「エヴァ、アレは無事に持ってこれたか?」
「もちろんだ、兄様」
金髪の美丈夫が呼ぶと、なにやら大きな包みを持った少女が現れた。
その包みが開かれ、姿を現した物は、
「…………パイルバンカー?」
赤毛の少年の目には変にゴツイ、おかしなパイルバンカーにしか見えなかった。
「これは『第七聖典』。教会の生み出した、『転生批判』の概念兵装だ」
第七聖典
転生を否定する教会が作り上げた転生批判の外典で、完結した数字である完全数を名に冠する理由もそれゆえ。
その本体は摂理の鍵として利用しているユニコーンの角で、表面に転生批判の文句がびっしり書き込まれてる。
およそ千年前、幻想種であるユニコーンが臨終した際にその「角」の自然霊と人身御供とされた人間の少女の霊を融合させる事によって誕生。
融合した霊は守護精霊となって宿っており、セブンと呼ばれる。
「何でそんなのが、ここにあんだ?」
「教会も、それだけ事態を重く見ているってことさ」
教会は、その活動範囲を魔法世界にも伸ばしている。
故に、『混沌』の討伐をする必要性が教会にもある。
だが、そのために必要な『第七聖典』を扱えるほどの者が教会内にいなかったため、マクダウェル兄弟に託されたということだ。
「しかし、『
「666?なんだよそれ?」
少年が美丈夫に近づき、話しかける。
「あれの真名さ。『水無月 六禄』、即ち混沌を意味する『666』を示唆した名前だよ」
水無月とは、6月のこと。
名前にいたっては、説明の必要がない。
その事実を聞いた少年が、美丈夫に問う。
「なんで、あんたはそんなことを知っているんだ?」
「簡単なことさ。私とアレは六百年ほど前に、彼にまだ自我が残っていた時に戦っているのだよ」
もっとも、その時は負けてしまったがね。
と、苦笑混じりに言う彼に、少年は絶句した。
「まあ、そんなことはいい。この『第七聖典』は、ああいう手合いに対してほぼ確実な殺傷力を持つが、本体がユニコーンという関係上、女性しか使えない。つまり、今の現状としてはエヴァしか使えないんだ」
「…………つまり?」
「やれやれ。君は自分で考えられないのか?思考の停止は、死を意味するぞ」
いちいち癇に障る言い方をする美丈夫に、少年はカチンと来ながらも必死に考えて応える。
「つまり、俺たちにその子があいつに一撃をくれてやるまでの盾になれってんだろ?」
「子供扱いするな!」
「止めるんだエヴァ。そして正解だ少年。引き受けてくれるな?」
美丈夫の問いに少年は、
「当たり前だ!それどころか、俺があいつに一撃入れてやるぜ!」
「ハハッ。勇ましいのは良いが、しくじってくれるなよ?」
戦いは、最終局面に入る。
「そうか。お前たちが、俺の死か」
『第七聖典』の杭が、俺の胸に突き刺さっている。
視線を下げると、『第七聖典』を抱え持った、懐かしい少女の顔がある。
「エヴァンジェリンが、今の『第七聖典』のマスターなのか」
「そうだ。オルレアンの借り、確かに返したぞ」
ああ。
命を見逃したアレね。
しかし、痛みはなく、ただ熱い。
どうやら、俺はようやく死ねるようだ。
「自我を取り戻したのか?」
「ああ、そうらしい」
末期に自我が戻るとは、なんとも感動的な話だ。
自我を取り戻して死ねる。
俺には過ぎた、幸せな死に方だな。
つーかカイン、お前も来てたのか。
このシスコンめ。
「あー、なんだ?まあ、世話になったようだな。礼を言うぞガキ共」
「いらねーよ!」
だろうなぁ。
殺されかけたんだし、当たり前か。
しかし、『第七聖典』を届かせるために、こういう我の強い連中が協力するとはねぇ。
人間とは、分からないもんだ。
と、風か。
ちと強いな。
風に乗って灰となり、風化しゆく身体。
俺もここまでのようだ。
「遺言なら聞こう」
カインが俺に、最後の言葉を残させる。
そうだねぇ。
「生きろ」
決して、俺の様な虚ろにならないでくれ。
それが、何も残せない俺の望みだ。
ああ、瞼が重い。
そして瞼が閉じる。
目を開けると、そこは満月の輝く夜だった。
周りを見ると、月に向かって手を伸ばすように、大樹がそびえる。
「ああ。ここが『座』か」
「………はい。ずっとここで、待ってました」
後ろから、あいつの声が聞こえる。
この六百年、望んでも適わなかったことだ。
振り向き、対峙する。
「会いたかった」
「………私もです」
綺麗になった。
英霊は、その最盛期の姿で存在する。
だからこの印象は、長い時を会えなかった故の補正がかかっているのだろう。
だから、そうは言わない。
「相変わらず、良い女だ」
「………久しぶりに会って、いきなり恥ずかしいことを言いますね」
いいじゃないか。
それに、恥ずかしいのはこっちもだ。
ジャンヌの後ろには、白百合の咲き乱れる平原。
おそらく、夫婦として共にした時間のあった俺たちの間で、心象風景が重なり合った結果が、この『座』の共有という結果だろう。
つまりだ。
「キスしたい」
「………唐突ですね。脈絡もないですし」
いいじゃないか。
そう言いながらも、目を閉じるジャンヌに近づき、
ふわり
と、出会ったばかりの頃のように、触れるだけのキスをする。
「ククッ、やっぱり良いな」
「………懐かしいですね」
ああ。
本当に、懐かしい。
「ジャンヌ」
「………なんですか?」
「愛している」
今度は、少し長めにキスをする。
ああ、そうか。
どうやら俺は、とうの昔に生きる意味を見出していたらしい。
「ジャンヌ。お前が俺の生か」
「………妻ですから、当たり前です」
…………だな。
と、何かに
『座』に着いて早々だし、今凄く良いところだったんだが。
「ま、しょうがないな」
「………また、待っています」
「留守は頼んだぞ?」
「………貴方の妻に、任せてください」
ああ、任せるさ。
身体が消える。
どうやら、向こうに召喚されるようだ。
分身が行くはずなのだが、なんでかそうではないらしい。
「じゃ、いってきます」
「………いってらっしゃいませ」
とりあえず、向こうに着いたら召喚者をぶん殴ろうか。
書いてて楽しいけど、疲れましたね。
IFストーリーは。
なにせ、普段とは違う書き方していましたし。