ハハッ!
一年近くかかったが、これでこの計画も終わる!
僕が女であるという事実は、たとえ親族でも知られてはいけない。
もし知られたら、僕はこの玉座から引き摺り下ろされてしまう。
だから、事実を知ってしまったあの、『オルレアンの英雄夫婦』を亡き者にするための機会を待っていたんだ。
予めブルゴーニュの善良公の下に使者を送り、あの二人を捉えてイングランドに引き渡したら、フランスとブルゴーニュ間の永久不戦条約を締結する、と伝えておいた。
帰ってきた使者からは、この降って湧いた美味しい話に、無事善良公も食いついたと報告を受けた。
まあ、あの二人を捕らえる理由は馬鹿正直に伝えず、嘘を吐いたりしたが。
シナリオはこうだ。
あの二人は魔法使いであり、異端だということが判明した。
しかし、自国の英雄を処断することは、対外的に難しい。
兵の士気を下げる要因にもなる。
よって、そちらで捕らえてイングランドに引き渡してほしい。
という内容だ。
「ハハハッ!後はこのことをイングランド軍に流して、待っているだけでよかった。まったく、なんとも単純な奴らだったよ。目の前に利益をぶら下げれば、何の迷いもなく頷いてくれたんだから」
簡単すぎて、拍子抜けしたくらいだ。
男っていうのは、単純にも程がある。
「その単純さが、男の価値なのです」
「………エドモン。心を読むのはいいが、読んだ心に返事をするのは止めてくれ」
「御意に」
エドモンは、僕が生まれたときからついてくれている、信頼できる片腕だ。
そんな彼に、以前どうやって心を読んでいるのか訊いたら、「これまでご一緒した時間と、その密度です」と言っていた。
………なぜだろうか?
もう一人、同じ状況の奴が存在する気がしているのは。
ん?
ちょっと待てよ?
「エドモン。単純なのが男の価値とは、どういうことだ?」
単純だなんて、むしろ無価値な気がするが。
「それはですな、男の戦う理由に関係します」
「戦う理由だと?」
そんなもの、
「富や名声のためではないのか?」
僕の答えに、エドモンは首を振り、
「違います。それはあくまでも手段。男は、守るために戦うのです」
「守るため?それがどうして、男が単純であることの価値になる?」
「簡単です。余計な思いがあったら、拳を振りかぶることすらできなくなるではないですか」
それは男の理屈だ。
女の僕に言われても分かるわけがない。
「しがらみに捕らわれては、守るために拳を振り上げることすらできなくなる。ですから、単純であることは男の価値となるのです」
守るため、か。
あの、僕が女であると見抜いた男も、そうなのだろうか?
そんな話をしていると、
「陛下!たった今、コンピエーニュから伝書鳩が届きました!!」
兵の一人が、手紙を持って駆け込んでくる。
その内容は、
【ブルゴーニュ軍壊滅。同時に後方からイングランドが攻め来るも、オルレアンの英雄殿により撃破。なお、この戦いの後、オルレアンの英雄夫婦を見たものは皆無。軍より脱走したものと思われる。テントに手紙が残っていたので、同封する】
「どういうことだ?!」
逃げられただと?!
というか、あの男は一人で軍を返り討ちにしたのか?!
くそ!
そうだ、手紙は!?
【シャルル7世殿へ。
この戦いで、もはや十分フランスには貢献したと思う。
よって、軍を抜けてジャンヌとともに故郷に戻らせてもらう。
お前にこの首はやれんからな。
安ずるな。
この戦いでの金の支払いは、コンピエーニュで略奪させてもらっている。
では、もう二度と会うことがないよう願う。
『水無月 六禄』
P,S
秘密は黙っててやるよ。
お・ひ・め・さ・ま】
………………………………………………………。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
宮殿の一室から出た僕の叫びは、城中に響いた。
「探せぇっ!軍の機密を知っている者たちが脱走したぞ!!」
出し抜かれた勝利王と、出し抜いた主人公でした。