魔法世界の混沌   作:逸環

114 / 124
エヴァンジェリン編、これで閉幕です。


金色と金色。

「ああっあぁぁああぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁっっっっ!!!!」

 

 

泣き続けるエヴァンジェリン。

あの時と違い、子供ではなく大人の姿で。

その姿を見る。

 

いや、見ることしかできない。

あの身体を抱き寄せることも、頭を撫でて慰めることもできない。

 

子供のあの姿であればできたことが、大人の姿であるだけでできなくなる。

…なんでだろうなぁ。

 

 

「おっと」

 

「………大丈夫ですか?」

 

 

グラリ、と体が傾き、ジャンヌに支えられる。

どうやら『固有結界』を展開したことで魔力を消費した影響が、ここで出てきたようだ。

『世界樹』からの魔力供給で肉体(獣王の巣)の維持は問題ないが、身体がダルい。

 

 

「…んー、大丈夫。ただの魔力不足だから」

 

「………そうですか」

 

 

ホッとした表情で、安堵してくれるジャンヌ。

その顔を見ると、なんとも落ち着く。

 

俺よりも低い位置にある、蜜蝋のようなその金髪。

長い睫毛と、吸い込まれるような碧眼。

高潮している頬に、引き込まれる。

 

 

「あ、ダメだ」

 

「………え?」

 

「父さん?!」

 

 

そこまで思ってから、支えられていた身体がとうとう限界を迎える。

膝から崩れ、教会の床に倒れる。

ただでさえ魔力を食う体。

それがここで魔力不足に拍車をかけているようだ。

さっきまで散々魔力を使ったせいか、『世界樹』からの供給が追いついていない。

血液を三~四人分摂取すればそれで済むだろうが、さすがに今はできないな。

 

 

「大丈夫か?!」

 

 

真名が駆け寄って心配してくれる。

その顔に浮かぶ焦燥が、今のこいつの心情を明確にしている。

 

 

「大丈夫だって。ただの魔力不足なんだから」

 

 

なんとか這いずって、ジャンヌに頭を向ける。

 

 

「床が固いから辛い」

 

「………じゃあ」

 

 

俺の言葉に、正座をして俺の頭を膝に乗っけてくれるジャンヌ。

俗に言う、膝枕だな。

 

 

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁ……………」

 

 

それを見て、心底落ち込んだ声を出す真名。

お前はいい加減、父親離れをしなさい。

 

さて、それはともかくとして、

 

 

「どうする?エヴァンジェリン」

 

「ウゥ…ッ、ズズッ…。そうだな………」

 

 

もう泣き止んでいるが、涙やら何やらでグチャグチャになった顔のエヴァンジェリンに問いかける。

なぜカインが自意識を取り戻した…、いや、この表現には語弊があるな。

カインが自意識を憑かせられたのかは分からない。

だが、そんなことよりも今はエヴァンジェリンだ。

あの言葉を受け、こいつがどうする気なのかは分からない。

だから、問う。

 

 

「なあ、どうするんだ?『エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル』」

 

「………今の私には、お前を害する手段はない。あったとしても、兄様の気持ちを二度も裏切れるわけがない。だから…」

 

 

憑き物の落ちたような、柔らかい、思わず見惚れそうになる笑顔で、言う。

 

 

「お前よりも幸せになって、せいぜい悔しがらせてやる。それが私の、最後の復讐だ」

 

「…ククッ!そうかい」

 

 

なら、いいだろう。

好きに生きて、好きに幸せになるといいさ。

どうせその復讐は、叶わないだろうしなぁ。

 

ふらりと立ち上がり、教会の外へと出ようとするエヴァンジェリン。

それはそうだ。

もう奴に、ここですることはない。

外へと繋がる扉に手をかけ、薄く扉が開く。

 

 

「ああ、そうだ」

 

 

完全に開ききる直前、ここから奴が去る前に、これだけは言っておかなくては。

 

 

「神のご加護を」

 

「神父様にもな」

 

 

そして扉は閉じられ、月光の如き輝きは視界から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~Sideカイン~

 

 

「ふむ、ここが『座』というものか」

 

 

目の前に広がる、ただただ広い血のように紅い平原と、そこに存在するありとあらゆる拷問器具と剣の数々。

これが私の心象風景ということか。

ふと見れば、背後にそびえる石碑。

そこに書かれている文字は、

 

 

「『目には目を、歯には歯を』…、ハンムラビ法典の一説だな」

 

 

なるほど。

確かにこれは「貴方にとって、相応しい物でしょう?」…ふう。

 

 

「貴方の起源は『報復』。正しく真に、『目には目を、歯には歯を』だ」

 

 

石碑から視線をはずし、後ろを向くとバサバサで目元が見えないほど伸びている黒髪で、黄色人種の肌の少年がいた。

 

 

「何故、その格好なのかな?」

 

「貴方と話すために、身体が必要だったんですよ。ただ、貴方が最も目を背けたく、そしてこの世に二つとなくなった姿をえらんだだけで。この世界に実在する他人の姿を借りるのは、なかなか大変なんです。どうです?そっくりでしょう?」

 

 

前世の貴方に。

 

そう、奴はいった。

確かに、声も、見た目も何もかも、間違いなく『○○ ○○』と同じもの。

 

 

「しかし貴方も物好きですねぇ。ただ妹を助ける、それだけのために僕と契約してまで意識だけを因子に移したんですから」

 

「悪くはない、むしろ最高の選択だと思うが?」

 

「そうですか?」

 

 

ああ、そうだとも。

『カイン・A・T・マクダウェル』としては、最高の判断だ。

 

 

「分かっているんですか?貴方はこれから僕の命ずるままに世界のための掃除屋をすることになるんですよ。万民が称える『英雄』でもなんでもない、ただの始末屋です。中には磨り減り磨耗し、理想を失った人もいます。それを知らないわけではないのでしょう?」

 

「もちろんだ」

 

 

私の焦がれたあの紅い『英雄』こそ、そうだったのだから。

だが、

 

 

「妹が幸せになるなら、それだけで十分だ」

 

 

報復が起源たる私が復讐をするなとは言えない。

だが、幸せになってくれるならそれで良かった。

ただ、それだけで。

 

 

「だから、貴様と契約したことに、何の後悔もないさ。なあ、『世界(アラヤ)』」

 

 

たった一度の奇跡を起こせれば、それでよかった。

たった一度だけの奇跡を。

 

 

「…それならば、僕から言えることはもうありません。ここに契約は成立。貴方を『霊長の守護者』とし、さっそく仕事をしてもらいます」

 

「了解した。地獄に落ちろ、マスター(アラヤ)

 

 

自らの魂が分けられ、どこかへ使わされるのが分かる。

これから私は『守護者』として、磨り減り、磨耗し、いつか自分を失う日が来るのかもしれない。

だが、それでもいい。

『カイン・A・K・マクダウェル』の願いは唯一つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エヴァ、お前は幸せに生きろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

それだけが、私の願いだ。

 

 

 

 




これにて長かった吸血鬼同士の因縁は終わりとなります。


次回は、忘れた方々もおられるのではないでしょうか。
以前とったキャラ人気投票の結果、学パロ編です。

次回の更新を、お楽しみに!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。