「分体300体解放!」
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!
「………ラ・ピュセル・メイギス・メイガス!
「オォッ!?」
三人同時に攻撃。
初速は詠唱の必要のない俺に軍配が上がるが、いかんせん距離がある。
俺の出した分体たちが辿り着く前にエヴァンジェリンの呪文は完成し、さらに背負っているジャンヌが俺の目に向かって光の矢を放ってきたため、目が眩む。
これにより二の手を出すことも出来ず、エヴァンジェリンの魔法が今俺が立っている所まで達してしまう前に、全力で後退するしかない。
『えいえんのひょうが』は半径150フィート、つまり約半径46メートル圏内をほぼ絶対零度下におく魔法。
目測だがこの世界は、約100×100×100メートルの立方体で出来ている。
全力で下がれば、『えいえんのひょうが』の効果範囲内から逃れることは簡単なはず。
…エヴァンジェリンに向かった300体は、既に手遅れのようだが。
「チッ、逃げられたか」
「300も捕まえてよく言う」
「たった300だろう?」
『えいえんのひょうが』は、凍らせたものを粉砕する『おわるせかい』と、氷結封印する『こおるせかい』に繋げられる。
なのにどちらもしないということは、分体も俺も、その全てを凍らせてからということなのだろう。
実際、『えいえんのひょうが』の時点で300体は氷漬けで動けなくなっているから、そちらを警戒する必要も薄くはなっているし、こちらの戦力も結構な数が封じられている。
距離をとると相手に詠唱を与える暇を与えることになり、今度は俺ごと凍らされるかもしれない。
と、なると、
「近接戦か」
エヴァンジェリンが詠唱も出来ず、ジャンヌが妨害できないレベルでの高速戦闘。
それに限るな。
「ジャンヌ、口を閉じて、しっかり捕まってろ」
「………分かりました」
「フッ!」
「………ッ?!」
ジャンヌが口を閉ざしたのを確認したと同時に、『活歩』で滑る様に、間合いを誤魔化しながら瞬時に距離を詰める。
そして、
「オオォォォァアアァッァアァアアァァァアァアアアアァァァァァァァァァッッッ!!」
「アアアアアアァァァァァァァァアアアアァァァアァアアァァァァッッッ!!!」
『冲捶』、『
そのどれもがエヴァンジェリンの身体に触れることはなく、お互いにひたすら技を繰り出す。
エヴァンジェリンの動きは、ムエタイを中心にボクシングや合気を織り交ぜたもの。
時に蹴りが俺を穿とうとし、時に拳が臓器を潰そうとし、時に掌が関節を砕こうとする。
まったく、
「厄介だなぁっ!」
「ハッ!一撃もくらっていないくせに、よく言うっ!」
お互い、どれだけ拳を受けても問題のない肉体。
それなのに、お互いにまだ一撃もくらっていない。
まるで、一撃でももらえば死んでしまうというかのように。
「よっとぉっ!」
「ッ?!」
攻防の中の一瞬の隙を突き、エヴァンジェリンの身体を合気で崩す。
ガクンッ、と膝から落ちたエヴァンジェリンの足を払って宙に浮かし、
「オラァッ!」
ごく僅かな、それこそ涅槃寂静の瞬間とも言える溜め。
当てるためだけの速さしか考えられていない突きを放つ。
この一撃を入れれば、一気に戦況は俺に傾く。
今までの戦闘速度から考えて、この一撃はまず見ることも出来ない。
そのはずだった。
「甘いなぁ!」
絶対に腹部に入るはずだった俺の拳は、エヴァンジェリンが掴むことで身体を無理やり捻るための支えにされ、
「
「オオォォォッッ?!」
「キャアアァァァッッ?!」
俺の身体が伸びきった一瞬の隙を突き発動した遅延呪文が、俺とジャンヌの身体を吹き飛ばした。
しかし、今の魔法の余波で乱れた、奴の伸ばされた左の前髪。
それによって見えた、今まで隠されていたエヴァンジェリンの左目に映っていたそれ。
これまでの戦闘で様々なものを見せられ、次からは何が出ても驚かないと思っていたが、実に驚いた。
エヴァンジェリンの左目に映っていたものは、自らの尾を飲み込む蛇。
「…ラースの『最強の眼』かよ」
そりゃあ、あれだけの動きを可能にするわけだ。
視えているならば、俺たちのレベルなら動きを伴わせることくらい、造作もない。
まったく、本当に厄介だ。
裏話ですが、早々に凍らされた300体の分体たち。
その中には鶏もいます。
それとお知らせです。
またしばらく更新が難しくなります。
再び課題地獄に襲われたので。