自分の部屋の扉を開け、自室に入る。
うちに母ちゃんが来た。
今までいなかった、母ちゃんが。
なんでも、500年前に死んでたらしいけど、あの金髪の吸血鬼が喚び出したらしい。
蘇ったのではなく、喚び出した。
その微妙なニュアンスの違いに引っ掛かりを覚えるけど、父ちゃんがずっと嬉しそうにしているから、気にしないことにする。
そう、そっちは気にしないんや。
「こっちは気にするけどなぁ!」
「ん?どうしたんや?小太君」
全速力で後ろを振り向くと、刹那姉ちゃんがキョトンッ、とした顔で立っとった。
ここは俺の部屋。
なんで刹那姉ちゃんが当たり前のように俺の後ろに立っとるんや。
何で気配を極限まで殺して立っとるんや。
「よく分からんけど小太君?」
「…なんで分からないんや?………なんや?」
どうせロクでもないことを言うに決まっとる。
「ペロペロしてええ?」
「本当にロクでもない!?」
ビックリした!
分かっちゃいたけど、ビックリした!!
そしてガッカリしたわ!
思わず床に手を着いて叫ぶくらいガッカリしたわ!!
「ダメに決まっとるやろ!?」
「じゃあ、クンカクンカなら…」
「何で許しが出ると思ったん?!」
ペロペロもクンカクンカもさせるわけがないやろう!!
弟にそんなことがしたいなんて、なんでそんなにド変態なんやねん!!?
あ、父ちゃんのせいか。
…いや、父ちゃんは確かに下ネタスキーやけど、こういう種類の変態やないしなぁ。
「クンカクンカ」
「って、勝手に臭い嗅がれとる!?」
やめて!?
本当にやめて!?
「俺の頭に悦に染まった顔を押し付けないでくれや!!」
「嫌よ嫌よも好きの内なんやで!」
「これは純粋に嫌なんや!!」
「………もう夜中ですけど、何をしているんですか?」
「「あ」」
刹那姉ちゃんと一緒に騒いでたためか、母ちゃんが扉を少しだけ開けて、顔だけ出して俺らを見とった。
凄く、気まずい。
「…小太君がペロペロもクンカクンカもさせてくれないんや」
「俺が悪いみたいに言わんでくれる!?」
事実が屈折して伝わるやろ!
「………えっと、刹那さん。小太郎君は嫌がっているんですよね?」
「嫌よ嫌よも好きの内やろ?」
「嫌なものは嫌なんやで!?」
もう嫌やこの姉。
何でそんな当たり前って顔できるん?
「………刹那さん、ちょっと正座をしてください」
「…え?」
「………正座です」
「あ、はい」
突然、刹那姉ちゃんを床に正座させる母ちゃん。
助かったけど、なんか怖い。
「………まず訊きますが、あなたは小太郎君が好きなんですね?」
「愛しとる」
あ、なんか凄く恥ずかしい。
今、絶対に俺の顔紅いわ。
だって熱いもん。
「………いいですか?小太郎君のことが好きなら、小太郎君が嫌がるようなことをしてはいけません。そんなことより、自分を磨くんです。女の子が男の子に振り向くんじゃなくて、男の子を女の子に振り向かせるんです」
「おぉ………」
母ちゃん?
何を教えとるん?
「………と、六禄さんが以前言っていました」
ソースは父ちゃんかい。
「………まあ、そんな私たち夫婦の関係は、六禄さんの一目惚れから始まっているのですが」
そして惚気られるとは。
やめて。
両親の馴れ初めなんて聞きとうないからやめて。
恥ずかしそうに顔を紅くして、モジモジしながら言う母ちゃんを見て、うっかり惚れちゃいそうになるから。
うっかり父ちゃんに殺される理由ができちゃうから。
「…ねえ、小太君?」
「ん?」
チョンチョンッ、と刹那姉ちゃんに肩を突かれたから、そっちを向くと、
ガッ!
