それが辛い。
この女の言っていることが事実だとすると、現状は最悪だな。
なにせ、原作で最強クラスの奴が、この世界の法則以外の力も使ってくるのだから。
「しかし、助かったぞ、超とやら。お前が起こした騒動と、時間を飛ばす道具のおかげで、こうして準備する時間ができた」
「…どういたしましてネ」
俺の背後から、超の声が聞こえる。
気配を探ると、うちの三姉弟にネギやその契約者もいるようだ。
教師連中どこに行った。
あれか、事後処理か。
ん?
待てよ?
「エヴァンジェリン、お前、俺が麻帆良に居ることをどこで知った?」
「そんなことは、今は関係ないだろう?それよりも、
…ククッ。
分かってるじゃないか。
「実際その通りだが、だったらどうする?」
屋内にいた場合、分体を一斉に解放して逃げ場のない状況を作り、そのまま制圧してしまえばいいからな。
こいつに見せたのは『混濁の壁』だけなんだが、どこで俺の能力を把握したのやら。
「なに、貴様を待つ時間は三時間もあったんだ」
そう言ったエヴァンジェリンが右手を高く挙げ、
「『中規模超長距離転移魔法』の準備くらい、充分にできる」
指を鳴らすと同時に、周囲に隠された状態で展開されていた魔法陣が起動し、教会内に居た人間全てをどこかに飛ばした。
「………で、ここはどこなんだ?」
見渡す限りの、どこか既視感のある、酷く殺風景な光景。
ここはいったい?
「『魔法世界』が火星に造られた世界というのは、お前も知っているな?」
「…ああ」
おそらく、ここもそういう世界ということか?
「ここは論文の記述を再構成し、私が月に造りだした世界。差し当たり、『ムーンセル』とでも名付けようか。ああ、安心しろ。この世界を構成する魔力は月に存在する莫大な魔力で賄っている。戦っている最中に消えることはない」
ああ、どうりでこの既視感か。
なるほど、EXTRAの舞台を
しかし、月か。
マズイな。
「ここにいる間、私は真祖として月の恩恵を、満月の恩恵を受け続ける。というのは、お前だったら既に理解しているよな?」
「もちろん」
余裕たっぷりに、返してやる。
余裕なんて、実際は欠片もないが。
俺は月の満ち欠けによる力の変動なんて、まず起きないからなぁ。
向こうは強化された状態で、こっちはいつも通りとは、不利にも程があるだろう。
「まあ、そんなことは、どうでもいい」
抱きしめていたジャンヌを離し、『活歩』で間合いを詰m『ガクンッ』………何?
「…ジャンヌ?」
「………ごめんなさい。…身体が………」
動き出そうとした俺の身体を、後ろから抱きかかえる形でジャンヌが止めていた。
さっきのナイフの時といい、いったい…?
いや、さっき言っていた『大聖杯という魔方陣による、英霊の召喚及び聖杯降霊儀式』…。
………その召喚方法でジャンヌを喚んだというのなら、まさか!?
「ハハハハハッッ!!どうやら、貴重な『令呪』を二画も使ったのが功を奏したようだな!!」
「ッ!!やっぱりか!」
喚びだしたサーヴァントに対する、三回の絶対的な命令権。
それが『令呪』。
だが、奴の手の甲には『令呪』など見えない。
そもそも、召喚に必要な大聖杯はどこだ?
…あ、世界樹か。
単純に考えれば、そうだろう。
二十二年の歳月をかけて魔力を溜め込み、発光という形でその魔力を放出する世界樹。
六十年の歳月をかけて魔力を溜め込み、七体のサーヴァントの召喚と計二十一画の『令呪』という形で放出する大聖杯。
結果の差異はどうあれ、類似点は多い。
おそらくだが、世界樹に術式を施し、大聖杯としての機能を与えたのだろう。
それで召喚と令呪に、残り少なくなっていた魔力が使われたために発光が急に終わったのだろう。
しかし、奴の令呪はどこだ?
そもそも、本当にエヴァンジェリンがジャンヌのマスターなのか?
「おや?その顔は私が本当にマスターか疑っている顔だな?」
「ッ!?」
ギニィッ、と、口の端を歪めながら指摘してくるエヴァンジェリン。
簡単に表情に出るなんて、相当俺も追い詰められているみたいだな。
「どれ、私がマスターだという証拠を見せてやろう」
そう言って、その容貌と合ったドレスと一緒に身につけていた長手袋を、右手だけ外すエヴァンジェリン。
そこには、
「これで信じただろう?」
「………おいおい、嘘だろう?」
既に使われた分も合わせ、二十一画の『令呪』が存在していた。
中規模→教会内という範囲
超長距離→月までという距離
ということでした。
結構大それた事をした割には、終始トーク。
主人公が地味にメンタル面で追い詰められてますが、何気に今まで自分がしてきたことをされ返しているだけという事実もあったり。
トークとパフォーマンスで精神的優位に立つのは、主人公だけの専売特許ではないのです。