「『来たれ』」
その言葉が引き鉄となり、カードが光を放つ。
気が付けば俺の姿は上半身は裸に羽織を羽織っただけで、下半身は袴というあの姿になり、目の前には無色でありながら輝く球体が浮かんでいた。
それが何で、どうすればいいかが、初めて見るはずなのに分かる。
「『渇く、飢える、渇望する』」
まるで最初から知っていたかのように、口が、舌が、咽喉が動き言葉が出る。
「『その意味を、その答えを』」
それはそうなのだろう。
この言霊は、俺自身なのだから。
「『されど其は未だ見つからず』」
ジャンヌと出逢って、見つけていたはずなのに、
「『されど汝等はそうならぬ様』」
手の中を砂を握り締めたようにすり抜けて行ったそれを、俺はまだ探している。
「『いつか永き年月が』」
だから、
「『汝等を擂り潰さぬ様』」
お前たちがこんなどうしようもない俺みたいになってしまわないように、
「『汝等にこれを贈る』」
切に、
「『そう、ここは汝等に捧ぐ場所』」
願う。
「『送生の樹』!!」
球体が壊れ、世界が塗り替えられた。
~Sideエヴァンジェリン~
目を開けると、そこは白百合のたなびく夜の平原。
それ以外に存在するのは、空に輝く月を握るかの様に、枝を伸ばしそびえる大樹。
その枝葉の隙間から
兄様の『固有結界』は、空を無数の歯車が覆う荒野に、無限の剣が墓標のように刺さっている世界だった。
あの時、兄様は『固有結界』とは使用者の心象風景で世界を塗り替える、魔法ならぬ大魔術と言っていた。
しかし、あの荒涼として寂しい世界からは、兄様を感じることはできなかった。
そのことを兄様に言うと、困ったような表情をして笑って誤魔化したのを覚えている。
だが、この空間は、世界は違う。
夫婦として過ごしたゆえか、共通点の多い二人の心象風景が混ざり合い形成される世界。
あの書庫の文献には征服王『イスカンダル』が『仮に』大聖杯を使用した召喚術によって召喚されれば、彼は
これは、それと似て非なるものなのだろう。
「痛むが、動くなよ?」
「………はい。…んっ!」
と、この世界について考察をしていたら、奴らが動いたか。
キャスターの胸に刺さっていた剣を抜くとはな。
刺さり方を考えると、心臓や大動脈などからの出血はないだろうが、それでも刺さっていた時よりも出血量が増えるはずだが。
おそらくはこの世界の効果に関係する動作なのだろうが…、何をする気だ?
「ほら、少し痛むぞ」
ッ?!
奴がキャスターの首筋を噛み、その傷口が煙を出して癒えるのが見える。
まさか、吸血鬼化か!?
…いや、傷の治癒程度でそれをするならば、あの二人が死に別れることはなかっただろう。
ならば………、いったい?
…はっ!!
この世界の効果か!
おそらくだが、この世界で奴に噛まれたものは絶対的に治癒するのだろう。
本来ならば魔法でもできないことだが、ここは固有結果以内。
それくらいのことは、おかしくはない。
ならば、対処は簡単だ。
「治癒する前に、殺せばいい!!」
背後の『王の財宝』から、これまでに集めてきた宝具を乱射する。
それを阻もうとしてか、獣たちが射線上に躍り出る。
だがその程度、先ほどからずっと串刺しにしてきた奴らと同じく、ただ射線軌道を変えることしかできないだろう。
あの二人に刺さるのも、時間の問題だな。
その、はずだった。
パキィィィィンッッ!!
「なに?!」
獣の牙により、呆気なく砕かれてしまった宝具。
それも、一つや二つではなく全ての宝具が牙で、爪で、尽く砕かれ、壊され、残骸を晒していく。
「どういうことだ?!」
先ほどまでは獣たちを駆逐するだけだった宝具たちが、今度は牙に爪に、触れるだけで壊されてしまう。いったい何故?!
「何で宝具が壊れるのか、何でジャンヌの傷が治ったのか解らないって面だなぁ?」
「ッ!?」
しまった!
