旋の太陽を対象にぶつけて内部で解き放つ、強力無比な必殺技。

 

ジャシン教を信じる者、不老の化物と混ざった上神話の怪物となった化物を屠る術をメンマとサスケは叫んだ。

 

 

 

「「火遁・劫火螺旋球!!」」

 

 

 

抉りこまれた火球が内部で破裂し、化物は太陽の灼炎に包まれた。

 

 

 

 

 

 





レムリア・インパクトです。ちなみにレムールとはキツネザルのことだそうな。

キツネ=メンマで、サル=サスケですね。ロリババアかつ魔獣の咆哮であるキューちゃんが「昇華!」と叫んだかは定かではありません。


ちなみに角都の術名がモビルスーツと一緒なのは原作と同じです。
偽暗(ギャン)、圧害(アッガイ)、頭刻苦(ズゴック)、地怨虞(ジオング)は原作で使われた術だそうな。
裂苦連露(ザクレロ)と飛狗惨武(ビグ・ザム)に関してはオリ術ですが。
やり過ぎた感はあるけど作者はザクレロとドズル閣下好きなので後悔はしていない。
でもジオン一色だな………それがいいんだけど。

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