新たな日常。
過去からの因縁にケリがつき、愛しい
「というわけで、お前たちのお母さんです」
「………ジャンヌです。はじめまして、ですね」
「「「…あ、はい」」」
自宅のリビングで、子供たちにジャンヌの紹介をする。
前に肖像画を見せたことはあっても、こうして会うのは初めてだからな。
まあ、とにかく、こうして水無月家が全員揃ったわけなんだが、
「「「「「……………………」」」」」
この気まずい空気は、どうしたものだろうか。
まあ、これまで四人家族でやってきたところに、突然『お母さん』が現れたわけだからなぁ。
状況的には、シングルファザーと子供たちで仲良くやっていてこれからもそうだろうと思っていたら、ある日いきなり父親が恋人を連れてきて「この人と結婚する」って言ったようなものか。
………俺でも戸惑うな。
うん、それはしょうがない。
ネギ?
カモと一緒にジャンヌに色目使い出したから、庭にパイルドライバーで埋めておいた。
ただな、
「真名、なんでそんなにジャンヌを親の仇、いや、恋敵を見るような眼で見ているんだ」
「分かっているんじゃないか!」
「そりゃあ、お前の父親だし」
そのぐらい分かるわ。
余裕で分かるわ。
「ま、そんなことは、どうでもいい。とりあえず夜も遅いし、今日はもう全員寝よう」
パンッ、と手を打ち、就寝を促す。
ネギ?
埋まってればいいさ。
今日のところは、顔合わせ程度で良いだろう。
なんにしろ、今後は一緒に暮らすことになるんだ。
相互理解と母子間の関係の形成は、これからしていけばいい。
…できるよな?
特に真名が不安なんだが。
~Side真名~
父さんが促すのに従い、自分の部屋に入る。
何故か刹那が小太郎の後ろを気配を殺して着いていったのは、無視をする。
無視をしておくに限る。
ベッドに入って、布団を頭から被って身体を抱きしめる。
分かっていた。
始めから叶うはずがないだなんて。
基本的に父さんは女に優しいから惚れる女も勘違いする女もいたし、父さんはフリーだから告白する女もいた。
でも、いつだって父さんの視線の先には、そこにはいないはずの母さんがいた。
父さんの横に立っているのは、いつだってそこにはいないはずの母さんだった。
それでも、いつかは私に振り向かせられると思っていた。
そんなことは、ありえないと分かっていたのに。
「…うっ…うぅぅ………っ」
嗚咽が漏れる。
涙が溢れる。
歯を食いしばって、それらを押さえ込む。
泣いちゃいけない。
泣いたらこの想いも流れてしまう。
だから、泣いちゃ「真ー名」…え?
父、さん…?
「入ってるぞ」
「入ってるのか?!」
思わず布団をめくり挙げて飛び起きる。
失恋に泣く娘の部屋に、一切の音を立てずに勝手に入ったのかこの父親は?!
なんて非常識なんだ!
「ククッ、なんだ元気じゃないか」
「ッ!………私に何の用だ?母さんとイチャついてれば良いじゃないか」
違う。
言いたいことは、こんなことじゃない。
私を撫でて。
私を抱きしめて。
私にキスをして。
私を…愛して。
伝えたい言葉は、いくらでもある。
でも、意地を張った自分が、それを許してはくれない。
「んー、そうしたいのも山々なんだけどなぁ」
むぎゅっ
「………え?」
「お父さんはさ、お母さんよりも子供を大事にしないといけないからなぁ」
気が付けば、私の視界は父さんの身体で覆われた。
抱きしめられたと気づいたときには、より密着感は増して、私の顔がどんどん熱くなるのが分かった。
「と、父さん!?」
「ククッ、どうしたよ?」
慌てる私をからかうように、より強く抱きしめられる。
私が観念して、色々と複雑な表情と真っ赤になったであろう顔をしたまま抱き返すと、ポツリポツリと父さんが話し始めた。
「最初お前を拾ったときはさ、500年も一人旅してたせいで俺自身が寂しくなってた時だったんだ」
「…そうか」
「そんなときにお前を見つけてなぁ、丁度いいと思ったもんだったよ」
「…そうか」
「最初は俺の身体のこともあるし偽装親子だって割り切ろうとか思ってたんだけど、一日一日成長していくお前を見てたらな」
「…うん」
「誰にも渡したくなんて、なくなっちまってたんだ」
「…それは、嬉しいな」
私からは、父さんの表情は見えない。
だが、その声色はとても優しくて暖かで。
「俺はジャンヌのことを大好きだし愛してる。でもな、それと同じくらい、お前たちのことも大好きだし愛しているんだぞ?」
うん。
分かっていたよ、そのくらい。
「俺の娘になってくれて、生まれてくれて、ありがとう」
「…うん」
私の父さんになってくれて、ありがとう。
そう言いたいけど、その言葉が出てこない。
代わりに出た言葉は、
「キス…してくれないか?」
「ん」
父さんから少し身体を離し上を向き、目を閉じると、額と両頬に落とされる唇。
意味は確か、祝福と親愛だったか。
「お返しだ」
「ん」
目を閉じた父さんの髪と両頬、それと腕にキスをする。
「…お前ね」
呆れたような、父さんの顔。
でも、声はどこか嬉しそうで。
「父さん」
「なんだ?」
「大好きだ」
今度は、私から抱きしめる。
強く、強く、強く。
涙を流しながら、ただひたすらに。
眼を覚ますと、既に父さんはいなかった。
どうやら私は、あのまま寝てしまったらしい。
ふと気付くと、部屋の外から漂ってくる卵の焼ける匂い。
それに誘われて階下に降りると、キッチンで金髪の女の人が料理をしていた。
その人は私に気が付くと、こっちを向いて、ふわりと笑いながら挨拶をしてきた。
「………おはようございます」
「ああ、おはよう。…母さん」
私の言葉に少し驚いたような顔をすると、すぐに笑みを深めて料理を再開し始めた母さん。
これが、これからの日常なんだろう。
リビングでテレビのニュースを見ながら、ソファーで寝転がっている父さんを見ると、余計にそう思う。
これまではずっと、父さんが食事を作っていたから。
父さんの作るご飯を食べる機会が減るのは少し残念だが、
「父さん、おはよう」
「おはよう、真名」
こんな日常も、悪くはない。
洗面台の鏡に映った私は、真っ赤な目で微笑んでいた。
というわけで、今回は真名メインの回でした。
そう、ジャンヌじゃなかったんだ。