「…え?」
俺の両頬に刹那姉ちゃんの手が添えられ、顔が動かないようにされた。
「…何で俺の顔をガッチリ固定してくるん?ちょっと?」
「…目、瞑って?」
そう言うと、刹那姉ちゃんは自分が目を瞑り、
「って近い近い近い近い!!!?アカンて!ちょっ?!」
チュッ…
俺の唇と、刹那姉ちゃんの唇が触れた。
軽いリップ音の後、零から増えた顔の距離。
それでも十分近距離で、紅潮した刹那姉ちゃんの顔が俺の視界を占領していた。
「ねえ、小太君」
どこか必死なその顔は、どこまでも真剣みを帯びていて。
「母様に見惚れないで。ウチのことを見て。ウチが好きやからって、小太君にウチを好きになれなんて言わんよ?…でもな、好きな人に見てもらえないのは、凄く悲しいんよ?」
俺はその顔から目をそらすことができん勝った。
~Sideジャンヌ~
刹那さんの様子がおかしくなり、二人の意識が離れた瞬間を狙って部屋の外に出る。
壁に寄りかかって天井を見上げると、思わず溜息がこぼれた。
「………はぁ」
暴走気味だったようですが、あれで刹那さんは大丈夫でしょう。
初めて触れ合った、私たちの子供たち。
六禄さんが育てただけあって、どの子も一癖も二癖もありそうでしたが、皆良い子です。
「………命短し、恋せよ乙女…ですか」
私は生前、極々短い期間でしたが恋をし、愛し合い、そして結ばれました。
すぐに私が先立つことになってしまったのは残念でしたが、そこまでの私の人生に悔いはありませんでした。
ただ、六禄さんを独りにしてしまうこと、彼の子供を産んであげられなかったこと、共に子供を育てられなかったこと、共に老いれなかったこと。
それだけが、私の後悔。
「………できるなら、あの子たちも私が一緒に育てたかったのですけどね」
「なら、これからしていきゃあいいさ」
いつの間にか私と同じように壁に寄りかかりながら、隣に立っていた六禄さんが言う。
500年の月日が成長させたのか、私と連れ添っていた頃よりも、幾分か丸みを感じる、老成した彼が。
「今まであいつらには母親がいなかった。いい加減、良い頃だろうさ」
私の手を握る彼の手が、少し冷たい、だけど暖かい手が、嬉しい。
今、最愛の人と触れ合えていることが実感できて。
「俺と一緒に、あいつらを育ててくれ」
「………はい」
だからまずは、あの子達とたくさん話をしましょう。
そして、それ以上にこの人とたくさんたくさん話をしなくては。
私がいなかった月日を、ちゃんと埋めるために。
~Sideエヴァンジェリン~
「…幸せに生きろ、か」
教会の外から一路、麻帆良の外へと繋がる一本道を歩く。
これまでの生き方を振り返り、兄様の言葉を振り返りながら。
ずっと復讐のために生きてきた。
それが私の
でも、兄様はそんなことを望んでなどいなかった。
ただ、あの人は私に普通に幸せになってもらいたかっただけだった。
復讐に取り憑かれ、呪われながら生きてきた。
それで良かった。
それを咎める者など、誰もいなかったから。
正直、今でも奴を殺し尽くし、嬲り尽くし、苦しませ、苛ませたくてしょうがない。
でも、私は新たな呪いをかけられてしまった。
いや、正確には、かけられていたことを思い出したということか。
今の私には、奴を害する手段などない。
その意思はあっても、意図はない。
ただ、兄様の言っていた幸せとやらを、掴もうとは思っている。
そして幸せに成った私の姿を、奴に見せ付けてめいっぱい悔しがらせてやる。
それが、私に残された最後の復讐の手段。
それが、兄様が望んだこと。
しかし、具体的にはどうすればいいのか。
単純だが、男を捕まえてみるか?
…いや、それでは難しいか。
兄様ほどの良い男が、この世にいるとは思えない。
となるとどうするか?
まあ、後々思い付くだろう。
とりあえずまずは、
「そこに隠れているのは分かっている。出て来い」
「え!?あ、はい!」
木や街頭の陰に隠れながら、ずっと私をつけていた男。
赤毛に眼鏡が特徴的な、私よりも随分と小さく幼い少年。
なぜか上半身土塗れだ。
確か、大戦の英雄の一人息子だったか?
「『ネギ・スプリングフィールド』といいます!遊びを前提に、僕とお付き合いしてください!」
「…は?」
…何を言われたのか、分からなかった。
いや、分かりたくなかった。
そこは遊びなのか。
せめて結婚を前提じゃないのか。
とりあえず、このガキがどういう人間なのかは分かった。
「私は不誠実な男は嫌いだ」
「僕は結婚しようだなんて不確かなことは言いません。たとえひっぱたかれても、僕と遊んでくださいって言います。それが誠実ってことだと思います」
「…こいつ」
なんて真っ直ぐな眼をするんだ。
なんで真っ直ぐな眼をできるんだ。
「なにとぞ!」
両手を地面につけ、膝をそろえ頭を地に着けるネギ。
って、土下座だと?!
「…せめて後十年してから出直して来い」
…なぜだろうか。
手酷く振ってやってもいいのだが、それができない何かを感じるのは。
そんな私の言葉にネギは、
「十年後ですね!分かりました!では、十年待っててください!絶対に、貴女が靡く男になってみせます!!」
顔を挙げ、とても良い笑顔でそう言った。
…ああ、もしかしたら………。
「…いや、ないか」
「はい?」
私の呟きが微かに聞こえたのか、聞き返してくるネギ。
その彼を置いて、また道を歩き始める。
「またな。ネギ・スプリングフィールド」
「っ!…はい!またお逢いしましょう!」
振り返りざまに交わした、喜色に溢れた言葉をつれて。
「む?」
麻帆良から数十キロ離れた山中。
一羽の式紙で作られた鳥が、私の肩に降り立ち手紙を落とす。
その手紙を拾い上げ封蝋と差出人を確認して、驚いた。
「…アリアドネー統括理事長だと?!」
それは大戦の英雄『
『
刹那の大勝利。
ジャンヌと主人公の再会と再開。
ネギの逆転内野安打。
もう悲恋ばかりとは言わせない。
あ、言ってたのは俺だ。
というわけで、少し恋愛色を強めにした今回でした。
そして影を見せた新キャラクター。
いったい何者で、主人公たちの敵なのか味方なのか。
それとも中立者か。
なにはともあれ、これからも物語は続きます。
全てはこれから。
これからの展開を、お楽しみに!