「あ、ああ…、あぁぁぁ………。アアアアアァァァァアァアァアァァァァァァッッッ!!!??」
私の身体から、そして魂から、何かが失われていくのが分かる。
いや、何かではない。
あれは、私が500年以上も共にすごしてきたものだ。
「き!貴様ぁぁッッ!!」
「ククッ、人間に戻った気分はどうだよ?『エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル』」
喪失感に膝を突き、蹲る私を
「お前たち兄妹が、化け物と罵られ、謗られ、中傷され、迫害された原因が消えた気分はどうだ?」
「ふざけるなぁっ!!」
私が今まで使ってきた魔法も、宝具も、全ては真祖たる人外の魔力量をもってして初めて成立するもの。
それを消された今、こいつに対して振るう力は失われたということ。
つまりは、私が復讐を遂げることは、できなくなってしまったということだ。
「さて、と」
奴の声と同時に、夜空も大樹も白百合も、全てが薄れて消えていく。
そして再び、あの無機質な『ムーンセル』の光景が視界に映る。
「さすがに『固有結界』を、常時展開の『獣王の巣』と同時展開はきついからな」
「ッ!!」
『固有結界』を解除するなんて、もう余裕のつもりなのか?
…いや、余裕だな。
今の私は、人よりも魔法の行使が上手いだけの人間。
真祖の再生力も魔力もない、奴からしたら羽虫の様に無害な存在だろう。
ピシッ
と、食いしばった奥歯から、皹の入る音がする。
悔しい、辛い、胸が痛い。
あそこまでやって、命を数個削る程度しかできないのか。
「それじゃあ、俺たちを麻帆良に帰してもらおうか?」
奴がしゃがみ、あの時のように目線を合わせて話しかけてくる。
もう、完全に勝利を確信しているのだろう。
あの、血煙が漂い、死体が幾重にも重なるオルレアンで、泣きじゃくる私に話しかけた時のように。
あの、兄様との約束だからと、見逃された時のように。
ここで、私の復讐は途絶えるのか?
何一つ成さないまま、惨めにも、怨敵に見逃され、情けをかけられ、また独り生き延びるのか?
ふざけるな!
ふざけるな!
ふざけるな!
考えろ!
思考しろ!
まだ何が残っている!
転送先を変更?
ダメだ。そんな急に座標変更はできない。
魔力を搾り出して攻撃?
ダメだ。一つの命すらも削れない。
宝具を『壊れた幻想』で爆発させる?
ダメだ。一つや二つの命を削れたところで、焼け石に水にしかならない。
何だ?
まだ何がある?
「早いところ、この『ムーンセル』から帰りたいんだが」
「………………………………あ」
それだ。
「まだだ!」
「ん?まだ何かする気なのか?」
立ち上がって、駆け出す。
向かった先は、この空間の中心点。
そうだ。
全てが終わった後のために用意していた、あれがまだあったではないか。
中心点に辿り着くと、膝を突いて地面に両手を当てる。
「おい、お前何をs「…こういうために、用意したのではなかったんだがな」」
手から地面に、魔力を流す。
するとその魔力が線を描き、世界全体を覆う陣となり、
「………もう、これで全部終わりだ」
ガシャアァァァァァァンンンッッッ!!!
と音を立て、線に沿う形で『ムーンセル』が天井から崩壊し、魔力へと還り始める。
…本来なら、維持が面倒だから全てが終わってからの後片付けのつもりで用意した術式だったんだがなぁ。
~Side主人公~
「嘘…だろ………?」
見上げるとそこには、まばゆく輝く星々とひび割れ崩れゆく世界。
エヴァンジェリンの最後にとった行動は、心中だった。
さすがの俺でも宇宙空間に放り出されるのはまずい。
それに、この場には俺だけではなくジャンヌも子供たちも、ネギや超もいる。
そいつらも全員護ることを考えると、どう足掻こうとも無理がある。
『送生の樹』に一時避難は?
…いや、時間がない、か。
そう考えている間にも、世界の崩壊は進んでいく。
既にもう、上空は星空しかない。
「ジャンヌ」
「………すいません。転移魔法は使えないんです」
「そうか」
キャスターの座で現界したとしても、できはしないか。
「ネギは?」
「…できないことはないですが、解析に時間がかかります………」
つまりは間に合わない、か。
元凶のエヴァンジェリンを見やれば、光のないどこか虚ろな眼でこちらを見ている。
「…これで本望か?」
その眼が気になり、一つ問う。
「…本望ではない。私はこの後も生きるつもりだったしな。………だが、これも悪くはない」
淡々とつむがれる、諦めにも似た言葉。
ベストではないが、ベターということなのだろう。
「………そうか」
奴の言葉は聞いた。
あとはこっt「悪くないわけがないだろう。このたわけめ」………え?
突如、背後から聞こえてきた声。
今の声は、奴…の?
いや、待て。
俺は何もしていないぞ?!
「エヴァ。私はお前に、幸せになれと言い残したはずだが?」
「に…、に…いさ………ま?」
視界に映るエヴァンジェリンの眼に光が灯り、顔が驚きに染まる。
「I am the bone of my sword」
その詠唱の直後、床に刻まれた魔法陣。
魔法陣を『投影』したということか。
確かに、形さえ正しければ機能する魔法陣ならば、『投影』しても何の支障も起きないだろう。
そしてそれが発光し、
「復讐など、どうでも良かったんだ。私はお前に--------」
俺たちは、麻帆良に転移された。
~Sideエヴァンジェリン~
気が付けば、あの教会の床に座り込んでいた。
ポタリ
と、床に水滴が落ちる。
ポタリポタリ
今度は二滴。
徐々にその数は増え、と間隔は狭まっていく。
そして、
「ウワアアアァァァァァアアァァァァアァンンッッッ!!」
堰を切って、涙が溢れ出す。
嗚咽が止まらない。
あれが奴の芝居の可能性は考えた。
しかし、奴には魔法は使えないし、『投影』はなおさら。
あれは間違いなく、兄様だった。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
泣きながら、謝る。
兄様の言葉を無視して、兄様の願いを無視して生きてきたことを。
ただ、自分がしたいことだけを考えて、行って生きてきたことを。
謝ってどうなるものではない。
だけど、謝りたかった。
あの時とは違い、先程直に聴いた兄様の願いを、最後の言葉を思い出す。
それは、
「-----私はお前に、ただ幸せになってほしかった」
最後まで、最後まで、ただただ願ったのは最愛の幸せ。
それが『○○ ○○』ではなく、『カイン・A・T・マクダウェル』という男でした。