一度手からすり抜けて、それでも愛し続けて。
待ち続けて腕の中にまた収まったと思ったら、それは幻のようだった。
崩れ行くジャンヌの体に駆け寄り支え、状態を確かめる。
その間に何かが数本刺さったが、気にしない。
「ジャンヌ!」
「………あ、六禄さ…ん…………」
「喋るな!」
口を開こうとするジャンヌを黙らせる。
刺さっているのは………、胸骨を貫いて脊柱を右肺に刺さりながらギリギリ逸れているコースか。
大動脈に刺さっていたらそれこそ致命傷だが、出血具合を見る限りでは大丈夫だろう。
あと少しで心臓の右半分に刺さるような、危ないコースだな。
だが、これなら即死はない。
「………上手く…ずらせてましたか………?」
「お前…っ」
驚いたな。
令呪の強制下で即死にならないコースに刺したのか。
刺した剣も、刀身が反りもない真っ直ぐな物で、尚且つ切れ味が良かったことも功をそうしたな。
余計な傷が付かないで済んだ。
「………フフッ」
「…?何を笑っているんだ?」
口の端から血を流しながら、ジャンヌが笑う。
「………あの頃のあなたなら、私の状…態を確認してすぐに……、怒りに任せて………彼女を殺めた…と思い…ます。でも…、そうはしない………」
「…歳を、取ったからな」
そう、俺は歳を取った。
見た目では分からないが、500年の歳月は確実に俺の中に蓄積されている。
「………変わり…ましたね……………」
「嫌か?」
「………いえ。…とても嬉しいです…」
どうして嬉しいのかは言わない。
ただ、伝わってくる。
「そいつを召喚したときに、召喚の魔法陣に『人体練成』の練成陣を組み合わせて召喚してなぁ。そいつは今、受肉しているんだよ」
また、死なせることになるなぁ。と、口を歪に歪めて笑みながら言うエヴァンジェリンの言葉を、ただ聞き流す。
「………六禄さん」
「…なんだ?」
聞き返してはみるが、何を言おうとしているかなんて簡単に分かる。
だから、ジャンヌの口が動くのに合わせて、言う。
「「………『本契約』を、してくれませんか?」」
言った後、お互いに思わず笑い、分体を使って陣を描く。
「…ジャンヌ、神でも俺でも誰でもなく、もう一度お前に誓う。死ぬまでなんて言わん。この身が朽ち果て消えた後でも、俺はお前のことを愛し続ける」
それは、あの時に告げた誓いの言葉。
まさか、二度も言うことになるとは思わなかったな。
「………はいっ」
涙をいっぱいに溜めたジャンヌの目。
それが閉じられ、
ふわり
出逢った頃と、最後の時と同じように、唇が合わさった。
そして、契約陣がそれまでに見たことがないほどの光量を発し------------
~Sideエヴァンジェリン~
思わず、見惚れてしまった。
それがまるで、崇高で神聖な物語の中に出てくる一幕であったようだから。
聖女と咎人が愛を誓う如き姿が、何よりも尊いものに見えてしまったから。
あれほど憎んでいた男の姿であるにもかかわらずに。
ただ、見惚れてしまった。
「ッッ!!!?」
その事実に気付いた時には、既に莫大な光量とともに契約が完了していた。
そして、それは光の中から聞こえてきた。
「『
「ッッ!!」
静かに、ただ慈しみを持って発せられたそれは、『アーティファクト』を召喚するための言霊だった。
ただ、その後に続いた言葉が、私を焦らせ、動けなくする。
「『渇く、飢える、渇望する』」
これが何かを、私は知っている。
「『その意味を、その答えを』」
誰も立ち入らぬ地下書庫の知識ではなく、
「『されど其は未だ見つからず』」
あれは兄様が生涯一度だけ、
「『されど汝等はそうならぬ様』」
幼い私にだけ、
「『いつか永き年月が』」
親愛の証として見せてくれた、魔法ならぬ大魔術。
「『汝等を擂り潰さぬ様』」
これは、それと同じだ。
「『汝等にこれを贈る』」
光を中心として、白百合が咲き乱れ私の足元を過ぎ去って行く。
「『そう、ここは汝等に捧ぐ場所』」
世界を、己の心象風景で塗り替えるそれを、
「『
『固有結界』と、あの時兄様は私に教えてくれたのを想い出した。
全てはこの時のために。