今話で両方とも回収します。
刺された箇所から起こる、とんでもない激痛。
これは、刺されたから起こる痛みじゃない。
強力な毒による痛みだ。
痛みに顔を歪める俺の目の前には、泣きながら俺の胸に紅いナイフを刺すジャンヌ。
ああ、俺はお前の、そんな顔が見たいんじゃないんだ。
「………ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
綺麗な顔をグシャグシャにして、必死に謝るその身体を、より深くナイフが刺さるのも気にしないで、抱きしめる。
「…逢いたかった」
「………私もです」
その言葉に、より強く、力をこめて抱きしめる。
貫かれた心臓から血が溢れ、毒は体を駆け巡り命を蝕んでくるが、そんなことは、どうでもいい。
今はただ、こいつを抱きしめていたい。
が、
「…悪い、ちょっと意識飛ぶ」
毒が完全に回り切ったらしい。
この身体も所詮は生体。
毒の無効化はできないからなぁ。
これでまた、一回死んだか。
おそらく数秒が経過したのであろう。
『十二の試練』で蘇生したことで、意識が戻る。
「よっと」
胸に刺さっていたナイフを抜き、へし折ると同時に傷口が塞がり痛みも消える。
どうやら、既知のダメージには毒も範疇に含まれるようだ。
初見では効くというのに。
「………六禄さん」
「心配かけたな。もう、大丈夫だ」
抱きしめていた身体を離し、頭を撫でる。
一度死んだことにより冷静になった頭を動かし、現状の把握に努める。
足元には、どこかで見たことのある魔方陣。
これはおそらく、ジャンヌを呼び寄せるために使われたものなのだろう。
だが、俺が知る限りではこれに限りなく近いものはあっても、これと同一のものはなかったはず。
また、俺の胸に刺さっていた紅いナイフ。
『十二の試練』により、Bランク以下の攻撃を無効にする俺の身体に刺さったが、到底Aランクとは思えないものだった。
そして、なぜジャンヌが俺を攻撃したのか。
その答えは、
「…そんなことは、どうでもいいかぁ」
お前がこうして、ここにいるのだから。
再び、ジャンヌをきつく抱きしめる。
暖かい。
鼓動が聴こえる。
「…あぁ、嬉しいなぁ」
「………私も…、です」
それがただ、嬉しい。
「…のに、水を注すんじゃねえよ」
「フン。そんなのは、私の知ったことではないな」
ジャンヌの頭越しに見える、教卓的なやつに腰をかけた長身の、長い金髪で顔の左半分が見えない女。
そいつから放たれる濃密な殺気、いや、殺意が俺の気分を害してくれていた。
おそらく、こいつがジャンヌを喚んだんだろう。
「…お前、何者だ?」
「おや?私を忘れたのか?私はお前を忘れたことなど、一度もないというのに」
その言葉に記憶の糸を辿るが、まったく持って覚えがない。
「誰だ?」
「ハハハッ!本当に分からないのか!それもそうか!あれから500年以上経っているからなぁ!!」
「………500年?」
ちょっと待て。
500年前といえば、あの時じゃないか?
いや、まさか、嘘だろう?
なにせ、ありえない。
「『エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル』か?!」
「ようやく分かったのか」
呆れた様に言うエヴァンジェリンだが、しょうがないだろう。
「吸血種が、成長するはずはないんだが?」
だから、ありえない。
この長身の女が、あのチンチクリンだなんて。
「お前を殺すために、色々準備した結果の副次的なものさ」
…なるほどねぇ。
500年前の、兄貴の復讐を、念願叶ってしにきたわけか。
そりゃそうだろうなぁ。
「で、あのナイフは?」
「知識の宝庫、あらゆる権力にも屈しない、魔法世界の独立学術都市国家『アリアドネー』。そこの最高クラスの封印庫に所蔵されていたものでな。ケルトの英雄『輝く貌』の『ディルムッド・オディナ』の『
ディルムッドの養父であるドルイドのアンガスより贈られた『破魔の紅薔薇』。
それはあらゆる魔力の循環を遮断する事が可能で、対象に刃が触れた瞬間その魔術的効果をキャンセルする。
あくまでも魔術的なものである『十二の試練』を、貫けないわけがない、か。
「ちなみに、刃に塗っていた毒は『サリン』だ」
世界最強クラスの化学合成神経毒じゃねえか。
そりゃ死ぬわ。
しかし、
「『アリアドネー』ねぇ?」
「お前を殺すために、色々知りたかったからな。多くのことを学ばせてもらったよ。特に、『幻想を見過ぎた者達の書庫』ではな」
「なんだそりゃ?」
俺はアリアドネーには、一度も行ったことはないから分からんな。
学ぶ意思があるものならば、たとえ死神でも学ばせる場所で、一体何を学んできたんだ?
「そこには、様々な御伽噺のような魔法や技術が書かれた、幾人もの先人たちの論文が、薄暗く湿気だらけの地下書庫に、まるでゴミの様に突っ込まれていたよ。なにせ、『御伽噺』だったのだからな」
…なんだ?
この、首筋を刺激する嫌な予感は。
「そこに書かれていたものは、そう、例えば」
紡がれるエヴァンジェリンの言葉は、
「『大聖杯という魔方陣による、英霊の召喚及び聖杯降霊儀式』」
「ッ?!」
「例えば、『人体練成の方法』」
「…おいおい。嘘だろう?」
「………六禄さん?」
「有史以来、数多の『転生者たち』が残した遺産。それが『幻想を見過ぎた者達の書庫』さ」
俺を驚かせるには、充分すぎるものだった。
思いっきり張っていた伏線こと、エヴァンジェリンが再登場しました。
こっそり張っていた伏線は、他の転生者の存在です。
そりゃあ、主人公、カイン、菫(ちょっと違うけど)と三人も500年の内に出てきて、他にいないはずがないじゃないですか。
自分だけが例外なんて、それこそ幻想ですよ。