「………あっ、くぅっ…、あぁ…………」
首を絞められ、呻き声しか出ない。
私の首を絞める女の子は、あの人と同じ吸血鬼。
そして高ランクの魔法使い。
そのレベルの身体強化術なら、この膂力には頷ける。
「なら、なぜ戦場に出てきた?答えろ聖女!!」
少女が問う。
そんなものは決まっている。
「………………あの人が--------」
話は、少し前に戻る。
あの人が戦場に飛び込み、魔法使いの一人とどこかへ行った後、残された少女の魔法使いは相変わらず『魔法の射手』で兵を攻撃していた。
「ハハハッ!!弱いな人間!!」
?!
あの少女は、自分が人間で無いとでも言うのですか?!
ただ魔法を使えるだけなのに。
「………『魔法の射手・光の十矢』!」
十の内九は牽制。
可愛そうですが、最後の一つで気絶してもらいます!
そして、私の魔法は少女へと飛んでゆき、
「んん?『魔法の射手・氷の百一矢』!!」
「え?!キャアアァァァァァッッッッッッッッ!!!!」
その十倍の数の暴力によりかき消され、残りは私を含めた兵たちへと降り注ぐ。
「驚いたな。フランス軍にもまだ魔法使いがいたのか。兄様が連れて行ったやつだけかと思っていた」
「………そうですよ。でも、私とあの人だけですけれど」
これは、私と同じように隠れている魔法使いがいない場合の話ではありますが。
「ハハハッ!自分から戦力を教えてくれるなんて!」
ッ!!
思わず本当のことを言ってしまった自分の思慮のなさに苛立ちます。
やはり私は、何も知らない少女なのでしょうか。
あの人ならば、
「ん?ああ、もっといるよ。援軍として」
ぐらいのことは、さも本当の事のように言ったでしょうに!
「しかし、お前のその顔はどこかで見た気がするな?」
「…………私たちは初対面のはずですが?」
会ったことはないはず。
「そうだ!イングランド軍の手配書だ!『異端者』ジャンヌ・ダルク!!」
………………手配書ですか。
盲点でしたね。
私の知名度ならば、あってもおかしくはなかったはずでしたが。
「お前の首を持ち帰れば、軍から報奨金が出る。私と兄様のために死んでもらうぞ!」
……………彼ならば何と言っただろうか?
私には、この少女にかける言葉が見つからない。
「『魔法の射手・氷の百一矢』!!」
でも、なぜでしょうか?
「………『
どれだけ障壁を破られ、どれだけ怪我をしても、
「…………………生きたい」
「何?」
私の呟きを聞き取ったのか、彼女が反応する。
そして、私に一瞬で近づき、
「ふざけるな!」
「うっ!」
私の首を、有り得ない力で締め上げる。
その彼女の口の端に見えたもの、それは彼と同じ牙。
「(……………ああ、彼女もまた、彼と同じなのですね)」
そして、冒頭に戻る。
「なら、なぜ戦場に出てきた?答えろ聖女!!」
少女が問う。
そんなものは決まっている。
「………………あの人が、ここにいるから」
「はぁ?」
少女が、疑問に声を上げる。
「……………初めは、魔法の力を誰かの役に立てたいと思っていました。でも、今は何か違うんです。彼と初めて会った時、彼は空っぽの目のまま笑っていました。世界に飽きた、生きる意味を見失っている目で」
彼はその状態に慣れてしまっていた。
だから、笑っていられた。
「そんな彼が、私に興味を持って、契約して、私の知らないことや分からないことを知っていて、それでも空っぽのままでっ!」
そんな彼が見ていられなくて、私は彼に話しかけていた。
そうすれば、いつか空っぽじゃなくなる気がして。
「本当は人を殺すのが怖いくせに、私を気遣って、吸血鬼になってまだ二ヶ月なのにっ!」
彼は殺人を食事だと言った。
まだ、誰も殺したことが無いのに。
「私の秘密を守ってくれて、それでいて最低で、でも笑っていてくれて……………………」
そんな彼を私は、
「……………………………あの人が、『水無月 六禄』が好きだから。あの人が空っぽのままでいないために、私はここにいるんです」
必死に覚えた、あの人の名前。
カンジという文字は難しかったけど、あの人の名前を覚えたくて、頑張った。
「………そうか。だが、私たちも平穏がほしいからな。死んでもらう」
ああ、私は彼に想いを伝えることもできないのですか。
目を閉じて、祈る。
………願わくば天の父よ、私はいくらでも待ちますから、彼と同じ場所に連れて行ってください。
「神様にお祈りする暇があったら、とりあえず誰かの助けを呼ぶべきじゃねえか?」
「……………………え?」
目を開けると、
「迎えに来たぞ。ジャンヌ」
太陽を背負った、彼がいた。
…………………………タイミングが良すぎますよ。
また少し、好きになっちゃたじゃないですか。
はい。
ジャンヌの心中吐露の回でした。