「奴に取り込まれた影響か、今の私には魔法を使うことも投影もできない。だが、奴の肉体にかけられている護りと同じ能力が、この身には備わっている。私が近寄って抑えるから、そこに宝具や魔法を叩き込め」
私の耳元で囁かれる、兄様の言葉。
それはおそらく、現状でもっとも正しいのだろう。
何故、兄様の意識が戻っているのかは分からない。
だが、魔法があるのだから、こういう奇跡もあるのだろう。
「どういうことだ?!俺の分体が俺の制御を離れた挙句、生前の人格を取り戻しただと?!少年誌みたいな展開じゃねえか!!しかも俺が悪役でな!」
想定外過ぎるであろう事に、奴が驚き焦る。
それを見た兄様が、その隙を逃さないよう全力で、獣たちに妨害されながらも奴に駆け寄る。
妨害してくる獣たちは、そのつどかわしている。
当然だろう。
兄様は筋力が弱かったから、獣たちを相手にしたら筋力差で競り負けてしまうからな。
「チィィッッ!!」
気が付けば、奴の眼は既に兄さまだけを捕らえていた。
自分の手を離れた使い魔に対し、それだけの精神的負荷がかかったのだろう。
私の周囲から獣たちは消え、兄様に群がっている。
今なら、奴の『固有結界』の能力に邪魔をされないよう、あらゆるものを複合した一撃の準備ができる。
「『
背後に展開していた『王の財宝』を、球形の魔力塊に押し固め固定する。
『
それを『
『闇の魔法』は兄様を失った私が、初めて独力で完成させた技法。
魔法を掌握し、取り込むことでありとあらゆる効果を得、自身の能力の底上げも成すこれを、私が成長した姿を見せたい。
あの護られているだけだった私が、護らなくてもいいという姿を見せたい。
『王の財宝』を取り込み終わったが、これではまだ足りない。
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!『
液体の物質を無理矢理気体に相転移させて作り上げる、断罪の剣。
私が作り上げた、もう一つの証。
「アアァァァァッッッ!!」
「ッ!?あれは?!」
「余所見をしている暇はないだろう?」
私の咆哮に意識を向けた奴を、兄様が牽制する。
それで、最後までの必要な時間は稼げた。
吸収が終わり、私の身体が変化する。
元から白かった肌が更に白く染まり、髪も鮮やかな金色が脱色したかのように白く、そして全身には紅い血の様な紋様が走る。
初めて成ったこの姿だが、名付けるならそうだな………、
「『
「…世界を滅ぼした洪水でも再現できそうだな、おい」
「さすがにそれはできないな」
なにせいくら宝具を所有していても、どんな古代魔法が使えても、
「たった一度の復讐を遂げることさえ、こんなにも難しいのだから」
「…クッ、ククッ!クハハハハハ!!なるほど!違いない!!」
奴の口から出た哄笑。
片手で顔を覆い、天を仰ぐように笑うその様は、物語の悪役を髣髴とさせる。
「笑っている暇はないぞ?」
その笑い、視界を覆っている隙を突き、兄様が駆ける。
だが、それを無視して獣たちは、私の方に向かいだした。
「な?!私はいいというのか?!」
「わざわざ反逆した分体一体ごときを潰すよりも、エヴァンジェリンを潰すほうがよほど有益だからな」
そのことに焦る兄様と、淡々と冷徹に言う奴。
だが、問題はない。
「散れ!」
私の体中に闇の波紋が現れ、そこから夥しい数の宝剣が射出され獣たちへ襲い掛かる。
「無駄だって分かっているだろうに」
そう、奴の言うとおり『宝具破壊』の『概念兵装』となった獣たち相手には、宝具の射出など足止めにもならない。
そう-----------
「さっきまでならな」
ドシュドシュドシュドシュッッッ!!!
「なにぃっ?!」
爪が、牙が、先ほどまで脅威であったそれらが何の意味もなさずに、無慈悲に宝具が獣たちに刺さる。
その様子を見て驚く奴。
そして、
「捕らえたぞ!」
「ッ!?しまっ!!?」
奴が驚いたことによりできた、数瞬の隙。
その隙を逃さずに駆け抜けた兄様が、奴に取り付いた。
これで、私の悲願は叶う!
文献を漁っていく中で、歴史書に残された奴の足跡を辿る中で見出した、奴の能力。
それは665の分体をその身に内包し、それら全てを自己として統括、更には蘇生能力も合わせた『獣王の巣』。
また、あの時兄様はAランクの宝具を使用していたことは、森に残っていた戦闘跡で分かる。
だが、それでも奴は死ななかったし、そもそもそんな『投影』の負担がかかるようなものを使わなくてはいけないことを考えて導いた、もう一つの能力。
Aランク未満の攻撃を無効にし、更に11個の命のストックを併せ持った『十二の試練』。
だから私はAランクの宝具を集め、Bランクの宝具にはルーンでの強化を施し、ありとあらゆる魔法を研鑽し、生み出してきた。
そして、私は考えた。
666の命は全て自己であるというのなら、切り離されたときそれらを統括するものは何であるかと。
あの時奴が私の魔法を防いだ際、いくつもの分体を束ね壁としていた。
そしてそれらは全て、奴の体に戻っていった。
つまり、666を統括する固体、むしろ意思と呼ぶべきものは、人間体である奴そのものにある。
獣たちが残っていれば蘇生されてしまうが、例外も存在する。
『教会』の所有する道具の中には、そういうもののために存在する道具があるらしい。
だが、それに手を出すことはさすがに叶わなかったため、別のアプローチを試みることとなった。
それは、統括する意識から全ての固体に伝播させることで、奴の全てを滅するという方法を。
長い時をかけて研究し、それは一つの魔法として完成した。
「『王律鍵』!」
自らの身体をゲートを通じ、奴の背後に転移させる。
既に準備は、ここに来る前から、キャスターの召喚の前からできている。
あとは、『遅延呪文』を解放するだけ。
手を伸ばして構えた瞬間、奴を取り押さえる兄様と目が合った。
その目元は優しく垂れ、その口元は、
ギニィッ
と、歪んだ。
「魔法があるからって、奇跡もあるとは限んねえだろうよ」
「え?」
兄様の口からつむがれる、奴の言葉。
それにより生まれた一瞬の動揺。
プツッ
と足元から音がして、見たら一匹の蛇が私の足を噛んでいた。
ありはしない。
最近は丸くなっていましたが、作中で最もダーティなのは主人公です。
あと、エデンでEveに知恵の実を食べるよう唆し、結果として楽園から追放させたのは蛇なんですよね。