あれから四日後。
神奈川に向かって歩いている途中の山中。
そろそろ三時のおやつ時という時間。
「お?おぉー!見えた見えた!!」
「………何が見え…わぁ…………」
「ジャンヌ、あれが富士山だ」
目の前に現れた、日本最大の山富士山。
…………四日でだいぶ関東に近づいたな。
「富士山は日本最大の霊山でもあってだな、日本一の龍脈が通っていることでも有名だ」
「………いつも思うんですが、そういう知識はどこから出てくるんですか?」
A.暇なときに見ていたケーブルテレビ。
「しかしまあ、春先だというのに、まだ天辺には雪が残ってら」
「………綺麗ですね」
「俺に言わせれば、世界に富士より高い山は数あれど、世界で一番美しい山は富士山だな」
他の山は、なんか、こう、ねぇ?
風情に欠けるというかなんというか。
「あ、そうだ。おんぶしてやるから、しばらく寝てろ」
「?………何でですか?」
「いーから。いいもの見せてやるって」
そう言って、ジャンヌを無理やりおんぶする。
今日は快晴。
だったら、アレが見えるはずだ。
「おい、起きろ」
「…ん、んぅ」
可愛いな、こんちきしょー。
起こす気が削がれるだろうが。
「でも起こす。ほれ、起きろー」
背中で揺すって起こす。
「………ふわぁ。……………おはよう、ございます」
「はい、おはよう」
むぅ。
寝起きの顔も、いいな。
「それはさておき、ほれ。アレが見せたかったんだ」
「………え?……………ふわぁっ」
時刻は夕暮れ時。
俺たちの目の前にあるもの。
それは、
「赤富士。天気のいい夕暮れ時にしか見れない、日本の美の最高峰だ」
ガキの頃、曾婆ちゃんの家で見たこの光景。
まだ虚ろではなかったあの頃、心の底から感動した光景。
「………泣いてるんですか?」
「あ?…うぉっ?!」
本当に泣いてた?!
俺がか?!
「………ぺろっ」
「…………なぜ舐める?」
なんか、涙を舐めとられた。
「………悲しい涙も、嬉しい涙も、私が見えなくしますから」
恥ずかしさからか、真っ赤になった顔で言う。
「………泣くときは、しっかり泣いてください」
「………ああ、そうさせてもらおうか」
決めた。
今日は泣く。
三日後。
世界樹を横目に、スルーしながら歩いた結果。
「予想外に早く着いたが、ここら辺が俺の実家周辺だ」
「………大雑把ですね?」
いや、そんなもんだって。
しかしまあ、
「なんもねえな」
「………集落があったみたいですが、焼けた後ですね」
戦の後か、盗賊か。
「なんにしろ、やるせねえな」
「………大丈夫ですか?」
俺の故郷が無くなったことを、気遣ってくれるジャンヌ。
お前は本当に、良い女だ。
「大丈夫だ。ここ自体には、大して思い入れはない」
あったとすれば、なんだっただろうか?
全てを前世に置き去りにした身としては、今更どうしようもないことではあるが。
「ま、俺にはお前がいればそれで良いよ」
「………私も、あなたと居られれば」
嬉しいことを言ってくれる。
「んじゃま、とりあえず適当な家で休むか」
「………焼け残って、所々炭化した家ですけどね」
「家なんざ、屋根と壁があれば良い」
大事なのは、一緒に誰かが居ることだと思う。
この二ヶ月後の1431年5月30日。
結核によって、ジャンヌはこの世を去った。
最後に爆弾を放り込みました。