報告と慟哭。
「ジル・ド・レェ様、決算書をお持ちしました」
「ああ、ありがとうございます」
ここは私の執務室。
今は領地経営の最中です。
二人がこの国を去ってから、もう一年が過ぎました。
本当は私も着いて行きたかったのですが、彼女の幸せそうな顔と、私の立場を考えた結果断念しました。
………今頃、二人はどうしているのでしょうか?
ふと、懐かしい想いに駆られると、
「旦那様、お客様がお見えです」
「お客ですか?」
執事のブレソールが、来客を告げる。
いったい、誰でしょうか?
そして、応接室に向かうと、
「よう。久しぶりだな」
「!?………ええ、お久しぶりです」
そこには、先程思い出したばかりの友人が居た。
しかし、
「………聖女は、どうされたのですか?」
この二人が、別々に行動するなんて考えられないのですが。
それに、彼の胸元にある、以前にはなかった物。
まさかとは思いますが、そんなことは、ねえ?
私の問いに彼は、胸元のそれを弄りながら答える。
「……………………逝っちまったよ。結核だ」
!!
………嫌な予想が、当たってしまいましたか。
彼は人をおちょくることが好きですが、こと聖女に関しては嘘はない。
否定したくても、そのことが彼女の死をリアルにする。
彼の首からかかったそれは、彼女の十字架でした。
「そう、ですか」
「今日来たのは、その報告だ」
………まったく、律儀な人ですね。
「ご家族には?」
「これからだ」
………彼女の家族より、私を優先してくれるなんて。
そんなに、私のことを。
「言っておくが、あいつの実家に行くよりも、ここの方が近かったから先に来ただけだ」
「ええ。貴方はそういう人でしたね」
しかしこの人、今私の心を読んでなかったでしょうか?
「じゃ、そろそろ行くわ」
「彼女のご両親の元へ行かれた後は、どうなさるので?」
聖女を喪った今、彼は正しく元の虚ろに戻ってはいないだろうか?
そう懸念した私は、彼が自死という末路をたどらないか不安になり、聞いておくことにした。
その問いに彼は、胸元の十字架を弄りながら答える。
「………んー、とりあえず生きる。そんで、あいつに見せたかったものを見に行くさ」
苦笑。
今までにない彼のその表情は、彼がまだ虚ろに戻りきっていないことを現していた。
「それに、あいつの見ていた景色っていうものも、見てみたいしな」
「………それは、つまり」
「あいつの信じてた神様とやらを、とりあえずは信じてみようと思う」
………ああ、そうですか。
貴方はまだ、答えを探していられるのですね。
だったら、大丈夫なのでしょう。
「彼女は、最後に何と?」
「………幸せだった、だとよ」
………そうですか。
「では、お気をつけて。水無月 六禄」
「身体には気をつけろよ?ジル・ド・レェ」
別れの挨拶を簡単に済ませると、スタスタと彼は振り返ることも無く去っていきました。
屋敷の地下室。
ここには家宝を保管していたりもするので、使用人も近寄らない。
「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!!!!!!!」
慟哭。
傍から見れば、狂ったようにも見えるだろう。
だが、そんなことはどうでもいいです。
なぜ、聖女を連れ去った!
なぜ、彼女の幸せを壊した!
「神よ!私は貴方を恨みます!!なぜ、彼女を貴方の元へ連れて行ったのですか?!」
彼は、貴方を信じることにしたようですが、私はそうではない。
これから先、一度たりとも貴方を信じることは無いでしょう。
「誓いましょう!必ず聖女を、貴様の元から連れ出すと!!」
そのためになら、たとえ狂っていると罵られようとも、たとえいかなる犠牲を払おうともかまわない。
狂いました青髭さん。
まあ、親友と片想いの相手の幸せを、いっぺんに失ってしまいましたし。