顔に出てしまったか!
「散々好き勝手してくれたが、ここからは俺が好き勝手させてもらうぞ?」
奴が宣言したと同時に、四方八方から獣の群れが襲い掛かってくる。
その中には絶対零度で凍りつき、動けなくなっていたはずのものたちも含まれている。
「クッ!クソガアァァァッッ!!!」
宝具を射出して足を止めようとするも、その全ては砕かれる。
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!!『
ならばと思い、宝具ではなく魔法で攻撃する。
しかし、
ぼしゅぅぅぅ…………
と、獣たちに触れた瞬間に威力を失い、消滅してしまった。
いや、威力ではない。
消費するはずだった魔力が失われたのだ。
「どういうことだ!!?」
あまりの現象に、焦り憤る。
宝具の破壊と魔法の無効化。
それは私の持てる有効な攻撃手段が、枯渇していることを意味していた。
その私の焦りで生まれた隙間を縫うように、一筋の声が聞こえた。
「エヴァ」
「ッッ!!兄様ぁぁっ!!」
獣たちの中に見えた、もう二度と逢えないはずの人。
愛しく、恋しかった兄様がそこにいて、
ずっとずっと、また名前を呼んで欲しかった。
ずっとずっと、またその姿を見たかった。
ずっとずっと、また抱きしめたかった。
ずっとずっt「良い夢は見れたかよ?」ッッッ!!?
私の首筋に走る痛み。
見れば、一匹の蛇が噛み付いていた。
「アアァァァァッッッ!!!??」
首筋ではなく、右腕に走る痛み。
これは?!
「…告げる。汝の身は我の隣に、我が命運は汝の魂に。聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら我と共にあれ。ならばこの命運、汝と共に在ろう」
「………あなたの妻として誓い、ここに契約はなりました。…また、あなたの傍にいれるのですね」
「ああ」
再契約だと?!
それは令呪がなければできないh……………令、呪?
「まさか!?」
咄嗟に右腕を見る。
そこには、
「私の令呪を奪っただと?!」
何故だ?!
いったいどうやって?!
「私が教えよう、エヴァ」
「…えっ?」
不意に、後ろからギュッ、と抱きしめられる。
それは確かに、兄様の温もりだった。
「この世界、『送生の樹』はこの『固有結界』内全ての生物に
「あ、あぁ…」
私の耳元で囁かれる声に、力が抜ける。
「宝具を壊したのは、『宝具破壊』の概念を与えられたため」
これは、奴が見せている
「魔法を消したのは、『魔法無効化』の概念を与えられたため」
だが、
「令呪が委譲したのは、『契約の初期化』の概念を与えられたため。そして俺がいるのは」
それでも、
「お前を」
「…この夢を、見続けていたいなぁ………」
涙が溢れ出て来る。
顔は何故か笑顔を作っている。
涙と鼻水が口に入って、しょっぱい。
次に来る言葉はわかっている。
これは、奴の見せている夢なのだから。
私を、人間に戻すと言うのだろう。
「はは…」
滑稽だなぁ。
あんなにも燃えていた復讐の念が、こんな夢くらいで消えるなんて。
「さあ、一思いn「護るためだ」ッッ!!」
聞こえてきた声は、確かに
…ああ。
どうやら私の夢はまだ醒めないでいてくれるらしい。
『送生の樹』
ランク:EX
『水無月 六禄』本人の『固有結界』。
『固有結界』内に存在する全ての生物に、概念を与え『概念兵装』にする『固有結界』。
一体につき一つしか概念を与えられないが、展開中は何度でも概念を与え直せる。
本来であれば自分が一人しかおらず、味方がいたとしてもそれぞれが自己を持って行動するため効果が薄くなるが、分体として自分が増える『獣王の巣』と組み合わさることで、相乗作用を起こす。
『
ランク:E~EX
『水無月 六禄』の『アーティファクト』。
使用者の心象風景を、『固有結界』として展開する効果を持った無色の球体。
展開される『固有結界』は使用者次第であり、使用者の『固有結界』によりランクが変わるため、能力だけを見たらEXだが、どこか惜しい『アーティファクト』。